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大島サイクル営業中 2017年度  作者: 京丁椎
11月
115/200

郵政カブ2台目①

フィクションです。登場する人物・団体・地名・施設等は架空の存在です。

実在する人物・団体・地名・施設等とは一切無関係です。

1台目の郵政カブを無事に納車した。残るはあと2台。


店を閉めた後の作業場には分解した郵便カブが有る。2台目はどうしよう?


ふと作業場を見ると2台のエンジンが有る。共にリトルカブのセル付き4速だ。

どちらも異音有り・キック降りないといった訳あり物件。

俗に言う『ジャンク・部品取り』だ。


美品を部品取りとして分解するのは非常に心が痛むが

ジャンクなら問題ない。2台分解すれば必要な部品は取れるだろう。


2台目の郵政カブはミッションを4速にしよう。形は変えずにそのままだ。


異音有りのエンジンは一応動くので保管しておいて、キックが降りない

不動エンジンを分解する。最初はジェネレーターやスターターの電装品を外す。

その後は灯油とブラシで汚れを落としていく。


汚れが落ちたらパーツクリーナーを吹き付けて洗い油を落とす。


分解していくとキックが降りない原因が解った。

シリンダーが錆びている。ピストンリングが引っ掛かって動かない。

焼き付いたわけでは無いのだが、シリンダーボーリングが必要だ。

腰下はスラッジが溜まっているけれど何とか使える。

ドロドロの部品はザルにまとめて灯油に漬け込み汚れを溶かす。

一晩漬け込んでからブラシで擦れば綺麗になるだろう。


冷え込んできたせいか膝や肩が痛む。寒さが身に染みる。

ファンヒーターを出した。


翌日、いつもの様に仕事をしていると怪しげな青年が尋ねてきた。


「すいませ~ん。ここにモンキーがたくさん有るって聞いたんですけど~。」


この手の人間は要注意だ。ウチは特に宣伝はしていない。

在庫車はあるが、それを知っているのは常連か仲間の業者だけだ。


「いや?在りませんよ。誰に聞いたんですか?誰かのお知り合いかな?」

実際は在庫はあるから見せることは出来る。だが、最近は物騒だ。

もしかすると泥棒の下見かも知れない。


『ここにこんな在庫がありますよ』なんて見せたら危ない。


「いや・・・その・・・無いなら構わないんですけど。」


誰かの紹介なら『〇〇さんに相談したらここへ行けと言われた』くらいは

言えるはずだ。答えられない時点で怪しい。

知らん人に『俺の財産はここにあるよ』なんて教えないでしょ?


ある程度コレクションを溜めこんだマニアはこっそりと活動するようになる。

窃盗団に知られたらトラックを横付けされてゴッソリ行かれるからだ。

悪いがウチはマニアより物が有る。売るほど有る。


「うちは小さな店なんで、在庫を持つ余裕はないですね。すいません。」

奥を覗きたそうにしているがお帰りいただく。


念の為に車輪の会(ホイラーズクラブ)の皆に人相をメールしておく事にした。


そうこうしている間に日は落ちて、俺は店を閉めた。


11月も半ばが過ぎて気温がグッと下がった。冷える日は鍋が美味い。


お弁当を詰めたタッパーを返しに来た磯部さん。

コタツを見つけて「わ~いコタツ~」と座ってビールを呑み始めた。


土鍋を台所からコタツの上に置いたガスコンロへ運んでいるのだが


「なんでトラックで行くのかしら?バイクで行けば早いのに」と古い映画のDVDを見ている。


帰る様子が無い・・・って言うか、酒を呑んでしまったぞ?どうやって帰るのだろう?


「磯部さん?呑んでるけど、どうやって帰るつもり?」


頬を赤くした磯部さんが「泊・め・て♡ 」とご機嫌で答える。

お泊りセットを持って来ている。完璧に泊まるつもりだ。


駄目だ。もう酔ってる。頭の中に先日の悪夢がよぎった。

「男が一人暮らしする家に泊まるのがどんな事か解ってる?」


「だって~うちに帰っても誰も居ないんだもん。寂しいんだもん。」

ぷぅと膨れる磯部さんは何だか可愛らしく見えてきた。酔うと虎になるけど。


「それに、大島さんが何かする様な人だったら、この前してるでしょ?」


「今晩はわからへんで?」と言いつつそんなつもりは無い。


「手を出しても良いけど、責任は取ってね♡」


「・・・・・断る」


今日はキムチ鍋。白菜・ニラ・ネギ・ホルモン・豚・・・ジャンジャン入れて食べる。

磯部さんは育ちが良いのかな?食べ方が綺麗だ。見ていて気持ち良い。


「一人で居るとお鍋は出来ないのよね」

「俺は結構食べますよ。たくさん作って冷凍保存。3回位に分けて食べます」


「大島さんはお料理が上手ね。私は全く駄目で・・・」

「味見しながら作るんや。そうしたら失敗せえへん」


「気が付いたらとんでもない物が出来て・・・」

「食べるのが好きなら大丈夫。そのうち出来ますよ。俺だって最初は・・・」


「どうしたの大島さん?」

「昔の事を思い出して。まぁ最初は酷いもんでしたよ」


さしつさされつの酒も悪くない・・・駄目だ・・・磯部さんのペースに付いて行けない。

ほろ酔いの磯部さんは可愛らしいなぁ・・・酒の量は可愛くないけど。

最近の女の子は良く呑むなぁ・・・でも呑み過ぎじゃないか?


わいわいと話しながら食べ進めていたら具が無くなった。


「締めはどうします?うどん・中華めん・餅・雑炊が出来ますけど」

「うどんの後で雑炊!」

炭水化物のWパンチだ。食いっぷりが気持ち良いけど大丈夫?太りませんか?


心配をよそに鍋は完食。


「う~ん。もう食べられない~」磯部さんはゴロリと寝ころんだ。


「お風呂はどうします?朝にしますか?」

「シャワーくらいは浴びたいかな?」


「一応、お湯を入れときますから」

「何から何まですいませんね~」


食事の後片付けをしながら風呂を入れるていると磯部さんの声が聞こえる。

「大島さ~ん。この一緒に移ってる人、誰~?」


「今は手が離せんから。ちょっと待って」

風呂の湯を止めながら返事をする。彼女の元へ行くと写真立てを眺めていた。


「ああ、それは・・・・」



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