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大島サイクル営業中 2017年度  作者: 京丁椎
12月
138/200

商売の準備

フィクションです。登場する人物・団体・地名・施設等は架空の存在です。

実在する人物・団体・地名・施設等とは無関係です。

「ジャムの在庫が減ってるな・・・」


磯部が下宿。時たま葛城も遊びに来る大島の家。

1人で暮らしていた頃に比べて保存食の消費が増えた。


「朝に甘い物を食べるとシャキッとする」と言う磯部と

「ヨーグルトに入れると癖になる」と主張する葛城。


独り暮らしなら半年くらいかけて消費する無花果ジャムの在庫が底をついた。


「もう無花果の時期じゃないからな・・・」

大島が台所へ運び込んだのは林檎。紅玉と言う身が小さく固い品種だ。


皮を剥いて刻んで砂糖と煮る。焦げない様にひたすら煮続ける。

一方で皮を剥いて8つに切り分けた物も砂糖・シナモンで煮る。

剥いた皮も無駄にしない。アップルティーを作るのに使う。


キッチンに林檎を煮る甘い香りが漂った。


「朝から熱心ね。何作ってるの?」

「ジャムやで」


「良い香り・・・リンゴ?」

「うん。林檎のジャムと砂糖煮」


「ねぇ、中さん・・・無いの」

「ジャムがやろ?何で『先月から・・・無いの』みたいな言い方するの?」


「その方が盛りあがると思って」

「わかったから。今日は我慢してマーガリン塗るかご飯にしておいてな」


2人とも食い過ぎなのだ。食パン2~3枚とヨーグルトにたっぷりの無花果ジャム。

美味しいと喜んでくれるのはありがたいけど食い過ぎだと思う。


「ところで、何でそんな格好なん?」

「サービスカット」

今朝の彼女は男物のYシャツ1枚のみ。こんなオッサンに見せても無駄撃ちでしかない。


「もっと若い男の子に見せてみ?鼻血出して倒れるで」

「中さんは何とも思わないの?」


「お子ちゃまが頑張ってるな~と思うで」

「・・・・・もう」


チン!

年代物のトースターが音を立てる。彼女はパンを選んだらしい。

「ほれ、ちょっと味見」

林檎の砂糖煮を一切れ小皿に載せて渡す。


「もうちょっと煮た方が良いかな?」

「そうか」

一旦火を止めて冷ます。理屈は知らないけど冷める時に味が浸み込む気がする。


「アップルティーも作ってみたけど飲みますか?」

「飲む~!」


「おやおや、朝から元気なお嬢さんですねぇ」

「何でそんな口調になるの?」

紅茶好きな主人公が活躍する刑事ドラマの真似をしたのだが、見事なツッコミ。

やはり都会的な垢抜けたお嬢さんでも関西人だ。


「磯部さん、今日のご予定は?」

「晶ちゃんとお買い物。大津に行くの」

そうか。じゃあ昼飯は手抜きで済ませよう。


ポロロロロ・・トントントントン・・プスン

バイクが停まった。この音は葛城さんだな。


「おはようございま~す。おじさん、また何か作ってます?」

葛城さんは皮ジャンにトレーナー・ジーンズで薄化粧。今日もイケメンだ。


「朝ごはんは?食べて行く?」

「はい。ジャムはもう無いんでしたっけ?」

残念ながら無花果ジャムは終了。今、林檎ジャムを似ている事を教えると

帰りに持って帰ることになった。今日はここから駅まで歩いて行くらしい。


先に朝食を終えた磯部さんは着替えに部屋へ戻った。


「今日は二人で何処に行くの?映画とか?」

「いいえ、今日はお買い物。」


「今から大津やったら、お昼は向こうで食べるんやな?」

「ええ。どこかで食べようと思います」


「お待たせ。どう?」

着替えた磯部さんは最近の流行の格好なのかな?暖色を基調とした可愛らしい格好だ。

メイクもいつもの様に目力ギンギンのキツイメイクと違った薄化粧。

ナチュラルメイクって言うのかな?


「お?いつもそんな格好やったら男が寄って来るのに」

「晶ちゃんのお勧めよ」

「私じゃ着られないから・・・サイズが無くって」

葛城さんは身長と肩幅が有るからねぇ・・・着るなら外国人のサイズかな?

