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『 世を忍ぶ仮の名は 』

「ん~――…、まぁいいか」


 装備は、ランクが上がれば上がるほど独特な雰囲気を帯びる、または、見映えが良くなっていく。剣も、鎧も、そして、ローブもまた然り。


 選ぶのが面倒になったムサシは、所有するものの中で一番地味なローブにした。


 〔名刀・ノサダ〕と〔屠龍刀・必滅之法〕、それに〔戦極侍の戦装束〕の籠手と脛当てと陣羽織を道具鞄に収納し、袖と袴の裾を手甲と脚絆で纏めた黒を基調とした着物の上に、フードがあり、丈は踝に届き、袖口が広く、飾り気はないが落ち着きとそこはかとない風格がある〔黄昏を征く者の外衣ローブ〕を纏う。すると、和風というより東洋風の出で立ちに。


 〔仙忍せんにん草鞋わらじ〕と〔神猿まさる印籠いんろう〕といった装身具アクセサリー、それに右手人差し指に嵌めた指環〔フォースナイフ〕と左腰斜め前の脇差〔妖刀・殺生丸〕はそのままに、道具鞄から新たに取り出した得物は、仕込み杖〔アデプトスタッフ〕。


 【長剣】系と【太刀】系の武術スキルを使用する事ができる【不滅】の固有ユニークアイテムで、長さは1メートル程。先端の補強と柄頭に象嵌された直径1センチほどの紫紺の宝玉の台座に銀色の金属が使われている以外は、漆塗りのような質感の黒一色のシンプルな短杖ワンド


 一見継ぎ目は見当たらないが、両手で持って力を込めれば、カチッ、とわずかな音を立てて鏡のように磨き上げられた剣身が姿を現す。薄い菱形の断面を持つ両刃の片手用直剣は、刃渡りおよそ70センチ、身幅はレイピアのように細い。


 抜けば軽過ぎる上に、刀ではない。――だが、これはこれで良いものだ。


 最後に、〔アデプトスタッフ〕を、ドスッ、と地面に突き立て、後頭部の高い位置で束ねているだけの髷を結っている紐を解き、両手で無造作に髪を掻き上げる。


「ふむ…………こんなもんで良いか」


 短杖アデプトスタッフを左手で引き抜き、自分の格好を確認していると、


「――先輩ッ!?」


 敬虔なる猟犬アルジェ妖精竜フィーを伴ったミア、それに巴と静が駆け戻ってきた。


「あれ? なんで戻ってきたんだ?」

「先輩がいつまでもこないからですッ! それにレーダーからも反応が消えていたので、巣を駆除しようと逃げたワスプの後を追って行ったのかと思って……」


 どうやら、らしくもなくずいぶん長く悩んでいたようだ。それに、レーダーに映っていないのは、〔黄昏を征く者の外衣ローブ〕に〝気〟を込めて覚醒させた際に発動した【認識阻害】など備わっている諸能力がそのままになっているからだろう。


「そういう訳じゃない。けど、戻ってきたなら……はい、これ」


 そう言ってムサシが道具鞄から取り出して三人に手渡したのは、【ステータス】にある名前を書き換える〔リネームシール〕と専用のペン。ムサシ達のように、やられたからやり返す、というのではなく、積極的にPK狩りを楽しんでいたPKKやPKが報復から逃れるために仮面と共に常用していたアイテム。


 使い方は簡単。顕微鏡のスライドガラスのような透明な板に名前を書き、表示させた【ステータス】の名前の欄に押し当てるだけ。すると、透明な板は消え、手書きの文字は自動的に他の部分と同じ書式に変換されて名前が変更され、それに連動して【ライセンス】の名前も変化する。


 名前を元に戻すなど変更するたびに必要になるので、ムサシは、定期的に知り合いの【暗殺者アサシン】に提供していたため作り溜めておいた手持ちの〔リネームシール〕を四等分し、自分の分を除いて他を三人に配った。それから、


