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大島サイクル営業中 2017年度  作者: 京丁椎
2018年 1月
170/200

リツコ・4輪を処分してもらう

フィクションです。登場する人物・団体・地名・施設等は全て架空の存在です。

実在する人物・団体・地名・施設等とは一切無関係です。

「ねえ、リツコさん」

「はぁい♡」


リツコは名前で呼ばれるのが嬉しかった。祖母が亡くなり、母が嫁ぎ、

独り暮らしで居た時は誰にもよばれず、職場では呼ばれても事務的な呼び方ばかり。

家族の様に呼ばれるのは懐かしく新鮮でもあった。


2人は少し前にちょっとした事で仲たがいした。仲直りをしてから大島とリツコは

少しだけ距離が縮まったのだろうか。『中さん』『リツコさん』と呼び合うようになった。


リツコは大島から家族と接するように呼ばれるのは嬉しくてたまらないのだ。

だが、呼ばれた後の会話には楽しくない面倒な事も有ったりする。


「リツコさん、あのベコベコになった軽四って車検どうするの?」

「ああ…そう言えば乗ってないね。処分しようかな?」


大島の家に下宿して以来、通勤は2台のバイク。最近は寒いからJR湖西線。

買い物はリトルカブで行くか大島の車に乗せてもらう。京都や大津へ行くのはJR湖西線。

元々4輪の運転は超が付くほど下手なリツコは自動車の存在すら忘れていた。


車輪の会ホイラーズクラブの誰かに頼んでみようか?」

「お願いできる?」


     ◆     ◆     ◆


年代物とまではいかないが、特に新しく無い普通の軽乗用車は需要が無かった。

仲間たちに聞いても良い返事は帰ってこない。


「何とまぁ、これで車検が切れたら代車に使うのも躊躇するなぁ」

「やっぱり?俺の眼で見ても酷いのがわかるもんな」


A・Tオートサービスの平井は困った顔でリツコの軽自動車を見ていた。

四隅だけならまだしも左右のドアは凹み、所々には錆も出ている。


「これやったらボデーさんの新人にどうかなぁ?」

「練習台にしてもハードや無いかな?」


「まぁ、見せてこいや。ダメでもともとや」

「そうやな」


     ◆     ◆     ◆


「で?これを引き取ってほしいってか?練習台には良いけどよ…」

残念ながら高村ボデーでも値段が付く代物ではない。社長は困り顔だ。


「距離は少ないし、事故車でもない。ただやったら引き取るけど、どうする?」

「乗らんのに税金ばっかり払うよりはマシなんかなぁ?相談してみます」


「あ、もしもし、リツコさん。車の事なんやけど」

『処分代が要るの?いくら?』


「ただやったら引き取ってくれるって。お金にはならんけどどうする?」

『引き取ってもらって。乗らないから無駄よ』


「分かった。社長に伝えとくで」

『よろしく。あ、中さん。晩御飯は温かい物にしてね~』


ゼファーと違って車には愛着が無いみたいだ。社長に処分をお願いした。

一旦廃車にして4月以降に再登録をするそうだ。税金の絡みが在るからだ。

凹んだドアや割れたバンパーははもう少し程度の良い物と交換してから塗るんだと。


     ◆     ◆     ◆


「ん~あんなにベコベコじゃ無かったら欲しかったかな?」

ご飯を食べに来た葛城さんだが、車が欲しいみたいだ。


「バイクと違って感覚が掴めないのよ。中さんのは掴んだけど」

「リツコちゃん、お下品」


酔ったリツコさんは掴んだのだ。どこかの三代目なら心を盗むところだが

残念な事にリツコさんが掴んだのは俺の御稲荷さんだ。


「遅くに帰る事もあるし、そんな時は車が良いなって思うよ。私でも」

「雪が降ると特に夜は堪えるからなぁ」


葛城さんは何とか国道161号線の融雪装置の水圧に耐えてバイク通勤しているが

昨日今日みたいな雪の日はプロでも厳しいとか。

やはりずぶ濡れになって職場で着替えているそうだ。水も滴る良い男ってやつだ。


あ、葛城さんは女の子だった。


「おじさん、冷えちゃったから泊まっても良いかな?」

葛城さんはウチへ来るとお風呂へ入りたがる。独り暮らしだと面倒なのと

お湯を張るのに水道代が馬鹿にならないからだ。


「いいよ。2人ともお風呂に入って暖まっておいで。ご飯は用意しておくから」

「リツコちゃん、一緒に入っちゃお」

「うん」


2人がお風呂に入っている間に具材を切って鍋の支度をする。

寒い時はお鍋がお手軽でよいのだが、今年は葉物野菜が高値で困る。

今日は博多とんこつ味にしよう。


「博多とんこつ味やったら締めは中華麺やろうな。用意しとこうか」


     ◆     ◆     ◆


晶ちゃんとお風呂に入るついでに最近感じる視線の事を相談した。


「う~ん、私は交通課だから詳しくは知らないけど、視線だけだと動けないと思う」

「そうよね。自意識過剰なのかなぁ?前はこんな事無かったのに」


