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大島サイクル営業中 2017年度  作者: 京丁椎
2018年 2月
178/200

Tataniが遺した物

フィクションです。登場する人物・団体・地名・施設等は全て架空の存在です。

実在する人物・団体・地名・施設等とは一切無関係です。

セレブリティ―バイカーズTataniが閉店して数日が経った。

Tataniでは閉店前の最期の荒稼ぎとばかりにモンキーバイクを売っていた。

それなりのメーカーが輸入したものなら保証もあったかもしれないが、

Tataniで売っていた物はかなり怪しい所から輸入した物らしく、

そこら中でトラブルを起こしている。大島はさわらぬ神に祟り無しと無関心で

とりあえずの自衛手段として電話のナンバーディスプレイを見て番号が今都の場合は

出ないようにしていた。ご近所なら電話などせず持って来るし、余程の用が有る連中なら

何も言わなくても携帯電話にかけて来るからだ。試しに留守番電話にしたら

なかなか面白いメッセージが入っていた。


伸尾(のびお)だけどぉ。お前ところのバイクがおかしいから取りに来いや』


(ノビオと言えばホンダが昔出してたペダル付きの自転車みたいなバイクやな)

取りに来いと言う時点で自分の売ったバイクでない事は解っていたのだが、一応

顧客名簿を開いて確認した。無論、ノビオだかホビオなんて名簿にはなかった。


名前とナンバーディスプレイ番号を控えて電話帳で確認したら載っていた。


「ノビオノビオ…あ、有った。今都の…ふ~ん。学校の近所やな」

今都の関わるとロクなことが無い。速攻で着信お断りに登録した。


『立つ鳥跡を濁さず』というがTataniはろくでも無い物を遺した様だ。

遺された客にとっては災難かもしれんが、俺は知らん。


春になってから学生たちが通学で使うバイクもそれなりの台数を造れた。

売値は決めて荷札を付けてあるからポップ作りもしなければいけない。


(今日はゆっくりさせて貰おうかな…)

コーヒーを飲みながら雑誌を読む。バレンタインが近付いたからか町は

なんとなく浮かれている様な気がする。近頃のバレンタインは男から女に

チョコレートを渡す事も有りだとか。


(ことしはガトーショコラに挑戦してみようか…)


ストーブに当たりながら考えているうちに眠くなってきた…


     ◆     ◆     ◆


「中ちゃん。中ちゃん。自転車取りに来たで」

ご近所の婆ちゃんに呼ばれて目が覚めた。1時間ほど寝ていたみたいだ。


「婆ちゃん…そうか、今日で婆ちゃんのライダー人生は終わりやな」

「そうや。寂しいけど世間様にご迷惑をかける事無く卒業や」


高齢者講習でバイクに乗るのはやめるように言われた婆ちゃんは今日から

3輪自転車に乗る。前タイヤが2本のタイプは安定性が良くて荷物が沢山詰める。


「今までおおきに。アンタといろんな野菜を運んだなぁ」

長年の苦労を労って婆ちゃんがカブを撫でる。擦り傷だらけのくたびれた角目カブ。

エンジンは積み換えて間が無いから中古車として売るつもりだ。


『カブに始まりカブに終わる』使い古された言葉だ。そんな場は何度も見ているが

やはり毎回寂しい想いはする。このスーパーカブは何を思っているのだろう。

物言わぬ機械がこの時ばかりは寂しそうに見える。


「婆ちゃん、今度は前2輪で少し癖が有るから慣れるまではゆっくりやで」

「うん。もう速うは走れんしゆっくり走るわ」


「今度は両手でブレーキやしな。右が前で左が後ろのブレーキやで」

「うん。うん」


年寄りなので分かりやすくゆっくり説明した。

「自転車やけど新車はエエな。また来るしな」

「気ぃ付けてな」


婆ちゃんを送り出してからもノンビリする。今日は体が怠い。

最近色々有り過ぎる。特に気になるのがリツコさんだ。焦りが見える。

結婚を意識するお年頃だからか焦りを通り越して発情しているように思う。


リツコさんは可愛らしい女性だ。抱きしめたくなる。俺はオッサンだが

恋人に立候補したくなるくらいだ。まぁ向こうが嫌がると思うけど。


俺には子種が無い。女性なら赤ちゃんが欲しいと思う事があるだろう。

もしもリツコさんとそう言う関係になったら俺は願いをかなえる事が出来ない。


それなのに俺はリツコさんの唇を奪ってしまった。これはゆゆしき事態だ。


考えがまとまらない。こんな時は料理をするに限る。無心で料理を作れば

お腹が一杯になって幸せな気分で眠れる。


今日も寒い。温かい料理が良いのだが最近鍋料理が多い。ワンパターンだ。


     ◆     ◆     ◆     ◆


「わ、今日は何かあったの?ビールに合うおかずばっかりじゃない」


リツコさんが大喜びするのも無理は無い。から揚げ・エビチリ・麻婆豆腐と

中華三昧の豪華な夕食だ。夢中で作ったが作り過ぎた。


溶き卵入りのわかめスープをよそって食卓に着く。

ビールを呑み唐揚げをつまみにして呑み、麻婆豆腐をご飯に掛けてリツコさんは

今日もモリモリとよく食べてよく呑む。


「中さん。私の為にご飯を作ってくれないかな」


今日もリツコさんはお約束の台詞を言う。毎回思うけど昭和の男のプロポーズだ。


「…食べる幸せは掴めても、女としての幸せは諦める事になるで」

「そっちは妹に任せるから大丈夫」


ん?リツコさんに妹なんか居たっけ?初耳だ。


「ずっと母さんと連絡は取ってなかったんだけど、この前久しぶりに連絡したらね」

「うん、連絡したら?」


「向こうに行ってから出来たんだって。もう6歳よ。信じられない!

 だから跡継ぎとか心配しなくて良いのよ」


リツコさんが30歳で妹が6歳となると24歳差だな。親子ほど年が離れているなぁ…


「私を産んだのが23歳。再婚が45歳。出産が46歳。どうなってるのよ?」

どうなってるんやろうな。


「だから、子種が無くっても良いのよ。気にせず御婿さんになってね」

どうして10歳以上歳下の女の子に主導権を握られているのだろう。


「中さん。あなたを婿にもらう前に言っておきたい事が有ります。出来る限りで

 構わないから私の本音を聞いて欲しい。私より先に酔ってもいけない。

 酔った私を放っておいてはいけない。ご飯は美味しく作って…」


結局この晩はリツコさんの女関白宣言を聞いて夕食が終わった。

リツコさんは呑み過ぎて眠ってしまった。仕方が無いので部屋に運んだ。


「私より先に死んではいけない…死んで私を泣かせてもいけない…」


背中で無茶な事を言っていてるリツコさんを布団に寝かせたあと、

家事を済ませ、家の戸締りをして寝た。


夢を見た。昔の夢じゃない。


靄の中、俺の前に桜さんが居る。


「中ちゃん…おじさんになったね」

「桜さん…久しぶりやな。君は変わらへんな」


笑顔の桜さんが拳を振りかぶって向かって来た


「この浮気もん!当分こっちに顔を出すなゴルァァッ!」


頭に衝撃が走って目が覚めた。寝ていてぶつけたみたいだ。

俺は寝相が良いはずなんやけどな。


たんこぶを(さす)りつつ今日も一日が始まる…




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