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『 骨折り損の草臥れ儲け 』

「盗賊退治?」


 酔狂が、何故そんな事になったのかと訊くと、


「あのね、フラウちゃんに訊いたんだけど――」


 もえたんの話を簡単にまとめると――


 元《MEU》プレイヤーがこれだけいるのに機体がない。ならば機体を調達すれば良い。では何所から? と考えて、盗賊など違法に機体を所持している輩がきっといるはず。そいつらから奪えば良い、という結論に至った。


 フラウに尋ねたところ、〔五常〕達ここにいる決闘機モノマキアに搭載されている動力炉を製造する事はできないが、重量級魔動甲冑ヘヴィアーマーをここの設備を使って整備、改造するのはおそらく可能だろうとの事。


 それで相談した結果、義勇団〈スクール〉は実行を決意したのだという。


「ふむ……、引率は構わないけど、そんな盗賊が何所どこにいるか知ってるのか?」

「知らない!」


 笑顔で元気に言われてしまった。


「じゃあ、クロードさん達に訊いてもらいましょう」


 ユフィが、パーティ登録している楓と【念話】してこちらの状況を伝え、行動を共にしているクロード達に訊いてもらう。


 すると、やはりそういう盗賊団やからは複数存在しているらしい。ただ、過去に出没した場所は分かっていても、


「アジトの場所は分からない、か……。まぁ、分かってたら討伐されてるよな」


 ではどうするか?


「…………」


 ユフィはしばらく沈思黙考し、導き出した結論は、


「先輩、ちょっと行って探してきて下さい」

「ん、分かった」


 可愛い嫁さんユフィがそう言うのならと文句ひとつ言わず、酔狂は【神境通】で空間を渡り、一歩踏み出したその姿が忽然と掻き消えた。


「あ、あの、ユフィさん? 盗賊と言えば商人の天敵。イザークさんに訊けば何か分かったんじゃないですか?」


 ユフィは、ラリーレナの意見に一理ある事を認めつつも首を横に振り、


「どこそこの盗賊団が壊滅させられた、という情報が広まれば、当然それを知った他の盗賊団は警戒します。そうなると、目的を達成する事が難しくなる。なので、一両日中に全ての盗賊団を壊滅させます。迅速に勝る機密保持はありませんから」

「い、一両日中に全て?」

「できると思うよ」


 マオファルファは驚きの声を上げるが、もえたんはあっさりと言い、


「先生の空間転位とあの門っていうチートな移動手段があるし、あの門があればこっちとあっちで気軽に行き来できるから、フリーデンあっちに残る事を選んだ戦力を一時的に借りる事ができるしね」


 ユフィはそれに頷いてから、


「イザークさんに訊いて、それで盗賊団が壊滅したら、私達と関連があると考えますよね? そうなったら当然、異常な移動速度に気付くでしょう。情報はどこから漏れるか分かりません。だから、切り札になり得る先輩のスキルと〔此方と彼方を結ぶ門〕の事は、可能な限り隠しておきたいんです」

「それは分かりましたけど、流石にいくら酔狂先生でも『ちょっと行って探してきて』っていうのは無理があるんじゃ……?」

「大丈夫です。たぶん、今日のお夕飯の前には盗賊団の拠点を全て見付け出して戻ってくると思いますよ」


 もえたんは、先生ならありそ~っ、と楽し気に笑い、ラリーとファルファは半信半疑といった様子だったが……


 結局、ユフィの予想は的中した。


 ファクトリーを出発した酔狂は、まず目が届く範囲での短距離空間転位を繰り返し、【自動詳細地図作成オートマッピング】で大地の裂け目グランクリフの南側の広大な領域の地図を完成させた。あとは【地図/現在地】の検索機能で重量級魔動甲冑の所在を調べれば良い。


 街道から逸れた森の中や山岳地帯……奇妙な場所に存在している機体は、盗賊団が違法に所有しているものか、あるいは何らかの事情で過去に放置されてそのまま忘れ去られたものという寸法(すんぽう)――だったのだが、


