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大島サイクル営業中 2017年度  作者: 京丁椎
2018年 1月
158/200

モトコンポ・動態保存

フィクションです。登場する人物・団体・地名・施設等は全て架空の存在です。

実在する人物・団体・地名・施設等とは一切無関係です。

正月三箇日を休んだ後で4・5・6と店を開けて7・8と連休。


「お正月明けの慣らし運転をして連休。暦って上手に出来てるね~」


ブブン・ブンブンブンブン…


「暦はどうでも良いんやけどな…磯部さん、その格好は何?」


店前のスペースでバイクに乗っている磯部さんは昔の警察のコスプレ。


「懐かしいでしょ?お母さんが残しておいてくれたの」


2ストサウンドと白煙を巻きながら楽しそうに答えているが、

磯部さんのお母さんはどうして制服を持っているのだろう?


「検挙しちゃうぞっ☆」

「…何してんねん」


警官みたいな恰好をして注意されないだろうか。少し心配だ。


「敷地内なら大丈夫なんかなぁ?」

「この姿を見れば解ってくれるって。大丈夫大丈夫!」


店先のスペースで8の字を描いたり、クルクル走ったり。

『警官が遊んでる!』って苦情が入ったら本職が迷惑すると思う。


キキィ…


銀色のセダンが店前に停まった。今どきセダンなんて珍しい。


「あ…」

降りてきた目つきの鋭い男は悲しそうな声を上げた。


「もう決まっちゃいましたか?電話くださいって言ったのに…」


いつぞやの刑事さんだ。そう言えば電話番号を渡されてたな。


「決まってませんよ。調子が悪くならん様に動かしてるだけですよ」

「中さん、この人誰?知り合い?」


「前にちょっと世話になってな」


     ◆     ◆     ◆


「…という事で、お世話になった刑事さんや」

「ふ~ん。そんな事が有ったんだ」


去年、今都(いまづ)から来たジジィが暴れた時に色々と世話になった刑事さん。

直したバイクを見て『売る気になったら連絡ください』って言ってたな。


「それにしても、まだ諦めてなかったんかいな」

「諦めが悪いのが商売な物で」


どうやら事件や捜査では無くてプライベートで地味な車に乗っているだけらしい。

最近は地味な低グレード車に乗るのが一部のマニアに流行っているとか。


「なんて言うか、原作からそのまま出て来たみたいですねぇ」

「そう?」


磯部さんは若干吊り目気味で猫っぽい感じだ。

(なるほど。言われてみればこんな感じやったな)


「僕はバイクに乗る女の子って最高だと思うんですよ。なのに…なのに!」

「なのに?」


「うちの署の女性白バイ隊員は男前なんですっ!」


「「…」」


磯部さんが走らせていたモトコンポは30年以上前の古いスクーターだ。

マンガやアニメで画面狭しと走り回っていたのだが、実際走らせると

時速40㎞位しか出ない。今の道路事情を考えると走らせるのは危ない。


せっかく来てくれたからコーヒーぐらいは出す。


「刑事さん。悪いけど、こんな危ないバイクは売れんわ」

「はぁ…そうですか」


「モトコンポは普段は床の間に畳んで置いて、たまにハンドルやシートを出して

 ニヤニヤして眺めるのが良いと思うで」

「それ、バイクなの?」


「走らないバイクは只の置きもんや」

「でも、バイクは欲しいんですよね。お手軽な小さいバイクが」


どうやら刑事さんはバイクが欲しいみたいだ。


「刑事さん…プライベートで『刑事さん』は無いか。御名前は何やったかいな?」

「あ、私、安浦やすうらと申します。」


「何ぃっ!刑事で安浦だとっ!」

「安浦さんがどうかしたの?」


なんたる偶然、何たる一致。これだから人生は面白い。


「安浦さん、もう少し現実的なバイクで欲しいのが在ったらまたいらっしゃい。

 ウチはモンキーとかカブ系の4miniって奴がメインやから。

 他のバイクが要るなら知り合いの店を紹介しますんで言ってください」


新型カブのカタログを持って帰ってもらった。


「晶ちゃん、何だか可哀そう」

「刑事さんの間でも男扱いされてるんやなぁ」


     ◆     ◆     ◆


「安浦刑事が?ひっど~い!」


夕飯を食べにきた葛城さん。今日の出来事を磯部さんから聞いてプンプンだ。


「デリカシーが無いから婦警から嫌われるのよっ!」

「まぁまぁ、落ち着いて」


「安浦刑事はね、余計な一言で孤立してはぐれているのよ」

「安浦刑事がはぐれている…だと!」


「でもね、晶ちゃんの方にも問題はあるのよ」

「だって~署に苦情が来るんだもん」


葛城さんの服装はライダーズジャケットにトレーナー・ジーンズと

女性に見える要素も飾り気も全く無い格好だ。


「スカート履いてると『女装してる』って苦情の電話がかかって来るの…」

「そんなこと言う時代じゃないのにね」


昔と違って性的マイノリティ―に理解がある時代にもかかわらず

今都では葛城さんの女装…いや、女の子らしい格好を異質なものとするらしい。


「この前のロシア風の防寒具セットとウィッグ持って行く?」

「ああ、似合ってましたよね」


「でも、あれは目立ち過ぎちゃう。ちょっと恥ずかしい」


言われてみれば、目立ち過ぎだ。ポスターだから解らなかったけど

実際に見るとスケール感覚が狂う。きれいやったけど。


「それに、いくらカブでもあんなに長いスカートだと乗れない…」

「「まだバイクで通ってたの?!」」


安曇河と今都を結ぶ湖西線は30分に1本しか便が無い。


「一人だと、お買い物もしなきゃだし、近江今都駅は治安が悪いし…」


葛城さんが言う通り今都は治安が良くない。


「俺らの頃は駅前とか本屋で時間を潰したもんやけどな」

「晶ちゃんの仕事場から本屋は遠いのよ」


そう言えばそうだった。となれば、駅前で時間を潰す事も出来ない。


「面倒だから寒くてもカブで行く方が良いんですよ」

「で、寒い中を来てくれた晶ちゃんを温めるお料理は?」


「豚と白菜を炊いてみた」

「おお~暖かそうで酒のツマミになりそう」


2人は各々好みの酒を呑み始めた。

磯部さんは焼酎のお湯割り、磯部さんは高嶋町名物のレモンのお酒。


「リツコちゃんはいつも中さんにお料理してもらうの?いいな~」

「帰ったら暖かい部屋でご飯とお酒が待ってるのよ~羨ましいでしょ?」


「私も下宿させて貰おうかな?」

「倉庫の主のエンジンが掛かったらOK」


まぁアレだ。『乙女の魔法』だか何だかは葛城さんには使えないだろう。


「中さん。晶ちゃんの唇も奪う気?」

「俺にチューしてきた人が何を言ってるんですか?」


「チューか。男の人とはしたことが無いな~」

葛城さんが赤くなってきた。磯部さんはケロリとしている。


「鍋に残った汁でおじやを炊いても美味しいんやで。食べる?」

「「食べる~!」」


(卵を入れるタイミングが大事だ)


「普通はさ、リツコちゃんが作ってあげるところじゃないの?」

「殻入りのおじやを食べたいの?」


卵に火が通ったか通らないかのタイミングで出来上がり。

おじやを食べてから俺は風呂の支度、2人は食事の後方付けだ。


「お湯が入ったで」

「晶ちゃん。一緒に入ろっ」

「うん。おじさん。覗いちゃ駄目よ♡」


2人が風呂に入っている間、炬燵で横になる。満腹で眠くなってきた…。


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