登場人物説明
少女篇4までに登場した人物の、少女篇4までに判明していることを記載しています。
【主人公+最重要人物】
楊珪己:少女篇1~
本小説の主人公である少女。
現在十六歳。
八歳のときに自宅を武人に襲撃され、そこで自分以外、母や家人全てを殺害された。これを楊武襲撃事変という。その時の経験で鬼や暗闇、狭いところが苦手である。
事変の後、強くなりたいと鄭古亥の道場で武芸を学びだす。少なくともこの国の首都・開陽で武芸を学ぶ女人は現在、珪己しかいない。
そのため皇帝の一人娘である菊花護衛の任を受けこの初春に一時宮城に入った(詳しくは少女篇1参照)。これにより李侑生や袁仁威、さらには皇族の青年らとまで親密になる。
このときの功績により武挙を受けることなく武官となることを認められている。が、まだ正式な武官とはなっていない。
琵琶が得意で、少女篇4ではにわか楽士として宮城内で催された宴で腕前を披露した。が、その席で芯国の重臣、もとい王子に見初められてしまう。
この申し出を退けるために、急きょ、宮城内の後宮に身をひそめることとなっている。
楊玄徳:少女篇1~
楊珪己の父親であり文官。
枢密院長官である枢密使を務める。
四十歳前後。
武に通じず枢密院長官となった官吏は楊玄徳が初である。当然優秀、しかし基本的には優しく娘想いの父親である。
李侑生と袁仁威、二人の青年とは楊武襲撃事変で深いつながりを持つ。事変では首謀者である武官に捕まり一時殺害される直前の状態に追い込まれた。
李侑生:少女篇1~
楊玄徳の部下、枢密使の副官である枢密副使にある文官。
二十四歳。
楊武襲撃事変の前までは武官であり、袁仁威の同期であった。事変をきっかけに楊玄徳のために生きることを選び、武官を辞し科挙を受け首席『天子門正』で文官となる。
ただ、当の楊玄徳からは「そろそろ自分のために生きなさい」と諭されており、今後について今も変わらず悩んでいるありさまだ。
文官一の出世頭かつ美形ときて女性に人気がある。ただ、雰囲気は柔らかいが、愛すらも任務のために利用する冷徹な一面を持つ。少女篇1にはじまり少女篇3まで楊珪己の恋人のふりを継続していた。
少女篇2の最終場面では、楊珪己と剣をあわせることで、自分にとってのこの八年間、唯一の喜びが楊珪己にあったことに思い至り、衝動的に口づけをし、そして逃げだしてしまう。
少女篇3では悩みに悩み、楊玄徳を優先すること、そのために珪己への恋をあきらめることを決意していた。が、少女篇4では楊玄徳の支えもあって、一転、愛を告白しようとする。しかし当の珪己に信じてもらうことができなかった。
袁仁威:少女篇1~
筋骨逞しい武官であり近衛軍第一隊の隊長。
二十四歳。
楊武襲撃事変を機に、侑生とは逆に武官の道をまい進し部下の育成に尽力する。その結果、部下に思い慕われる上司となり、かつ、この若さで最強の武官が集う第一隊の隊長の任を拝している。
事変後、一時期、李清照の愛を利用して空虚を埋めていた。約一か月後には清照の元を去るが、その後八年間もの長い間自分に一途な愛を注ぐ清照を無視していた。今でも清照を動かした愛について恐れを抱いている。そのため、事変以降は女性との関係は持っていないようである。
だが特に仕事の面では誠実で実直。男装し正体を伏せていた楊珪己を、最初は生意気と感じ剣で向かいあったこともある。
少女篇2、3まで、部下である楊珪己のために早朝の稽古に付き合い、かつ朝晩の送り迎えまで請け負っていた。それゆえ二人の間の距離が縮まる。だが少女篇3では楊珪己が自分との過去の繋がり、事変による接点について気づいてしまいそうになり、それを防ぐために楊珪己に口づけ、そこから故意に距離を置いている。