『――未発見の遺跡ッ!?』


 帰還した酔狂の話を聞きたがって集まった少女達が驚きの声を揃えた。


「おう。――で、どうする?」


 〔四阿〕の縁側に、よっこいしょ、と腰かけた酔狂が問うと、


「それは何について言ってるんですか?」


 ユフィが、お盆に乗せて持ってきた冷えた麦茶を差し出しながら訊き返す。その回答は、


「当初予定していた通り盗賊団を襲撃して機体を奪うか、手付かずの遺跡から持ってくるか」


 すぐに義勇団〈スクール〉の主要メンバーが招集されて話し合いを――


「――おぉ~いっ、晩御飯できたぞぉ――~っ!」


 本日の食事当番の呼び声が響き、話し合いはご飯を食べてからという事になった。




 そして、食後。


 主要メンバーが話し合いを始める一方で、酔狂は日課の夜稽古の前にファクトリー内の工場へおもむき、空いているスペースに、道具鞄からではなく、能力アビリティ【亜空間収納】・技術スキル【無限収納】で、亜空間に収納していた今日方々で回収してきた分――重量級魔動甲冑一一機と、ついでに拾ってきた中量級魔動甲冑ミドルアーマー一九機を取り出して並べる。


 すると、〈スクール〉の整備班がわらわら集まってきて、


「SDだッ!」

「SDがあるッ!」


 何故か、ミドルアーマーのほうが人気を集めていた。


「うわぁ~、こりゃひどい」

「どこの粗大ゴミ置き場から拾ってきたの?」


 中量級、重量級共にそう言われても仕方ない程ボロボロで、どれ一つとして五体満足なものはない。だが、どれも非常に貴重なはずの制御中枢と動力炉が残っている。


 戦争や盗賊団の襲撃など、人間によって撃破されたものなら当然勝者や盗賊によって回収されているはず。という事は、おそらく、モンスターの襲撃を受けて全滅し、そのまま行方不明になっている機体だろう。


 果たして彼らは、巡回中の機操騎士団か、隊商の護衛団か、はたまた悪運尽きた盗賊団か……


 ――何はともあれ。


「へぇー、ヘヴィアーマーこっちは単座なんだ」


 仰向けのヘヴィアーマーによじ登り、操縦席コックピットを覗き込んでいた整備班の班長『金剛地こんごうち 真希奈まきな』が振り返って、


「じゃあ先生、取れるもん取っちゃうね」


 そうじゃないかなぁ、とは思っていたが、やはり修復は不可能、というか、考える余地すらないらしい。


 酔狂は、後を任せて踵を返し、


「じゃあ、ちょっと行ってみるか」


 そう、当然のようについてきていたユフィをさそう。すると、


「はい、お供します」


 行き先も訊かずに頷いた。


 危険はないと思うが万が一に備え、今回は行くのが自分達だけなので、二人は久々に『ムサシ』と『エウフェミア』の装備で身支度を整え、既に一緒に行くつもりでいた妖精竜フェアリードラゴンのフィーは、ムサシの肩の上にちょこんと乗り、敬虔なる猟犬パイアスハウンドのアルジェは小型犬サイズまで縮んでミアに抱っこされる。そして、


「わっ!? せ、先輩?」


 ムサシは、ミアの膝の裏をすくうように小柄で華奢なエルフを軽々とお姫様抱っこし、


「外は夜だし、地下の遺跡の中はもっと真っ暗だからな」


 ミアは頬をほんのり桜色に染めて、はい、とムサシに身を委ねた。


 〔屠龍刀・必滅之法〕と鉢金を除いた〔戦極侍の戦装束〕を始めとする装備一式を身に纏ったムサシは、【神境通】を使って空間を渡る。


 まず一歩目でこの地の人々にまだ発見されていない遺跡の真上へ空間転位し、その場で【天眼通】の遠視、透視、暗視を駆使して地下にある遺跡内の空洞を見付けると、二歩目でそこへ。


「着いたぞ」

「本当にあっという間ですね」


 ムサシは言うまでもなく、召喚獣であるアルジェとフィーも闇の中で不自由を感じる事はない。そこで、〔妖精女王の勝負服ティターニアドレス〕を始めとした装備一式を身に付けているミアは、この場に存在する闇の精霊に心の中で乞い願いいのり、暗視の力を授けてもらった。


