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『 格好は良くないけどカッコイイ 』

 隊商キャラバンの護衛団とワスプ亜種の群れの戦闘は、数名の怪我人を出しつつも護衛団優勢のまま終盤へ差し掛かり、まだ終わった訳ではないが、護衛団の一部はモンスターを討伐した証となる部位の収集や放った矢の回収を始めている。


 それは、そんな終わりが見えて気が緩み始めた頃の事。


 〝それ〟は、ムサシ達が越えてきた巨大樹の森のほうから、ブゥウウウゥ……~ンッ、と羽音も鬱陶しく現れた。


 一直線にトレーラーへ向かうその巨体に気付いた者達からの報告を受け、団長と思しき者が怒鳴るように指示を飛ばし、後衛の法術使い達のおよそ半数が一斉に攻撃系スキルを放つ。


 全員ではないのは、行使する法術を火系統に揃えるためだったようだ。青い空に轟音が響き渡り、束の間、爆炎が空を赤く染め上げた。そして、〝それ〟は飛ぶための薄い翅を焼かれて撃墜され、ドズゥウゥンッ、と地を揺らす。


 その細長い巨体は10トントラックほどもあり、二本の触角、六本の脚、大顎が目立つ〝それ〟の正体は――


『――ティターンカッチュウカミキリッ!?』


 《エターナル・スフィア》でも昆虫系最強クラスのモンスター。


 巴と静は思わずといった様子で声を上げ、ムシ嫌いのミアはそれがギチギチ関節を軋ませながら動いている様子を目の当たりにして蒼白になっている。


 それも無視できない存在感を発しているが、ムサシの気を引いたのは護衛団員達の動き。


 落としたティターンカッチュウカミキリに向かって行くでもなく、一部はワスプ亜種と戦いながら、そのほとんどが馬車を背に守るような位置でそれぞれ得物を構えたまま待機しており……


「お? なんか出てきた!」


 護られている中央の三台を除く、左右の三台、計六台の観光バスほどもある付随車トレーラー――その後部の扉が開き、それぞれから姿を現したのは、


「なんだありゃ?」


 一言で言えば人型ロボットだった。ただし、頭部はなく、全長は3メートル超。その体型はSDスーパー・デフォルメの機動戦士に近い。


 機械式のリフトでトレーラー後部から下ろされたそれらはたたんでいた手足を伸ばし、トレーラーの中からそれぞれ機体相応のサイズの剣と盾、大剣、斧槍などを取り出して装備し、昆虫系モンスターバグに向かって走って行くのだが、見た目から想像していた以上に速い。


「何ていうか……格好は良くないんだけどカッコイイよな」

「機巧族のPSP……じゃないみたいですね」


 ムサシの感想には同意の声が上がらず、ミアの呟きに姉妹が賛同した。


 まず見た目からして違う。それに、機巧族の特殊装備である『PSP』こと『強化外骨格兵装パワード・シンクロ・プロテクター』なら、あんなふうにドタバタ走らない。車輪で走行するか、スラスターで滑走するか、飛行ユニットを装備していれば空だって飛ぶ。


 ちなみに、牽引車トレーラーヘッドのストライカー装輪式装甲車輌ほどの車体の上に生えている頭部のない巨大な全身甲冑の上半身は、外装が異なるものの、あのロボットの上半身と同じもののように見える。やはり、あのロボットが車輌型の変形自転車に乗ってペダルを回しているのだろうか……


 ――それはさておき。


『《エターナル・スフィア》にはなかったもの……』

「という事は、彼らは異世界こちら側の……」

「じゃあ、近くにあるのは異世界こちら側の都市なのかもしれませんね」


 そんな話をしている間に、巨大バグと六機の首なし人型ロボットの戦いが始まった。


 一直線にトレーラーを目指すティターンカッチュウカミキリを、ロボット達は鶴翼の陣――中央が下がって左右が前へ出るV字型の陣形で迎え撃つ。


 先手を取ったのはロボット側。


 左右の二機ずつ計四機が、中央を迂回する形で走り出すと、正面に立ち塞がった剣と盾装備の二機、その鳩尾みぞおちに相当する位置に象嵌されているソフトボール大の球体が淡い光を帯び――初級魔術【ファイアーボール】が発動した。


