『 ムサシの二刀 』
……怨むぞムサシッ!!
……貴様に呪あれッ!!
あの男の怨嗟の声が耳に残っている。
ゾンビ共の目が、自分を見ているような気がした。
故に――
プォオォ――――――~ッ!
ムサシは、咄嗟に道具鞄から取り出したNPCの店で買える通常級アイテム――能力【挑発】・初伝技【関心を引き付ける(アピール)】と同等の効果を持つ〔角笛〕を吹き鳴らす。その音は変化した範囲の全域に響き渡った。
これで、ゾンビ共はこちらに引き付けられ、巻き込まれた人々にはこちらの意図が伝わっただろう。あとは――
「ミア」
「はい!」
「――頼っても良いかい?」
以心伝心。ミアは、束の間、眉をハの字にしたが、
「任せて下さい!」
決然とした表情で頷いてくれた。
「アルジェ!」
こちらもまた以心伝心。象ほどの大きさに変化したアルジェが地面に伏せる。
「ナナミさん、アルジェに乗って下さい!」
先に巨大なモフモフの背中に跨ったミアがナナミさんに向かって手を差し伸べ、
「静さんと巴さんも!」
そう促したのだが、
『私達は残ります』
そう声を揃えて言う御前姉妹を見るミアの目に、一瞬、羨ましそうな色が浮かんだが、
「先輩の事、よろしくお願いします」
『微力を尽して』
背にミアとナナミさんを乗せたアルジェがのっそりと立ち上がる。その頭に妖精竜がちょこんと乗っかった。
「ゾンビ共の狙いは俺みたいだから、二人はアルジェに続いて囲みを抜けて戦えない人達がこの外に出るのを援護してやってくれ」
『承知!』
地面から這い出したゾンビ共が立ち上がり、足を引きずるようにこちらへ向かってくる。長々と打合せしている時間はない。
「じゃあ、――行ってみようか」
「ウォオオオォ――――~ンッ!」
アルジェがそれに応えるかのように一声鳴いて、何かを言おうとしたミアの口から言葉が出る前に駆け出した。
きっと残る自分達の武運を祈ってくれようとしたのだろうが、それを伝えるためだけにわざわざ戻ってはこないだろう。ムサシはアルジェの背で振り返ったミアに、分かってる、と言わんばかりに頷いて見せた。
敬虔なる猟犬の主な攻撃方法は、【守護法陣】に匹敵する強力な生体力場を展開しての体当たり。
まるで草原の中に敷かれたレールの上を行く機関車のように、変化した範囲の外まで一直線にゾンビを悉く弾き飛ばして駆け抜ける。そして、そのまま地上を目指して、ナナミさんの家族の許へ向かって駆けて行った。
それを見送って満足げに頷くムサシ。
これで、最優先の目的であるナナミさんの救出は果たせたと思って良い。
御前姉妹は、アルジェが作った道をゾンビの群れが塞ぐ前に駆け抜けた。
それを見届けてもう一つ頷く。
非戦闘員の救助は、二人と武装している人達に任せておけば良いだろう。
これで、目の前の事にだけ集中できる。
ムサシはもう一度〔角笛〕を吹き鳴らしてからそれを道具鞄にしまい、腰に差した大小の二刀を抜き放った。
「ん? ――うおっ!?」
それは、大小二刀――右手で鍔のすぐ下を握る〔名刀・ノサダ〕と、左の掌で柄頭を包み込むように握る〔妖刀・殺生丸〕に〝気〟を通した時に起こった。
「なんじゃこりゃ?」
左手に違和感を覚えて目を向けると、〔妖刀・殺生丸〕の刀身から禍々しい霊気、いや、妖気と呼ぶべき質のそれが溢れ出ていて、九本の触手のように伸びて腕に絡み付いている。
(そういえば初めてか? こいつに本気で〝気〟を通したのは)
とりあえず、アァ~…、だの、ウゥ~…、だの呻きながら群がってきたゾンビ共を右手一本での【旋風切り】で木っ端のように吹き飛ばし、それから〔妖刀・殺生丸〕が何をしようとしているかを観察して……
「……お前、ひょっとして俺に憑依して躰を乗っ取ろうとしてるのか?」
〔妖刀・殺生丸〕は、粗雑級アイテム〔折れた妖刀〕と、《エターナル・スフィア》に君臨していた魔王の一角、『常闇の宮の主』こと大妖・九尾狐を倒してしまうと手に入らない、仲間達と攻略した後に単独で再度挑んだ際、長期戦の末に倒し切れず、あと少しのところで予想外にも逃走しようとしたのを阻止した事で偶然手に入れた隠しアイテム――九尾狐が変化した〔殺生石〕を主な素材として作られた脇差。
