安曇河町のバイク店
自転車屋のオジサンと話をしていて思いつきました。
初めての投稿です。つたない文章ですがよろしくお願いします。
※この作品はフィクションであり、登場する人物・地名・施設・団体等は架空の存在です。
実在する人物・地名・施設・団体等とは一切関係ありません
夢を見た。昔の夢だ。場所は行きつけの自転車店、大石サイクルだ。
「大島はん。買って欲しいもんが在りますのや。」
大石の爺さんがこれを言う時は何か良い品物が在るときだ。
「何やいな?まいどまいど買えへんで。失業中やのに。」
いつものように返事をすると爺さんが答えた。
普段はニコニコ話す店主が珍しく真剣な顔で
「この店ですわ。」
「店?店売るんか?僕、商売なんか解らへんで」
「商売のやり方ごと売りますわ。大島はんなら大丈夫・・・・」
大島サイクルの店主、大島 中は目を覚ました。
ここは滋賀県高嶋市安曇河町にある小さな商店街。
自転車・ミニバイク修理・販売 大島サイクル
年老いた先代から経営ノウハウごと引き継いだ自転車店。
「儲かりはしないが真面目にやれば食っていけまっせ。」
その言葉を信じてコツコツ続けてきた。
大儲けとは無縁だが喰うには困らない程度の稼ぎはある。
商店街の連中は「石が島になった。名前は大きなったな!」
などと言って受け入れてくれた。
名前はともかく店は大きくなっていないが。
昔と違い自転車も価値が下がり儲からなくなった。
それでも修理は入って来るし、止めるわけにはいかない。
店名はサイクルだがミニバイク修理もする。
下手すればミニバイク修理の方が多いくらいかな?
その中でもホンダが多い。
店舗裏に在る自宅の新聞受けから新聞を取り出す。
商店街の付き合いで取っている新聞に目を通す。
「ほぅ。8月でホンダモンキーが終了か。」
ホンダモンキー・スーパーカブ・・・ホンダ横型エンジン。
大島サイクルの主力商品である。
大島サイクルでは普通の修理以外にもチューニングをする。
基本的に純正流用のみ。社外品はどうしても使わなければならない時のみ。
そんな温いチューンで良いのかって?
案外求められているらしい。
バイク通学OKの高校が在るからだろう。
山岳地帯のある高嶋市。50ccでは通学するのに辛いと
125㏄まで良しとされたのは随分昔の話だ。
食うに困らない程度の仕事があり、多少の儲けも有る。
仕事の合間にコーヒーを飲むゆとりがある程度の忙しさ。
大石の爺さんが言っていた。
「心に余裕がない仕事は続きまへんで。」
しみじみと感じながらカブのエンジンをバラし始める。
高嶋市は雪が積もる。元からの住民は自分で除雪する。
だが、この十数年の間に移り住んできた新興住宅の住民は
やたらめったらに路面凍結で市役所にクレームを入れる様だ。
道路に大量に塩カルが蒔かれるようになった。
車体が錆びて買い替えるカブが増えた。
(被害をこうむるのは根っからの地元民ばかりなり・・・)
フレームが錆びて廃車になったカブを何台葬っただろう。
今思えば貴重な物が有ったのかもしれないが。
結局、錆びにくいアルミで出来たエンジンばかりが残った。
これを一工夫して売ると良い商売になる。
「これをモンキー用に・・・」
そんな事を考えながら作業していると時間が経ち夕方に。
夕焼けの中、ボコボコと排気音が近づいてくる。
お?誰か来たみたいだ。
高嶋市安曇河町は滋賀県西北部に在る架空の街です。
高嶋町・安曇河町・真旭町
朽樹村・今都町・蒔野町
が合併して市になったという設定。
旧今都町が市の中心になろうと必死・・・という設定です。
安曇河町
比較的のんびりした町。特産物は竹製品。
扇骨・茶器・筆の他にB級グルメの鶏の味付けが名物。
新しく通った国道161号線バイパス沿いにショッピングセンターが移転。
賑やかになりつつある。
あくまでも架空の街・設定です。