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『 〝ジェーン〟の面影 』

「【先輩、アルジェが近付いてくる集団を感知しました】」

「【分かった。すぐ行く】」


 【念話】での呼びかけに応え、〔壺公の壺こうぼう〕でアイテム製作を行なっていたムサシは、壺の中の小世界と外の世界の出入口であるほこらを介さず【神境通】で壺の外へ。


 空間転位したのは〔四阿あずまや〕の結界の外側。


 〔四阿〕は、木の風合いを生かした和風の建築物で、金属の釘を1本も使わず加工した木材を嵌め込み組み合わせて造られており、四本の磨き上げられた太い丸太の柱が屋根を支え、板張りの床は高く、腰掛けられる縁側があり、今は四方にかけられた御簾みすが床まで降りていて中の様子が窺えないようになっている。


 正面には上がりやすいよう横に広い階段があり、右手側の縁側に短い〔渡り廊下〕で連結されているのが〔かわや〕、左手側に連結されているのが〔湯殿ゆどの〕。


 そして、〔四阿〕の四方の軒下には灯籠とうろうが吊られており、今は光量が絞られてほのかな鬼火のようだが、〔四阿〕の存在を知らぬ者には認識できない【幻惑】と、無意識に避けて通らせる【人払い】の効果がある明かりが灯っている。


 ――それはさておき。


 番犬の役割を果たしてくれた神獣のアルジェをワシャワシャ撫でて感謝の意を表しつつ、情報量を絞って広範囲を【天耳通】で探る。すると、夜の森の中でおいかけっこをしている集団を発見した。


 そこで【天眼通】を併用して状況を確認すると……


「逃げてる男女五人を、野郎共が追ってるみたいだな」

「旅人と盗賊ですか?」


 聞こえるように言ったのに対して御簾の向こうから返ってきたミアの声に、


「ん~……、なんかそんな感じじゃないな」

「先輩の印象を聞かせて下さい」

「軍の脱走兵と追跡部隊。軍服は着てないけど、どっちも同じ訓練を受けた者の走り方だ。四人が脱走した理由は、一人の女の子を逃がすため、ってところかな」

「じゃあ、ただの捕り物という訳じゃ……」

「ないだろうな。まぁ、あくまで俺の見立てが正しかった場合は、だけど」

『助けましょう!』

「まぁ、このまま見て見ぬ振りってのも気分悪いし――」


 そう言いつつ、ムサシは〔破戒僧の作務衣〕から装備を換装し、一瞬にして〔黄昏を征く者の外衣ローブ〕を纏い仕込み杖〔アデプトスタッフ〕を携えた【錬丹術師】の酔狂へ変身して、


「――行ってみるか」

「ちょっ、ちょっと待って下さいッ!」

「も、もう少し……ッ!」

「あとちょっと……ッ!」


 出端を挫かれた酔狂ムサシは、はぁ~、とため息をつき、四方の御簾を下ろした〔四阿〕の中で着替えている乙女達に向かって、


「お風呂に入って、綺麗なパジャマに着替えて、綺麗なお布団で寝たい、って気持ちは分かるけどさ、三人の装備には自浄能力があるんだから、やっぱり野営してる時はパジャマに着替えるのやめたら?」

『うぅ~……』


 それぞれ心の中で葛藤が生じているらしいかすかな唸り声は聞こえてきたものの、結局、芳しい答えは返ってこなかった。




 夜の森の中は、自分が今、目を開けているのか閉じているのかすら分からないほどの濃密な闇で染め上げられている。


 そんな闇を見通すにはスキルの【暗視】だけでは足りない。それではせいぜい三メートル先の人物の顔が確認できる程度。


 だが、酔狂は【天眼通】で、間違いなく世界最高峰の精霊使いであるミアが自分と姉妹に【闇】の精霊術を施して闇を味方につけた事で、四人の目には、森の中を走る四つの集団が見えていた。風体はどれも武器を所持し防具を纏った傭兵のようだが……