少女篇4では珪己とどう接するべきか悩みつつも、張温忠の訴えを聞き、珪己を芯国人の男から護ると己に誓った。
【皇族】
趙英龍:少女篇1~
湖国の現皇帝。第三皇帝であり今年で即位十年になる。
年号は貴青。
三十歳。
後宮に三人の妃を持っていたが、現在は二人しかいない(少女篇1参照)。
幼いころは後宮に住んでおり、現在の妃の一人である胡麗と仲良くしていた。その縁で麗が無理やり妃に据えられ、かつ抱いて子を宿させたこと、出産で体を壊したこと、といった自身の行いを後悔していた。が、楊珪己の助言もあってようやく和解した。
以上の一面以外は基本的には皇帝らしい皇帝である。
しかし少女篇2では菊花の激情、そして愛情に振り回され、親としての自分をうまくとらえきれていない部分もあった。それを心配した異母弟・龍崇から「妃を迎えたらどうか」と提案される(少女篇3参照)。
少女篇3では琵琶を弾く楊珪己と初春の後宮以来久方ぶりの再会を果たし、少女篇4では珪己との語らいの中に皇帝として生きる道をあらためて考えさせられた。
趙龍崇:少女篇1~
趙英龍の異母弟。
齢は二十代後半。
華殿(宮城内にある皇帝・皇族・妃・子供らの住まう殿)を統率する。
常に黒一色の衣を身にまとっているので黒太子と称されている。
その衣の色のせいだけではなく、まとう雰囲気は夜の仕事に就く者のようだ、と楊珪己に指摘されたことがある。
実際、人を抱くことや抱かれることを愛の行為とは思っていない。
また、名のない母から生まれた庶子であることも分かっている。
少女篇2、3では官吏補として働く楊珪己のもとを何度かひそかに訪れている。
少女篇4からは英龍と心を通わせることのできる珪己を、英龍の妃にしようと画策している。
菊花:少女篇1~
現皇帝の血をひく唯一の子、姫。
七歳。
年齢らしい無邪気で素直な心と好奇心を持つ。虫が好き。交流のない両親に心を痛め、母親のために自身の存在を消そうとしていた。が、楊珪己と出会い考え方を改める。顔も知らない父へ手紙を書き、結果、無事家族は和解するに至った。
少女篇2では楊珪己と文通をはじめ、それがきっかけで本を読むようになる。愛馬・梅花を父から与えられる。が、喜びもつかの間、自分は後宮から出ることはかなわないのだと気づき絶望する。
少女篇3では楊珪己からの助言を受け、女官らや両親に自分の気持ちを打ち明けた。それをきっかけにこのたび初の公務、初の外出が実現されたばかり(少女篇4参照)。
【文官:枢密院】
呉隼平:少女篇3~
李侑生の枢密院事。
三十歳近い。
枢密院事とは枢密副使直下の部下であり、枢密院内における緋袍の官吏の最高位である。
大柄な体格で率直、いつも笑顔を絶やさない青年。
元は浮浪児であったが、呉坊という女僧に拾われてからは寺で生活していた。
良季に誘われたことで勉学の道を志し、同年に科挙に合格し官吏となった。
高良季:少女篇3~
隼平と同じく李侑生の枢密院事。
隼平と同い年でかつ同時期に枢密院事となった。
思慮深いさまは仕事時における玄徳に通じるものがある。
良季の母が隼平の恩人である呉坊を殺害したことから、隼平に対して深い罪悪感を抱いている。
段亨明:少女篇3~
枢密副使。
李侑生よりも年上。
先日の朝議で過労により倒れることがあったように、線の細い印象のある男である。
【武官+元武官】
鄭古亥:少女篇1~
楊珪己の通う道場の師匠。
老齢。
かつては近衛軍をまとめる将軍であり、楊武襲撃事変で絶体絶命の楊玄徳、李侑生、袁仁威を救った。
が、そのために自身の部下の多くをその手で殺め、その責任と後悔から武官を辞する。