「前は獲物を狙う雌豹みたいだったけど、最近は可愛いもんね」

「そう?母さんに言われて女らしくしてたんだけど」


中さんにも言われたけれど、最近の私って可愛いらしい。

お化粧も晶ちゃんに言われて薄目にしてから妙に男受けが良い。


「私は男に間違えられてばかり。いっその事女の子に乗り換えようかな…」

「ちょ…ちょっと晶ちゃん…あぁん…摘まないで」


晶の指はリツコの(自主規制音)った。リツコの白い肌が赤く染まる。

リツコの(自主規制音)は(自主規制音)の様に(自主規制音)った。


「この前のお・か・え・し♡」

「あぁ…あ…」


晶の唇がリツコの滑らかな肌を這う。未知の快感にリツコは戸惑った。


「ふふっ…リツコちゃん…可愛い」

「あ…ん…そこは…だめぇ…あ…ぁ」


リツコは色々な場所にキスマークと歯形を付けられてしまった。


     ◆     ◆


風呂から上がったリツコさんの顔が赤い。のぼせたのだろうか?


「葛城さん、リツコさんは何か有ったん?お風呂に入るまでは元気やったのに」

「し・か・え・し♡」


ウインクしながら答える葛城さんは今日もイケメンだ。

ウインクする相手が女性だったら気絶しているくらいだ。

実際に葛城ファンクラブの奥様の数人が気絶した事が有る。


「リツコさん、何されたの?」

「この前の仕返しされちゃった。後で見せてあげる」


今日はリツコさんのリクエストで冬の温かな料理の代表、お鍋だ。

最近は色々な鍋スープが各社から出ていて楽しい。今日は博多とんこつ鍋だ。


「なるほど。豚骨ラーメンほどギラギラじゃないけどパンチが在るな」

「リツコちゃんはイイね。いつも温かいご飯が待ってて」

「羨ましいでしょ?この前はずっと傍に居て欲しいって言われたのよ♪」


自慢げに話すリツコだが、本当のところは酒ビン片手に

「酔って暴れちゃうぞ♡」と大島をさんざん脅しまくっていたのだった。


「言うのと言わされたのは違うで。ありゃ脅迫やな」

「プロポーズじゃなくって?」


「酷~い!」

「言わなければ酔って暴れるって言ったのは何処の誰?」

「酔ったリツコちゃんは危ないよね~いろんな意味で」


俺も葛城さんも酔ったリツコさんに酷い目に会わされている。

酔った彼女は隙だらけだ。今まで泥酔してお持ち帰りされなかったのが信じられない。

ま、持って帰った結果、俺は酷い目に会ったのだが。


「さ、炊けたし食べよう」

「「いただきま~す」」


最初はサラリとして塩味が効いている印象だったが、食べ続けるうちに出汁が出て

コクのある良いスープになった。長崎ちゃんぽんの味に近いかもしれない。


「締めはうどんよりも中華麺が合いそうやね」

「これはおじやじゃないね。中華麺が良さそう」


たぬきのマークが入った中華麺の袋を破って鍋に投入。

思いの外、麺がスープを吸い込んだ。


「卵を落としたらカルボナーラっぽくなりそうやな」

「やってみよっ。不味くなるはずがない」


火を止め、卵を落としてかき回す。余熱で卵は半熟となって麺に絡んだ。


「おお~濃厚でなかなか…」

「おじさんの読みが当たったね」


なかなか好評で全て平らげる事が出来た。


     ◆     ◆


今日の風呂は妙にムラムラする匂いがした…ええ歳こいて何言ってるんだ俺は。


全ての家事を終え、寝床で本を読んでいるとリツコさんが部屋へ入って来た。


「中さん、見てこれ。晶ちゃんにキスマーク付けられちゃった」

「リツコさん。ちょっと見せ過ぎや。全部見えてる」


首から胸にかけてキスマークが並んでいる。1・2・3…結構ある。


「ここなんか歯形よ。ほら」

そんな所に歯形が付くなんて…風呂で何をしていたんだろう?


「そこまで脱がんでも見える。風邪ひく前にパジャマを着なさい」

「ほら、ここもよ」

何て所に歯形が付いているのだろう。見せられるだけで恥ずかしい。


リツコさんは酔うと脱ぐ癖が在る。今日もそこそこ飲んだからだろう。

パジャマを脱いだまま布団に潜り込んできた。今日も寒いで。風邪ひいてしまうで。


「恥をかかせないで…」

「恥も何も…」風邪ひくと続けようとしたが、その言葉はリツコさんの唇に塞がれた。


きついアルコールの匂いがする。恐らくラム酒だ。来る前に引っかけたのだろう。

何だかクラクラする。


「それは子供のチューやな」

「子ども扱いしないで。私は本気…」


彼女の両腕を持って押さえつけた。もう駄目だ。完全に理性が飛んだ。

男として…雄としての本能を押さえる事が出来ない。


「大人のキスを教えたる」

「んんっ…ん…」


何か言おうとしたがもう止めることは出来ない。

リツコさんの甘酸っぱい唇からは燃えるほど濃厚なラム酒の香りが伝わって来た…


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