「あと、これな」


 そう言って三人にそれぞれ手渡したのは、道具鞄から取り出した別々の本。


「これって……ッ!?」


 ミアと静は手にした〔秘伝極意書〕を、巴は〔秘伝奥義書〕を、それぞれ前に自分で選んだアイテムを見て目を見開き、ムサシは何を驚いているのかと不思議そうに首を傾げて、


「約束しただろ? 【体内霊力制御】か【体外霊気操作】を会得したと言って良い段階に至ったら、そのお祝いにプレゼントするって」

「でも、私は、ムサシくんに預けてもらった矢で射ただけだから……」


 ミアは【技能】に頼らず精霊術を行使した。巴は一刀両断とはいかなかったが、大薙刀に〝気〟を通してティターンカッチュウカミキリの脚を切断し、過不足のない見事な【練気】で法術を行使して技後硬直を回避して見せた。


 そんな二人に対して、静は、確かに一見した限りでは自ら言った通り。だが、


「もう一度言うけど、約束は、【体内霊力制御】か【体外霊気操作】を会得したと言って良い段階に至ったら、だ。【練気】や技や術を上手く使えたら、じゃない」


 ムサシはそう言って三人を見回してから、にっ、と笑い、


「ミアも、巴も、静も、よどみない〝気〟の循環を維持したままちゃんと戦えてたぞ」


 三人は、喜びと照れが等分と言った感じではにかみ、姿勢を正し感謝の言葉を述べて頭を下げた。それから、それらはただ単純に〝気〟を込めれば取得・修得できるものではないため、今は大切そうに魔法鞄にしまう。


 今後は、基本の更なる習熟と共に、その特殊能力アビリティと特殊技術スキルの取得・修得が修行の課題となるだろう。


 ――それはさておき。


 ムサシ達は〔リネームシール〕を使って【ステータス】にある名前を変更する。


 偽名は既に決まっていて、ミアは『エウフェミア』の読み方を『ユーフェミア』に変えて略して『ユフィ』。双子の美人姉妹は、青紫の髪の巴が『かえで』で、赤紫色の髪の静が『もみじ』。ムサシは、響きが東洋の医者っぽくこういう事が嫌いじゃない物好きなので『酔狂』。


 これらの名前を考えたのはムサシで、『エウフェミア』という名前を言祝ぐ命あねうえにつけてもらったミアがムサシに名前を考えてほしいと頼み、それなら私達もと姉妹が願い、じゃあ、と特に迷う事もなく決めた。


 ちなみに、アルジェとフィーの名前はそのまま。当初は変更するつもりだったのだが、召喚獣である二体にとって名前は大切な契約の証。それ故に、アルジェとフィーがそれを拒んだためそうなった。


 ――何はともあれ。


 ムサシ、ミア、巴、静は〔リネームシール〕を使って名前を変更し、


「じゃあ、行ってみるか」


 酔狂、ユフィ、楓、椛は、アルジェ、フィーと共に、まだ停車した場所から動いていない隊商キャラバンのトレーラーに向かって歩き出した。




「やっぱり、カッコイイな」


 格好は良くないけど、という部分は口にせず、酔狂はSDスーパー・デフォルメの機動戦士に近い、全長3メートル超の人型ロボットをしげしげと眺め……


「――先輩ッ!」


 呼び方が同じなら名前変えた意味ないじゃん、と思いつつも口には出さず振り返ると、こちらに向かってくるユフィ、アルジェ、フィー、楓、椛、それと壮年男性二名の姿が。


 どうやらアルジェが匂いを頼りに皆をここまで導いてきたらしい。テッテッテッテッ、と一足先に駆けてきたアルジェをしゃがんで撫でている内にミア達が側までやってきて、


「一言もなく忽然といなくならないで下さいッ!」


 怒られた。そして、仲間達の側を離れた理由を問われ、


「俺は何もしてないのに一緒に感謝されるのはおかしいだろ?」


 そう思ったからこそ、代表者と思しき彼らが近付いてきて感謝を述べ始めた段階で三人の側を離れ、トレーラーの護衛と警戒のために待機している二機の内の片方を観賞していたのだ。


