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大島サイクル営業中 2017年度  作者: 京丁椎
12月
132/200

病気の仔猫?⑦全快

フィクションです。登場する人物・団体・地名・施設等は全て架空の存在です。

実在する人物・団体・地名・施設等とは一切無関係です。

磯部さんのインフルエンザは無事に全快した。

全快祝いと引っ越し祝いを兼ねてささやかな食事会をする事になった。


「では、リツコちゃんの全快と引っ越しを祝って乾杯っ!」

「かんぱ~い!」

明日は休日。多少ニンニクの匂いがしても問題ないので焼肉だ。

葛城さんが乾杯の音頭を取り、俺は肉を焼くのに徹する。


「もう死ぬかと思ったわよ。熱が出たのがここじゃなかったらどうなっていたか」

「良かったね~。私も倒れたら大島さんにお世話にな~ろうっと」


勝手な事を言ってるが祝いの席だ。そっとしておこう。


「でも、何で下宿がOKになったの?大島さんは駄目って言ってたのに」

「フッ・・・女の武器を使ったのよ」


「何もしてないで。紛らわしい事を言うたら(いや)やで」


お願いだから誤解を生むことを言うのは止めて欲しい。


「寒くなって大島さんの布団に潜り込んだらね~ギュってされて」

「で、そこからの?」


「緊急外来へ運び込まれて『インフルエンザですね』って」

「何だそりゃ」


「はい、焼けたで。先ずはタン。レモンはそこに有るから各自適当に」


「お肉~お肉~」「いただきま~す」

2人とも大喜びで肉を食べるのでジャンジャン焼く。


「おでこを冷やしてくれたり氷枕を用意してくれたりで助かった」

「何かお父さんみたい」


次はタレの奴を焼くか。バラ・ホルモン・ミノ・ロース・・・ロースかな?

ここからエンジンが掛かったのか磯部さんは焼酎。葛城さんはチューハイだ。


「パン粥を作って貰ったり、リンゴをすりおろしてもらったり。甘えちゃった」

「いいな~私も甘えたい~『あ~んして』は?してもらった?」


「初日だけね。で、3日目からは消化に良い物。中さんて蒸しパンまで作るのよ」

「リツコちゃんは料理できないもんね~」


どうして独り暮らしで料理が出来ずに生きてこれたのだろう?


「晶ちゃんのメイクが出来ないのと一緒。人には得手不得手があって・・・」

「出来ないんじゃなくてしないんです」


ぷうっと膨れる葛城さん。彼女は磯部さんの影響だろうか、スカートを履いたり

まだまだ残念な仕上がりではあるもののメイクをする様になった。

今なら男性と間違われる事も理恵に一目惚れされる事も無いだろう。


2人とも今日は良く呑む。焼酎に入れた梅干を突きながら磯部さんが話す。


「一人だと難しい事も他人の手を借りれば出来る事もある・・・」


何だろう。哲学的な話だろうか。俺には学が無いから解らない。


「私ね、母が嫁いだ年にインフルエンザで寝込んだことが有ったの・・・」


俺と葛城さんは黙って聞いていた。


「一人で熱にうなされて、食べる物も無くって・・・寂しかった。でもね・・・」


急にしんみりした雰囲気になる。焼酎のお湯割りをグイと呑んだ彼女は俺に言った。


「今回は中さんが入れてくれた座薬で熱が下がったの!やっぱり座薬って効くわね!

お尻を見られるのに比べたらキスくらいなんでも無いわ!」


酷い熱でうなされていたから入れた座薬。何の反応も無かったから

意識が無いと思っていたのだが・・・恥ずかしくて何も言わなかっただけ?


「座薬って自分で挿れるのは難しいのよ。熱でクラクラしてる状態でこ・・・」


言わなくていいから!こっちが恥ずかしい。


「座薬はともかく、キスの方はどんな状況だったのか詳しく話してもらいましょうか」

「俺が無理矢理したんやないで」


「『倉庫の主のエンジンを掛けたら下宿OK』って言われたから挑戦したけど

全っ然かからないの。ほら、あの豚のアニメ在るじゃない?真似してキスしたら

呪いが解けてエンジンが掛かったのよ。中さんは悪くないのよ」


キャベツに食卓塩を振りかけながら磯部さんが説明してくれた。


「まぁ、リツコちゃんが言うならそうなんだろうけど・・・」

納得してないよね?でも一番納得していないのは俺やから。

そんなのでエンジンが掛かるなら世界中の整備士が失業する。


「中さん料理にとんでもない物を(つか)まれたのよねぇ・・・」


「奴はとんでもない物を(つか)んで行きました。あなたの『胃袋』です」

葛城さんは肉をつまんでポイと口へ放り込んだ。シャキシャキと音がする。


「あ~ん。私の胃袋(ミノ)~育ててたのに~」何奪われてるんや。


2人の食べるペースが落ちてきた。そろそろお開きだ。

締めのアイスと茶漬けを各々食べて宴は終了した。久しぶりに思い切りお酒を呑んだからか

磯部さんは酔いつぶれ、つられて呑んだ葛城さんもフラフラになっていた。


酒の匂いに酔ったのだろうか。何故かフラフラする。少し寒気もする。

夕食の後方付けを終え、風呂で暖まったあと、毛布を1枚増やして眠った。


翌朝


枕元で磯部さんと葛城さんが俺の顔を覗いている。


「やっぱりうつしちゃった♡」

「インフルエンザなのにキスなんかするから・・・」


明け方、強烈な寒気に襲われた俺は酔い潰れている2人を頼る事も出来ず

タクシーで病院の緊急外来に行き、診てもらってきた。


医師は「娘さんからうつされましたねぇ」なんて言ってたけど娘じゃない・・・


「私のご飯はどうなるの?」

磯部さん・・・それは病気の妻が夫に言われて殺意が湧く言葉の1つです


「冷凍庫に有るからチンして食べて・・・食パンも冷凍庫に有る・・・」


「おかずはどうするの?卵なんか焼けないよ?」

「お皿に割ってお箸で黄身を2~3回ついてからレンジで1分チンしたら半熟になる・・・」


お願い寝させて・・・


「じゃあ、私は帰るね。ごゆっくり♡」

「晶ちゃん、じゃあね~」葛城さん・・・薄情者~。


こうして磯部さんとの同居生活は始まった。先が思いやられる・・・・。



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