 二機からバスケットボール大の火球が一発ずつ発射され、突進してくる巨大バグ、その進路上の地面に着弾して炸裂する。爆炎と衝撃波と撒き散らされた破片に襲われたティターンカッチュウカミキリは怯んで足を止め――そこへ左右から駆け込んできた四機のロボットがそれぞれの得物を別々の脚に向かって振り下ろした。ガギィイィンッ! と金属同士を打ち合わせたような甲高い音が鳴り響く。


「タゲ取りには成功したみたいですね」


 巨大バグが、標的を接近して攻撃した四機の内の一機、大剣を装備した機体へ変えたのを見てミアが言い、


『それにしても』

「随分と硬いようですね」

「やっぱり、自重を支えるために強力な【身体強化】が全体に施されてる感じなのかな?」


 御前姉妹は、自分達ならどう戦うかを想像しながら目の前で繰り広げられる戦いに目を向ける。


「……これは長期戦になりそうですね」


 ティターンカッチュウカミキリ最強の攻撃手段は、何と言っても大顎での噛み付き。突進からの体当たりや忙しなく動き続ける脚も厄介だが、その大顎にかかれば、おそらく【不滅】の武装以外は等級を問わず、もちろんあのロボットの装甲も食い破られてしまうだろう。


 六機のロボットはなかなかの連携を見せ、致命の攻撃を避けつつ上手く立ち回っている。だが、巨大バグに有効なダメージを与えられていない。


 どうやら、あの鳩尾の辺りに象嵌されている水晶玉のような球体は法術発動体で、搭乗者パイロットが法術系スキルを行使しているらしく、ただ火球を放つのみならず、武器や機体が燐光を纏っている事から察するに、属性付与エンチャントで強化しているようだ。


 それでもロボット側の攻撃は打撃・法術共に悉く分厚い外骨格に弾き返されている。


 故に、ミアは長期戦になりそうだと予想し、巴と静もそれに頷いた――が、


「――視野が狭い」


 ムサシはそう苦言を呈した。


 ミア達は、え? と声を揃えてすぐ、はっ、と視線をティターンカッチュウカミキリと六機のロボットとの戦いから、停車しているトレーラー群のほうへ。


 そちらでは残りわずかなワスプ亜種と生身の護衛団員との戦闘がまだ終わっておらず、


「もっと上」


 ムサシに言われてそこから更に視線を上げて――妙な動きをしている一匹のワスプ亜種を発見した。


「あれは……ッ!?」

『仲間を呼んでるッ!?』

「あちらさんはまだそれに気付いてないみたいだな」


 そうでなければ、あれを放ってはおかないだろうし、残りの討伐を少数に任せて他が巨大バグと仲間ロボット達の攻防を観戦していたり、モンスターを討伐した証となる部位の収集や放った矢の回収を続けていたりはしないだろう。


「それだけじゃない。レーダー使って良いぞ」


 【探知】系スキルに頼らず同じ事ができるようになる修行のため非表示にしていたが、ムサシの許可を得て三次元レーダーを視界にAR表示させる。


 有効範囲が広い【敵感知】を修得している静はすぐに、修得していない巴とミアも程なく、一目で第一波よりも多いと分かる多数の光点が近付いてきているのに気付き――その群れを追うように一際大きな光点が接近してくる事に気が付いた。


「先輩、この大きな反応は……?」


 身を潜めている森の中からではそちらを窺う事ができない。そこで、三人の視線は既に正体を察しているらしいムサシに向けられ、


「テンセイオニヤンマ、だろうな」


 昆虫系に限れば間違いなく空で最強のモンスターの名前に絶句した。


「オニヤンマは他のバグを喰う。狙ってたのはたぶんワスプだ。けど、より捕食し易い獲物が他にいたらそっちを狙うだろうな」


 モンスターや肉食の生物は、《エターナル・スフィアゲーム》だとプログラムで、この世界では本能的に、弱い個体から狙う。


 要するに、テンセイオニヤンマが狙うのは、他の六台に守られている中央の三台、そこに乗り込んでいる非戦闘員達ひとびとだろう。


 おそらく、意図的に大勢を狙っているのではない。血肉よりも霊力を求め、それを感知して襲い掛かってきたこの巨大な蟲共は、トレーラーの中で身を寄せ合っている人々を大きな一つの塊として知覚しているのだと思われる。


