晶・振られる
フィクションです。登場する人物・団体・地名・施設等は全て架空の存在です。
実在する人物・団体・地名・施設等とは一切無関係です。
パン屋の店員が気になって仕方ない晶。思い切って告白してみた。
「私とお付き合いして下さい」
「お断りします」
一刀両断で振られただけならまだ良い。だが、今回は失う物が在った。
「クスン…もう恥ずかしくってパン・ゴールには行けない…」
「葛城さんが振られるなんてな…」
葛城のお気に入りは店員だけではない。餡ドーナツやサラダパン、ウエスタンにハムチーズ…パン・ゴールのパンは今や葛城の元気の源。仕事中の間食だったのだ。
「まぁココアでも飲み」
「クスン…パン」
葛城がべそをかいてココアを飲んでいると理恵がやってきた。
「あれ?葛城さんどうしたん?」
「そっとしておいてあげてな。失恋や」
「失恋?勿体ない!で、葛城さんを振ったのはどんな人?」
「パン・ゴールの店員さんや。知ってるか?」
「え?葛城さんって男の人が好きな人?」
世の中の殆どの女性の恋愛対象は男性だと思う。中には違う人も居るが。
「理恵ちゃん、私、これでも女の子なんだけど…」
「じゃあ、大丈夫と違う?あの人、男の子やで?」
「え?」
「やっぱり?」
理恵が言うにはパン・ゴールの店員さんは昔から女の子に間違えられていたらしい。
「どこからどう見ても男の人やで?咽喉仏有るやん」
理恵は背が低い。下から見ると咽喉仏が見えるのだ。俺や葛城さんは見下ろす様に見るから首元に目が行かないからだろう。まったく分からなかった。
「で?葛城さんは『自分は女性です』って言ったん?言わんと分からへんで?」
酷い事を言っているように思われるかもしれないが、理恵は初めて葛城さんと会った時は男性だと勘違いして一目惚れしている。リツコさんも男の人と勘違いして交際を申し込んで玉砕しているし、ご近所の奥様方は今でも男性と思っている。
「仲介してあげよっか?私、よくパンを買いに行くから知ってるよ?」
「ん~もうちょっと間を開けてからの方が良いかな?」
これに関しては見守る事しか出来ない。恋は専門外だ。
「で、理恵は何か用が在って来たんか?」
「ううん。暇やったから寄っただけ。おっちゃん、ココア」
ウチは喫茶店じゃね~よ…
◆ ◆ ◆
「ふ~ん、晶ちゃんの気になった子は男の子だったんだ」
少し遅めに帰ってきたリツコさんは少しお疲れ気味。この数日お酒を呑まない。
その分ご飯を食べる。酒の分のエネルギーを飯で補う様だ。
「ある意味丁度良いな。まぁ見守ることにしよう」
「イケメン女子と美少女男子ねぇ…薄い本にしたらウケそうね…」
薄い本とは何だろう?リツコさんは時々訳の解らない事を言う。
若い娘さんが言うことが解らない…俺は歳を取ってしまったようだ。