絵里のリトルカブ
フィクションです。登場する人物・団体等は架空の存在です。
実在する人物・団体等とは無関係です。
店内でカチャカチャとラチェットレンチの音が響く。
今日はリトルカブを組んでいく。
車体は汚いけれど欠品は無い。故障らしい故障と言えばキックが降りない事。
中がどうなっているか分からないがエンジンは分解整備が必須だ。
エンジンを積みかえて洗車でもすれば乗れる。そんな状態だった。
だが、登録に必要な書類が無かった。
再打刻済みの新品フレームはあるが、それを使うには
予算が少なすぎる。予算は6万円。
結局、ジャンク書類付き車のフレームと2個1だ。
エンジンを交換してタイヤ・バッテリー・細々した部品・・・。
消耗品は交換しておく方が良いし、工賃も貰わないと商売が成り立たない。
儲けに走り過ぎると信用を無くす結果となりかねない。
難しいところだ。
午前中でリトルカブはほぼ形になった。
理恵の希望はカバンが入るボックス。フロントキャリアも付けるが
耐荷重は3㎏とシールが貼ってある。あまり実用的と思えない。
バイク用のボックスは予算の都合で使えない。
ここは実用性を重視することにする。
リトルカブの可愛らしい荷台ではなくて、プレスカブの荷台と
ホームセンターで売っているボックスを使う事にした。
遠出するカブ乗りには多く使われている手段の様だ。
とはいえ、キャンプに出る訳じゃないから比較的小型の物にする。
作業のめどが付いたので休憩していると葛城さんがやって来た。
「わぁ。可愛い♡」
「可愛いやろ? 乗る女の子も可愛らしい娘やで。
今日はどないしたんですか?」
「今日はお買い物です。ご飯の材料を買いに。」
まぁココアでもと作業を中断して世間話をする。
「へぇ~。磯部さんと晩ご飯を食べにですか。」
磯部さんの連絡先を伝えた後、葛城さんは連絡先を彼女に教えて
連絡を取り合っているそうだ。休みが合えば買い物に行ったり、
食事やツーリングに行ったりして親睦を深めているらしい。
「やっぱり、女性同士は気を使わないから気楽ですね。」
嬉しそうに話す葛城さん。今日もイケメンだ。
葛城さんのフェロモンに惹かれてだろうか。奥様方が
集まり始めた。今日もお茶菓子に困らない。
何となく『受け』『攻め』と聞こえた気がするが
気にしない事にする。
夕方になって葛城さんと葛城ファンクラブ(仮)の帰った後に
絵里ちゃんが様子を見にやって来た。
「わぁ~。ピカピカや~。」
うん。ワックスをかけたからね。
「あ、荷台の箱・・・お父さんと一緒や~。」
ホームセンターで売ってるボックス。多分同じ店で買ったのだろう。
スマホでリトルカブと一緒に記念撮影。SNSに投稿するそうだ。
「今週中に乗れますかぁ?」
「明日にでも登録に行くで。土曜の午後には乗れるようになるで。」
土曜に来ますと言って、絵里ちゃんは自転車に乗って帰っていった。
今日は休んだのか店を開けたのか解らない一日だった。
シャッターを閉めて明かりを消して電源を落とす。
冷凍しておいたご飯を解凍しながら鶏肉の味付けと野菜を炒める。
食事の方付けの後、風呂に入り、しばらく修理書を読んでから眠る。
大島の夜は静かに過ぎるのであった。
『リトルカブに70が在ればこんな感じ?』が絵里のリトルカブです。
大島は忘れていますが、葛城は女性です。イケメン女子(笑)