葛城とスーパーカブ②
フィクションです。登場する人物・団体・地名・施設等は架空の存在です。
実在する人物・団体・地名・施設等とは一切無関係です。
一昔前ではマニアしか知らなかった情報も今ではパソコンで検索できる。
葛城も最近の若者らしくインターネットで調べものをするが
どんな情報でも見つかるわけでは無い。
カブと同じようにクラッチ操作不要でギヤチェンジできるバイクなんて
車種を選べるほど売っていないのだ。カブ以外に在ることはあるのだが
車検が必要な排気量だったりする。大型自動二輪免許は持っているので
乗ることは出来る。でも近所に車検を出す店が無い。
最近はスーパーカブと派生車種で大きな排気量と4段ギヤのモデルが在る。
それを買えば良いのだが葛城は気が進まなかった。
(う~ん。可愛くない~。丸いライトが良いな~)
葛城は可愛いもの好きであった。
仕事場の近所にもバイク店が在るがわかった。
少し興味が有ったので帰りに寄ることにした。
大型バイクが並んでいるが全く興味がわかない。
大きいのは乗り飽きたのだ。
(私の欲しいバイクは無いな…)店を覗いていると声をかけられた。
「こんな貧乏くさいバイクは裏に停めてくれ!」
長髪をポニーテールにした店員らしき男に怒鳴られ葛城は腹が立った。
幸い大型自動二輪免許は持っている。ここにあるバイクは乗る事が出来る。
とことん冷やかすつもりで客のふりをした。
・・・ベラベラと中身の無い事を話す店員であった。
覚えるほどの内容は無かった。
店の隅に小さなバイクがあったが大島サイクルに有ったのとは違う。
60万円の値札が付いているがそれほど価値が在るのだろうか?
この店はおかしい。
原付のナンバーが見えた。しかしそのナンバーが付いたバイクは明らかに
大型だ。不思議に思って店員に聞いた。
「何だかナンバーが小さくないですか?」
「原付で申請したらくれたのよ。どうせ乗らねえんだから税金が安い方が
良いっしょ。市役所なんかチョロイもんよ。こういうのは持つのが
ステータスなの。走るかなんてどうでも良いの。文句有る?」
(この店で買っちゃ駄目だ!)葛城は逃げる様に店を後にした。
仕事場の近所にはもう一軒バイク店があった。
『当分の間、休業させていただきます』と張り紙が貼ってある。
(あ~あ。無駄な時間だったな)
信号待ちをしているとバイクの音が近付いてきた。
次の瞬間、葛城は衝撃を受け道路に放り出された。
転がりながらカブが地面に叩きつけられるのが見えた。
頭に衝撃が走る。薄れゆく意識の中で怒鳴り声が聞こえる。
「バックするんじゃねぇ馬鹿野郎!」
(私のカブが・・・)葛城は気を失った。
◆ ◆ ◆
大島サイクルの電話が鳴った。
「はい。大島サイクルです」いつものように電話に出た。
事故に会ったバイクが運ばれてくるらしい。
「はい。ナンバーは×××で・・・・」
顧客名簿を開く・・・葛城さんだ。
「はい。じゃ、店は開けて待ってます。よろしく。」
携帯も鳴った。情報通の安井さんからだ。
「お前の客か?」の文章と共に画像が送られてきた。
(後ろから突っ込まれたか・・・。)
夜更けにカブが運ばれてきた。ひとまず倉庫に入れた。
(保険屋に連絡をしないと・・・。)
葛城さんは無事だろうか。