 その内の一つは逃走者達。彼らは懐中電灯のようなライトで、前方や足元を照らしながら走っている。


 もう一つは逃走者を後ろから真っ直ぐに追う、追跡者の大きな集団。彼らも前方や自分達の足元をライトで照らしながら走っているのだが、それに加えてサーチライトのように逃走者達を照らし、意図的に自分達の存在を意識させようとしている。


 あとの二つは、追跡する側の小集団。発掘品らしい暗視装置を装着しており、三人一組で気配を消し逃走者達の左右斜め後ろから追走している。


 酔狂達がいるのは、帝都と一つ前の宿場町を結ぶ裏街道のほぼ中間。一車線分ほどの踏み固められただけの道から外れた人目につかない森の中で野営しており、逃走者達が今のまま真っ直ぐ進むと、酔狂達の二〇メートルほど前を通過して裏街道に出る。


「まるで狼の狩りだな」

『狼の狩り?』


 鸚鵡返しに訊いてくる……


「なぁ、今どっち?」

『どっち?』

「俺は今『酔狂すいきょう』」


 あぁ、と質問の意味を理解したらしい双子の姉妹は、


「『かえで』です」

「『もみじ』です」

「やっぱり、見た目で分かるように、名前だけじゃなくて装備も変えたほうが良いと思う」


 巴御前と静御前の装備のまま名前だけ変えている二人は、今そんな事言われても、といった表情で顔を見合わせてから、あっ、と声を揃えて〔隠者の眼鏡ハーミットグラス〕を掛けた。


「いや、それだけじゃなくて。ミアもだぞ?」

「今は『ユフィ』です」


 これ着てるでしょ、と言わんばかりに纏っている〔ミラージュマント〕をひらひら振ってみせるエウフェミアユフィ


 ――何はともあれ。


「狼の狩りってさ、群れで獲物が疲れて動けなるまで延々と追い続けるんだ」

『なるほど』

「あの追っ手は、無理に追いつこうとはせずプレッシャーを掛け続けて」

「あの人達が、逃げ切れないなら、って覚悟を決めるのを待ってるんだね」

「そのつもりで追っている側と、ただ必死に逃げている側では、疲労の度合いが大きく違うはず。だから、その時が彼らの……」

「今更言っても詮のない事だと承知の上であえて言うけど、さっき俺が行こうとした時にすぐ動いてたら、逃げる側にもっと気力と体力が残ってたし、まだ距離が開いていたから、追う側をちょいと脇からつついて足を止めてやればそのまま逃げ切ってたと――あっ、ほら、足止めちゃったよ」

『…………』

「女の子のパジャマ姿って好きだけどさ、やっぱり野営してる時は何があるか分からないんだから――」

「――今はそんなこと話している場合じゃないと思いますッ!」


 ユフィはそう言って駆け出し、アルジェとフィーは非在化して契約者を護衛する。それを追うように姉妹も駆け出して、酔狂は、はぁ~、と軽くため息をついてから何故か耳まで赤くなっていた乙女らを追いかけ、追いついて、あっと言う間に追い抜いた。




 逃走者達が、ここは俺に任せて先に行けッ! お前を置いて行ける訳ないだろッ! というやり取りを真剣にやっているその間も追跡者達は迫っており――


「――それって視野狭いよな」

「――~ッッ!?」


 突如闇の中から聞こえてきた男の声に反応し、咄嗟に振り返って身構えた――その瞬間、三人が装着していた暗視装置だけが間髪入れず切断されて地面に落ち、まず一組が闇の中に放り出された。


 そっぽを向かれていては斬り難いし、動いている所を斬るのも難しい。


 それ故に、一声掛ける。


 声を掛けられた男達は、声が聞こえてきた方へ振り向き、身構えた瞬間、動きを止める。


 自分のほうを向いていて止まっている対象を斬るのは、実に容易い。


 抜き放たれた仕込み杖〔アデプトスタッフ〕の刃が闇に閃き、瞬時に暗視装置を斬断し、ついでに一人が手にしている毒矢を番えたクロスボウも斬っておく。


 それからさほど間を空けず、もう一組の三人も声を掛けられて振り向いた直後、ほぼ同時に暗視装置を、内一人は弩までも破壊され、闇の中で必死に目を凝らし、耳を澄ませて気配を窺うも襲撃者の存在を捉える事ができなかった。


