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大島サイクル営業中 2017年度  作者: 京丁椎
2018年 1月
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速人・楽しく楽に③シフトドラムとストッパー

フィクションです。登場する人物・団体・地名・施設等は全て架空の存在です。

実在する人物・団体・地名・施設等とは一切無関係です。

Q:モンキーの純正クロスミッションを組もうと思います。

 今乗っているのはロータリーシフトなのでそれに合わせて

 ロータリーシフトにしようと思います。カブ4速車の

 シフトドラムを使えば良いですか?


A:見れば解ると思いますが、純正クロスに使えるロータリードラムは

 CD50の物です。ドラムストッパーは12VCD50の物を使いましょう。


「なるほど。CD50なんだ。だったら買うのはモンキーじゃ無くて

 12VのCD50のミッションだ。おじさんの所に無いかな?」


楽に楽しく走れるミッションを組むべく部品を集めている速人だが

定番外の組み合わせだけあって必要な部品を知るだけで苦戦をしていた。


     ◆     ◆     ◆

「ふ~ん。12VのCD50か。ウチには無いな。みんな遠心クラッチやからな

 もしかするとCD50をリターン化した人が出品するかもしれんから

 それを待ってみたらどうやろか?」


カブ系が得意な大島だがCD50のミッションは持っていない。


「まぁ、何をしたいか知らんけどボチボチ頑張り。仕事じゃないからな」

「そうですね。で、おじさんは何を組んでるんですか」


大島の組んでいるのはカブ50改52㏄のエンジンだ。春に売ろうと組んでいる。


「新しく始めた格安2種登録カブのエンジンや」


(今やな…)大島は年明けから練習していた台詞を言ってみる事にした。

トルクレンチをカキンカキンと鳴らし「メカニックの技術は最初の修業で決まる」

と誰に言うわけでも無く語りながら言い始めると速人が慌て始めた。


「おじさん。急にどうしたんですか?」


「どれほどの熱意を持って整備を学ぶかどれほど上手い整備士の技術を見るか。

 川の水が流れる様に基本技術を反復し、美しくバイクを組み立てる。

それが理想の整備」台詞に神経を奪われて手を止めない様に必死だ。


「おじさん…」


「そして、一番大事なのは、どんなに酷いバイクでも決して見捨てない事。

 俺の大事な師匠が教えてくれた」


決まった。練習した甲斐があった。格好良いと俺は思っているのに

速人は感心することは無く、只々不思議そうに俺を見ている。


「それ、小説をパクってますよね?僕も『モンキー』は読みましたよ?」

「え?小説で出てる文章なん?ホンマ?」


速人がゴソゴソと鞄から文庫本を出した。

「ほら、ここの主人公がヒロインのモンキーを組むところに…」

「ホンマや。せっかく練習したのに」


せっかく練習して噛まずに言えたのにガッカリだ。


「整備する人が皆思う事なんですか?」

「知らん」



     ◆     ◆     ◆


「プッ…アッハッハハ…そんな事が有ったの?」

「有ったんや。せっかく練習したのにガッカリやで」


お好み焼きをひっくり返してソースを塗る。カツオを振りかけて出来上がり。

青海苔は好みがあるから自分でかけてもらう。俺はかける派だけど、

リツコさんはかけない派だ。マヨネーズはお互いにかける派だ。


「青海苔って苦くない?」

「俺は好きやけどね。あ、気が利かん事で」


リツコさんのグラスにビールを注ぐ。

お好み焼きとビールの組み合わせはなかなか相性が良い。

みるみるうちに空き瓶が増えていく。


「でも、本田君は何がしたいのかしら?闇雲にエンジンを組んでるわけじゃなさそうだけど」

「楽しく走りたいだけやないかな?何も言ってないけど」


ソースが焼ける匂いが部屋中に広がる。お好み焼きは冷凍にしてある物はあるが

やはり焼き立てを食べる方が美味しい。イカに豚、牛筋にこんにゃく。そして餅にソバ入り

ジャンジャン焼く。残ったら明日の俺の昼ご飯だ。


「でもさ、クロスミッションってのが渋いよね。通好みって感じで」

「トップスピードは変わらん。そこに至るまでの過程を大事にする訳やな」


ミッションは3速でも4速でもトップのギヤ比が同じなら出せるスピードは変わらない。

ただ、小刻みにギヤチェンジする事で状況に応じてエンジンの力が出る回転域を

使いやすくなる。結果として加速が良くなるから速くなるのだ。


「75㏄なら出せるスピードも変わらんけど…」

「加速の乗りは良くなるね。ローが伸びる感じになるのかな?」


「リツコさんもクロスミッション欲しい?」

「速く走るならゼファーちゃんが居るからね~」


それもそうだ。リツコさんにはごっつい相棒が居るんだった。リトルカブはあくまで足代わり。

軽くて燃費が良いことが重要で速さは必要としない人だ。


「ま、本田君の事だから悪い事はしないでしょ?」

「それもそうか」


     ◆     ◆     ◆


今夜も中さんは調べ物をしている。「中さん。何調べてるの?」と聞いても

「ん~チョットな」しか言わない。画面から目を離さないから後ろから抱きついてやった。


「リツコさん。今度一緒に蒸しパンを作ってみようか」だって。

画面には『親子で作る簡単レシピ(入門編)』って出てる。


「懐かしいおやつに弱い男も居るんやで」

「この前作ってたやつね。中さんも好きなの?」


「好きやな。母ちゃんによく作ってもろた。今度、自家製ラムレーズンを乗っけて

 作ってみようかな~って思ってるけど、一緒に作る?」


「ラムレーズンも作ったんだ…器用ね~」

「干しブドウとラム酒をチャック付きの袋に入れただけやけどね」


おふくろの味か。今度教えてもらおうっと。



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