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大島サイクル営業中 2017年度  作者: 京丁椎
2018年 2月
175/200

七音・快適な生活を蹴る

フィクションです。登場する人物・団体・地名・施設等は全て架空の存在です。

実在する人物・団体・地名・施設等とは一切無関係です。

高嶋高校では2月になると3年生は自由登校となる。

学校へ来るも善し来なくても善し。この時期を利用して卒業旅行へ行く者も多い。


名古屋から少し離れた街で高嶋高校の3年生・木原七音は借家を見ていた。


「こちらは築40年ですがリフォームが済んでいまして、古い分…」


七音が春から通う専門学校には学生寮が在る。朝夕の食事・冷暖房・個室・部屋風呂有り。

最近の若者に必須なインターネットやケーブルテレビ完備のいう事の無い環境。

学校までは徒歩で数百メートルと極めて学校へ通うのに便利な物件ではある。


問題は原付を含む自動二輪禁止な事だ。駐輪スペースが無いので自転車にも乗れない。

電気は11時に強制的に消灯され、門限は夜8時。それ以降は外出禁止。

酒もたばこも禁止…まぁ七音は未成年だからどちらもやらないが。友人を部屋へ

招き入れる事も出来ない。ここまで規制されるのは窮屈だし面白く無い。


(やっぱり嫌や!別に夜中に出歩くつもりは無いけど縛られたく無い!)


一方、学校から2㎞以上離れた所から通う生徒は小型自動二輪の使用が許可される。

学校から近くて、きれいで風呂・食事付きの学生寮生活を蹴って

七音はカブに乗ることを優先した。学生寮と同じ程度の家賃なら許可すると両親に言われ

自由登校なのに旅行にも行かず、格安な借家を見に来たのだった。


築40年の中途半端な古さの家はボロい見た目の割に数年前にリフォームされた新しい水回りと

愛知の湿度をしのげるように居間にエアコンが在り、住む分には不足は無さそうだった。


周りが畑の一軒家だからカブを整備する時に出る油脂類やクリーナーの匂いも

誰にも注意されないだろう。マンションでカブの整備なんてしたら不審者扱いされたり

追い出されたり、退去勧告もあり得るかも知れない。


何よりシャッター付きのガレージが在るのが良い。カブの盗難対策になる。


(さすが愛知県。車の街だけあって車庫が立派な家が多いんやなぁ…よし!)


「決めます。ここにします」七音は2年間の住まいを決めた。


     ◆     ◆     ◆


「じゃあ、折りたたみ自転車は要らんのと違うか?」

「いえ、自転車は自転車で欲しいんです」


「それにしても、カブを優先して住みにくい所にわざわざ…」


ついこの前まで寒い日にチョークを引くのを忘れ、必死にキックペダルを踏み下ろし続け

泣きそうになっていた七音が今では機械に強くなって自動車整備士を目指している。


「ま、ええか」


彼女は成長したのだ。その彼女が決めたのだ。もう口を出すのは違うだろう…

色々考えて中の口から出たのは『ま、ええか』七音に何度も言った言葉だ。


七音は大島の言葉を聞いてホッと胸を撫で下ろした。


初めて自分でオイル交換した時、初めてエンジンを分解組み立てした時

いつも言われた『まぁ、ええか』これが聞ければ間違いない。


「でね、引っ越しの前におっちゃんに見て貰っとこうかなって」

「見る言うてもタペットくらいやな。良うメンテ出来てるで」


実際に七音のスーパーカブは良く手入れされていた。走行距離は約2万5千㎞

大島の店で中古で買ってから約1万8千㎞ほど走った事になる。


「おっちゃん、メカニックで大事な事って何かなぁ」

「好きだけでは出来んし、嫌いやったら尚更出来ん…強いて言えば…」


「強いて言えば?」

「愛…かな?」


     ◆     ◆     ◆


「ふ~ん、束縛を嫌ってバイクを選んだわけか…若さだね」

「リツコさんも一軒家で独り暮らししてたな。やっぱり寂しかった?」


「一人暮らしだったけど、私は実家で地元だったからね」

「親御さんは心配やろうな」


娘が一人暮らしとなると親御さんは心配だろう。


「一人暮らしをしてる娘が男と暮らしてたら親はどう思うんかな?」

「ん~それなんだけどね~もう知ってるの」


リツコさんのお母さんはオーストラリアかどこかの海外に居たはずだ。


「メールが有ったのよ。『三矢君から知らされた。御婿おむこさんを見つけたの?』って」

「三矢君って…三矢社長と知り合いなんかな?」


リツコさんの実家は高嶋町。同じ街の三矢不動産を知らないと考える方が不自然だ。

お母さんに知らされたとなると挨拶の1つもしなければならないか。


「そっちはそっちで勝手に生きていきなさいってメールが来たの」


まぁあれだ。大人だから自由にしろって事やな。


「跡継ぎとか家を継ぐとかは考えず好きに生きなさいって」


磯部さんのお母さんは昔の考え方に囚われない人かもしれない。

一度お会いしたいものだ。でも地球の裏側に居るから来るのは難しいだろう。


「一回会ってあいさつした方が良いんかな?」

「放っときゃ良いのよ。何だか忙しいみたいだし」


リツコさんが不機嫌になりそうなのでこの話はここまでにしておく。


全ての家事を終えて寝室へ行くとリツコさんが布団に入って待っていた。


「何で俺の布団で寝てるの?」

「お母さんが一緒の布団で寝ると仲良くなるって言ってた」


一度地球の裏側まで行って話をした方が良いかもしれない。





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