 その頃、まだ別働隊二組の異変に気付いていない追跡者の本隊は、自分達の前を横切るように飛来し、カッ、と響く快音に驚き、木に突き刺さった一本の矢を見て足を止め、


「何者だッ!?」


 誰何の声が上がり、一斉に剣、ナイフ、クロスボウを構え、数名が手にしているライトで周囲を照らして矢を放った者を捜す。だが見付からず、


「……チッ、――照明弾ッ!」


 舌打ちの後に放たれた指示で、二名が空に向かって照明弾を発射し、二つともった化学反応の明かりが夜の森の闇を払う。


 矢が飛来した方向には既に射手の姿はなく――逃走者達と追跡者達のほぼ中間、追跡者達から見て右手側の森の中に、メガネをかけた二人とフードを目深に被っている者が一人、計三名の女性を発見した。その内の一人は弓を手にしている。


 ユフィ、楓、椛だ。そして――


「――俺達は旅をしている者だ」


 逃走者達と追跡者達は、その声を聞くまで誰もその存在に気付かなかったらしい。声の主の姿を求めて一同の視線が一斉に移動し、追跡者達から見て左手側の森の中へ。するとそこには、ローブを纏ってフードを目深に被った男の姿が。


 刃を納めた仕込み杖アデプトスタッフを左手で携えている酔狂だ。


「旅人だと? ならば、その旅人がこんな夜の森の中で何をしている?」


 最前列に進み出てそう問いを放ったのは追跡者側。誰何の声を上げた男とは別の、照明弾を撃つよう指示した男。


「何、って……」


 そう言いつつ歩を進めた酔狂は、逃走者達を背に庇うように追跡者達の前に立ちはだかり、飄々とのたまった。


「彼らを助けようとしている」


 気色ばむ追跡者達の中で、その男だけは冷静に、


「何故だ?」

「決めているんだ。事情が分からず、殺そうとしている者と殺されそうになっている者がいたら、とりあえず殺されそうになっている者を助ける、と」

「何故だ?」

「死んだ人間をよみがえらせる事はできない。けれど、生きている人間を殺すのは簡単だからな」


 その発言に、逃走者達と追跡者達、その双方に少なくない動揺と緊張が奔り――ホー、と夜の森の中で梟が鳴き、ホー、と応じるようにもう一羽が鳴く。


「とりあえず助け、それが誤りだと判ったら始末すれば良い、か……」

「結局はそうなったとしても、見て見ぬ振りをし、助けられたのに助けなかった事を後悔し続けるよりは良い」

「助けた事を後悔し続ける事になるかもしれない、とは考えないのか?」

「確かに、そうなるかもしれない。けれど、そうはならないかもしれない」


 それから酔狂は、どうする? と選択を迫り、その男は…………部下に退却を命じた。


「隊長ッ!?」


 その決断は、逃走者達と追跡者達、その両方を驚かせ、部下から困惑の声が上がる。


 しかし、隊長と呼ばれたその男は、酔狂の後ろの逃走者達に一瞥くれてから踵を返し、


「名前を聞いておこうか」

「名乗る程の者じゃない」


 フンッ、と鼻を鳴らし、来た方向へ引き返して行った。




「何故ですか隊長ッ!?」


 食って掛かった声の主は、誰何した者。


「『梟』がやられた」


 これは、隊長と呼ばれていた者の声。


「梟が?」


 誰何した者の後で聞こえてきた覚えのない声は、あの別働隊の誰かだろう。報告するついでに破壊された暗視装置を手渡したようだ。


「闇の中で暗視装置を装備したお前達以上に、か……。見てみろ」

「これは……、なんだこの切断面は? いったい何で斬ったらこんな……」

「男だったんだな?」

「はい。姿は確認できませんでしたが、先程の奴の声で間違いありません」

「という事は、これを切断したのは風の魔術?」


 俺はそんなもの使えないぞ、などと思いながら二人の会話に耳を傾けていると、


「急ぎ閣下に報告を」


 それは、傍らで控えていた通信兵か伝令に向けたものだろう。その後、


「『蛇』を放て」


 その命令に対して、了解、と返事した声は、あの誰何した者のもの。


 『蛇』とは、やはり『暗殺者』や『刺客』を示す隠語なのだろうか?