 案の定、テンセイオニヤンマの接近に気付いたのだろう。三次元レーダーに映る追加のワスプの群れを示す光点は散り散りになって予想されていた進路を外れたが、大きな光点はそれを追わずトレーラーのほうへ向かっている。


「お? あちらさんも気付いたみたいだぞ」


 交戦していた残りのワスプが唐突に逃げ出した事で異変を察知したのだろう――が、もう遅い。


 高速で飛来した全長20メートルを超える以外はそのまんま大きな蜻蛉オニヤンマ――テンセイオニヤンマが高度を落しつつ加速し、停車している隊商キャラバンの頭上を音速超過で通過した。その直後、衝撃波が地上を薙ぎ払う。


 機転の利く数名が放った矢や法術を、テンセイオニヤンマは高度を上げて回避した。その分だけ超音速飛行によって生じた衝撃波の影響は軽減され、巨大なトレーラーはなんとか横転する事だけはまぬがれたものの、外の護衛団員達はもれなく吹っ飛ばされて地面に叩き付けられる。幸い命を落とした者はいないようだが、一人としてすぐには起き上がれそうにない。


 六機のロボットは健在。


 Uターンしたテンセイオニヤンマが戻ってくる。


 そして、ティターンカッチュウカミキリも未だ健在。


 ロボット達は二体の巨大バグからトレーラーを護り抜かねばならない。だが、六機の連携でどうにかティターンカッチュウカミキリと拮抗し、長期戦になる事が予想されていた。しかし、例えそうでもトレーラーを放ってはおけない。戦力を分ける事になるだろう。


 そうなれば……


「じゃあ、――行ってみるか」


 これ以上様子見を続けていては手遅れになる。訊かずとも流石にこの状況でエリキシルを横取りされたなどと文句を言いはしないだろう。万が一言うようなら、言わせておけば良い。


 ムサシは、助太刀するため歩を進めながら鞘に添えた左手の親指で〔名刀・ノサダ〕の鍔を押し上げ、キンッ、と鯉口を切り、


「待って下さい!」


 ミアに呼び止められた。


「先輩、そろそろ修行で身に付けた事を実践させて下さい」

「いいよ」


 後になれば、しっかりと身に付く前に実戦に臨むと型が崩れてしまうからと戦闘を禁じていたがそろそろ良い頃合だろう、などと許可した理由を幾つか挙げられただろうが、この時即座に許可したのは、ただただ悠長に話している時間がなかったからで、


「じゃあ、ここは私達に任せて、先輩は装備を変更して下さい」

「え?」


 許可した事から話がこんな流れになるとは思いもしなかった。


 ミアは、自分の魔法鞄から〔ミラージュマント〕を取り出して羽織り、その横でアルジェが大型犬サイズから虎ほどの大きさに巨大化し、マントを羽織る際に一度離れたフィーがミアの肩に戻る。


『――先行します!』


 その一方で、御前姉妹がそう告げるなり茂みから飛び出して行った。その走行速度は、【ステータス】の補正と〝気〟の運用――【体内霊力制御】によって優に常人の域を超えている。


「先輩は名前を変えたくらいじゃダメです。その特徴的な装備と実力だけで正体がばれてしまうかもしれません。いっその事、ローブと杖とか後衛用の装備がいいと思います。そのほうが【錬丹術師】っぽいですから」


 ミアは、銀狼の背に乗りつつそう言うと、ぽんっ、と軽く叩いて合図を送り、アルジェは小柄で華奢な美少女とはいえ人一人を乗せているとは思えない軽やかさで茂みから飛び出して駆けて行き、


「えぇ~……」


 後に残されたムサシは途方に暮れたように立ち付くし…………とりあえず鯉口を切った愛刀を鞘に戻す。それから、


「奥さんの言う事を聞く、か……」


 かつて何かの折に父が言っていた『夫婦円満の秘訣』を唱え、はぁ~……、とため息をきつつ、持ち物を確認するために渋々メニューをAR表示させた。




 二機がティターンカッチュウカミキリを食い止めている間に四機でテンセイオニヤンマを討伐、または撃退し、その後に全戦力を以ってティターンカッチュウカミキリを討伐する――ロボット達を率いるリーダーの決断は早かった。


 最も敵愾心ヘイトを集めている大剣持ちとリーダー機である盾持ちの一機が巨大カミキリを引き付けている間に、四機が踵を返して倒れている生身の仲間達とトレーラーの下へ向かって走り始めた――その時、