磯部さんは少しずつ変わりつつある。最近、雰囲気が柔らかい。


「さてと、行きますか」

「じゃあ、行ってきます。晩御飯には帰ってきます」


はい、行ってらっしゃいと2人を見送って再び鍋を煮込む。

午前中は鍋をかき回しているうちに終わった。


午後からは家事を片付ける。

掃除・作業着の洗濯・洗濯物の取り入れ・・・等々。

配達されてきた部品の受け取りも有った。


家事が終わると再び台所へ。冷めたジャムをチェックする。

味・とろみ、共に合格。煮沸消毒したジャム瓶を数本と

チャック付きのビニール袋へ入れて保存する。ビンは冷蔵庫、袋は冷凍庫へ。


少し時間が出来たので旋盤を使って遊んでみた。

チタンのパイプを削り出してリングを作る。ダイヤヤスリで面取りをして

表面をサンドペーパーとコンパウンドで磨いてから中性洗剤で洗う。


作ったリングの半分はそのままにしておく。


残ったリングは乾燥・脱脂後、バーナーで焼きが入れる。

蒼や紫のミステリアスな虹色になる。チタンだから軽いし

金属アレルギーの人でも着けられるかもしれない。

1個3000円・ペアで5000円。アクセサリーと思えば安いと思う。


今回は会心の出来だ。2人にも見てもらおう。


夕食はおでん。女性二人はロールキャベツやスジ・つくねなど肉系を好む。

冷凍しておいたハンバーグの種をキャベツで巻いて入れることにした。

スジ・つくねは肉屋で売っていた物をそのまま使う。

大根・はんぺん・きんちゃく・こんにゃく・卵・油揚げ・ウインナー

大鍋に入れて煮込む。余るだろうから葛城さんに持って帰って貰おう。


日曜なのに電話が鳴る。今都の番号なので出ない。せっかくの休日が台無しになる。


(・・・・一人やと静かやな)

コタツに入り、寝ころんでテレビを見ているうちに眠くなってきた・・・。


     ◆     ◆     ◆


「おじさん。おじさん」「中さん、ごはん」揺さぶられて目が覚めた。


「ん?寝てしもうたか?何時や?晩御飯の準備を・・・」


おでんをコンロにかけて暖める。


「ちょっとお出汁ちょうだい」

「汁だけどうすんのや?」


どうやら焼酎で割るらしい。焼酎の出汁割りとは思いつかなかった。


「こんなのを買ってみた。どう?色っぽい?」

「私も。リツコちゃんのセンスですけど、どうですか?」

黒のレースの下着だ。勝負下着と言う奴やな。


「どこで勝負するんや?お二人さん、お相手は?」


「「・・・・・」」

2人とも目が怖い。無言で睨んでくる姿は超A級スナイパーの様だ。


鍋がクツクツと煮えてきた。沸騰させてはいけない。味が濁る。

芯まで温まったくらいで鍋を降ろして夕食が始まる。


「おじさんは今日は何をして過ごしたんですか?お料理だけ?」

「いや。ちょっとだけ工作してた。旋盤で金属加工」


「休日に鉄を削って過ごすの?何でまた」

「中さん、またバイクでしょ。仕事中毒ね」


仕事中毒と言われるとそうかもしれない。趣味も仕事もバイクだから。

でも、今回は違う。アクセサリーを作ってみた。


「今回はこんな物を作ってみた。1個ずつあげる」

2人の薬指に合ったサイズの輪っかを選んで渡す。


「わ~ミステリアスなリング・・・チタン?」

「チタンだと錆びない。良いわね」


気に入って貰えたらしい。

「貰っていいんですか?」

「良いよ。試作品やからあげる」


「これってプロポーズ?」

「断じて違う。全力を持って否定する」


「せっかくだから記念撮影しよう。磯部さん、もう少し葛城さんに寄り添う感じで・・・」

衣装とメイクを換えて数パターン撮影した。

「はい。視線をこちらへ向けてくれるかな~磯部さん。もっと妖艶に・・・」

2人ともノリノリで撮影に応じてくれた。


この晩、パソコンの画像編集ソフトと格闘した。


背景を消して夜景にする。そこへリングを着けた磯部さんと葛城さん。

葛城さんが女の子らしい格好をした画像を選択。黒い毛皮のロングコートと

ロシア風の黒の帽子が良く似合っている。磯部さんは西部劇のガンマン風。


(背景は鉄道博物館のスワローエンジェルと星空を組み合わせてみるか)


両者とも女性であるが、知らない者にはわかるまい。


「リングの画像を重ねて、キャッチコピーは『錆びない誓い』っと」


もう一枚は別パターン。

スーツを着た葛城さんと、葛城さんに脚を絡ませて妖艶に微笑む磯部さん。

エロチックでアダルトな雰囲気漂う大胆な構図だ。


「こちらは『大人の煌めき』っと」


2種類のポスターのデータを印刷屋へ送った。


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