ナウ高嶋
一昔前は地域の集会所に有る大きなスピーカーから
防災に関する情報を流していた高嶋市ですが、
新興住宅地の住民よりうるさいと苦情が来て廃止になりました。
防災・防犯に関する情報を求める家庭には防災無線が貸し出しされています。
防災・防犯情報は『ナウ高嶋』でも提供しています。
※この作品はフィクションであり、登場する人物・地名・施設・団体等は架空の存在です。
実在する人物・地名・施設・団体等とは一切関係ありません
大島も現代に生きる者。スマホは持っていないが携帯電話くらいは持っている。
ただ、こちらからかける事はほぼ無い。
自営でほぼ1日中店か自宅にいるので固定電話が有れば十分なのだ。
店を空けるといえば引取りと納車だが大島の店ではやっていない。
正直なところ、携帯は要らないと言えば要らないのだ。
だが、忘れた頃に友人からお誘いメールが来るので手放せない。
友人以外からのメールだと防災メールが来る。
高嶋市の市民生活部からの市民メール『ナウ高嶋』だ。
何時間も、下手すれば数日前前の情報が流れるので「全然ナウじゃない。」と
市民から若干の不満の声は有るが、市役所の連中が愚鈍だから仕方が無い。
防災メールキャラクターの萌えキャラ『高嶋奈羽』は好評である。
暇な市役所の市民生活何たら課のお役人が考えたのだろう。
殆どが「クマが出没しました。」「不審者が出没しました」
熊と変態の出没を知らせるメールばかりが届くので
一部市民から『熊メール』『変態メール』と呼ばれ親しまれている。
熊以外に火災や自然災害のメールが入るが、
このところ交通事故関係のメールが多い。
~に突っ込んだ・車両火災・老人の~・・・等々。
バイク絡みの事故が多い気がする。考え過ぎだろうか?
「物騒な世の中になったねぇ・・・。」
大島がメールを読みながら呟いているとエンジン音が聞こえた。
スーパーカブが近付いてきた・・・安井さんだ。
「あら、カブでお出かけとは珍しい。」
「オイル交換頼むわ。」
安井さんにコーヒーを出してからオイルを抜く。今回は少し汚れ気味だ。
オイルだけではない。安井さんも疲れ気味だ。
「珍しいですね。普段は自分で(オイル交換)やってるんでしょ?」
「そうやけどな。仕事が忙しゅうてやる気が起きんでな。
もう面倒になってな。それに大島君と話をしたかったしな。」
情報通の安井の話なら聞いておくのは悪くない。
オイル交換を終え、大島は腰を据えて話をするべく
愛用のマグカップにコーヒーを淹れた。
「最近、事故のメールばっかり来るやろ?」
「多いですね。車両火災も増えた気がしません?」
「あれな、ほとんど年寄りがバイクで起こしとる事故や。
昔の免許で大きいバイクに見栄で乗ってる年寄りや。」
「年寄りに大型バイクと言えばTataniですか?」
「大島君も聞いてるか~。」安井はコーヒーを一口飲んだ。
「同業で話題になってますよ。僕らの間ではあの店で売ったバイクは
整備を遠慮させてもらう事になってます。」
「仕事中の儂の車に突っ込んできてな。擦り傷ぐらいやったから
許したろうと思ったら『こんな所に置く方が悪い!修理代払え!』って
殴りかかって来よったんや。即、警察呼んだわ。」
「ふーん。大変やな~。あ、そうや。安井さん、事故のメールくれたでしょ?」
「カブがオカマされた事故のか?」
「あの時はおおきに。カブはうちのお客さんでしてね。
追突したのはTataniの客で大型初心者の爺さん。
警察が言うにはカブがバックして来た言うてたらしいです。」
「どこの世界にバック付きのカブが有るねん。手で押した方が早いわ。」
「ホンマにね。あの年代の年寄りには呆れますわ。」
「例の団地に住んでる奴やろ?そんなのばっかりやな。」
まぁ、もうすぐ天罰が下るやろう・・・。」
安井さんが言うならそうだろう。何も根拠なしに物申す人じゃない。
「うちの若い奴もあの団地にはやられとる。大島君も気ぃ付けや。」
オイル交換をしたカブに跨り、安井さんは帰っていった。
「私も大型自動2輪免許持ってるのよ。乗った事は無いけどね。」
お婆さんに言われてびっくりして免許を見せてもらった事が有ります。
ラビットというバイクに乗るために取ったそうですが、その頃に取れば
何でも乗れたそうです。「カブしか乗れないけどね。」と言っておられました。
「何でも乗れるから、一番大きいバイクに乗るんや~!」
と乗った事もないのに大きなバイクを購入してしまうリターンバイカー
がTataniの客・・・という設定。
フィクションです。登場する人物・団体・地名・施設等は架空の存在です。
実在する人物・団体・地名・施設等とは無関係です。




