車輪の会(ホイラーズクラブ)
自動車店・バイク店の看板を出していてもすべてを出来るわけではありません。
板金・塗装なんてその典型的な例じゃないでしょうか。
全部を自社でしようとすると莫大な設備投資費が必要になります。
板金塗装のお店は自然といろいろな店の車を塗るので情報通になったりします。
車輪の会
高嶋・安曇河・真旭の自動車関係の小規模店の集まり。
技術情報の交換・共有を目的として出来た。
「作業着で集まるとは珍しい。」
高村ボデーの工場に集まった車輪の会メンバーはざわついていた。
「おい、大島君。エンジンをここに置いてくれ。」
高村に言われ、大島は外国製コピーエンジンを作業台に置いた。
「エンジンの前にこれを見てもらおうか。」
高村社長はテレビにUSBを接続して画像を出した。
「まず、近頃あったバイク事故を見て欲しい。信号待ちの
ミニバイクに大型バイクが突っ込んだ例や。」
(葛城さんの事故の画像か。何処から拾ってきたんだろう。)
「続いてこちらの画像ではカーブを曲がりきれなかった大型バイクやな。」
(交通安全講習でもあるまいし・・・。)
「3枚目をよく見て欲しい。ナンバーに注目してもらえるか?」
(ん?ナンバーが小さい?)
その時、メンバーがざわつき始めた。
「ボデーさん。これ原付ナンバーやないですか!どう見ても中型・大型バイクですよ!」
「高嶋市って原付のナンバーやないか?」
高村ボデーの社長は続けた。
「儂はバイクは詳しくない。でも原付が何かは知っているし、
ハーレーが原付じゃないのはわかる。次は動画を見てもらおうか。」
再生された動画は信じがたい物だった。
「ハーレーが原付ナンバーで公道を走っている動画や。
走っているのはどう見ても湖周道路や。どう思う?」
「うわ・・・これはアカンやろ・・・。」
「捕まったら御縄でっせ。」
「脱税が絡んでくるんじゃないか?」
高村社長は説明を続けた。
「儂が調べた所ところ、全て今都のある店が関わっているらしい。
おい大島!ちょっとこっちへ来い!」
高村社長に呼ばれ皆の前に出た。
「最初の追突されたミニバイクはお前の客や。皆に説明せい。」
「うちのお客さんで追突されたのがこの画像です。
今都のセレブリティ―バイカーズTataniの客に追突されて
全損になりました。」
エンジンの前に移り説明を続ける。
「別のお客さんのモンキーに付いていたエンジンです。
同じくTataniで買った車両です。社外コピーエンジンです。
不調になってあれこれ金を巻き上げられて
ウチに来ました。2次クラッチと言われて買ったそうですが・・・。」
クラッチカバーを開けて中身を見せる。
「中身は普通のモンキーと一緒。一次クラッチです。
どう思って売ったかわかりませんが詐欺です。」
皆が声を上げる中、説明を続ける。
「その他、うちのお客さんに声をかけて無理にカスタムさせようとしたり
いろいろやっているみたいです。」
「そのエンジンの中はどうなってる?登録は?」
「中は見ていませんがボルトの位置からして90㏄未満ではないと思います。」
排気量を測ることになった。
どうみても100㏄は有ることが解った。刻印は49cc
登録は75㏄だったので無茶苦茶である。
高村社長がメンバーの前に出た。
「皆さんご存知の通り今都の平津モーターさんが休業しとる。
原因はTataniが出した車検整備や。無茶な納期・理不尽な苦情で
精神・肉体共にやられてしまった。このまま廃業するかもしれん。」
皆が黙った。蛍光灯のノイズが聞こえる。
「今都では平津さん以外でバイクの車検を引き受けるところが無い。
そこで、車検の無い原付として登録して売ったのではないかと思う。
そんな事をして乗る客も客やと思う。まともじゃない。
我々の店にもそんな客が来て平津さんの二の舞になるかもしれん。
そこで提案や。皆でTataniが売ったバイクの整備は断ろうと思うがどうだろう?」
「それをやったら逆に営業妨害になりませんか?」
「営業妨害とは違うだろう。」等の意見も出たが、
「違法な登録をしたバイクに関わって警察の厄介になる方が面倒ではないか?」
と意見がまとまり閉会となった。
※この作品はフィクションであり、登場する人物・地名・施設・団体等は架空の存在です。
実在する人物・地名・施設・団体等とは一切関係ありません




