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大島サイクル営業中 2017年度  作者: 京丁椎
2018年 2月
179/200

リツコ・料理を習う

フィクションです。登場する人物・団体・地名・施設等は全て架空の存在です。

実在する人物・団体・地名・施設等とは一切無関係です。

全くとまでは行かないが、リツコは殆ど料理が出来ない。


「で、リツコさんが出来る一番難しい料理は何なの?」

「目…目玉焼き(汗)」


目玉焼きとは答えたものの、実は目玉焼きすら怪しい。

実際に出来るのはゆで卵と卵かけご飯くらいだが、リツコはご飯が炊けない。


「それで男が落とせると思う?」

「思わない…教えて」


「ほな、お湯を沸かす所から始めてみようか」

「うん。それなら出来る」


大島に言われて鍋に水を張りガスコンロにかける。

料理が下手とはいえ鍋でお湯を沸かすぐらいはリツコだって出来るのだ。


「まずは卵を茹でてみよう。その間にボウルとしゃもじを用意する」

「何を作るの?ゆで卵なら私でも出来るよ?」


「卵サンドや。簡単に出来て美味しいで」

「ふ~ん」


茹で上がった卵の殻を2人で剥く。少し古めの卵を使うのがポイントとか

茹で上がったら水で冷やすとか色々大島の説明を聞きながらリツコは一生懸命

大島の横で卵の殻を剥く。


「ゆで卵はボウルで潰して塩コショウとマヨネーズであえる…」

「包丁は使わないんだ」

包丁を使うのが苦手なリツコでも出来る料理の様だ。


「卵はこれでOK。で、マーガリンを塗ったパンに挟む」

「これなら私でも出来る~♪」


「で、挟んだらラップで包んで上から重石を乗せて冷蔵庫で馴染ませる」

「耳は切らないんだ」


耳を切るのはお好み。海外では切る所の方が少ないと聞いたリツコは

包丁を使わなくて済むと喜んだ。ちなみに大島はパンの耳が好きだったりする。


「そのまま齧り付いても良し。小さく切っても良し。とりあえず…」

「とりあえず?」


「良く出来ました」

頭をポムポムとされてリツコはまんざらでもなかった。むしろ嬉しかった。


大島直伝の卵サンドはリツコの得意料理となった。


~それから数十年後~


桜咲く湖岸道路、リツコはリトルカブでツーリングしていた。

お婆ちゃんになっても乗ると決めていたゼファー1100は70歳を少し過ぎた頃、

手入れの最中に倒れたのを引き起こしできなかったので乗るのを諦めた。


正確に言うと倒れたゼファーの下敷きになって死にそうになっていた所を偶然訪ねてきた

知り合いに発見されて助けてもらったのだ。


「あの時は(あたる)さんが迎えに来たかと思った…」


乗る事が出来ないなら仕方が無い。事故を起こす前に処分しようと決めた。

売ろうとしたところ、何処から嗅ぎつけたのか知らないが博物館が買いに来たので売った。

今は石川の自動車博物館で展示されている。


「結局、私と居るのはリトルちゃんだけ…」

夫に先立たれ、子供がいないリツコは独り暮らし。


「あの人のお料理…完璧にマスターできたのはこれだけ…」


『リツコさん。今日も良く出来ました』

亡くなる数日前、卵サンド食べたを夫に頭を撫でられた感触を今でも思い出す。


「中さんの嘘つき…」


初めて交わった夜、(あたる)はリツコに約束をした。


「痛かった…」

「ごめん。優しくしたつもりやったんやけどな」


「もう泣かさないでね」

「うん」


(もう泣かさないと約束したはずなのに…あの人は私を何度も泣かせる…)


桜の時期に逝ってしまった夫…


桜の季節が来るたびに思い出してリツコは涙を流す。


海津大崎の桜が枯れてからリツコの花見は真旭の湖岸道路。

今年も大島に教わった卵サンドを持ってツーリングに出かける。


そんな未来が在ったりするのだが…


「じゃあ、次はこれの応用でタルタルソース作りに挑戦しようか」

「うん…でも、私包丁を使うのは苦手…」


「大丈夫。ピーラーとかスライサーを使えば良いから」

「うん。頑張る」


その事をまだ2人は知らない。



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