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大島サイクル営業中 2017年度  作者: 京丁椎
12月
134/200

理恵・不思議な体験②未来へ戻ろう

フィクションです。登場する人物・団体・地名・施設等は架空の存在です。

実在する人物・団体・地名・施設等とは一切無関係です。


地域ネタが入っています。懐かしく思う方がいるかもしれません。

翌日、大石と理恵は駅前に有るちょっと大きなデパートで服を買った。

大石に借りたジャンパーを着て野球帽をかぶる。

どちらも大きくてブカブカだったが、周りも大き目を着ているので目立たなかった。


「何か古臭いね」

「当たり前や。お前からしたら大昔やで」

周りからすれば孫を連れた祖父に見えるのだろう。何も言われない。


シャツとトレーナーを購入。明後日には帰るから最小限だ。

「せっかくや。街を見て回ろか」大石の運転で郡内を巡る。


1992年、市になる前の高嶋郡安曇河町。理恵の知る店は建っていない。

バイパス沿いのハンバーガーショップ・スーパー・道の駅・パチンコ屋

殆どの場所は減反政策で放置された水田だ。


大石サイクルの周りは賑やかだ。

「この道が広がってケーキ屋さんが無くなったんか」

「パチンコキングⅡ・・・う~ん、私の頃は無い」

「伊藤嘉商店・・・ああ、昔は漢字だったんだね」

「おおっと!パンのマルエム伝説の玉ねぎパンの店か!」


「ちょっと寄って行くか」


理恵は玉ねぎパン(大島は玉ねぎパンと言っていたが正式にはサラダパンらしい)

ウエスタン(マカロニ入りのパン。名前はマカロニウエスタンから)

