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大島サイクル営業中 2017年度  作者: 京丁椎
2017年7月
28/200

ある客のゴリラ

高嶋市の防災無線では行方不明者の捜索協力のお願いなど

色々な情報が流れます。


※この作品はフィクションであり、登場する人物・地名・施設・団体等は架空の存在です。

実在する人物・地名・施設・団体等とは一切関係ありません

♪~高嶋警察署から行方不明者の捜索協力をお願いします

昨晩から・・・


防災無線から行方不明者の情報が流れる。


放送が終わった。休憩をしながらを見ていると消防車が通りすぎて行った。

(消防団も出ての捜索か。大がかりだな。)


営業時間を終え店をのシャッターを閉めようとすると、

再び防災無線が鳴った。


♪~高嶋警察署です。昨晩からの行方不明者は無事(・・)発見されました。

ご協力ありがとうございました♪~


「無事なら何よりだよな。無事なら。」

無事発見されなかった場合。つまり、行方不明者が何らかの形で命を

落としていた場合は『発見されました』と放送される。


高嶋市には山間部が多く在る。残念ながら命を落とす行方不明者は多い。

山道で迷って命を落とす者も居る。


人生に迷って自らの命を絶つ者も・・・


大島はずいぶん前に店へ訪れた客を思い出していた。


大島サイクルを訪れたその客は、コピーではなくて

モンキーのパーツリストと整備解説書が欲しいのだと言う。

「プロ用ですよ。良い値段しますよ?」

と聞くがかまわないと言う。


その後、細かな部品をチョコチョコと注文していった。

もともと自動車販売店の整備士だったらしい。

注文する部品は必ず部品番号を調べて注文していった。


だんだんと親しくなり身の上話もするようになった。

友人に裏切られ転職した事、今の職に疑問を感じている事

仕事でのストレス解消にバイク弄りを始めたこと。


暫くすると完成したゴリラで店に来た。

「サーカスの熊みたいって言われるんですけどね。」

少し疲れているようだったが満面の笑みで彼は言った。


「とりあえず形にしただけなんですけどね。」

ボアアップやクラッチ操作が面倒でカブ90のエンジンにしたとか

3段ミッションが不満だから4段にしたいなど

当時主流だった改造から少し離れた事を話していた。


大島は

(そのカスタムは在りなのか?乗って楽しいのか?)

そんな事を思いながら聞いていた。


それから数か月したある日。


「ナットを緩めて下さい。」と彼は訪れた。

大きかった体は病的に痩せていた。


「ストレス解消に作っていたけど、完成する前にストレスに負けました。」

体を壊して思う様に食事が出来ないらしい。

「力が出なくってね。」

青白い顔で寂しそうに笑っていた。


それが大島が見た彼の最後の姿である。


その年の冬。

行方不明者の捜索協力を伝える防災無線が鳴った。

名前・身体的な特徴・どう考えても彼だった。

翌日、防災無線から発見の放送が流れた。


『無事』とは言っていなかった。


暫くして彼の両親が大島サイクルを訪れた。

「バイクを触っている時は楽しそうだった。」

「工具を握っている時だけは元気な頃の表情だった。」

と話してくれた。


「バイクは直っても僕の体は治らない。」

とだけ書かれた遺書。


病を苦にしての首吊り自殺。享年40歳。

早すぎる死だった。


「残されたバイクを見ていると息子を思い出して泣いてしまう。

処分してもらえないだろうか。」

全てを忘れる為に家を処分して引っ越すそうだ。


「そうですか・・・。」

大島は引き受ける事にした。


良く手入れされた工具と共にゴリラを引き取った。

動かない体を必死になって動かして作業したのだろう。

何か心に訴えてくるものが在る。


一旦ナンバーを切る前に乗ってみる事にした。

カブ90のエンジンだが4速ミッションに改造してある。

細かな所まで手を入れたのだろうか。乗りやすい。

柔らかな感触、優しい中に芯のある乗り味。

過激ではない。しかし遅くもない。


「こんなのも有りだね。」思わずつぶやいた。


ツールボックスを開けると紙切れが出て来た。

「これは僕が生きた(あかし)

と書いてあった。


「元気になってバイクに乗るんやない。

バイクに乗って元気になるんや。

証しって何や。死んでどないするんや。」


大島は泣いた。


それから数年。


そのゴリラは今でも大島サイクルにある。

ナンバーは切ってあるが、暇なときは表に出して

エンジンをかけてエンジン内にオイルを巡らせる。


今日も外に出してエンジンをかけてみる。

軽いキックで始動する。トコトコと心地よい音を立てて

アイドリングをしている。


そんなゴリラを見た者は「可愛いバイクですね。」と笑顔になる。


彼が聞いたら何と思うだろうか。

最後に会った時の寂しそうな笑顔を思い出した。


大島は答える。


「可愛いだけやないで。乗っても楽しいんやで。」











今は純正流用や一見ノーマルに見える改造ばかりしている大島ですが、

自分のバイク作りの方向が解らず迷走している時期がありました。


原型が解らないようなカスタムをした事もあるそうです。

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