その特筆すべき特殊能力は、『モンスターを1体倒すごとに攻撃力が1上昇する』。
アイテムの説明欄には、『九尾狐の霊が、刃に掛けたものの命を喰らって力の回復を図り、復活を目論んでいるのかも……?』などという曖昧な記述がある。
「ふむ……、――良いぞ。俺より巧く、速く、たくさん斬る自信があるのなら、躰貸してやるからやって見せてくれ」
ムサシがそう言って〔妖刀・殺生丸〕を顔の前に立て、鍔を額に当てると……妖気の触手、いや、九本の尻尾はするりと刀身に引っ込んだ。
「なんだよ、謙遜してるのか? 大胆なのかと思ったら意外と慎み深い奴だなぁ」
ムサシは思わず笑みを浮かべ――さて、と呟いて思考を切り替え、
「〔妖刀・殺生丸〕の期待には応えてやりたいなぁ」
そんな事を囁きかけながらゾンビの群れに斬り込んだ。
二刀を手にしたムサシの技は、かの剣豪・宮本武蔵の二天一流のような洗練されたものではない。
二刀を効率よく運用しようとか、同時に扱おうという発想はない。
一刀で受けると同時にもう一刀で斬り捨てるといった使い方もしない。
敵に囲まれているという状況下で――
右手で斬りやすい位置にいる敵は右手の刀で斬り、
左手で斬りやすい位置にいる敵は左手の刀で斬る。
長いほうが斬りやすい距離にいる敵は大刀で斬り、
短いほうが斬りやすい距離にいる敵は脇差で斬る。
――ただそれだけ。
ゾンビの数は多いが関係ない。
一秒、または一瞬、または刹那でも構わない。古伝の歩法を用いて一対一の状況を作り出し、斬り捨てたなら即移動。そうやって一対一を延々と繰り返す。
まるで亡者の群れの中をすり抜けるかのように、重心の操法【転ばし】で、ゆらり、ふらり、とその場に居付く事なく絶えず緩急自在に移動し続け、ゾンビの攻撃は、避けて、躱して、回避して、意図的に刺突は使わず〝先の先〟〝後の先〟で斬って斬って斬りまくる。
十分に練った〝気〟が通された〔名刀・ノサダ〕は、まるで透り抜けるかのように何の抵抗もなく骨肉を断ち、その刀身は血脂を弾いて穢れを知らず、〔妖刀・殺生丸〕の妖気の刃は、一振りで九つの斬撃を生み、情け容赦なく斬り刻む。
命脈を絶たれて倒れ伏したゾンビは、倒れた端から地面に吸い込まれるように消えて行き……
(積み重なって足場が悪くならないのは助かるんだけど……なんか本当に無限に湧き出してきそうな感じだな)
もしそうならどうしようかと頭の片隅で考えて……
(……まぁいいか)
動いて、骨があって、腐っているとはいっても肉がある。生きている人間相手にはできない技の練習がこれでもかと言うほどできる絶好の機会だと思う事にして、ムサシは調査と平行して稽古に励む事にした。
時折、脇差を納刀して〔角笛〕を吹き鳴らしつつ、縦横無尽に戦い続けるムサシ。
「……すごい……~ッ!」
巴は、その冴え渡る太刀筋に畏怖にも似た感動を覚えて身震いした。
力みも、無駄も、一切ない。力が必要なのは最初、勢いをつけるための瞬発力のみ。あとは刃の鋭さと刀の重み、そして、刃が触れた瞬間に押すか引くかする技術で斬断する。故に、ムサシが刀を振り回しているという印象は薄く、刀が自らの意思で舞い踊り、思うが儘に跳ね回っているように見える。
「本当に……。この三年でずいぶん差をつけられちゃったね」
静がふと思い出したのは、共に修行していたゲーム時代。当時もかなり良い動きをしていたが、それとは比較にならない神妙不可思議な歩法を目の当たりにして、思わずため息が漏れた。
全ての動作は前触れなく行なわれ、その予測不可能な動きを予測しようとすると、移動すると思った方向にその姿を幻視してしまい、それを追った結果、実体を一瞬見失うという事態に陥る。その上、静動を織り交ぜた緩急のある動きはただ速いだけの動きよりも遥かに残像が生じ易い。
弓を得物とする静には、あの動きが、目の前の相手だけではなく、狙撃手がいた場合の対策でもあるのだという事が察せられた。