 遺跡内は、中心部の他に幾つかの区画が今も当時の姿を留めているものの、それ以外のほとんどの場所は、老朽化した天井や壁が破れて雪崩れ込んできた土砂で埋もれている。


 そんな中を並んで歩く酔狂達が苦も無く移動できるのは、最上級の精霊使いであるミアの願いに応えて、地の精霊が――岩のように固まっていた土砂がまるで巨大なスライムのように流動して道を開けてくれるからだ。


 その道中、


「先輩」

「ん?」

「盗賊のアジトを探しに行った時、ついでにアイオーンも見てきたんじゃないですか?」

「おう」

「強そうでしたか?」


 ムサシは、どうだろうな、と首を傾げ、


「とにかくデカかったな」

「じゃあ、大型相手の定石セオリー通り、内部へ突入する事になりそうですか?」

「そうなるかもしれないし、そうはならないかもしれない」


 隣を歩くミアは、ムサシの横顔を窺いながら、


「……私達は、勝てそうですか?」

「さぁ? どうだろうな」

「勝てる、とは言ってくれないんですか?」


 ミアがそう尋ねると、ムサシは、ん~――…、と上向いてどう言ったものか思案し、


「『敵を知り己を知れば百戦危うからず』って格言には続きがある、って大先生おおせんせいが話してくれたの、覚えてるか?」

「はい。正確な言回いいまわしは覚えてないんですけど、確か、どちらかを知っていてどちらかを知らなければ勝率は五分、どちらも知らなければ勝てる訳が……」

「そういう事だ。俺達は敵の事を知らず、自分達の戦力も把握できてない。こんな状態で『勝てる』なんて言える訳ないだろ?」

「先輩がいても、ですか?」


 そう言われてミアのほうを見ると、眉尻を下げた不安そうな表情でこちらを見上げてきていて……


「あぁ~……、俺の嫁さん、可愛いなぁ~」


 ムサシがしみじみ言うと、ミアは、ふぇっ!? と妙な声を漏らして頬を赤らめ、


「も、もうっ! 脈絡もなく何なんですか急にッ!?」

「何って、そう思ったから言っただけで他意はない」


 それを聞くと長耳まで真っ赤にして、


「いや、『思ったから言った』じゃなくて、『思わず口をついて出た』だな。言わないだけで常々思ってはいるんだぞ? ただ、今は俺達だけで他の誰にも聞かれないし、本当に――」

「――もういいですぅッ!」


 にやにや顔が緩んでいるという自覚があるミアは、侍の妻らしからぬそのだらしのない顔を隠すためにムサシの前から逃げ出して背後へ回り込み、


「何してるんだ?」

「今はこっち見ないで下さいッ!」


 両手で陣羽織を掴んで額をその背中に押し付けた。




 精神が乱れた状態では精霊術が使えず立ち往生していたムサシ一行だったが、ミアがようやく落ち着きを取り戻したので移動を再開し、


「それで、先輩がいても『勝てる』って断言できないんですか?」

「おう。まぁ、手段を選ばなくて良いなら瞬殺なんだけどな」

「魔神クラスのアイオーンを瞬殺って、どんな方法ですか?」

「例えば、万魔殿パンデモニウムを一刀両断した【超時空次元断】。これならアイオーンも真っ二つにできると思う」


 ただ、とムサシは続け、


「これな、まだ自在に使いこなせないんだ。で、動作補正システムアシストありだと勝手に躰が動いて上段からの斬り下ろしからたけわりになるんだけど、アイオーンが地面にめり込んだ状態で使ったら、たぶんこの惑星ほしも真っ二つになる」


 それを聞いたミアは、しばらくの間絶句した。


「……余波でこの世界を滅ぼしてしまうような方法が他にもあるんですか?」

「パンデモニウムを吹っ飛ばした〔アルマゲドン〕は機械のアイオーンと相性が悪いから、使うなら〔太陽の封印球〕なんだけど、ゲームじゃなくてリアルなこの世界で、比喩じゃなく、ポンッ、と太陽が地上に出現したら、アイオーンが消滅するだけじゃすまないだろうな」


 ミアは思わず足を止め、ひどい頭痛を堪えるように目許を押さえた。


 ムサシは、そんな嫁さんの頭に、ぽんっ、と手を置いて撫でてから、


「アイオーンを倒しても、この世界が終わったり、生き物が棲めない土地になったりしたら元も子もないだろ? で、兄者や姉上に怒られる心配がない方法に限って、余計な事にわずらわされず集中して戦えるよう一人で臨むと、たぶん長期戦になる。そうなると、やっぱり疲れ知らずの機械のほうが有利だ」

