呑んだ翌朝は・・・
フィクションです。登場する人物・団体・地名・施設等は全て架空の存在です。
実在する人物・団体・地名・施設等とは一切無関係です。
大人3人で呑んだ翌日。
「・・・・もう見慣れた。服を着ておいで」
「はい・・・」
今朝も寝惚けたリツコは大島に裸体を見せる事となった。
大島も最初の頃は驚いていたのだが、慣れとは恐ろしい物で
今ではいつもの事として何も感じない。
(何故だろう。泊めてもらうたびに裸になっている気がする)
「何で毎回裸になってるのかしら?」
「知らんがな。葛城さんは?」
「まだ寝てる。寝させておいたら?」
「やれやれ。風呂も入らんと寝てしもて・・・ボイラーを入れとこか・・・」
(大島さんって、男の人って言うより『お父さん』なのよね・・・)
クツクツと鍋が煮えている。味噌の香りに磯の香り。ワカメの味噌汁だ。
風呂場の方から声が聞こえる。「卵が入ってるからもう少し炊いといてな~」
戻って来た大島が鍋を覗いて火を止めた。
普段はパンを食べるリツコだが、時間のあるお泊りの時はご飯を食べる。
(下宿させてくれたら毎朝ゆっくり出来るんだけどな~)
下宿の条件は倉庫に有るゴリラのエンジンをかける事。
大島がキックすればエンジンは普通に目覚めるが、
リツコがかけようとしてもウンともスンとも言わないのだった。
リツコが味噌汁をすすっていると葛城が起きてきた。
「おはようございます・・・」まだ眠そうだ。
「シャワーを浴びて目を覚ましておいで」
「ふぁ~い・・・」
Tシャツに短パン姿の葛城は普段と違って体のラインがよく解る。
(こうして見ると女の子なのよね・・・スタイルも良いし)
「何から何までお世話になりまして、すいません」
「いや。1人で飯を食うより楽して良いわ。」
(リラックスしているからかなぁ。晶ちゃん、女の子の顔だなぁ)
「葛城さん、パンと御飯のどっちにします?」
「パンでお願いします」
パンが焼ける匂いが漂う。大島が冷蔵庫から小瓶を出してきた。
「葛城さんはアレルギーとか大丈夫ですか?」
淡いピンク色のジャムは無花果ジャムだ。美味しいけれど
アレルギーの出る人もいる。
「大丈夫です。わぁ・・・きれい。何のジャムですか?」
「無花果。ウチの名物。たまにかぶれる人がいるんや」
「あ、美味しい。ラベルが無いけど手作りですか?」
「うん。規格外で売れん無花果で作った」
(バイクを直したり料理をしたり。大島さんは器用だなぁ)
「ヨーグルトに入れても美味いんやで」
「私の時にはヨーグルトなんか出なかったけど」
「もう少し早く来れば出せるんやけどな」
「じゃあ、やっぱり下宿させてよ」
「ゴリラのエンジンをかけられたらね」
(どうしてエンジンがかからないんだろう・・・カブと同じなのに)
「おじさんはどうしてリツコちゃんの下宿が嫌なんですか?」
「若い娘さんが男と一緒に一つ屋根の下に居たら間違いが起きるかもしれんやろ」
「でも、昨夜リツコちゃんが『起きたら布団と太腿が血だらけに』って」
「そうよ。手首には痣、太腿の内側と布団には血。責任取って貰わなきゃ」
「それって泥酔した女性に対する性的暴行ですよね?」
あ、目が怖くなった。
「違う。酔って大暴れしたのを止めたんや。暴れる・引っ掻く・殴る
転がる・プロレス技をかける・吐くの猛獣状態やったんやで」
「でも、裸って・・・」
「体中ベタベタだったのよ。何をされてたのかしら?」
「ゲ〇まみれの服を『暑い』って勝手に脱いだんやで」
「・・・・リツコちゃんが悪いんじゃない?」
「ごめんなさい」
自分でも何をしていたのか解らないのでこの件は深く追求しない事にする。
何だか悪いので後方付けは私と晶ちゃんでやった。
「ねぇ、晶ちゃん。アンチリフトって良いの?」
「ん~普通かな?」
「普通なの?」
「うん。普通。ブレーキをかけたら前が沈むから普通のバイクと一緒」
「私のリトルちゃんもアンチリフトにしてもらおうかな」
「おじさんに相談してみたら?」
後片付けを終えてから、晶ちゃんのカブに乗らせてもらった。
「ブレーキをかけて前が突っ張らないね。
私のリトルにも付かないかしら?大島さん、出来ないの?」
「研究中やけど無理やろうな。リンクとタイヤが当たるらしいわ」
そうなのか。残念。
「お金を払わなきゃ。はい。¥25000」
「2万円と、3・4・5千円っと。はい確かに」
その後はコタツでゴロゴロしたり倉庫で珍しいバイクを見たり。
その間に大島さんは料理をしていた。休みの日にまとめて作って
冷凍しておくらしい。コンソメの良い香りがする。
「大島さんって何で独身なのかなぁ?」
「婚約者は居たらしいけどね」
「ふ~ん。じゃあ何で一人でいるのかなぁ?」
「本人が話さないんだから、そっとしておきましょう」
この日のお昼ご飯はペペロンチーノと巻かないロールキャベツだった。
巻くのが面倒だからって具とキャベツを交互に鍋に敷いて煮た料理。
味はロールキャベツと一緒だった。
今回もゴリラのエンジンは掛けられなかった。どうしてだろう・・・