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大島サイクル営業中 2017年度  作者: 京丁椎
10月
104/200

絵里のリトルカブ(納車)・旧友との再会

フィクションです。登場する人物・団体等は架空の存在です。

実在する人物・団体等とは無関係です。

ズドンッ!ドンドンド・ンドン・ドンドン・・・


高嶋高校の校門で腹に響く排気音が轟いた。


「変わらへんな・・・。」男は呟きながらハーレーを停める。

そろそろ娘が出てくるころだ。男は周りを見回した。


「あ、絵里のおっちゃんや。」

「うわっ厳ついバイクやな。」

「大きいね~。ハーレーってやつ?」

「良い音やね。やっぱりエエな。」


「お?白藤さんのお嬢ちゃん。うちの娘は見んかったか?」


「絵里はもうすぐ来るで。御迎え?どうしたん?」


「おう。バイクを取りに大島の所へ行くんや。」

そんな会話をしていると絵里が駆けてきた。


「お父さ~ん。」

走って来た絵里は父からヘルメットを受け取ってシートに座った。


「ほな、行こか?みんな昼飯は?何か食うか?」


「「「「は~い!」」」」

絵里パパのハーレーを先頭に5台のバイクは走り出した。


絵里パパの奢りで遠慮しているか、今日の理恵は少食だ。

ラーメンも炒飯も特盛なだけで2杯目までは行かない。

もっとも、絵里パパに連れられて来た『桃龍閣(とうりゅうかく)』の特盛は

『地獄盛り』とも呼ばれ、フードファイターでも完食は厳しいのだが。


「え?大島のおじさんと同級生なんですか?」


「そうや。でも、長い間会ってないで。あいつの両親の葬式以来やな。」

葬儀の時、無表情だった友人の顔を思い出し、理恵パパは

表情を曇らせた。

「その後、仕事は無くすわ、彼女も亡くすわで大変やったらしいな。」


「あのおっちゃんがね~。」


「子供が出来て、結婚するってところやったからな・・・。」

夢中で食べ続ける理恵を除いた4人は何も言えなくなってしまった。


「まぁ、あいつが何も言わんなら、聞かんで良い事や。」


「もう入らん~。」理恵の前には空の器が・・・。

フードファイターでも苦戦するはずのラーメンと炒飯が完食されていた。


「ほな、腹も膨れたし、バイク取りに行こうか。」

支払いを終え、5台のバイクは大島サイクルへ走り始めた。


◆     ◆     ◆

「納車準備完了。あとは引き渡しだけやな。」

今回の予算は厳しかったが何とか形になった。

出来上がったリトルカブを見ていると楽しい気分になる。


今日もドコドコドンドンとアメリカンバイクのエンジン音が聞こえる。

国道161号線からだ。道の駅安曇河に寄っているのだろう。


不整脈の様な不規則で止まりそうで止まらないハーレーの鼓動。

嫌いではないが、あまり大人数では来てほしくない。


・・・ドコドコした音が近付いてくる。


ハーレーを先頭に5台のバイクが大島サイクル前に停まった。


「おっちゃん。こんにちは~。」

ハーレーのタンデムシートから挨拶してくるのは絵里ちゃんだ。

となると、ハーレーに乗ってるのは親父さんかな?


「よう。久しぶり。」

ヘルメットを脱ぐと懐かしい顔が出て来た。

「これ、私のお父さんです。」


平成初期。高嶋高校生徒の間で流行った国道161と県道24号線を

使った自転車レース。

大中小トリオと呼ばれた3人組の1人、中島 宏和(なかじまひろかず)が目の前にいる。


「宏和、久しぶり。あの時以来やな。」


友人との再会を喜ぶ大島。だが、『あの時』といった瞬間に

少しだけ表情が曇ったのを速人は見逃さなかった。


「そうやな。まぁ、昔話は置いといて、先に娘の方を頼む。」

「OK。まぁ見てくれ。可愛いぞ。」


皆をリトルカブの前に案内する。


エンジンと駆動系は丸ごとカブ70に載せ替え。14インチのカブ70と

思ってくれたら良い。ミッションは3速。消耗品は全交換。

絵里ちゃんの希望通り、荷台にはボックス。


「うん。悪くない。70ってところが良いな。」

「やろ?振動が少なく、パワーが有り過ぎない。初心者の通学用。」


「やれやれ。『湖岸のツインターボ』らしくない優しいバイクやな。」

「やかましい。『161のブラックバード』って呼ぶぞ。」


「おっちゃん。お父さん。みんなと出掛けていい?」

「おう。行って来い。」

「気を付けてね。1週間したらにオイル交換に来てな。」


「うん!」絵里たちの乗る5台のミニバイクは元気良く走って行った。


「さてと、久しぶりに話でもするか。(あたる)ちゃん。コーヒーな。」

「相変わらずミルクと砂糖タップリか?」


コーヒーを飲みながら近況を報告し合う。


「俺な、婿養子に行って名字が変わってん。今は西川や。」

それは知らなかった。


「絵里ちゃんな、どこかで会った気がしてたんや。似てるわ。」


「中。お前、今も独身か? もう振り切っても良いと思うけどな。」


痛いところを突いてきやがる。


「・・・・仕事が女房。寂しくなんか無ぇよ・・・なんてな。」


「そうか。じゃあ、商売の話や。バイク代の6万。確認してくれ。」

「まいどあり。」


封筒には6万円。何故だろう。


「泥が付いている。」


「この方が盛り上がるやろ?」


「俺は受け取るからな。自転車屋やからな」


北海道を舞台にしたドラマなら『大事に取っとけ!』と返すところだが

残念な事にここは滋賀県。湖の国だ。


領主書を渡し、しばらくどうでも良い話をしてから

今度、飯でも食いに行こうと約束して宏和は帰っていった。


同級生の子供がバイクに乗る歳とは・・・少し老け込んだ気分で店を閉めた。



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