理恵・進路を相談する
フィクションです。登場する人物・団体・地名・施設等は全て架空の存在です。
実在する人物・団体・地名・施設等とは一切無関係です。
理恵はベッドでゴロゴロしながら本を読んでいた。読んでいるのはライトノベル。
一時期は自分でも書いてみようとしていたが、大島からもっと他の本を読んで
勉強する様にと言われ、それ以来は読んでばかりいる。
「暇やなぁ…」
速人は家の用事、綾と亮二は大津へ映画を観に行った。他の友人も都合が悪い。
「暇やし、おっちゃんの所でココアでも飲むか…おやつもあるかな…」
春の日差しの中、理恵はヘルメットを被り愛車に跨った。
◆ ◆ ◆ ◆
「よっしゃ、何だか解らんけどバイクらしき物が出来上がったな」
大島の前に在るのはホッパー125と言うバイクを有り合せの部品で直した物。
125㏄のエンジンはカブ90改のエンジンに積み替えられ、タイヤはオンロード用。
タンクやシートも車種も解らないジャンク品ででっち上げたバイクだ。
モタードとも旧車とも言えない独特なスタイルをしている。
キーをONにして燃料コックを予備タンク側へ回す。チョークを引いてセルを回す。
キュルキュルキュル…スポン…ポンポンポン…
形は奇妙奇天烈でもエンジンはスーパーカブだからほとんど同じ音がする。
ブイン・ブインッ…ブブブブ~ン…タンタンタン…
空ぶかししてもカブと同じ。マフラーが違うから少し元気良く回る感じだ。
ナンバーが付いていないので敷地内をグルグルと走る。特に異常は無し。
「カブのエンジンが載ったロードバイク?スクランブラーってこんな感じかな?」
我ながらよく出来たと悦に入っていると、呑気な排気音が聞こえてきた。理恵だ。
「おっちゃん、何か面白いバイク乗ってるな~何それ?」
「おう、おっさんが半分趣味で直してたバイクや。やっと出来た」
「ふ~ん、面白い形…乗って良い?」
「おう、かまわんけど…」
「何とかつま先は…お…オットットット…」
「ホラ、やっぱりおっさんが睨んだ通りや…」
何とかホッパーのシートに跨った理恵だったが、結局足が着かず諦めた。
◆ ◆ ◆ ◆
「まぁ、アレや…多分そのうち大きくなる様な気がしないでも無い気がする」
「慰めんでエエ」
足が着かずバイクに乗れなかった理恵を慰めようと言葉を絞り出そうとした大島だったが、結局何も出せなかった。出せたのは言葉ではなくココアとバームクーヘンだった。
「で、1人で暇やからココアを飲みに来たんか?」
「ん~それも有るんやけどな~」
理恵は母と進路について相談した事、母は大学へ行ってほしいと思っている事、そして進学するにしても何処を目指すべきなのか分からずにいる事を大島に話した。
「おっさんも理恵の御袋さんと同じで高卒で就職したからな…」
「おっちゃんにも分からん?」
「おっさんは高校までしか行って無いから、大卒でないと就く仕事は出来んかった。将来の選択肢を増やすって目的で進学するのは良いと思うぞ。問題は何を身に付けたいかやな」
(身に着けたい事か…それが知りたいんやけどな…)
う~んと腕を組んで考える理恵に大島は問いかけた。
「理恵はキャブレターとかターボとか興味があるんか?」
「ん?」
理恵は寝坊しても遅刻しない様にゴリラのパワーアップについて調べた事が有る。
大島に相談するたびに駄目だと言われたが、メカについて調べるのは好きだった。
「機械の事が好きやったら工業大学とかも良いかも知れんぞ」
「私でも行けるんかな?私、女の子なんやけど」
「それは関係無い。様は本人の努力次第。勉強は速人に教えてもらい」
「速人か…そう言えば、速人っていっつも私と居るよね」
速人は大学進学が当然なレベルの成績。そんな速人が理恵と同じクラスに居るのは不思議な事だ。でもそんな選択肢も有るのが高嶋高校の良い所。高校生活をどう過ごすかは本人に委ねられているのだ。
(そもそも何で速人は私といつも遊んでるんやろう?)
地味な顔立ちで目立つような事をしない速人だが、優しい性格もあって女子から受けが良い。それなのに彼女が出来たとか浮いた噂を全く聞いたことが無い。成績も理恵と比べるととんでもないレベルの成績だ。トップとまではいかないが、進学クラスでも十分やって行けそうなレベルの成績。それなのに、いつも理恵と一緒に遊んだり勉強したりしている。よく考えれば自分と一緒に居る事が不思議なのだ。
「なんかモヤモヤする」
「食い過ぎ・飲み過ぎや。バームクーヘン1周食べてしもて…」
理恵の心に出来たモヤモヤはこの後も暫く消える事は無かった。
◆ ◆ ◆ ◆
「リツコさんは高1の今頃って進路は決めてた?」
夕食のカレーを温めながら中さんが聞いて来た。
「う~ん、お父さんが亡くなって、堅い仕事を目指してたかなぁ」
父が亡くなって以来、私は青春を勉強とアルバイトに費やしていた。
お母さんを助けようと必死だった。彼氏を作る余裕なんて無かった。
「そうか、悪い事を聞いたな」
「高校の時にお祖母ちゃんも亡くなって…勉強ばかりしていたかな?」
「それで料理を学ぶ時間が無かったと」
「そうね。それが今になって覚えられずに困ってる訳よ」
実は小学生に頃から苦手で『お家でお手伝いをさせてください』と通知簿に毎回書かれていたのは内緒。。高校を卒業して大学時代に一人暮らしをしていた頃に何回か自炊はしたけれど、
自分で作った料理の不味さに悶絶して以来、料理は辞めてしまった。
「でも、どうしてそんな事を聞くの?」
「今日、理恵が遊びに来てな…」
中さんの所へ来た理恵ちゃんが進路の事を相談したんだって。
「白藤さんか…本田君と一緒に居る娘ね」
「理恵は元気で目立つ子やからな。速人は大変やで」
「ふぅん…中さんはそう思ってるんだ」
「違うんか?速人は大人しくて目立たん子やろ?」
理恵ちゃんみたいな元気な生徒は他にもいる。でも、教師の間で話題になっているのは本田君だ。成績優秀で2年次は進学クラスへ移動すると思われていた。にも拘らず、就職・専門学校クラスへ進む不思議な生徒だからだ。
「まぁ、仲良しならそれが一番なんだけどね」
「そうや。仲良しなのは大事な事や」
私と中さんも仲良し。大事な事なので実践しました。
「ひ~ん、苦い~(>_<)」
「ゴメンね」
食後のコーヒーは私が淹れました。粉の量を間違えたのか苦すぎでした。
☆ ☆ ☆ ☆
夕食の後、風呂を済ませた理恵はベッドに寝転んだ。
(速人は何で私と一緒に居るのかなぁ…)
考えても答えは出ない。モヤモヤした気持ちで考えているうちに理恵は寝てしまった。
―翌朝—
「わああん!遅刻する~!」
今日も理恵の絶叫とゴリラのエンジン音が国道161号線で聞こえるのだった。
―数分後―
「春休みやった…」
国道161号線を引き返す理恵だった。