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大島サイクル営業中 2017年度  作者: 京丁椎
2018年 2月
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大石からの手紙

フィクションです。登場する人物・団体・地名・施設等は全て架空の存在です。

実在する人物・団体・地名・施設等とは一切無関係です。

「あれ?中さん、何読んでるの?」

「倉庫の整理をしてたら見つけてな」


リツコが仕事から戻るとあたるは炬燵で寝転んで手紙らしきものを読んでいた。

夕食や風呂の準備は終わっているので、帰りが遅くなったかと思ったが

特に遅いわけでもない。手紙を読む時間を作る為に急いで支度したのだろう。


「先にお風呂に入って来るね」

手紙を読んでいるのを邪魔するのは悪いかと思い、リツコは風呂へ向かった。


風呂から上がると食事は温められて湯上りのビールも待っていた。

いつも通りの夕食だけどあたるさんの元気が無い。


「どうしたの?今日は変よ?何か嫌な事が有ったの?」

「嫌な事なんか無いで。今日も割と暇な一日。天下泰平事も無し」


何も無いはずはない。中の心を乱す何かが有ったのだとリツコは思った。

心の乱れは料理の味に出る。今日の肉野菜炒めはモヤシの食感が悪かった。

恐らく考え事でもしていて火を通し過ぎたのだろう。味も少し濃い。

味噌汁の大根も大きさがバラバラだし、油揚げは切れずに繋がっている物が在る。


だが、機嫌が悪いわけではなさそうだ。数か月一緒に暮らしていると解る。

倉庫の整理をしていたと言っているのだから昔の何かが出て来たのだろう。

恐らく手紙はそれに関係した者からだろう。


モヤモヤした気持ちでリツコは夕食を終えた。


「後片付けは私がやるから、中さんはお風呂に入って来たら?」

「じゃあ、お言葉に甘えさせて貰おうかな?」


普段なら『二人でやったらすぐに片付くやん』とか言うのに今日は言わない。

これは何かあるとリツコの女の勘が働いた。


風呂から上がった中は洗濯機を回しながら手紙を読み続けている。

普段なら炬燵で一日の出来事を話ししながらテレビを見るのに今日は

何も言わず手紙に夢中に読んでいるので会話が無い。リツコは寂しかった。


「中さん」

「何…うわっ、その格好は何?」


大島が驚くのも無理は無い。リツコは黒のピッタリとしたニットのワンピースに

猫耳のカチューシャ。ご丁寧に尻尾まで付けた黒猫のコスプレをしていたのだ。


「にゃあ…撫でれ」

猫になったリツコは大島の背後から覆いかぶさり耳元で囁いた。


「撫でろって…こんな感じか?よしよし」


子供をナデナデするような撫で方をされたリツコは少しだけ不機嫌になった。


「違う。もっとギュッと撫でれ」

「こうかな?」


左腕で抱え込んで右手で頭を撫でた。ついでに頬ずりまでサービスだ。


「や~ん、中さん、お髭痛~い♡」


ギュッとしろと言ったから最大限のスキンシップをした。


「まいったか?」

「にゃあ…今日は寂しかったぞ…」


手紙に気を取られ過ぎた大島をリツコはじっと見つめた。


「ずいぶん熱心に読んでるね。その手紙は何?」

「ああ、この手紙は倉庫整理をしてたら見つけたんや…」


「読んでいい?」

「うん」


『大島君へ。これを使いなさい。番号は6Vやけど物は12V用や 大石より』


「これだけ?」

延々と読んでいる割にはあまりに短かな文章だ。


「これだけなんや。これだけなんやけどな…」

「何が有ったの?」


「手紙と一緒にモンキーの12V用新品フレームが10本有った。書類付きで」

「どうして今まで放って有ったの?お宝じゃない!」


棚を整理していたら妙に壁の分厚い部分が有った。よく見たら積んだ箱に

壁紙を張ってあって、さらに上からペンキが塗られていたのだ。


「棚の裏に壁一面の箱。まるで隠してあるみたいやったわ」

「先代の隠し財宝ね」


「先代の隠し財宝か…将来価値が出るのを見越して仕入れておいたんかな」

「未来が見えてたのかもね…」


未来が見えたのか職人の勘かは解らない。


「この宝物は俺のポケットに入れるは大きすぎる」

売るべき時に売るのが良いだろうと中は判断した。


翌日、フレームを在庫として棚へ納められた。今は出番を待っている。





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