生きる道が見つからないとき、楊玄徳から誘われ、楊家の隣の古民家で道場を開き今に至る。
だが、ここ数年は弟子へ稽古をつけるのが面倒になり、楊珪己や浩托に師匠代理を任せている。
その武から逃げている本当の理由は、少女篇2では袁仁威が、少女篇4では芯国の王子・イムルが暴いた。
郭駿来:少女篇2~4
近衛軍将軍。
年は五十近い。
いわゆる体で部下と語り合うような体育会系な肉体派。
少女篇2では部下である袁仁威の様子を気にかけ、自信を失くしかけたときに励ましている。
少女篇3では苦悩する袁仁威と拳で会話を試みた。
だがいまだ改善のきざしのない仁威に、少女篇4でもめげずに語りかけている。
皇帝・趙英龍の武芸の指南役でもある。
【文官:中書省】
柳公蘭:少女篇2~
文政をまとめる中書省の長官、中書令を務める女官吏。
五十歳前後。
李侑生と同じく『天子門正』である。
怜悧で頭脳明晰な点は李侑生にも通じるところがあるが、人を従える際の気迫や、朝議の場で皇族にもひるむことなく立ち向かうその夜叉のような姿はこの女性唯一のものだろう。
楊珪己を官吏補として宮城に呼び寄せたのは柳公蘭の発案による。湖国初の女武官を育てることはこの国の女をさらに活躍させ国力を増強させると考え、まずは女官吏のいる中書省で預かることとした。が、朝議の場では、芯国との調印式で武に通じる楊珪己を使ってみたい、と、別の理由を述べている。
馬祥歌:少女篇2~
中書省にある五部の一つ、礼部で外交を担当する侍郎。
年は三十半ば。
生真面目な風貌そのとおりの、紫袍の女官吏である。非常にせっかち。
官吏補となった楊珪己の直属の上司となる。
袁仁威に明瞭な恋心を抱いてしまうが、少女篇4では冷たい態度をとられている。
またこのとき、同じく礼部の官吏補である張温忠の不審な点について仁威に伝えている。
李侑生の姉である清照とは犬猿の仲である(少女篇2参照)。
張温忠:少女篇2~
礼部の官吏補として働く楊珪己の同僚。
垂れ目、二十歳。
科挙の試験勉強をしながら働いている。芯国が好きで、それもあって外交を担当する礼部で働く官吏になることを将来の目標としている。
左腕を負傷していたため、彼の代理として楊珪己は礼部の力仕事を任されていた。先日までは芯国との調印式取りまとめに関する雑務に精を出していた(少女篇4参照)。
少女篇4では旧知の芯国王子・イムルが珪己のことを欲しがっていることを知り、袁仁威のもとに助けを乞いに駆け込んだ。
自分に運命を諭した王節架、つまりセツカのことを今も愛している。
【芯国人】
アソヤク:少女篇3~
芯国大使。湖国との開国のために開陽にやってきた。非常に背が高い。
イムル:少女篇3~
アソヤクの副官の青年とは名ばかりで、正体は芯国の王子である。
アソヤクほどではないが彼も十分背が高い。しかし細身ながらも鍛えられた体を有しており武に通じている。深い青色の瞳をしている。
王美人、つまりセツカの運命論に感化され、ややすれば非常に危険な言動をとる人物である。
少女篇4の最後、珪己を得るために楊家隣の道場に押し入ってきたばかり。
【その他】
李清照:少女篇1~
李侑生の姉。
二十六歳。
年齢以上に魅惑ある体つき、雰囲気を有する。
昔から詩歌の製作が得意であったが、今は愛、特に過去の恋人であった袁仁威との愛に関する詩歌の制作に熱中している。
このたび、ようやく八年前の仁威との恋にけりをつけることができた。と思ったら、少女篇2以降もまた袁仁威に未練があるようなそぶりを見せている。
今も袁仁威への思いをつづった詩集を鋭意製作中。それを少女篇2で幼馴染の馬祥歌にからかわれ、酒楼で本気のけんかになった。