 それに、『閣下』とは?


 放たれる蛇の数や、閣下とやらの名前が出てこないかと期待していると――


「――先輩?」

「――――ッ」


 自分を呼ぶミアの声で、数百メートル先からいっきに意識を引き戻された。


 それから慌てて二人の声を聴き取ろうとするが、他の者達の会話、装備同士が触れ合って立てる音、足音、衣擦れ…………などなど雑音が多過ぎて二人の声に絞り込めない。


 集中して彼らの足音を頼りに追い続けていたため距離が開いても捕捉できていたが、やはり、聖徳太子の逸話にあるような複数人の会話を同時に聴き取ったり、その中から必要なものだけを抽出したりといった芸当はまだ無理だった。


 しかも、耳を澄ます時に自然と目を瞑ってしまうのと同じ様に、【天耳通】に集中し過ぎると【天眼通】が閉じてしまい会話を聞く事しかできない。


「ひょっとして、邪魔しちゃいましたか?」

「いや、己の未熟さを再認識できて良かった」


 追跡部隊の姿は既に森の闇に消えており、申し訳なさそうに眉をハの字にする可愛い嫁さんの頭を撫でて、にっ、と笑いかけ、それから用件を聞く。


「彼らが」


 側にはミア、楓、椛の姿があり、そう言って振り向くユフィの視線を追うと、そこには逃走者達の姿が。


「お助け頂きありがとうございました」


 五人は横一列に並んで姿勢を正し、リーダーらしき青年が言うと、全員が揃って頭を下げた。


「どういたしまして」


 ちゃんと『ありがとう』が言える彼らを好ましく思い、酔狂とユフィはフードを脱ぎ、こちらも並んで礼を返す。四人とも武道を嗜むだけあって流石に姿勢がよく、五人の内、何らかの訓練を受けていると思しき四人は軽く目を見張った。


 ちなみに、イーストエンドを越えてから精霊族を見ていないが、やはり珍しいらしい。五人はフードを脱いだユフィを見て驚いていた。


 その後、まずリーダーらしい赤みがかった金髪の青年が『クロード』と名乗り、それから仲間達を紹介する。


 伸ばしている最中と思しき中途半端な長さの明るい金髪に怜悧な美貌の女性――『ビアンカ』。


 茶に近い金髪を短く刈り込んだ一番体格が良い青年――『ロビン』。


 帽子の鍔を後ろ向きに被り首にゴーグルを提げている青年――『アイザック』。


 全員、歳は酔狂達と同年代で、無駄なく鍛え上げられ絞り込まれた軍人の身体つきをしている。正体を隠すためか、マント、衣服、革製の防具、長剣、ナイフなど、どれもありきたりなものだが、唯一、ビアンカが隠すように腰の後ろに佩いている小剣だけは、秘宝級の一品だった。


 そして、一人だけ毛色の違う小柄な美少女の名は『ミスティ』。彼女だけは武装しておらず、三つ編みにされた長い水色の髪は精霊族ウンディーネを彷彿とさせるが、耳の形は真人族と同じで――


「…………」


 酔狂ムサシその可憐な美貌に、ファティマの隠れ里で亡くなった〝ジェーン〟の面影を見た。


 気にはなる。もし他人の空似ではなく関係者なら、自分達がこの世界にいる理由や、この世界は何なのかといった重要な事が判るかもしれない。


 だが、酔狂は内心で、まぁいいか、と呟いた。


 今はそれよりも――実際にそんな方法が存在するのかはさておき――兄者と姉上を〔ティンクトラの記憶〕から復活させる事のほうが先決だ。


 酔狂がそんな事を考えつつ【追跡】のマーカーをミスティにつけている間に、彼らが名前だけの簡単な紹介だったのでそれに倣い、パーティリーダーであるユフィが自ら名乗ってから、楓、椛、酔狂、それに顕在化したアルジェとフィーを紹介する。案の定、彼らは忽然と姿を現した召喚獣達の存在に驚いていた。


