プロローグ
部活帰りの帰り道、すっかり日も暮れていて、薄暗い街灯がチカチカと辺りを照らしている。
「いやぁ、今日は長引いちゃいましたねぇ」
疲れ切った調子で話しているのは、立花先輩だ。もともと、ぼんやりとしている人だけど、疲れからかいつにもまして、ぼんやりとしているようだ。
「ホント、へとへとですよ」
そう言って先輩の方を向いて返事をすると、石に躓いた。慌ててバランスをとる。
「うわっ!とっとっと……」
「大丈夫ですかぁ?」
立花先輩が心配そうに覗き込んでくる。照れくさくなって視線を逸らしてしまった。
「ハハ……、ホントついてないなぁ……」
「元気出して下さい、いいこときっとありますよぉ」
「はい、ありがとうございます……」
先輩は、いいことがあるなんて言うけど、俺の経験上そうは思えなかった。なぜなら、物心がついたときから、とにかくツイてない人生を送っているからだ。昔は、俺の不注意だと言われていたが、それだけではないと思う。たとえば、スマホを便所に落としたり、石ころに躓くのは俺の不注意も原因なのだろう。しかし、これまでにあった交通事故や落石事故は俺の意志ではどうにもできないではないか。
自分の不幸っぷりを思い出して、少しへこんでしまう。先輩は小さい紙袋をカバンから取り出し、
「そうだぁ!これあげちゃいますぅ」
とソレを俺に手渡してくれた。
「ありがとうございます。これ、なんですか?」
「帰ったら、開けてみてくださいねぇ。とっても効くって有名なんですからぁ」
「効くんですか……」
「はい、効いちゃいますぅ」
駅に着いた。先輩とは路線が違うので、ここでお別れだ。
「お疲れ様でした先輩」
「うん、また明日ねぇ、刈谷クン。気をつけて帰って下さいねぇ」
「はい、また明日」
電車に乗る先輩に手を振って見送った。電車が来るまで15分ほどある。そうだ、先輩がくれたものを確認しよう。紙袋を開けると、貝殻で作られたアクセサリーが入っていた。付属の台紙には、お守りであると書いてあった。学業から恋愛まで、なんでも祈願してくれるらしい。
「欲張りなお守りだなぁ」
先輩らしいチョイスなのかな。日ごろから、コケたり、ぶつかっている俺のことを気遣ってくれたのだろう。お返しは何がいいかな。
なんて考えていると電車がきた。電車に乗ると何かを踏んづけた。
「ん?」
足元がすくわれ、後ろに倒れる。頭を床に思い切り打ち付けた。それっきり俺の体は動かなくなった。意識が徐々に遠のいていく。見開いたままの眼で誰もいない社内に黄色い果物の皮を見た。