「……やっぱり、先輩にとって『仲間』は邪魔な存在なんですね……。巻き込まないよう気を使って、手段も行動も制限されるから」


 ムサシは、そう言って悄然と俯く大切な仲間ミアの頭を撫でながら、


「知ってるだろ? 俺が、連携やら何やら、自分と敵以外の事に気を使いながら戦うのが苦手だって。俺が〈セブンブレイド〉にいられるのは、ひとえに兄者が上手く使ってくれるからだ」


 それでパーティ戦の経験を積んだが故に、今では多少ましになったと自負している。だからこそ、


「ミア達を邪魔だと思った事は一度もないぞ。時々煩わしいとは思うけど」

「……それ、慰めようと思って言ってます?」

「いや、事実を言っただけで他意はない」


 何故かミアが重いため息をついているが、割とよくある事なので、まぁいいか、と気にしない事にする。


 ――何はともあれ。


 ムサシはミアの力を借りて、雪崩れ込んできた土砂にそのフロアの隅へ押し流されたと思しき一塊になっていたヘヴィアーマー一二機と、土砂が入り込んでいなかった区画でハンガーに固定されていたヘヴィアーマー三機を【無限収納】で亜空間に収納し、ファクトリーへ帰る前に最寄りの盗賊のアジトへ寄り道して悪党が不法に所持していたヘヴィアーマー一機をこっそり頂戴した。


 ファクトリーに帰還すると、小一時間ほど留守にしていた間に人が増えており、精力的に働く金剛地班長を筆頭とした整備班の他に、暇なドライバー候補者達や、作業を監督しているのかフラウの姿まである。


 ムサシとミアは、装備を変更して『酔狂』と『ユフィ』に戻り、


「班長、フラウ、ちょっとこっちのを見てくれ」


 そう言って酔狂が二人に見せたのは、並べて置いた三機のヘヴィアーマー。どれも原形を留めており、右から順に、長く土砂に埋まってきた機体、埋まっていなかった機体、盗賊団から頂戴してきた現役の機体。


「おぉ~いッ! ――全員集合ッ!!」


 金剛地班長の掛け声で整備班全員が集合し、その三機の調査を開始。フラウは整備班に混じって盗賊から頂戴した機体を調べ始め…………およそ五分後。


「結論から言うと、右の二つはダメ。どっちもなんか化石みたいになってて使い物にならない」


 金剛地班長はそう調査結果を報告し、


「これが現代の技術力で復元された機体だなんて……」


 現役の機体を調べていたフラウは、それ以上言葉を続けられないほど科学技術の衰退具合に愕然とした。


 ――何はともあれ。


 こうして、盗賊団を襲撃して機体を奪っても、手付かずの遺跡から持ってきても、結局、動力炉など取れるものを取ってそれを搭載する機体を一から作らねばならないという事が分かった。


「それなら、もう盗賊団を襲撃したり、遺跡から発掘したりする必要ないんじゃないですか?」


 そう言ったユフィに促されて、回収してきた分を全て亜空間から取り出して並べる酔狂。先に出してあったものに加えて数えてみると、中量級魔動甲冑が一九機、重量級魔動甲冑にいたっては二七機もある。


「それに、複座のモノマキアが五機あったはずだから……うん、必要ないね。ドライバー希望者、そんなにいないよ」

「そうなのか? まぁ、足りないより良いだろ」


 この時、酔狂は、手間が省けたと喜んでもらえるだろうと思っていた。しかし……


 金剛地班長の指示で、この事を伝えるために整備班の一人が話し合いをしている主要メンバーの許へ。そして、


『先セェ――――~ッ!!』


 酔狂は、予想に反して、盗賊団襲撃派と手付かずの遺跡発掘派の両方からせっかくやる気になっていたのにといった非難の声を浴びせられ、それでようやく〔此方と彼方を結ぶ門〕の時のてつを踏んでしまったらしいと気付き、


(やっぱり女心は分からん!)


 心の底からそう思い、余計な事は二度とすまいと心に誓ってその場から全力で逃げ出した。

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