病気の仔猫?②看病
フィクションです。登場する人物・団体・地名・施設等は全て架空の存在です。
実在する人物・団体・地名・施設等とは一切無関係です。
「ええ?磯部先生は一人暮らしだったはず。あなたはどのような御関係で?」
「保護者です」
「どのような保護者で?」
磯部さんは電話をするのも苦しそうな状態だったので代わりに電話をしたのだが
悪戯とでも思われたのだろう。保護者だと言ってるのに信じてくれない。
「インフルエンザで医師の診断書が在りますから持って行きます」
「わかりました。正面玄関右側に・・・」
やっと納得してくれた。
仕方が無い。診断書を持っていくか。
「磯部さん。高校まで診断書持って説明してきますね」
「一緒に居て・・・一人にしないでぇ・・・」
よい歳の大人が涙目になって・・・弱ってるとこんなになるんか?
ちょっと可愛いな。
天気も悪くないのでゴリラで行きたいところだが、車で行く事にした。
正面玄関横にある事務室へ診断書を提出。愛想の無い事務員だった。
駐輪場にはいろんな種類のミニバイク達。手入れの良い物もあるけど酷い物もちらほら。
今都は・・・特に何も無い。用事を済ませたら帰る以外選択肢は無い。
帰る途中、安曇河のスーパーで買い物。林檎とグレープフルーツを買う。
最近の洒落た果物は解らない。病気の時は林檎だろう。医者いらずって言うくらいだからな。
ついでに病人が食べそうな物も買っておく。
店へ帰ると近所の奥様方が寄って来た。
「いつも来る娘さん、帰らへんのか?」よく観察しているもんだ。
「インフルエンザで寝込んでしもた。家に帰しても一人やし居てもらう」
「そのまま居てもらい。お嫁さんにしたらええ」・・・勝手な事を言う婆どもだ。
部屋を覗くと磯部さんは目を覚ましていた。熱があって怠いらしいが食欲は有るらしい。
「何か食べたいものは有りますか?林檎食べますか?」
「パン粥・・・リンゴはすりおろして欲しいなぁ・・・・」
普段は一人暮らししている娘さんだ。病気の時くらいは甘えてもらおう。
食事の用意をしている間に着替えてもらった。
今日は自分で食べるとの事だった。着替えたパジャマと下着は洗濯機へ。
洗濯していたら腹が鳴った。バタバタしているうちに自分の朝食を忘れているのに気づく。
冷凍しておいたお好み焼きを温めて食べた。冷凍しておくと便利で良い。
今日は店は開けたけど作業は来店客のみにする。看病優先だ。呼ばれたらすぐに行ける様に
手が汚れる仕事はなるべく止めておくことにした。
特に大きな仕事は入って来ず、ご近所との世間話がメインと言ったところか。
お昼は粥を炊いた。汗をかいていたので少し塩を効かせて溶き卵を入れる。
少し回復してきたのだろうか、お椀で2杯食べてくれた。のどが渇くらしい。
さっぱりした物を飲みたいそうなので緑茶を用意した。
午後からはチェーンが外れたとかギシギシ音が鳴るとかの軽い整備が続いた。
殆どの客は様子見の偵察部隊だと思う。自転車より店の奥から聞こえる咳が気になるらしい。
エンジンを分解すると周りが見えなくなるので在庫のオイルまみれになったエンジンを
水洗い。各部をマスキングして工業用洗剤で洗っているうちに時間が経つ。
「大島さ~ん」奥から声が聞こえる。
「はいはい。どうしたのかな?」
「お腹すいた」
お腹が空くのは体が病気と闘ってエネルギーを消費しているから
・・・だと思う。医者じゃないからよく知らんけど。
「何か食べたいものは在りますか?」
「桃の缶詰・・・」
そう来ると思って買ってある。寝込むと無性に食いたくなるよな。
桃缶を食べた後、磯部さんは眠り続けた。
夕食の時間になっても眠っている。睡眠も薬。そっとしておこう。