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大島サイクル営業中 2017年度  作者: 京丁椎
11月
108/200

ドライブレコーダーの取付け・大島の昔話

フィクションです。登場する人物・団体・地名・施設等は架空の存在です。

実在する人物・団体・地名・施設等とは一切無関係です。

「そんなに急いで持って来んでも良い(ええ)のになぁ」

配達の兄ちゃんを見送りながら大島は呟いた。


インターネットで注文してほんの数日。ドライブレコーダーが届いた。

「届きました。日曜に取付しましょう」と高校生たちに送信。

皆、大丈夫との事で集まることになった。


作業自体は難しい所も無く、順調に進む。

細かい作業も無いので世間話をしながら作業は進む。


作業を見ている絵里ちゃんが昔の事を訪ねてくる。


「おじさんは、お父さんと友達ですか?」


「ん~お父さんが高校卒業して結婚する直前までは遊んでたな」


「しばらく会わんかったのは何でですか?」


「おっちゃんの勤め先が失業したり、親が死んだり、他にも悲しい事が有って

大変な時期があってな。おっさんも忙しかったし疎遠になったわ」


そこへ理恵が割り込んでくる。

「子供が出来て結婚する直前やったってホンマ?」


「・・・・・そんな事も有ったな」


「相手はどうしたん?」


「相手は亡くなったんや。事故で」


「もしかすると、聞かん方が良い?」


察しが良い子で助かる。

「そうやな。哀しい事は忘れて前に進むのが一番や」


「そう」


「おっさんはな、絵里ちゃんの親父さんと自転車で遊んでたんやで」


「お父さんが『あいつは速かった』って言うてました。」


「そうか。でも、親父さんと走るから速かったんやで」


単独で走ると風邪の抵抗をもろに受ける。俺達はチームを組んで

交代で風よけとなり161号線を走っていた。

ロードレースと同じ戦法じゃないかと思う。


「絵里ちゃんの親父さんが考えた作戦でな。まあまあ速かったんやで」


「まあまあですか?」


「そう。まあまあ。今都の連中には勝てんかったな」


「何で?」


「あいつら金持ちでな。こっちはシティサイクル、あっちはロードレーサー。

勝てるわけが無いわな。それでも何回かに1回は勝ってたけどな。」


轟さんと綾ちゃん。そして荷物持ちの佐藤君が買い物から帰ってきた。

「戻りました~」

「お昼は何にするの?またカレー?」

「今日は鶏の味付け。野菜も食べないとね」

「重かったぞ」

理恵たちは昼飯の準備で台所へ行ってしまった。


今度は速人が話しかけてくる。


「おじさんって、左足が悪いんですか?少しだけ引きずってません?」

なかなか鋭い観察眼だな。

「おっさんはな、高校の時に自転車でこけて怪我したんや」


「競争のせいですか?かなり激しくて生徒指導の手に負えなかったとか。」

どうやって知ったのだろう。卒レポか?


