大島・磯部との夜
フィクションです。登場する人物・団体・地名・施設等は架空の存在です。
登場する人物・団体・地名・施設等は実在するものとは一切無関係です。
「大島さん。今夜空いてる?呑まない?」
土曜の夕暮れに女性からの誘いを受けて気が乗らない男がいるだろうか。
それが妙齢の美女なら断るわけが無い。
「お? 磯部さん。デートのお誘いかな?」
秋が深まったせいか磯部さんは長いスカートとコートだ。
きれいな脚が見えないけど暖かそうだ。
女の子は体を冷やすといけない。これならまだマシだろう。
「話を聞いて欲しいのと、一人でご飯を食べるのは寂しくて。
それに・・・今日はとことん呑みたいから。」
磯部さんくらいの美人なら誘えば何人かついてきそうなのに。
「とりあえず待っててな。店を閉めんとアカンから。」
誰かと食べる夕食も悪くない。
普段より少しだけ店を早じまいして飯を食いに行くことにした。
郵便局の傍にある少し小奇麗な焼肉屋。サイドメニューが多いから
女性と来るにはお勧めだ。彼女はビール。俺は運転するからウーロン茶。
少し酔いが回って来たのか。彼女はジョッキを片手に話し始めた。
「私も30歳。親もいない一人暮らしだから寂しくて・・・」
「俺も一人暮らしなんで、解らんでもないですね」
焼けた肉を彼女の皿へ移す。
「でね、素敵な人に出会ったと思った訳なのよ。」
グイとジョッキを空ける磯部さん。少し心配なペースだ。
「空きっ腹に流し込むと悪酔いするで」
店員を呼び、ビールと肉を追加する。
「まぁ、今日は思い切り呑んで食いましょう。」
「一緒にね、ツーリングに行ったりして気が合うなって思って。」
「ほう。お相手もバイク乗りですか。ゼファーでツーリング?」
最近は女の子の方が酒に強い気がする。磯部さん・・・ピッチが速い。
「年下の男だけどね。付き合わないかって言ったらね」
「うん」
「無理だって言うのよ」
「磯部さんほどの美人を?勿体ないねぇ」
「よりによって、あの子、女性だったの・・・・うう・・・
どうせ男日照りよ!男と女の区別もつかないのよ私は・・・」
泣き出した磯部さんを前にオロオロするしか出来なかった。
まさか・・・悪い予感がする。
「あんなイケメンで女だなんて~葛城さん酷い~!」
ああ、やっぱり。
(こんな所をご近所の奥様方に見られたらマズイ!)
「うん。呑もう!全部忘れる為に呑もう!食おう。!」
酒を飲まない大島にとっての災難が始まった。
この時は知る由も無かったが、ムードもエロも無い地獄の始まりだった。
以前、「何かを忘れている」と思っていたが、
葛城さんが女性であることを伝え忘れていた。
磯部さんが葛城さんと連絡を取りたがったりしていたのは
カブ友達になりたいのではなくて男性と思って惚れてたからか。
えらいこっちゃ。
「ほら。最近は女性同士でも・・」
「女の子にモテるのは嫌やもん。ずっと『お姉さま♡』なんて言われてきたのに!
だいたいお婆ちゃんが悪いのよ!『あんたは御転婆やから
女らしゅうしなさい。』って言うから女らしくしたのに!」
(あかん。このままやと店に迷惑が掛かる)
「場所を変えましょう。すいません。御勘定。」
「やだ~!もっと呑む~!」
クールビューティーどころか完璧に酔っ払いだ。
仕方が無いので家に連れて帰ることにした。ツマミなら作れる。
酒も少しはあるし・・・。
大暴れする磯部さんを車に乗せて何とか連れ帰った。
「私だって恋はしたいんだ~!」
「わかったから!もうちょっと静か・・・あ、奥さんどうも。」
何事かと飛び出してきた奥様に会釈をし、何とか磯部さんを居間へ運び入れた。
「磯部さん。ちょっと水を飲んで落ち着きましょう。」
「やだ。お酒が良い。お酒じゃなきゃ騒ぐ」
目が座っている。仕方ない。何か出すか。
「梅酒とビールしか無いですけど、どっちにします?」
「ビール~♪」
梅酒は自家製。焼酎の味にもこだわった特別仕立て。
ちょっと残念だ。飲み頃なのに。
冷蔵庫からビールと魚肉ソーセージをもって部屋へ戻ったら
磯部さんは少しおとなしくなっていた。
学生時代に口説こうと寄って来た男どもを尽く酔い潰してきた
と語る磯部さん。見る見るうちに空き瓶が増えていく。
「寂しいよぉ・・・」
電池が切れたようにコテンと磯部さんは転がった。
磯部リツコ30歳。初めて酔いつぶれた夜だった。
その晩。客間から声が聞こえた。
「・・・・っ。痛っ・・・痛い。お願い・・・抜いてっ!」
「う・・・出る。」
「ちょっと待って・・・そこはダメ」
ギシギシと床がきしむ音。パシパシと叩くような音。
「お願い・・・奥まで入れないで・・・放して」
「・・・・・駄目」
「痛いっ!放してっ!お願いだから抜いてっ!」
シーツに赤い染みが広がり、微かな血の匂いが漂った。
お酒は20歳から。適量を美味しくいただきましょう。
お酒は自暴自棄になって呑むものではありません。楽しく呑みましょう。