「――義により助太刀致しますッ!!」


 戦場に、凛とした涼やかな声が響く。そして、


「――ィヤァッ!」


 一陣の風となっていっきに間合いを詰めた巴御前が、裂帛の気合と共に大薙刀〔岩盤融いわとおし〕を袈裟に振り抜いた。


 キィンッ、と澄んだ金属音が響き渡る。そして、全長3メートル超のロボットの大剣で表面をわずかに削る事しかできなかったティターンカッチュウカミキリの分厚い外骨格に覆われた図太い脚に、その半ばまで達しようかという深い傷が刻まれた。


「――くっ!」


 しかし、巴は悔しそうに一言呻くと巨大カミキリの動きに合わせて、スゥ――…、と滑るような歩法で移動しつつ、くるっ、と回転し、


「――セィヤァッ!!」


 先程を上回る裂帛の気合と共に先程と同じ場所を斬りつけ――見事に切断した。


 それで完全にティターンカッチュウカミキリの敵意は巴に向き、大顎や各関節をギチギチ鳴らしながら己の脚を斬り飛ばした忌まわしい人間に向かって躰を旋回させる。


 対する巴は、バックステップで距離を取りつつ大薙刀を左手で携え、右手で抜き放った魔導銃〔スタンボルト〕で巨大カミキリを撃つ――が、効かないのではなく、【感電】して行動不能に陥っても1秒あるかないかという時間で回復してしまう。


 だが、それは分かっていた事。ダメ元でやってみただけなので気にせず――


「【顕現せよ、――万魔を縛る雷霆の索条】ッ!」


 一瞬、巴の躰が法術スキルの発動に伴うほのかな発動光に包まれ、次の瞬間、法術発動体としての機能がある魔導銃、その銃口の前に出現した魔法陣から迸った紫電がティターンカッチュウカミキリに直撃した。


 刹那の内に幾筋にも枝分かれしてその体表面を縦横に奔り、紫電の先端が地面に触れた――その途端、紫電が有刺鉄線のような索条ワイヤーロープで編まれた網として暫定物質化し、巨大カミキリを縛り上げて地面につなぎ止める。


 ちょうどその頃、疾走から軽々と大跳躍した巨大な銀狼アルジェがトレーラーの上に着地し、その背からミアが降りた。


 そして、空中での停止状態ホバリングから発進・加速し、再度上空を通過するコースを飛来するテンセイオニヤンマに向かって、特徴的な〔龍を統べる者の杖ドラグーンロッド〕ではなく、それを愛用する以前に使っていた〔精霊の指揮杖タクト〕を構えて、


「――つるぎ持ちて集いし風の戦友よ、我が敵を切り裂け」


 【精霊術】系のスキルではなく、エウフェミアの呼びかけに風の精霊が即座に応え、高圧縮された風の刃がテンセイオニヤンマの四枚のはねを全て根本から綺麗に切り飛ばした。


 それとほぼ時を同じくして、弓の間合いでは近距離と呼べる所までティターンカッチュウカミキリに駆け寄った静御前が、無限に出現する狩股かりまたの矢ではなく、左手に携えた〔禍祓いの弓箭〕に紫紺の宝石のようなやじりの矢――〔雷霆の矢〕をつがえ即座に放つ。


 この距離ではずすはずもなく、ヅヌッ、と巨大カミキリの目玉、そのど真ん中に深々と突き刺さり――鏃に封入されていた雷霆が体内で解放され、大電流が頑強な外骨格の内側を焼き尽くす。


 命が失われた事で霊力による身体強化も失われティターンカッチュウカミキリの巨体が自重で崩れ落ちるのと、翅を全て失ったテンセイオニヤンマが地面に墜落したのはほぼ同時だった。


 二体の巨大バグが地響きを立てていた頃、ムサシが何をしていたかというと、


「あぁ~あ、終わっちゃったよ。まぁ、それはいいとして、ローブかぁ~……。杖は良いのがあるけど、ローブの良し悪しなんて分っかんねぇなぁ~……」


 幸か不幸か、杖に関しては預かり所に預けていたものの中に良いのがある。そして、ローブに関しては、絶望の森で手に入れたと思しきものが何着かあり、AR表示させたメニューの防具一覧と個々の説明欄に目を通しつつ、どれにすれば良いのかとしきりに首を捻っていた。

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