葛城・酔う
フィクションです。登場する人物・団体・地名・施設等は全て架空の存在です。
実在する人物・団体・地名・施設等とは一切無関係です。
大島が炬燵で転寝をしている間、リツコと晶はお風呂に入っていた。
「晶ちゃんのお肌ってキレイ。やっぱり若いって良いわね」
「リツコちゃんこそ。30歳なんて嘘みたい」
訓練や仕事で体を動かす葛城は引き締まったアスリートの様な美しさ。
一方、リツコは元々若々しい体だったが、食生活の改善で肌が美しくなっていた。
「オッパイも垂れてない…かな?どう?」
「うん、キレイ。リツコちゃんって結構グラマーなんだね」
「そうよ。なのに中さんたら手を出そうとしないのよ」
「リツコちゃん…おじさんに抱かれたいの?」
リツコの顔は、みるみるうちに赤くなった。
「…う~ん、わかんない」
「リツコちゃん。大島さんと結婚して家庭を築きたいと思う?」
「そこまで考えていないけど、一緒に居ると落ち着くかな?」
「…そう」
◆ ◆ ◆
「中さん。早く入らないと冷めちゃうよ」
「お先にお風呂戴きました」
2人に揺すられて大島は目を覚ました。
「ん~?寝てたんか。さて、風呂に入るか」
2人が風呂に入った割に時間が経っていない。一緒に入ったのだろうと
特に何も考えず風呂に入り、ついでに風呂を洗ってから浴室を出た。
「おじさん、ちょっといいですか?」
茶を飲んでいたら葛城さんに声を掛けられた。深刻な話なのか真剣な表情だ。
「洗濯機を回すから少し待っててな~」
洗濯物と洗剤を放り込んで洗濯機を回す。
「はい、お待たせ。何か飲む?」
「じゃあ、少しだけ」
レモン酒の炭酸水で割る。アルコール度数は2度くらいだろう。
「葛城さんが話って珍しいな。難しい話か?」
「リツコちゃんの事なんですけどね」
磯部さんの事か。何か悩み事が在るのだろうか。気が付かなかった。
女の子同士でないと言えん事が有ったんやろうな。何やろう?
「リツコちゃんはね、おじさんと居ると落ち着くんだって」
特に何もしていないが、居心地の良い家に出来ているなら幸いだ。
「それって、大事な事じゃないかな?」
「そうやな。家は落ち着いてくつろげるのが一番や」
「それって、男と女の間で一番大事な事じゃないかな?」
「…何が言いたいんや?」
カランッ…
氷が動く音と洗濯機の音が響く。
「私が伝えたいのはそれだけ。ごちそう様」
葛城さんは磯部さんの部屋へ行ってしまった。
♪~♪~♪
洗濯機が止まった。洗濯カゴに洗濯ものを移して物干し台へ。洗濯物を干しながらいろいろ考える。
色々考えれば考えるほど頭の中がまとまらない。
◆ ◆ ◆
部屋に薄明かりが灯っている。
「あれ?リツコちゃん、何読んでるの?」
「ああ、これ?」
リツコが読んでいたのは『モンキー』。年末に買ったライト小説だ。
「ふ~ん。『全てを失った男を救ったのは小さなバイク達』か」
「決め台詞が格好良いのよ。『俺、失敗しないから』ってね」
こっちのモンキーを直すおじさんと大違いだと晶は思った。
「ねぇリツコちゃん」
「なぁに?」
「おじさんがリツコちゃんに手を出さない理由、私知ってる」
「聞いたの?どうして私じゃなくて晶ちゃんに教えるの?」
磯部は生徒と会話して悩みを聞いたりするが、葛城は警察官。
尋問で相手の話したくない事を聞き出したりするのは一枚上手だ。
「言わせたのよ。おじさんね、『願いをかなえられない』って」
「願い?私の願い…何だろう?」
「おじさん、若い頃におたふく風邪になったんだって」
「耳下腺炎…大人になってかかると危ないよ?」
保健室の女王などと言われているだけあってリツコはピンと来た。
「睾丸炎が原因の男性不妊症…めったに無いはず」
「治った後で検査したらそうなってたんだって。おじさん『一生1人で生きて行け』
って神様に言われた気がしたんだって。結婚して相手が子供を欲しがっても願いを
叶える事が出来ないから一人で居るんだって」
「晶ちゃん…もう寝よう」
「逃げちゃ駄目。きちんとおじさんと話ししなさい」
「今のままで良いの…そっとしておいて」
「リツコちゃん…」
(余計な事しちゃったかな?)
(中さんのバカ。一緒に居るだけで良いのに)
2人とも色々と考えている間に眠ってしまった。
チュン…チュン…
雀の鳴き声で目を覚ましたリツコが見たのは少女漫画から出て来たような青年…
では無くて晶の顔だった。
(朝から驚かされるわね。やっぱりイケメンね…)
気が付けば朝。今日も一日が始まる…
大島宅の風呂は少し大き目です。