 ちなみに、他の四機は現在、ティターンカッチュウカミキリとテンセイオニヤンマの素材を得るための解体作業に加わっており、クレーンやフォークリフトの代わりに重機として活躍している。


「熱心に眺めていたようだが、そんなにこの中量級魔動甲冑ミドルアーマーが珍しいか?」


 そう訊いたのは、一見地味だが金属で要所を補強した秘宝級の革鎧を装備している傭兵風の男。


「あぁ、こんなの初めて見たよ」


 それを聞いた壮年男性二人は、初めて? と怪訝そうにしてはいたが、酔狂達の素性を詮索しようとはしなかった。


 ――何はともあれ。


 専属護衛団三番隊の隊長だという鎧姿の男性は『ジャネロ』と名乗り、もう一人の仕立てのしっかりとした旅装にマントを纏った壮年男性は、『イザーク』と名乗ってからこの隊商キャラバンの団長を務めている者だと自己紹介した。


 そして、酔狂ムサシ達も世を忍ぶ仮の名を名乗ると案の定、是非とも助けてもらったお礼がしたいという話になり、本来なら遠慮したいところだが今回は情報収集が目的なのでそれを受け、護衛を兼ねて最寄りの町まで乗せてもらう事に。


 放った矢の回収し、ワスプを討伐した証となる部位の収集し、素材の剥ぎ取りは後にして大雑把に解体したティターンカッチュウカミキリとテンセイオニヤンマを分散させてトレーラーに積み込む。そして、素材にならない不要な部分を火炎系法術スキルで焼却処分した後、六機の中量級魔動甲冑を格納し、隊商キャラバンは最寄りの町――『ヴェロス』へ向かって出発した。




 隊商キャラバンが使う付随車トレーラーには二つのタイプがある。


 一つは、商品や商売道具、乗員とその手荷物などを運ぶための一般的な貨客車輌。


 もう一つは、後部が中量級魔動甲冑の格納庫になっている特殊車輌。


 隊商を構成する九台の内、中央の三台が前者で、前後の三台、計六台が後者。


 アルジェは非在化し、肩にフィーを乗せたユフィ、楓、椛が乗り込んだのは、前方から四台目。隊商の女性メンバー専用の貨客車輌で、一階が貨物入れトランク、二階が居住空間キャビンになっている。


 酔狂が乗り込んだのは前方から三台目の特殊車輌。後部が中量級魔動甲冑の格納庫になっており、あとのおよそ半分がメゾネット式の居住空間キャビンになっている。


 そして、そのどちらも、限られた空間を有効に使う工夫が随所に見られ、外からの見た目よりも中はずいぶん広く感じられた。


 ――何はともあれ。


 酔狂が乗り込んだ特殊車輌には、当然の事ながら客人以外にも隊商メンバーが乗っていて、気さくに話しかけてきた。根掘り葉掘り詮索されるような事はなかったが、ごく自然な流れで、どこから来たのか、とか、どんな旅をしてきたのか、という話しになり、


「イーストエンドの向こう側からッ!?」

「あの大樹海を越えてきたってッ!?」

「おいおい、あんた達は相当腕が立つって話だが、流石に冗談だろ?」


 『イーストエンド』とは、酔狂ムサシ達が越えてきたまるで巨大な壁のように大峻嶺が連なる山脈の事。その向こう側を知る者はおろか、その裾野から広がる『大樹海』の奥を目指して生還した者すら一人もいない事から、こちらではそう呼ばれているらしい。


「なぁ、誰か『エルドランド』っていう古代の都市の場所を知ってる人、または、知ってるっていう人を知ってる人はいないか?」


 酔狂も答えてばかりではない。敬語は無用だと言うので遠慮なくそう訊くと、エルドランドがアルトス教団の聖地だという事は知っているようだが、芳しい回答は得られなかった。