ゾンビを味方の兵士に置き換えて見る。
残像を無数に引き連れ、幻像で見当違いの方向へ進んだと錯覚させ、兵士達の間をすり抜けるように移動されると同士討ちの危険が脳裏を過ぎってどうしても放つのを躊躇ってしまう。
幾ら射たところで中る気がしなかった。
「強い……ッ!」
「うん、強いね!」
双子の姉妹がそんな話をしていると、おもむろにムサシが脇差を投げた。
『~~~~ッ!?』
驚いている間にもの凄い勢いで自分達に向かって飛来した脇差は風切り音を響かせて二人の間を通過し、ドヅッ、と背後で生々しい音が響く。
それで姉妹が反射的に振り返ると、野犬のゾンビの額に脇差が鍔元まで深々と突き刺さっていた。それは、二人を狙っていたのではなく、ムサシを目指す進路上に二人がいたため、背後から襲い掛かる形になったのだ。
「自分の周りだけじゃなくてこっちまで見えているなんて……ッ!? 何て広い視野――」
「――そんな事言ってる場合じゃないッ! ムサシ殿を助けるつもりで残ったのに……ッ! ミアさんにも頼まれたのに……ッ!」
感心頻りな静とは正反対に、巴は己の不甲斐なさに泣きそうになりながら、兎にも角にも自分達を助けるために投じられた脇差をムサシに届けなければと思い、野犬のゾンビから引き抜こうとして、
「えッ!? あれッ!?」
いつの間にか鍔元まで深々と突き刺さっていた脇差が消えている事に気が付いた。それでまさかと思いつつ振り向くと、あの脇差はいつの間にかムサシの手に戻っている。
巴が呆然としていると、後ろで弓弦の音が響いた。振り返ると、そこには矢を放った静の姿が。
近寄ってきていたゾンビが眉間に矢を受け、ボッ、と熱を帯びない浄化の炎に包まれて倒れ伏した。
「そうだね。それが私達の意志。それにミアさんに頼ってもらえた。だから、――がんばろう!」
静は微笑み、巴は目許をぐいっと拭い、向かい合った姉妹はしっかりと頷き合う。
そして…………
「――先輩ッ!!」
「………~ッ!?」
ミアに呼ばれて、ムサシは、はっ、と我に返った。
「……ん? あれ?」
何となく夢から覚めたような気分で視線を彷徨わせる。
目の前にミアがいて、その後ろには御前姉妹の姿が。更に、アルトス教団の女性司祭ヨハンナと、同じ様な法衣を着た人々。それに、〈エルミタージュ武術館〉の面々、〈女子高〉こと〈私立情報之海総合学院付属女子高等学校・フリーデン分校〉の面々、〈食卓の騎士団〉の面々。その他のどこか見覚えのある彼らは、たぶん巻き込まれたあの武装集団だ。
「先輩……~ッ!!」
「うおっ!? ちょっ、危なッ!」
自分の手に抜き身の二刀があるのを思い出し、抱き付いてきたミアから遠ざけるように慌てて両手を上げる。
「おいおい、どうしたんだ? 何かあったのか?」
ぎゅぅうううぅ~っ、としがみ付かれ、胸板に額をグリグリ押し付けてくるミアに訊くと、
「『何かあったのか?』じゃないですッ! あのまま人間やめて武術の神様にでもなるつもりだったんですかッ!?」
「はぁ? なんだそりゃ? どういう心配の仕方だよ」
そんなムサシとミアのやり取りを見て、皆がほっと安堵の息をついて笑みを浮かべる。
それ程までに、無我の境地で剣を執り続けるムサシの姿は神懸っていたのだ。
「覚えていないんですか? 先輩は丸二日以上も戦い続けていたんですよ?」
「はぁッ!?」
顔を上げたミアの言葉に目を丸くするムサシ。
記憶の糸を手繰り寄せると、上手く斬れたと満足した事、もうちょっとこうしたほうが良いという改善点を見付けた事の他に、ゾンビ共を斬り捨てつつ変化した範囲の中央へ移動し、戦いながら調べてみて何もなかった事は覚えている。
それで、いよいよ切羽詰ったら変化した範囲を丸ごと焼却するか消し飛ばそうと幾つか使用するアイテムの候補を選び、それからは稽古に専念して……どうにも途中から曖昧になっている。
