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大島サイクル営業中 2017年度  作者: 京丁椎
11月
112/200

磯部・シーツの血

異臭のする液体で汚れたリツコ。乱れたシーツには血の跡。

彼女の身に何が起こったのだろう・・・


フィクションです。登場する人物・団体・地名・施設等は架空の存在です。

実在する人物・団体・地名・施設等とは一切無関係です。


良い臭いがする・・・コーヒー・・・なぜ?


日曜の朝。コーヒーの香りでリツコは目を覚ました。


ここは何処だろう。ぼんやり考えていたリツコは

自分が一糸まとわぬ姿である事に気付いた。


見知らぬ部屋で見知らぬ布団。リツコは身を起こした。

乱れたシーツと太腿が血で汚れている。


運命の出会いと思って交際を申し込んだ葛城は女性。

情けなくて悲しくて寂しくて、話し相手が欲しくて大島サイクルに行った。


食事をしたのは覚えている。その後の記憶が無い。


「ああ・・・やらかした。」


何も覚えていないが、手首には痣が在る。体中が痛い。


布団と太腿には血。シーツに広がる赤い染み。

自身の身に何が有ったか想像できないほど初心(うぶ)じゃない。


どう考えても一線を越えたに違いない。


(初めては好きな人にって思ってたのに)


急に喪失感に襲われたリツコの目から一筋の涙がこぼれた。


「目は覚めましたか?」ガラス戸の向こうから声がする。


「大島さん?」


「お風呂を入れておきましたからどうぞ。シャワーも使えます。

場所は廊下に出て右です。その間に朝ごはんを用意します。」


体がベタベタしているのでバスルームを借りる事にする。


(服が無い・・・逃亡防止か・・・卑劣な)


シーツを身にまとい、廊下を出て右の脱衣場へ。

昭和の雰囲気がする。バスルームと言うより風呂場といったところか。


シャワーを浴びて全身を洗う。

内腿に付いた血とべとついた体。生臭い匂いがする。


(いったい何をされた・・・あれしか無いか)


乱れたメイクも落としてしまう。肌が心配だが、それより心配な事は有る。


(行為後72時間以内・・・医師の診断を受けて・・・)


不思議な事に、よく聞く異物感や痛みは感じない。


(ああ、昨夜の相手は大島さんか。やっぱり大島さんも男なんだ)


男は、みんな狼・・・そんな歌が有ったのを思い出した。


必死に抵抗したのだろうか、体中が痛い。手首の(あざ)は何だろう。


(無理矢理だったのかな・・・)


バスルームで湯船に身を沈め、ぼんやり考えていた。


脱衣場から大島の声が聞こえる。


「とりあえずトレーナーを出しときますんで着てください。

カゴに入れておきますね」


体を拭き、トレーナーを着る。ブカブカだ。

鏡に映る自分は化粧をしていない事もあって、童顔だ。

子供っぽいが、可愛いのではないかと思う。


(うら若き乙女の体を弄ぶなんて・・・)


脱衣場の引き戸を開けると大島が居た。


「二日酔いはしてないですか・・・・ああっ!あんた誰やっ?」

「大島さん?その顔・・・何が有ったの?!」


お互いに顔を見てフリーズした。


「あんな酔い方をするなら酒は辞めなさい。」

リツコに説教する大島の顔は、ひっかき傷・歯型・青痣で

とんでもない事になっていた。


「ご迷惑をおかけしました。」

謝るリツコの顔はノーメイク。化粧を落としたリツコは

信じられないほど童顔だった。一見、高校生に見えるくらいだ。


昨夜、酔いつぶれたリツコを寝かそうと布団に運んだ大島は災難に襲われた。


「布団に運ぶ途端で目を覚まして、噛みつく・引っ掻く・叩く

鼻の穴に指を突っ込む・・・指が細いから奥まで突っ込んでくるし・・・」


布団の血は大島の血だったのだ。

手首の痣は必死になった大島が抵抗した跡だった。


昨晩の大島は吐きそうになるリツコの為に洗面器を用意したり、

転がり回るリツコの面倒を一晩中見ていたのだった。


よく見れば目が赤い。寝不足なのだろう。


「大笑いして裸になってしまうし、脱いだら脱いだでプロレス技を掛けるし」


R18な展開だと思っていたら、別の意味でとんでもない事だった。

「普段はこんなにならないんですけど・・・ごめんなさい」


「酔った時の事を責めるのはマナー違反やけど、あれは駄目です」

「はい・・・。」

何も知らない者が見るとお父さんに叱られる女子高生の様だ。

童顔に見えても三十路だが。


「まぁ、それはさておき。朝ごはんにしましょう」


「はい・・・」


大島と磯部はどちらも一人暮らし。誰かと共にする朝食は久しぶりだ。

トーストとベーコンエッグ。それとサラダ・インスタントのコーンポタージュ。

質素な食事だが、料理が苦手なリツコにとってはご馳走だった。


「教育実習で生徒に馬鹿にされてメイクを研究ですか・・・」

「ええ。今でもこの通り童顔で」


「え?このジャムは大島さんが作ったんですか?」

「まだまだ完璧には出来ひんのですけどね」


何という事の無い会話だが、一人で黙って食べるより楽しい。


大島は食事後のコーヒーを出した後

「待っててくださいね」と何処かへ行ってしまった。


リツコはコーヒーを飲みながら、ぼんやりと部屋を見ていた。

1人暮らしなのに片付いた部屋。きれいなキッチン。

大島はマメな男なのだろう。


「嫁に欲しいな・・・」


そんな事を思っていると、大島が戻って来た。

手にはハンガーに掛けられた服と畳まれた下着。


「女性物の服は20年ぶりくらいや。腕が鈍ったわ」


「20年ぶり?」


「昔、クリーニング工場で働いていたんで」


「ところで大島さん。御一人ですか?ご両親は?」

「事故で亡くなりました。もう10年以上前の話です」


「磯部さんは?」

「父は病気で他界。母は再婚してニュージーランドに居ます」


「実は、磯部さんに謝らんとアカン事がありまして」

「葛城さんの事ですか?」


「バイク友達が欲しいんやと思ってたら、好きになってはったとは。

私らも葛城さんが女性な事はすっかり忘れていまして」


「あの顔で女性って反則ですよね」

「まったく。神さんの勘違いもエエとこやで」


顔を見合わせていたら急に笑いが込み上げてきた。


着替えに邪魔だろうと部屋を離れて、大島は新聞を取りに出た。


すぐにご近所の奥様方に取り囲まれた。


「昨夜は大騒ぎやったな!」

「もうすぐ冬やのに(あたる)ちゃんに春が来たんか?」

「このまま嫁に来てもらい」


大島は逃げ出した。だが、回り込まれてしまった。


ご近所の奥様方に囲まれる大島を助けるべく、着替えたリツコは外に出た。


「あんた!何人連れ込むんや!」

昨日リツコを見た奥様方が怒りの目で大島を見ている。


「こんな子供も連れ込んで!見損なったわ!」


痛恨の一撃!

スッピンの自分はそれほど違うのかとリツコは落ち込んだ。


「待て~!みんな誤解や~!話を聞いてくれ!」

「子供じゃないもん!子供じゃないもん!わ~ん!」


逆に騒ぎが盛り上がってしまったのは言うまでもない。


事情を説明するのに3時間かかった。



大島に胃袋を掴まれたリツコは通勤途中に大島宅へ寄るようになりました。

その辺りはまた別のお話。

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