 ただ、東に大山脈イーストエンドがあるように、北上するとそこには『グランクリフ』と呼ばれる大地の裂け目があってそれ以上進む事ができない。もし、伝説のエルドランドが実在するなら、そのグランクリフの先ではないか、という話を聞く事ができた。


 それからも、酔狂が知らない事は知らないと素直に訊くからか、気のいい彼らは快く話して聞かせ、会話が弾む。


 その結果、ヴェロスの町までの道のりは驚くほど短く感じられた。




 それは、見上げた空は茜色に染まり、遠く東の空が夜に染まり始めた頃の事。


 到着したヴェロスの町は、いわゆる宿場町。


 深い堀と、泥土を突き固めて造られた高い土塁に囲まれており、隊商はトレーラーが乗ってもびくともしない頑丈な跳ね橋を渡って町に入った。


 その際、門のところに番人達の姿はあるものの、通行証や【ライセンス】を確認する事はなく、荷物の検査などもない。定期的に訪れる隊商だけではなく、誰もが当然のように素通りしている。


 それを見て酔狂は、無用心だな、と思ったが、それは早合点だった。


 検査などなく行き来できるのは全体の三分の一ほどの区画、隊商宿キャラバンサライや他の旅人をターゲットとした宿屋、道具屋などが並びいちが開かれる町の入口付近のみで、ここと住民達が暮らす区画を別ける塀にある門では、しっかりと通行証や【ライセンス】の確認と手荷物検査が行なわれていた。


 ――それはさておき。


 トレーラーの車列は真っ直ぐ高い塀で囲われた隊商宿の敷地内へ。


 宿泊施設は中庭のある二階建ての建築物で、駐車場はその裏手にあり、広い更地は九台のトレーラーが整然と駐車してもまだスペースが余っている。


「今日はここに泊まるのか」


 隊商宿はその名の通り、本来は隊商メンバーと取引のために訪れた商人以外は利用できないのだが、彼らの好意で泊めてもらえる事に。


 同乗者達と一緒にトレーラーから降りた酔狂が、思いの他綺麗な白い石造りの建物を眺めていると、


「――うぉッ!? なに? どした?」


 勢いよく駆けてきたユフィが、体当たりするように背中にしがみ付いてきた。フードを深く被っていて額をこちらの背中に押し付けているため表情は窺えず、ローブを、ギュッ、と掴んでいる両手には結構な力が篭っている。


「ふむ?」


 その様子から察するに、めちゃくちゃ恥ずかしがっているようだ。見えなくても真っ赤に染まった顔が容易に想像できる。


 酔狂が、いったい何があったのやらと首を傾げていると――


「あんたがユフィちゃんの旦那さん?」


 聞こえてきた声に振り返る。すると、そこには、こちらへ向かって歩いてくるうら若き乙女から熟女まで多くの女性達の姿が。その一団の後ろには楓と椛の姿もある。


 おそらく、ユフィ達と同じトレーラーに乗っていた隊商の女性メンバーだろう。


「あんた、見かけによらずやるじゃないか!」

「私もそんな素敵な告白されてみたいです!」

「こんないい泣かしたらただじゃおかないよッ!?」

「両足を縄で括ってトレーラーで引きずり回してやるからねッ!」


 …………などなど。


 女性陣は、言いたい放題に言いながら目を白黒させている酔狂の前を通り過ぎ、宿泊施設の中へ消えて行った。


 後に残されたのは、唖然呆然としている酔狂と、その視線から隠れるように背中にしがみ付いているユフィと、


「……どゆこと?」


 あははは……、と笑ってごまかす美人双子姉妹。


 ミアの様子や彼女達が言っていた内容から想像するに、恋バナとかガールズトークといった類に花を咲かせていた……というより、そういうのが大好物なキャラバン女性達の餌食になったとしか思えないのだが……