巴や静、それ以外にも遠慮がちに境目辺りで戦っている者達の気配や〝気〟を感じていたような気はするが……ふと自分達を囲む人々の向こう側に目を向けると、見覚えがある地下市街の街並みが戻っている事に気が付いた。
そして、忘れてはならない事を思い出す。
「あッ!? ナナミさんはッ!?」
「ちゃんと送り届けました。今はご家族と一緒です」
ミアに任せて不安だった訳ではないが、それを聞いて安心した。
とりあえずミアに離れてもらい、〔妖刀・殺生丸〕を逆手に持ち替えて地面を突くように血振りし、納刀しようとして――
「あれ? どうしたんだお前? そんな綺麗になっちゃって……」
あれほど禍々しかった刀身から溢れ出た九本の妖気が、いつの間にか金にも銀にも見える美しく不思議な色合に変化している事に気が付いた。その質も妖気というよりは霊気、いや、神気と呼んだほうが良い清浄なものに変わっていて、ちょっと細長いが、これなら触手ではなく白面金毛九尾の狐の尻尾に見える。
「先輩?」
どうやら九本の神気は自分以外には見えないらしい。ミアに可愛らしく小首を傾げられてしまった。
まぁいいか、と気にしない事にして鞘に納め、それから空いた左手を〔名刀・ノサダ〕の鞘に添える。刀身に一点の曇りもない愛刀を同じ様に血振りしてから納刀し、額に装着していた鉢金をはずした。
『あのっ!』
「お身体は大丈夫ですか?」
「飲まず食わず、不眠不休で戦い続けていた割には平気そうに見えるけど……?」
巴と静の質問に、おう、と応え、
「スキルとして発する事なく、体内で〝気〟を練り上げ続けていたからな。意識すると空きっ腹が軽くて落ち着かなくなりそうだけど、全身の隅々にまで〝気〟が行き渡って充実してる。武の稽古としてはもちろん、〝気〟を操る良い修行になった!」
ムサシが疲れを感じさせない満足げな笑みを浮かべると、一同は感嘆や驚愕を超えて呆れ果てた。
それでもミアと御前姉妹が大事を取って休養するよう奨め、ムサシはその意見に従う事にする。事態の収拾に協力してくれたという皆様に感謝の意を表してからその場を辞去した。
ムサシ、ミア、御前姉妹、それに非在化状態から顕在化したアルジェとフィーで、万屋〈七宝〉へ帰る――その前に、心配しているはずだというナナミさん一家に顔を見せに行く事に。
その道すがら、ムサシは大して気にならなかったが、ミア達が話して聞かせてくれるので耳を傾ける。
それによると、自分が熱中し過ぎていつの間にか無念無想の境地に浸っていた二日の間、御前姉妹は開き直って適度な休憩を挟みながら、ゾンビを利用して【体内霊力制御】を習熟するための修行に励み、ミアはナナミさんを家に送り届けた後、事態を収拾するため、アルトス教団の司祭ヨハンナや友人知人に事情を説明して助力を求めたり、あの変化してしまった範囲を調査したり、今更になってまだ特権の存在を隠したがっていた冒険者ギルドと交渉したり……といろいろあったらしい。
「ふ~ん」
そんなムサシの反応を予想していたらしく、ミアと御前姉妹は何も言わず、ただため息をついて肩を落とした。
結局、召喚された地形をあの場所に留めていたのは、召喚者や彼に殺された者達の怨念だったらしく、変化した範囲をぐるりと囲むように配置された術者達による同時集団【ターンアンデッド】でそれらが消し去られると勝手に送還されたとの事。
「先輩。あの人が言ってましたよね、怨むぞムサシ、貴様に呪あれ、って」
「うん」
「たぶん、先輩があの場に留まらずナナミさんを家に送り届けていたら、あのゾンビ達は先輩を追って、地下市街全体に広がりながら地上に溢れ出していたと思います」
「ふ~ん」
「あと、こうも言ってましたよね? こんな不完全な状態で発動させねばならないとは……、って」
「うん」
「その言葉が気になって考えてみたんですけど……、覚えていますか? フリーデン周辺で私達の修行のために先輩が召喚笛を使ったら、現れたのがアンデッドばかりだったのを」
「うん」
「あの人は何で先輩を怨んでいたんだろう、何で不完全な状態で発動させたんだろう……そう考えていた時にふとある可能性に思い至ったんです」