その他いろいろなパンを買った。ビニール袋一杯で1000円しなかった。


ホームセンターは今都以外に無いらしい。必要な物は職人御用達の店で買う時代。

理恵の時代ではシャッターが多い藤樹商店街も活気が有る。


「昔の安曇河ってこじんまりした町やなぁ」


失礼な言い方ではあるが大石は否定しない。

「そうやな。何でもかんでも今都中心やな。自衛隊の助成金があるからな」


この頃は今都出身の教師が安曇河中学で「今都は金持ち。お前ら貧乏人」

と言っても咎められない時代だったらしい。


その教師は「俺は剣道部の顧問だから竹刀を振るのは当然」と

普通に生徒を叩いていた時代だと理恵は大島から聞いた記憶がある。


理恵が見慣れた街になるにはもう十数年の時間が掛かる。


「私の時代は安曇河は結構何でもあるよ。ハンバーガーもレンタルDVDも

ホームセンターも揃ってる。逆に今都は寂れたかな?」


「未来の事は言うなと・・・まぁええわ。俺は老い先が短いからな」


マルエスのパンを齧りながら大石と会話する。


「カブもインジェクションになるんやで。」

「ほう。21世紀でもカブは走ってるんか。」


「大島のおっちゃんがな『凄い・・・21世紀でもカブが走ってる』って

 バイク雑誌の漫画が現実になったって(わろ)うてた」

「う~ん。凄いもんが出たと思ったけど、世紀を超えるとは」


「1億台売れたんやで。凄いなぁ」

「1億台か。お前さんの友達も乗ってるんか?」


「うん。大島のおっちゃんがボロをキレイにして売ってる」

「大島君がなぁ・・・しっかり教えとかんとな」


「大島のおっちゃんもやけど何でカブなん?何が気にいったん?」


「おっちゃんはな、カブがデビューした時に試乗したんや。2ストに比べて

静かでな、オイルも喰わん。お前さんは知らんと思うけど、当時のカブは

高性能車でな。おっちゃんは心を奪われたままや」


軽トラは住宅地へ入り安曇河町立蒼柳小学校の前で止まった。


「新しいねぇ。私の時は雨漏りしてたのに。わぁ子供が一杯や」

「学校やったら子供がたくさん居るもんやろ?」


この頃は45人学級が2クラスあった時代。理恵の頃の倍といったところか。


警備が甘い。大らかな時代だったのだろうと理恵は思った。


「時計の上に避雷針が在るな。あれに雷が落ちるとすると、消防車庫前の電柱まで

線を引っ張ってきて集電やな。ゴリラのキャリアにピアノ線でポールを立てるか」


真新しい時計台。開け放された錆の無い校門。プールは変わらない。

小学校前の道路を大石とぶらぶら歩く。


途中の自販機で缶コーヒーを買う。100円の値段表示に時代を感じる。


「私の時代は130円。このコーヒーが出て25周年やで」

「ふ~ん。これ、最近出たんやで」


理恵の時代では薬局になっている店が駄菓子屋だったり、閉まっている店が

営業していたりする。。


神社の前で右折して学校へ戻る。同じ道なのに見慣れない景色。


「ここが大島君の家や」

「この家で独り暮らしは寂しいよね」


地酒の看板が立っている。理恵の見た看板よりボロくない。


小学校の裏門から入り、表門に戻って来た。


「駄菓子屋さんの前から出発して時速50キロでここで雷に撃たれる感じ?」

「そうやな。でも戻れるか戻れんかはわからへん。どうする?」


「私はこの時代の人間じゃない。元に戻りたい」

「そうか。戻ったらもう一回会いたいけど・・・俺は墓の中やろうな」


理恵の知る限りでは大島が大石と会っているのを見た事は無い。

目の前の大石はすでに老人だ。生きていれば平均寿命をはるかに超えるだろう。


店に戻り、大石はピアノ線を加工してゴリラのキャリアに取り付けている。

「なあ、お嬢ちゃん。未来の話を少しだけ聞かせてくれへんか?」


突然の申し出に理恵は驚いた。

「アカン言うたやん。知りたいことが有るん?」


「うん。大島君と桜ちゃんの事を言える範囲で頼む。桜ちゃんは可哀そうな子でな」


少し迷ったが、理恵は知っている範囲で伝えることにした。


「店を継ぐ前に婚約して赤ちゃんが出来たらしいけど、事故で亡くなったんやて

事故って言ってるけど何か有るみたい。そこは知らん。ごめんな」


「事故か・・・事故な・・・」


その後、大石は黙って作業を続けた。電源用のコードや金具が準備されていく。

何処かに電話もしている。「天気観察の実験を・・・」何か言っていた。


「念のために聞くけど15日の0時34分やな?」

「間違いない」


「そうか」

「うん。いろいろありがとう」


「礼を言うのはまだ早い。成功せんかったらあの世行きやで」

「うん」


「失敗しても生きてたらウチの店を継げばよい。鍛えたる」

「うん」


「今夜は美味しいもん食べよか」

「うん!」


その夜は近江牛の焼き肉と鶏の味付けを食べた。

25年前から高嶋の御馳走は変わらないんだなぁと理恵は思った。


あくる日の朝は快晴

「いよいよ近づいて来たな。24時間を切ったな」伸びをしながら大石は言った。

朝食後、「最終確認をする」と現場へ行ってしまった。


せめてもの恩返しと理恵は知る範囲で1992年以降に起こることを

手紙に書いて大石に借りているジャンパーのポケットへ入れた。


そして15日午前0時 安曇河町立蒼柳小学校前

避雷線から電柱まで張られたコードを前に「仕事とは段取り八分や」胸を張る大石。


「駄菓子屋さんの前から加速して時速50キロでここを通過すれば未来や。

時計は33分になったら出発や。ええな?」


「雨も降って来たし間違いないな!」

「おう。お前の言う方が正しかったな!もう会う事は無いけど大島君によろしくな!」


「うん!」


「5・4・3・2・1・GO!」0時33分にスタートしたゴリラは時速50㎞まで加速。

そのまま電線の下を通過。同時に雷が落ちて轟音が轟いた瞬間・・・

ゴリラに取り付けられたピアノ線のポールに電流が流れ、メーターが閃光を発する。


理恵は1992年の安曇河町から消えたのだった。


「しっかり段取りさえやっとけば事はスムーズに進むもんや・・・ん?」


     ★     ★     ★


「おおっと!・・・あれ?」

小学校の前を過ぎると信号が有る。1992年には無かった信号だ。

小学校の門には『高嶋市立蒼柳小学校』の看板が在る。


「高嶋市立・・・戻れた・・・私の時代に戻って来た」


雨の中、理恵とゴリラは交差点を曲がり、図書館の前を通過する。

郵便局・道の駅・ハンバーガーショップ・・・・全てが見慣れた風景だ。


(大石のおっちゃん。ありがと)


理恵はゴリラのハンドルを自宅へ向けた。


リツコは電子レンジの解凍を使いこなせるようになりました。

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