「もう20年以上前の話や。その日、おっさんは一人で走ってたんや・・・

1人でもいけると思ってな。今都の汚さを知らん小僧やった」


「3人組で走ってたんじゃないんですか?」


「その日、二人は用事があってな。おっさん1人やったんや。

今都の奴が競争を吹っかけてきやがってな。相手は4人。

正攻法では勝ち目が無かったし、危ない手を使ったんや。」


「危ない手?」


「そうや。危ない手。大型トラックが起こす乱流に乗って追い抜く。

スリップストリームってやつやな。一歩間違えたら事故して怪我する戦法や。

で、捲ってた時に前輪を蹴られてな。それでこけた。

左手と鎖骨。あとは足首を骨折したな。痛かったで」


「危ないですね。」

「そうや。危ない。競走は危ないもんや。バイクやとなおさらや。

直ったあとは自転車に乗ってもスピードは出せんでな。

足のバランスが崩れてブン回すと振動が出る様になった。で、競走は止めた」


「それで『公道での競争は許さん』ですか?」

「そうや。体は直せんからなぁ」


良い匂いがする。綾ちゃんが(かしわ)を焼くにおいだ。

ご飯の炊ける匂いもする。今日はガス窯で炊いてもらった。

その量2升。おこげが出来ると良いのだが。


「おじさんの御両親は何が在ったんですか?事故がどうとか。」


「ウチの親はな、今都の運送屋と正面衝突で死んだんや

相手の居眠り運転で飲酒運転。最悪やったな。」


「絵里ちゃんのお父さんから大変やったって聞きました。」

宏和め・・・要らん事をベラベラと・・・。


「まぁ、その辺は責任とかどうとか向こうがごねただけや。

飲酒運転で居眠り。センターラインオーバーして信号無視。

ウチの親父たちの車は信号待ちで停止中。そこへズドーンと

正面衝突。こっちに責任は無いからな。とことんやった。」


「おっちゃん!ご飯出来たで!食べよ!」

理恵は普段からよく動くけど、喰う事になると更に素早い。


作業を止めて昼食となった。


「理恵は良く食べるね~。お腹がなんとかポケットなんじゃない?」

「胃が異世界に繋がってるんだよ。異世界胃袋。」

「私はすぐに太るんです~」

「理恵は太りも伸びもしないね。燃費が悪いの?」

「カブを見習え。」


酷い言われ様だが理恵は気にしていない。どこに入るのか不思議な量を食べていた。


後片付けは綾ちゃん達に任せて作業再開。今度は轟さんと話をする。


「私のバイクは御祖父ちゃんとお祖母ちゃんが乗ってたんですよね」


「そうやな。長身のお爺さんと小さなお婆さん。恋愛結婚やったって聞いてるで」


「このバイクは『お爺さんの形見やから』って大事にしてたんですって」


確かに大事にしてた。


「お祖父さんの年代で恋愛結婚は珍しかったんと違うか?大恋愛やで」


「絵里のみたいな可愛いカブを残してくれたらよかったのに」


「買ったのはお祖父さんやから仕方ないで。それにリトルはその頃無かった」


話しながら作業は続く。後片付けを終えた綾ちゃんが覗きに来た。


「おじさん。Dio先生ってどれだけ走ってるの?」

「綾ちゃんより年上な車体やからな・・・万の桁が無いし解らへん。」


古いスクーターのオドメーターは万の桁が無い。

1万kmごとに0に戻る。

「奥さんが嫁入り道具で持って来て、旦那さんが通勤に使って

お嬢さんが通学に使ってたから・・・3万キロオーバーかな?」


「それって多いんですか?」


「いや、丁寧に使えば大丈夫。エンジンも駆動系も整備したし、

元々頑丈なエンジンやから当分は大丈夫やろう」


スクーターのDioは取り付けが少し面倒だ。

前カゴの下へぶら下げる様に付けることにする。


「煙いけど速いですよね。」

(いにしえ)の原動機2ストやからな~速いで。」


理屈の上では4ストロークエンジンの倍の出力になるはずの2スト。

実際は机上の理論通りには行かず、倍のパワーは出ない。

混合気で排気ガスを押し出して掃気を行う都合上、どうしても

未燃焼ガスが排気ガスに混ざってしまう。パワーはあったが

排気ガスの規制が厳しくなって新車からは殆ど消えた。


そうこうしているうちに作業は終了。みんなを呼んで説明だ。


「本当はキーのON・OFF連動が出来ると良いけど、単体やから・・・」


長いので省くが、通学に使うとバッテリーが3日くらいで切れるから

毎日充電するのと、盗まれない様にバイクから離れる時は

本体を外して持つようにって事だ。


「特に理恵は外し忘れんように気を付ける様にな。」


取り付けはしたが、こんな物は役に立つような事が起きなければ良い。


はしゃぐ高校生達を見ながら思うのだった。


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