速人・楽しく楽に⑤ミッションの部品
フィクションです。登場する人物・団体・地名・施設等は全て架空の存在です。
実在する人物・団体・地名・施設等とは一切無関係です。
モンキーの部品は今も高値安定中。そんな中、12Vモンキーのミッションを探す速人はモンキー系のエンジンならシャフトの違いは有ってもギヤの流用が出来るのではないかと他のバイクのミッションを探し始めた。余談だが『モンキー』で検索すると高価な部品が『ゴリラ』『カブ』で検索すると安くで見つけられる事が在る。
「マグナ50…シャフトは違うけどギヤが使えれば良いな。ちょっと安いし♪」
安ければ良いと入札したマグナ50のミッションは特に競りもせず
思いの外安く落札が出来て速人はホッとした。
そんな事が有った数日後。
「まいど~お届け物です~」
「はいご苦労さん…また速人か」
認めのサインをして荷物を受け取った。今回は小さな箱だがずっしりと重い。
重さから察するにプラスチックやアルミでは無い。
(材質は恐らく鉄。となるとミッション関係の部品かな?)
「部品が届きました…っと。送信」
携帯を取り出して速人にメールする。テストは終わったとリツコさんは言っていた。速人は理恵に勉強を教えていたぐらいだから成績が良かったはず。補習や再試を受ける事は無いだろう。
仕事場を片付けていると返事が来た。帰りに寄るらしい。
◆ ◆ ◆
授業が終わった速人は理恵を誘って大島の店にやって来た。
速人に勉強のコツを教えてもらったおかげで理恵のテストの点は悪くなかった。
「これで無事に進級できるな。速人様様だね」
「うん」
「2年になってもな、同じクラスやとええのにな~♪」
そんな会話をしながら歩いているうちに2人は大島の店に着いた。
「おう、来たな。今度はミッションを頼んだか」
「ええ、マグナ50のミッションのギヤとシフトフォークを使おうと思って」
2人が作業をしている間は理恵はおやつを頬張りながら課題を片付ける。
速人は大島に聞きながら作業をして、時々理恵に勉強を教える。
「速人はいつ課題を片付けてるんや?成績は下がってないか?」
「課題は休憩時間に片付けてます。成績は若干上向きです」
バイクに夢中になって成績が下がる生徒は多い。だが、そんな大島の心配は必要無かった。
理恵と友人になってから速人の成績は上がっている。理恵に『なんでこうなるの?』と聞かれて説明できない所は、改めて理恵と一緒になって考える。
速人は理恵に教える事が出来ないのは自分が本当に理解していないからだと思った。
教えた速人と教えてもらった理恵の成績は相乗効果で上昇中。
どちらかと言えば勉強の苦手な理恵だったが、今では平均点を軽く超える様になった。
「あたしは課題を片付けてるから、わかんない所が有ったら教えてね」
「うん。いつでも聞いて」
(理恵が自分から宿題をする様になったんか。上手い事お猿を調教したな…)
シフトドラムは入手できていないが、ミッションの仮組みは出来る。
6Vモンキーのミッションにマグナ50のの3・4速ギヤを組み込んで
ベアリングを換えたクランクケースに仮組みすると…
「閉まらへん。何でや?」
「ベアリングが奥まで入ってないとかですか?」
ベアリングの挿入はアルミのクランクケースを熱くしてから行った。
念の為に軽くソケットレンチのコマでベアリング外周を叩いて確認したはず。
「浮いてるのは3㎜前後やな。ベアリングが浮いてたらわかるはずや」
「何かが違うんですか?」
試しに4速のカウンター側のギヤを外すとクランクケースはスコンと閉じた。
「これはギヤが原因やな。比べてみようか」
部品が収まらないのは理由がある。面倒と理由を追及せずに組もうとすると
部品を壊したり、怪我をしたりのしっぺ返しを食らう。
面倒な事を面倒だと避けようとすると余計に面倒な事になるのだ。
「もとに着いていたミッションと比べると少し寸法が大きいな」
「6Vミッションの4速カウンターギヤに無い凸が在りますね」
マグナのミッションはカブと同じボールベアリングを使ったクランクケースだ。
今回のカブはボールベアリングに代わる前のニードルローラーベアリンクの物。
「このギヤがクランクケースの違いをカバーしてるんやな」
「だから競らなかったんだ…」
競りもせず安く買えた理由を知った速人はガッカリした。
「まぁギヤだけ部品注文したら良いやろう。でも安く買えた分は帳消しやな」
「ギヤだけで行けますか?」
「それはおっさんでも解らんなぁ」
初めての作業だから大島でも解らない。
「ま、これも勉強やな」
結局、今回も作業は進まず部品待ちとなった。進んだのは理恵の課題だけだった。
◆ ◆ ◆ ◆
「へ~似たエンジンで細かなギヤが違うんだ」
「そうやな。全部一緒にしたらコストダウンになるのにな」
近頃、リツコと中は夕食の時にお互いに一日の出来事を話す。
お酒を呑みながらだったり、後片付けをしながらだったりする。
食卓だけではなく、布団の中でも話をしたりする。
「にゃあ…」
「御転婆な黒猫ですかな?」
今日も飼い主の布団に潜り込む猫の様にリツコは中の寝床へ潜り込んだ。
「男の布団に入って来て…お腹が大きなったらどうするんや」
「そうなったらお嫁さんにしてもらう♪」
手を出す事は無いし、出したとしてもそうなることはほぼ無いのだが。
最近、リツコは布団を敷かずに大島の布団へ潜り込むことが多い。
寒いと言いつつ今日も一緒に寝ているが自室の布団には電気毛布が在る。
布団も大島が晴れ間に干しているのでふっくらしている。
本当は寒くない。ただ単に引っ付いていたいだけなのだ。
「中さん。私ね、ホワイトデーに欲しいものが在るの…」
「あんまり高いもんは買えんで。何が欲しいんや?」
「内緒♪」
「内緒ではわからんなぁ」
「高いものじゃないよ。くれなきゃすねちゃうぞ」
「わかった。絶対にあげる。約束する…で、何が欲しいんや?」
「絶対にくれるって約束できる?」
「男に二言は無い…って言うと問題が有るんやったかいな?」
「約束ね。でも内緒♪」
内緒と言いつつ欲しい物は有る。でもまだそれが何かは言わないリツコだった。