リツコ・初体験する
フィクションです。登場する人物・団体・地名・施設等は全て架空の存在です。
実在する人物・団体・地名・施設等とは一切無関係です。
「大人のキスを教えたる」
そう言って塞いだリツコさんの唇は、甘酸っぱくて強烈なラム酒の香りがした。
◆ ◆ ◆
「んっ……中さん…く…いたい…」
今朝はリツコさんの寝言で目が覚めた。夢って痛みは感じないはずなのに
彼女は何を痛がっているのだろう?もしかすると『痛い』では無くて
『居たい』の方だろうか?もしかすると『喰いたい?』
昨夜、つい本気でキスしてからの記憶が全く無い。
布団の中にリツコさんとエッチな事をした様な形跡は無い。
俺はパジャマを着ているし、彼女も昨日のままの姿だ。シーツは…うん何も無い。
きれいな胸と艶めかしい脚はずっと見ていたいくらいだ。
朝の日差しがカーテンの隙間から降り注ぎ、小鳥の鳴く声が聞こえる。
(昨夜は何が有ったんやろう?何も無かったと言うべきか?)
リツコさんの唇は甘酸っぱくて強烈なラム酒の香りがした…ラム酒?
「ニャフフフ…もうのめな~い♪」
今度は何かを呑んでる夢を見ているのだろう。
幸せそうな顔で布団に包まっているので起こさないように部屋を出た。
舌を入れた途端に広がった甘酸っぱい味とラム酒の香り…
(もしかすると…アレかな?)
台所へ行くとテーブルの上にチャック付きの袋とスプーンが有った。
この前作ったラムレーズンの袋だ。中身は殆ど空になっていた。
皿に出さず直喰いしたのだろう。行儀が悪い。後で説教だ。
(リツコさんはお酒に強いはずなのに、おかしいな…ん?)
残ったラムレーズンを1粒食べてわかった。香りは素晴らしいのだが
噛むと中から強烈なラム酒が溢れだしてくる。強烈に甘く強烈に厳しい。
1粒で3時間くらい酔っていられそうな激しいラムレーズンである。
「うわっ!これは厳しい!レーズンの中から厳しいのが出て来た!」
噛んだ途端に葡萄の中から濃縮された葡萄エキスとラム酒が飛び出る。
「おじさん、朝から何を大騒ぎしてるの?」
慌てて水を飲んでいたら葛城さんが起きて来た。起こしてしまったみたいだ。
「ラムレーズンを作ったんやけど、これが厳しいのなんの」
「え?厳しいって?」
止める間もなく葛城さんはラムレーズンを1粒口へ放り込んでしまった。
「美味しく出来てるじゃない。ちょっとアルコールがきついけ…」
あ、噛んだ。
「!?~@?”$#%&!+Q!」
様子から察するに、お酒に弱い葛城さんには相当厳しかったらしい。
ラムレーズンを吐き出して必死になって水を飲んでいる。
「ふぅ…1粒で100m走れるね」
「グリコか」
1粒で酔う強力なラムレーズンをリツコさんは1袋近く食べたのだ。
「酔いもするし、裸でも寒さは感じひんよな…」
「何が有ったの?」
「実はな、これを食ったリツコさんが酔って迫って来てな…」
昨夜在った事を全て話すと葛城さんは真っ赤になった。
「おじさんもやるねっ!」
「多分キスで酔って寝たんやな。何もしてないと思うで」
舌を入れた時に酔ったのだろう。
「でも、ラムレーズンってこんなに酔うんだっけ?お菓子でしょ?」
「自家製で出来ると思ったんやけどなぁ」
ラム酒の瓶を見たら『アルコール度数75度』と表示がある。
「これで干し葡萄を漬けたんやけど、75度もあったんか…強烈やな」
「アルコール75度のラム酒で漬けたんだ。これはリツコちゃんでも酔うよ…」
「失敗したな。少し熱を入れてアルコールを飛ばす方が良いんかな?」
「普通はもっと度数の低いラム酒で漬けるんじゃない?」
「ミスったな。リツコさん大丈夫かな?」
ちょっと良いラム酒と思って買ったのだが、ラムレーズン向きでは無かった。
本格的なラムレーズンになると思ったのに残念だ。
強烈なアルコール分と糖分だ。これを大量に食べたら強烈に咽喉が渇くだろう。
「これは封印やな。少なくとも午前中は運転したらアカンな」
「そうね。休日で良かった」
◆ ◆ ◆
とろけるような大人のキス…その後の記憶が全く無い。
「うう…気持ち悪い…胸焼けする…」
ラムレーズンを食べたあとでフワフワした気分で中さんに迫ったのは覚えてる。
キスした後で大人のキスを教えると言われて…思い出せない。
(水…のどが渇いた…頭が痛い。何が起こったんだろう?)
頭が痛い。気持ち悪い。眩暈がする。世界が歪むようだ。
残留農薬・有害物質・食中毒…色々な原因が思い浮かぶが、食中毒じゃないと思う。
そんな事を考えるだけで頭が痛い。ガンガンする。
(ああ…こんなの初めて…あ痛たたたた…)
御台所から中さんと晶ちゃんの声が聞こえる。私が苦しんでいるのに
2人とも楽しそうに話しているみたい。仲間に入りたいのに体が言う事を聞かない。
炬燵まで来たらまた眠くなってきた…
(中さん…お水飲ませてぇ…)
この日、炬燵で発見されたリツコは中に水を飲ませてもらってから
一日中寝ていました。磯部リツコ、二日酔い初体験のお話。