 ――それはさておき。


「俺達はすぐそこで野営してるんだ。お前さん達も一緒にどうかな?」


 酔狂がそう誘うと、クロード達よりもユフィ達のほうが驚いていて……


「ありがとうございます。ですが、そのお気持ちだけで十分です。これ以上お世話になる訳には……」


 クロードの辞退の言葉が途切れたのは、酔狂が上げた手の掌を相手に向ける『待て』のジェスチャーで止めたから。


「――『蛇』を放て」

『――ッ!?』

「そうさっきの隊長さんが言っていたんだけど、それがどういう意味か……分かるみたいだな」


 顔色を変えたクロード、ビアンカ、ロビン、アイザックに、『蛇』とやらについて尋ねてみると案の定。


「おそらく、特殊な訓練を受けた暗殺者の事だと思います」


 実際に見た事はないが、そういう汚い仕事を専門に請負う部隊が存在するという噂を聞いた事があるとの事。


「俺達の陣営には【幻惑】と【人払い】の結界がある。だから、招かれざる者は近付く事もできない。故に安全だ。お前さんだって、これから降り懸かる難儀に備えて今日はゆっくり休んだほうが良いと思うだろ?」

「それは……、ですが……」

「俺達の事を妖しいと思うなら、しっかり疑ってくれて良いぞ」


 クロード達はその発言に、えッ!? と面食らい、


「先輩、どうしてそういう事を言うんですか?」

「いや、だって、信じてるんだか信じてないんだか判らないより、しっかり疑ってくれたほうが気楽だろ?」

「そんなの先輩だけです」


 ユフィは、はぁ~~、とため息をつき、姉妹は顔を見合わせて苦笑する。


 そして、酔狂は困惑顔を見合わせているクロード達に向かって、


「俺は、お前さん達に信じてもらいたい訳でも好きになってもらいたい訳でもない。俺が、お前さん達みたいにちゃんと『ありがとう』って言える奴らが好きなんだ」


 そう言って、にっ、と笑い、もう一度誘う。


 それで心動かされたクロード達は相談し……


「では、お言葉に甘えさせて頂きます」

「おう」


 追跡部隊が撃ち上げた照明弾の明かりが消え、森の中に夜の闇が戻ってきた。


 野営地へ戻る一行は、酔狂達が先導し、クロード達が後に続く。彼らが自分達の足元をライトで照らしていたので、後続が自分達を見失わないよう、椛が法術の【照明】で光の球体を自分達とクロード達の上に浮かべた。


 その道中――


「先輩、良かったんですか?」

「いいよ。予備があるから」

「予備?」

「一通り渡した後、予備を作っておいたんだ」

「あっ、いえ、そうではなくて……」

『見られてしまっても構わないんですか?』

「〔四阿〕とか」

「〔厠〕とか」


 確かに、世を忍ぶためには特殊な道具マジックアイテムを所有している事は隠しておいたほうが良いだろう。だが、


「いいよ。どの道、俺の嫁さんと仲間達は、助けた人達がずっと走り通しで疲れ果てていたら、そのまま放っておく事なんてできなかっただろうしな」


 なんせ、ユフィミアは人見知りの気はあるものの心根が優しく、姉妹は、窮地に陥っている人々がいると知った途端、迷わず『助けましょう!』と言い出したほど仁義に厚い。自分が言い出さなければ、彼女達のほうからそうする許しを求めてきたはずだ。


 だろ? と問うと、三人は困ったようにはにかんだ。


 日々成長する乙女達は、いずれ必ず化け物と呼ばれる域に至るだろう。例えそうなっても、この可愛らしさを失わないでほしいと願わずにはいられない。


 ――何はともあれ。


「俺の背中だけを見てついてきてくれ」


 野営地が近付いた所で、娘三人とアルジェ、フィーを先に行かせ、酔狂がクロード達を先導する。そして――


「もう良いぞ」


 彼らの目には、唐突に出現したように見えたのだろう。そう告げられて酔狂の背中から前方へ視線を向けた途端、クロード達は野営という言葉からはとても想像できない和風の建築物を目の当たりにして驚きの声を上げた。

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