何がダメなのよ?
高嶋高校は125ccまでのバイク通学OKです。
25年ほど前にバイク禁止にしたら自転車レースが活発になり
事故が続出しました。原付以上の速さで走る生徒も出て来た為
「免許が在って警察が取り締まれる方がマシ!」
と生徒指導が音を上げたそうです。
「おっちゃ~ん。ちょっと聞いてや~。」
ご近所の理恵だ。ブレザー姿が初々しいがバイクに乗る格好じゃない。
(・・・ああ。スカートの下は短パンか。ハニワみたいだな。)
「理恵っ!お猿みたいでも女の子なんだから御淑やかにせい!」
思わず叱ってしまった。
理恵は小さな頃から運動神経抜群。名前を聞くまでは男の子だと思ってた。
中学に入って髪を伸ばすまでは女の子に見えなかったほどだ。
あだ名は『小猿』らしい。だが乗っているのはゴリラ。
小猿の乗るゴリラ。可愛いが言うと怒るので口には出せない。
安曇河から約10㎞離れた今都にある高嶋高校まで通っているのだ。
しょっちゅう給油するのも面倒だろうとタンクの大きいゴリラを勧めた。
プンスカ怒りながら理恵がしゃべり始めた。
とにかく早口なので「ゆっくり話そうな。」と落ち着かせる。
「なぁ~おっちゃん。友達がバイク欲しい言うし今都のバイク屋に行ったんや。」
ふむ。今都でバイク?・・・どこの店だろう?
「ふ~ん。そうか~。」
コーヒーを淹れながら相槌を打つ。
「ピカピカのバイクばっかりやったんやけどな、高価過ぎて買えへんねん。
予算10万円って言うたら鼻で笑われたわ!安曇河の〇〇が買えるような安物は無いって!」
町村合併で出来た高嶋市。一部の旧今都町出身者の中には
「他の町村は自衛隊の助成金目当てで今都に縋り付いてきた。」
「今都が高嶋市の中心地。今都は金持ちの街。他は貧乏〇〇!」
などと言う輩がいると聞くが、本当に居るんだな。
他の町に言わせると「自衛隊の助成金が無ければ今都なんか・・・・」らしいが。
「まぁ気にするなや。他の店で買えばエエだけやし。うちの店で買う?
女の子やったら足を揃えて乗れるスクーターが良いか?
古いけどヘルメットの入る奴が2万円で有るで。」
商売の話を逃さない。そして目先の利益に走らない。
そこそこ整備してあるスクーターが2万円。ほぼ部品代だ。
修理や点検で後々まで来てくれることを願っての学割価格だ。
「うん。それで言っとく。」理恵の表情が明るくなった。
彼女はコーヒーを飲みつつ話してくれた。
「そのバイク屋がな、こんなバイクは駄目ですって言ったんや。」
自分の眼ではわからない事が他人に見える事が有る。
客観的な意見は聞きたい。ダメ出しは耳が痛いが参考になる。
「オイル漏れはしていないし、遠心クラッチの調整はバッチリ。
ブレーキ・タイヤ・灯火・は点検済み。自家塗装はイマイチやけど・・・。」
「ブレーキ・サスペンションがノーマルでアカンって。
エンジンはシリンダー?が鉄でオイルクーラーが付いていないとか。
ゴリラで遠心クラッチなんて信じられないって言われたよ。
とにかくダメダメを連発された。黄色ナンバーは格好悪いから
エンジンを積みかえて白ナンバーにしましょうだって。
ナンバーが黄色のままなら整備してあげないよって。」
そういう意見があるのか・・・。
「理恵は乗っていてどうや?不満か?」
「ううん。元気に走るし、これが良い。楽やし。」
理恵のゴリラは遠心クラッチだ。
雑誌を見せながら「これが良い。けどクラッチは嫌や!」
と言った理恵に作った大島サイクル特別仕様だ。
「そうか。まぁ何でも腹八分くらいが一番。
何でももう少しと思うくらいが丁度良いんや。
毎回満腹まで食べてたら健康に悪いのと一緒。
75㏄のエンジンやから充分速いって。
さあ。怒ってんと早いところ家に帰り。」
理恵を見送り、シャッターを閉める。
(ノーマルだから駄目・・・理恵のゴリラがノーマルに見えるバイク屋か。)
どんな店だろう。商売上手か見る目が無いのか・・・。
ノーマルと間違えられるのはある意味快感だが面白くは無い。
一度見に行く必要があるな。
高嶋市今都町
陸上自衛隊の演習場がある街。助成金で建てた公共施設が多い。
観光資源・特産物は無い。
昔は鉄道の終着点として栄えた。
新しく出来たバイパス道路が国道となり
旧街道は県道へ格下げされてから寂れた。
新興住宅地が多いが若者は少ない。
定年後の移住者が多く、街は高齢化の一途である。
※この作品はフィクションであり、登場する人物・地名・施設・団体等は架空の存在です。
実在する人物・地名・施設・団体等とは一切関係ありません