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大島サイクル営業中 2017年度  作者: 京丁椎
2018年 3月
189/200

速人・シフトドラム入手

フィクションです。登場する人物・団体・地名・施設等は全て架空の存在です。

実在する人物・団体・地名・施設等とは一切無関係です。

インターネットオークションを見てもCD50のシフトドラムは出ていない。


試しにSNSで『CD50のロータリーシフトドラム余ってませんか?』と呟くと

CD50をリターン化した人から返事が有った。ダダで良い・差し上げますと連絡が有り、

シフトドラムが送られてきた。タダでは申し訳ないと思った速人はお礼の品を送ることにした。


「じゃ、ここへお酒を送れば良いんやな。了解」


高嶋市全体かどうかはわからないが、少なくとも高嶋市南部では世話になったお礼に酒を送る風習が有る。昔は日本酒だったが今はビールや焼酎の場合もある。密かに人気なのが高嶋町の酒蔵で作っている檸檬酒と蜜柑酒。甘酸っぱくて呑み易いから女性にも好評だ。


未成年の速人はお酒を買う事が出来ないので、大人である大島に頼んだ。


「さて、これでミッションの部品が揃った訳やな」

「そうですね。じゃあ組んでいきましょう」


ミッションのカウンターギヤ4速をモンキーの物に交換。これはすぐ出来た。


「シフトドラムは細かい部品がある。ペーパーウエスの上で組もう」


クリップを外してシフトフォークを留めるピンを外す。


「どうやって抜くんですか?」

「針金でクリップの入ってた穴を押すんや」


シフトフォークを順番に並べて置く。掃除してからオイルを塗っておく。


「次は組み付けや。まぁ難しい所は特に無い。クリップを飛ばすなよ」

「はい。オイルを塗って…っと」


カブやモンキーは構造が簡単で触りやすい。それゆえに弄り壊される事も多い。失敗しないで腕が良くなったプライベーターは居ないと思うが、速人はまだ高校生だ。使える小遣いも少ないし、小遣いを増やそうとバイトに励めば勉強が疎かになりかねない。出来るだけ節約するためにはくだらないミスで資金の浪費をする事を避けたい。


「よし、フォークは組めたな。動きはどうや?引っ掛かりは無いか?」

「はい、大丈夫です。ニュートラルスイッチのローターは何用を使いましょう?」


カブ90を4速化する時、ニュートラルスイッチローターはカブ90用を使う。ドナーとなるカブ50カスタム4速のシフトドラムをそのまま使用するとニュートラルランプが変な所で点灯するからだ。カブ系エンジンのミッション交換をした時にニュートラルスイッチローターはクランクケースに合せるのかセオリーだ。


今回速人が買ったのはクランクケース単品。元から付いていたミッションが無いのでケースを観察して合う物を見つけなければならない。


「ニュートラルスイッチの入り穴ぼこはカブ90と一緒やな」

「という事は、モンキーとも一緒ですよね?」


速人が手に入れた6Vミッションに付いているローターを使っても良いかもしれないが、今回は遠心クラッチで組む。遠心クラッチを使っているカブ90用を使った方が良いだろう。遠心クラッチ車と手動クラッチ車で細かな部品を換えるのはコストの面で不利だ。にも拘らず使い分けているのは何らかの理由があるからだろう。それに、カブ90用のローターの方が金具自体が頑丈そうだ。


「今回はクラッチに合せてカブ90用を使おう。導通が有ったら大丈夫なはずや」

「じゃあカブ90用で」


「安い部品や、新品に換えてしまえ」


ニュートラルスイッチローターは不備や故障があるとエンジンを全部分解しないと交換出来ない。用心の為に新品にしておいた方が良い。急がば回れ・急いては事をし損じるって奴…かな?


今のカブはニュトラルスイッチは外付け。海外のカブにはシフトポジションの表示できるものが在ると聞いた。日本で売っているカブには付いていない物が輸出用には付いている。日本のユーザーの大半は求めないのでコストダウンしているのかもしれないが、せめてオプション部品として売り出してもらいたいものだ。


「シフトのチェックをするぞ。速人はテスターを頼む」

「はい」


ピ~とテスターが鳴っている。ニュートラルスイッチは正常に作動している。


「ギヤを入れるぞ。どうかな」

「回ってます」


1速・2速…ギヤが変わるたびにスプロケ軸が早く回る。3速・4速…

再びニュートラルにシフトするとテスターからピ~と音が鳴る。


オイルポンプのスプロケット周りやクランクを組み込んでケースを閉じる。今回は無事にケースは隙間なく閉じた。今回はここでタイムアップ。


「ここまで来たらあとは組むだけやな。ここからは前に組んだのと同じや」

「はい。次で腰下を完成させたいですね」


「慌てる事は無い。特に使うあても無いエンジンやろ?組むのを楽しんだら良い」

「無いと言えば無いんですけどね…」


     ◆     ◆     ◆


速人が帰った後、留守番電話のメッセージをチェックする。今日も何件かメッセージ有り。特に大事な用や緊急の電話は無い。Tataniが閉店してから修理の問い合わせが多い。


『あんたの所のバイクが壊れて動かないのよ!取りに来なさい!』


これは問い合わせでは無くて命令だな。頼んでくるならまだしも売ってもいないバイクを『あんたの所』とはこれは笑える。どこかで掴まされた偽物だろう…着信拒否に登録する。


この手の電話は聞くだけで疲れる。疲れてしまったから今夜は手抜きご飯にしよう。

エアツールにオイルを回らせてからコンプレッサーの水とエアーを抜く。今日も水が多く出た。


     ◆     ◆     ◆


「中さん…私ね、食べたい物があるの」

晩御飯の麻婆豆腐をご飯にかけながら中さんにリクエストをしてみた。


「何を食べたいんや?肉?」

「鶏のから揚げ」


「唐揚げ?お弁当に入れてる奴?」


時々お弁当に入っているから揚げも美味しいけど、別に食べたいから揚げがある。


「安曇河名物のかしわの味付けをから揚げにして食べたいな~」

「な…なんですと…あれを揚げろ…とな?」


脂汗を流してどうしたのだろう?そんなに悪い事を言ったのかな?

もしかすると難しい料理なの?作ったことが無いからわかんないけど。


「あれは、1回揚げると油が大汚れするから…考えとく」

「うん。多目に作ってね。でもお弁当には入れないでね♪」


お酒には合うけどお弁当に入れるのはNG。匂いが強烈なのだ。


「それがホワイトデーに欲しい白い物…?」

「ホワイトデーには別に食べたい物がある…かな?」


「用意するから速めに教えてや」

「すぐに用意できるから大丈夫よ」


…と言いつつ、何かを企んで微笑むリツコであった。



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