「ふ~ん」
「…………先輩、もう少し興味を持ってもらえませんか?」
ミアがあまりにも悲しそうにするので罪悪感を覚え、ムサシは言われた通りもう少し身を入れて聞く事にした。
「思ったんです。不完全だったのは、私達があのアンデッド達を倒した結果、フリーデン周辺の大地を犯していた瘴気が浄化されたからじゃないか、って」
「ふむ」
「…………」
「え? 足りない?」
――それはさておき。
「あの人は、ゾンビパニック系の都市襲撃イベントを発生させようとしたんじゃないでしょうか?」
後ろで黙ってミアの話に耳を傾けていた御前姉妹が息を飲み、
「えッ!? って事はあの人、運営の人?」
「なんでそうなるんですかッ!? ここは異世界でゲームじゃないでしょうッ!?」
ミアは癇癪を起こし、ムサシは禍の門を閉じた。
『ひょっとして』
「先日の冒険者狩りやライカンスロープの一件と今回の件は関連があるんじゃ?」
「冒険者狩りは、というか、彼らの中に紛れ込んでいたライカンスロープは」
「人質を使って誘い込んだ〈エルミタージュ武術館〉の皆さん諸共」
「地下鉄の駅を占拠しようとした人達をも皆殺しにしようとした……」
「それは、死者の無念や怨念で」
「瘴気を発生させるためだった、とか?」
ミアは、その可能性を認めた後、もう一つの可能性を示唆した。
「あの人が、地下市街だけじゃなく、フリーデン全域でアンデッドが湧き出すゾンビパニック系の都市襲撃イベントを発生させようとしていたのだと仮定して、もし私達がフリーデン周辺の大地を浄化していなかったら、準備が完全に整っていたとしたら……どのタイミングで発動させていたと思いますか?」
『…………まさかッ!?』
「リベルタースとフリーデンで同時に……ッ!?」
「あの時ギルドは、リベルタースを見捨て、戦力をフリーデンに集中させ、守りを固めていた」
「そんなフリーデンでゾンビパニックが発生して」
「そこにリベルタースを制圧した海魔王の軍勢が押し寄せ」
「内と外から同時に攻められていたら、今頃フリーデンは……」
「もしそうだとすると、海魔王とあの男は通じていた……?」
「というよりも、たぶん」
「より上位の存在の命で動いていた可能性のほうが高い……ッ!?」
ミア、静、巴の視線がムサシに集中し、目で意見を求められたムサシは――もう怒られたくないので口を閉じている。
「先輩ッ!」
真面目に答えても怒られるし、だからといって黙っていても怒られる。ムサシは、はぁ……、とため息をつき、俺が何て言うかなんて百も承知だろうに、と内心でぼやきつつ、
「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。――けど、考え過ぎだ、って笑う気にはなれないな」
《エターナル・スフィア》には、魔王、魔神、邪神、堕神、邪精霊、ドラゴン……そんな世界や人類社会を破滅に追いやる災害のような大規模戦闘用のモンスターが多々存在した。
それらがこの世界にも存在していて、ゲーム感覚か本気で滅ぼそうとしているのかは知らないが、配下に命じて都市を襲撃させているとしてもなんら不思議ではない。
それを踏まえた上で可能性の話をするなら、偶然二つの組織が同じ場所に目を付けたのかもしれないし、同じ組織に属していたとしても、お互いに協力するつもりなどサラサラなく、先に実行されるはずだったゾンビパニックに問題が発生したため、前後の順番を入れ替えたのかもしれない。単純にそれが理由で作戦Aから作戦Bへ変更されたのだとしたら、今回の件は失敗してただでは帰れないあの男の悪あがきだった可能性だってある。
だが何にせよ、確証はなく、憶測に憶測を重ねても意味はない。
――何はともあれ。
ムサシはふと思った。旅立つ前にそれなりの備えをしておいたほうが良いかもしれないな、と。
旅から戻った時、〈セブンブレイド〉の万屋〈七宝〉が、モンスターに踏み躙られていたら……。
ちょっと想像してみただけで、ムサシの口角が凶悪な形に吊り上がった。




