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大島サイクル営業中 2017年度  作者: 京丁椎
12月
140/200

速人・オークションの罠②分解開始

フィクションです。登場する人物・団体・地名・施設などは架空の存在です。

実在する人物・団体・地名・施設等とは一切無関係です。

オークションでスーパーカスタム50のセル無し4速の希少なエンジンを落札した速人。

しかし、届いたエンジンは希少でも何でもないプレスカブのエンジンだった。


「まずは分解前に全体のチェックや。それから洗い油で掃除やな」

「はい。これは前回と同じですね」


「そうや。でも、今回は得体の知れんエンジンやから注意してな」

「はい」


シャフトと言うシャフトのオイルシールからオイル漏れしている。

ヘッドを開けた形跡はない。クランクケースも開けた様な跡は無い。


「下手に開けてあるエンジンはケースもアカンからな」

「はい。ステーター周りはオイル漏れは無いですね」


おそらくステーター周りは外されて別に出品されたのだろう。

発電量とか何とかでプレスカブのジェネレーターは需要が有るらしい。


「全体として激しい腐食や欠けは無いみたいやな」

「問題は中身ですね。新聞配達で酷使されていたら・・・」


クランクケース左側はエコノミードライブスイッチ対応のケース。

右は普通のカブのケースと同じはず。左が無事なら良しとしよう。


タペットのキャップを開ける。Oリングに弾力が無い。増し締めしたのだろう。

「ゴムが弱ってるのを交換せずに使い続けたんやろうな」

「ガチガチに締まってる。ゴム関係は駄目ですね」


ジェネレーターベースとカムシャフトのカバーを外して合いマークを合わせる。

「分解の時は圧縮上死点を出すのが基本やで」

「はい」


ギヤを入れてカムスプロケットのボルトを緩めておく。

ガイドローラーのプーリーのボルトも緩めておく。

チェーンテンショナーのオイルを抜いてからテンショナーを外す。


「先のゴムも削れてるな」

「交換ですね。中の汚れは少ないですね」


カムスプロケットとチェーンを外してヘッドボルトを緩めるまえに

シリンダーの横に有るボルトを外す。これがまた外れないのなんの。

ポンチで衝撃を与えて外した。ボルトは再使用できない。


「さて、ヘッドを開けるで。吉が出るか凶が出るか」

「・・・思ったよりキレイですね」


恐らくエンジンを回し気味で走っていたのだろう。思いのほかカーボンが少ない。


「このまま掃除して50㏄のハイコンプピストンを入れようか?」

「でも50だと2種登録できませんね」


「50でクロスミッションは実質レース用やな」

「パワーアップしても30㎞/h縛りですから」


シリンダーは油膜肘保持の細かい傷(ホーニング)が擦り減っている。

走行距離が多いから仕方が無いのだろう。ピストンもそれなりだ。


「コンロッドのガタは少ないけど、換えといた方がエエな」

「クランクシャフト交換ですね」


クランクシャフトの在庫はある。


「50のクランクでも75㏄までなら不具合はほぼ(・・)出ない」

「出来ればカブ70クランクですね」


そろそろタイムアップ。子供は家へ帰る時間だ。

「腰下を開けるのは次にして、今日は終わろうか」

「はい。ありがとうございました」


     ◆     ◆     ◆


「・・・てな訳で、今日は手抜きな晩御飯なわけです」

ホットプレートの上では安曇河名物の(かしわ)の味付け肉がジュウジュウと

音を立てて焼けつつある。時間が無い時に出して家族が文句を言わない料理。

忙しい主婦の味方だ。


作業に夢中になって晩御飯の支度が遅れたので、磯部さんには先に風呂に入ってもらった。


「そう?充分ご馳走だと思うけど・・・呑みたくなっちゃうなぁ」


基本、平日は呑まないかビール1杯で済ます彼女だが、ニンニクの香りと

タレの焼ける香ばしい匂いを前にしては我慢が出来ない様だ。


しかも風呂上り。呑みたい衝動を抑えるのは酷な話だろう。


「学校で酒臭いのはマズイしなぁ。ノンアルコールで我慢しといたら?」


「どうせニンニク臭くなるんだから構わぬぞ。良いではないか良いではないか」

鼻歌を歌いながら冷蔵庫を開ける磯部さん・・・缶ビールを数本出した。

なぜ武士風に話すのかは解らないが、機嫌が良いのだろう。


「で、プレスカブのエンジンってそんなに悪いの?」


「悪いって言うより使い方が過酷なんや。荷物を積んで発進と停止

一番消耗しやすい使い方やもん。しかも不景気で使い倒してある」


「ふ~ん。聞くだけでも良い印象は無いね~」

磯部さんがビールを飲みながら鶏肉をつまむ。あっという間にビールは減って行く。


「まぁどの道、分解せんと使えんからね。古いエンジンやもん。はい、ご飯」


「ごはんの上にバウンドさせると堪らないっ!」

美味そうに食うなぁ。食べ方もきれいやから見ていて気持ち良い。


「れもふぁ・・でも中身はどうするの?カスタムの4速を組むの?」


カブ3速車にカスタムの4速を組むのは定番の改造だが・・・


「予算が厳しいから社外品の4速やね。磯部さんのと同じミッション」


実は社外品のミッションは値段がホンダ純正より大分安い。

欠点は生産国のマイナスイメージだが、今まで何台か組んで不良品は無かった。

これからどうかと言われると何とも言えないのが難しい所だ。


「何が違うんだっけ?」

「1速がハイギヤ―ドになって車速が伸びる。2速との繋がりが良くなる」


「50のままだと発進がもたつかない?」

「そうなったらスプロケを換えてローギヤに振る。その分最高速は

下がるけど、元気に走れるんじゃないかなと」


50カスタムで4速に入れると加速が鈍い。その分燃費は良くなるが

走りはもっさりするので好き嫌いがわかれるところだ。


「排気量はまだ決めてない。50のままで速くしても無駄やしな」


原付き1種のままで速くしても警察の餌食になるだけだ。


「カブにも色々有るのねぇ」

「そうや。詳しく調べると星の数ほど違いが在る」


ウチで扱うカブは12Vになってからの物だけ。6V・OHV・CS90系とか

カブはの道は奥深く幅広い。数えればきりがないと思う。


店がピンチになった時に6V系は全部売ってしまった。

「お前が金に困った時に売ればよい」と大石の爺さんが遺した部品。

今、オークションで出したら大金持ちなのにな。


さて、明日は腰下を見よう。使える部品が少しでもあれば良いのだが・・・。


豆板醤とニンニク醤油の香りの中、夜は更けてゆく。


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