少女篇1では登城前の楊珪己に化粧や女性としての立ち振る舞いの最低限を教授し、少女篇4では珪己の恋の相談相手にもなっている。
楊珪己のことは弟のつてを頼って開陽にやってきた田舎貴族の娘だと思っている。弟が珪己のことを大切にしていないように思えて、恋人同士だと信じているこの二人が別れてしまうことを勝手に心配している。
江春:少女篇1~3
後宮の女官長。
特に菊花付筆頭であり、少女篇1で姫を救ってくれた楊珪己に対して尊敬の念を持っている。
金昭儀:少女篇1
少女篇1では姓が金であることしか分かっていない。妃の位は昭儀。
胡麗、王美人と同時期に妃となった三人のうちの一人。
王美人と同様に冷遇されてきたことしか少女篇1では分かっていない。
王美人:少女篇1、4~
少女篇1では姓が王であることしか分かっていなかったが、本名を王節架という。
湖国最南端、海南州の大貴族の娘で、少女時代、共に過ごしたイムルや張温忠と親しく過ごした。その際、「運命の片割れともいうべき己の半身がこの世にはいて、見つけることができたら人は幸せになれるのだ」という独自の運命論を二人に授ける。
皇帝・趙英龍のもとに嫁ぐために開陽に入る。妃の位が美人だった。
英龍に運命を感じていたが報われることなく、苦節十年、最終的に自決した(少女篇1参照)。
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(少女篇5では登場しない人物)
胡麗:少女篇1~4
現皇帝・趙英龍の妃の一人で淑妃、今の後宮内で最も位の高い妃である。
後宮勤めの女官が名もない官吏との間に成した子で、麗は生まれてこの方、一度も後宮から出たことがない。幼い頃は英龍と二人で後宮から逃げ出す夢物語を語り合っていた。
妃となった当初は低位の才人であった。が、子を成し淑妃となる。
産褥悪く出産後は寝台から出ることができない体となっている。
菊花のことも理解できず親らしくふるまうことができないでいたが、楊珪己の活躍により解決の糸口をつかむ。
少女篇2以降は夫である趙英龍と娘・菊花の関係を見守っている。
趙龍顕:少女篇3、4
湖国の楽士養成学校・楽院の院長。
壮年の男性
母を亡くした後、楊珪己はこの壮年の男性から琵琶を習っている。
その名のとおりれっきとした皇族の一員であるが、指導は非常に厳しい。
少女篇4では宴の場で楊珪己が芯国人に見初められたときにかばう言動をしている。
周定莉:少女篇1~4
楊珪己が宮城にいる期間、同じ新人武官として共に稽古の相手をした少年。
十四歳。
背丈は楊珪己と同じくらいで、そのため袁仁威によって組み合わせられた。楊珪己に体術の初歩を教える。
少女篇2、そして3では、すでに武官としての生活になじんでいる様子が分かる。
少女篇4では正式な武官となりさっそく初任務に邁進していた。
蔡蘭:少女篇1
楊玄徳の妻であり、楊珪己の母。
楊武襲撃事変で武官の手にかかり殺害された。
琵琶が得意で楊珪己にその基礎を伝授した。
蘇籐固:少女篇2、3
中書省にある五部の一つ、礼部の長である尚書。
年は六十近い。
見るからに文官といった、筋肉のない小柄で華奢な体格と風貌を有する。
基本的には中庸な性格で、時と場合によっては部下の馬祥歌よりも腰が低くなる。
果鈴:少女篇1
王美人の侍女であった女官。
王美人に心酔しており、知らなかったとはいえ武芸の心得のある珪己に力技を挑み、珪己を捉えることに成功した。皇帝の前でも珪己に武器を突きつける気概がある。
芯国の商人から教わったという新聞を製作し後宮内の女官に見せて喜ぶ一面を持っていた。
春燕:少女篇4
宮城内にて働く舞踊手。
宴を前にし緊張した珪己に話しかけ、身支度を手伝った。