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大島サイクル営業中 2017年度  作者: 京丁椎
2018年 3月
196/200

春分の日

フィクションです。登場する人物・団体・地名・施設等は全て架空の存在です。

実在する人物・団体・地名・施設等とは一切無関係です。

夜が開けるか開けないかの薄暗い中、墓場にたたずむ一人の男が居た。


「桜さん、夏以来…いや、夢で会ったか…」


墓石に水を掛けてたわしで洗う。夏に洗ったのでそれほど汚れていない。


水と線香、そして花とロウソクを供えて大島は手を合わせた。


「桜さん。君の事は忘れた訳や無い。でも好きな人が出来た」


線香の灰がポトリと落ちた。


「…ごめん…でもいい加減な気持ちやない…俺は結婚する」


どの位手を合わせていたのだろう。気が付けばロウソクと線香は燃え尽きていた。


「…また来る」


すっかり夜は開けて、牛乳配達や新聞配達のスーパーカブもいなくなった。

早朝の安曇河町は目覚めたばかり。大島はコンビニで牛乳を買って帰った。


     ◆     ◆     ◆


(いい匂い…なんだろう?甘~い匂いがする…)


リツコは家に漂う甘い匂いで目を覚ました。時刻は午前8時。休日だからもう少し寝ても(バチ)は当たらないと思うが眠っていられない。昨夜の運動のおかげだろう。とてもお腹が空いているのだ。


バスルームへ行きシャワーを浴びる。キュルリと鳴った腹の音はシャワーにかき消された。


「中さん。おはよう」

「おはようさん。今日は洋食にしてみた。どうやろう?」


リツコが食卓へ着くと朝食が出て来た。フレンチトースト・サラダ・コーンスープにカフェオレ。普段は和食が多いのに今日はオシャレな朝食だ。大島は稀に変わった食事を出す。今まで一緒に居て朝食にフレンチトーストを食べるのは初めてだ。


「どうも何も…オシャレね。どうしたの?」

「何となく甘い物が食べとうなったんや。朝に食べるのも悪うないかなって」


「いただきます」

「いただきます」


サラダを食べてから甘いフレンチトーストを食べる。


「悪くないな」

「美味しいよ。また作ってね」


「今度は一緒に作ろう」

「うん、教えてね。これなら大丈夫だと思う」


朝食後、2人で片付けをした後で(あたる)はコタツで横になり、ウトウトし始めた。


(無理させちゃったかな…)

朝食でパンが出て来るのは忙しい時か疲れている時。


(疲れるのも仕方ないか…ゴメンね)


リツコは炊事洗濯掃除を殆ど(あたる)に任せていた事を反省した。

しかも最近はリツコ相手の夜のお勤めもこなしているのである。


(今朝も早くから起きてたみたいだし…何やってたんだろう?)


早く起きて何かをしていた割にはお手軽な朝食。リツコは不思議に思った。


      ◆     ◆     ◆


春休みが近付き、テストが終わった理恵達は暇だった。


「で?これからどうすんのよ?」

「今日はおっちゃんの店は休みやし、どこ行こうかな」

「休みでも行ったらリツコ先生も居るやろ?行かへん?」

「でも、婚約したてだったらラブラブじゃない?邪魔するのは悪いよ」


邪魔かとは思うがファストフード店のコーヒーはお金が要る。

コーヒーが在れば摘む物も欲しくなる。そうなるとますます金が要る。


「何かお菓子買って、リツコ先生の所に行こう」

「ま、邪魔かどうかは解んないけど行ってみよっ」


4人は小遣いを出し合って贈答用の良いクッキーを買った。贈答用か熨斗を付けるかといろいろ聞かれたがよく解らないので婚約祝いと言った。熨斗代が100円必要だったが、缶のクッキーはささやかな婚約祝いに変わった。


理恵を先頭に速人・綾・亮二は大島サイクルへ向かった。


店の裏では少女が飲み物を片手に日向ぼっこをしていた。実はこれはリツコ。眠っている大島を起こさない様に縁側に居たのだ。左手にはビールの500mℓ缶、右手はハムカツをつまんでいる。一見長閑な休日の贅沢だが、今日のリツコはメイクをしていない。知らない警官が見たら補導ものである。


で、知らない者が見るとこんな反応である。


「こんにちは~あれ?おっさんは?」

「あの…お姉さん、リツコ先生とおじさんは居ますか?」


ちょっと待ってねと言い残して少女に化けた(?)リツコは家の中へ入って行った。


「綾ちゃん、亮二…あれはリツコ先生だよ」

「たまに化けて留守番してるんだ」


「「え?」」


     ◆      ◆      ◆


「そうか。ありがとう。祝いやけど早速開けて食べようか」


4人からクッキーを受け取った大島は台所へ行って飲み物を準備し始めた。


「マジで磯部先生?妹とか隠し子じゃなくって?」

「若~い。三十路に見えな~い!」


褒められているのか馬鹿にされているのか微妙な所だが、リツコはご機嫌だった。


「妹は居るけど隠し子は居ないわよ、だって…」

「だって?」


「中さんがはぢめての…って何言わせるのよ…もぅ…」


リツコは恥ずかしくなって台所へ行った。皆は高嶋高校のセクシークイーンがまさかつい最近まで清らかな乙女であった事が信じられず、その相手が大島であることに驚きを隠せなかった。


(おっちゃんとが初めてやったんか…)


理恵達があれやこれやを想像していると盆に飲み物を乗せて大島が現れた。


「さぁてと…何の話が聞きたいんかな?ホワイトデーの話でも…」

「わ~!わ~っ!やめて~!」


「「「「聞きた~い!」」」」


もうすっかり春の陽気。大島サイクルでは今日もにぎやかな声が響く。


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