「ちゃんと情報収集した?」


 呆れ顔で放たれた酔狂の問いに、ユフィは、ピクッ、と躰を強張らせ、楓と椛は、サッ、と目を逸らして視線を彷徨わせた。


 ――何はともあれ。


 男衆は、貨客車輌から建物の一階にある倉庫へ荷を運んだり、特殊車輌後部の格納庫で中量級魔動甲冑ミドルアーマーの整備を行なったりと各々作業を続け、女衆は、総出で夕食の支度を始め、酔狂達は団長イザークと共に建物の中へ。


「どうか、夕食の支度が整うまで部屋でお寛ぎ下さい」


 イザークは、隊商宿に常駐している管理人に酔狂達の事を恩人だと話すと後を任せてその場で別れ、酔狂達は彼に命じられた使用人に案内されて建物一階の廊下を進む。


 内装はヨーロッパ風で、清掃が行き届いており、酔狂は異国情緒があって良い宿だと思った――が、近くに森があり、網戸がなく、換気のために窓が開け放たれていて、廊下の壁に掛けられているランプに灯が入れられているため、建物の中に結構な数の蛾やら小さな虫が入り込んでいるのを見てユフィが音をあげ、そんなエサを求めて入り込んだヤモリが壁に張り付いているのを見て姉妹が音をあげた。


「無理? 何だ無理って?」

「だ、だって蛾が、虫が、こんなにたくさん飛び回ってるんですよッ!」

『それにヤモリが……~ッ!』

「も、もし、寝ている間にベッドに潜りこんできたら……~ッ!」

「も、もし、天井から顔に落ちてきたら……~ッ!」


 三姉妹かよ、と思わず突っ込みたくなるぐらい揃って震え上がる乙女達。


 使用人の男性は困惑を露わにしていたが、酔狂は、気にしないで、と言って案内を続けてもらう。


 ロビー、食堂、井戸……各部屋にはなく共同だという便所は男女で分かれていて、中の様子を確認し、木製の椅子の座る部分を便座に変え、その下に壺が置いてあるだけのトイレが並んでいるのを見て、トイレットペーパーがない代わりに小振りな壺に棒が突っ込まれているのを見て、三人の顔から表情が消えた。


 そうして利用できる場所を一通り案内された後、一階の倉庫と隊商メンバー専用の二階へは行かないよう注意され、洗濯は有料で請負い、風呂はないので躰を洗いたいならフロントで言えばたらいとお湯を用意するとの事だった。


 そして、辿り着いたのは、本日お世話になる部屋。無用な気を利かせたのか他に部屋がなかったのか、酔狂とユフィふうふで一部屋、楓と椛で一部屋、隣り合った二部屋。


 酔狂と楓が部屋の鍵を受け取り、夕食の準備ができたら知らせてくれるというここまで案内してくれた男性に感謝を告げて別れ、部屋のドアを開けて――


『――ひッ!?』


 換気は大事だし、案内してもらっている間に別の誰かが気を利かせて部屋の中のランプを灯しておいてくれたのだろう。


 そのおかげで、というか、そのせいで、というか、ランプにブンブンパタパタ蛾や虫が群がっているのを見て三姉妹が短く悲鳴を上げた。


「この辺じゃこれが普通なんだろうな」


 ランプの明かりに照らし出され、飛び回る虫のせいでチラチラ動く影が鬱陶しい室内には、ベッド、机、下が戸棚になっているクローゼットなど最低限必要な家具が揃っている。


 そして、天井から吊るされた蚊帳かやというより投網とあみのような虫除け用ネットがベッドを覆っているのを見て酔狂がポツリと呟くと、そんな普通は認められないッ! と言わんばかりにぶんぶんと音が聞こえそうなほど首を左右に振る乙女三人。シンクロ率が更に上がっている。


 正直なところ、面倒臭ぇ~、と思いはしたが致し方ない。


「じゃあ、夕食前に何とかするか」


 そんな事はおくびにも出さず、酔狂は可愛い嫁さんと仲間達が少しでも快適な一夜を過せるようにするため、とりあえず鬱陶しい虫を駆除すべく部屋の中へと足を踏み入れた。

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