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『 ビキニアーマー・クリエイター 』

「――よし。終わったぞ」

「え? もうですか?」


 『マジックアイテム』と呼ばれる類の消耗品を大雑把に仕分けしつつ、【調査】系のスキルで【鑑定】していたムサシが手を止めて告げると、作業を後ろで興味深そうに見ていたサリチルさんが驚きの声を上げる。


 ムサシは、おう、と答えてから、


「それにしても、これ、本当に全部良いのか? 何気に〔秘伝極意書〕や〔秘伝奥義書〕まであるぞ? こっちの〔魔導書〕は消耗品じゃなく武器だし」

「はい、ムサシ様さえよろしければ是非。我々が持っていても宝の持ち腐れですので」


 ですが困りましたね……、と呟き、おののいも子とイトーちゃんが駆け込んで行ったウォーク・イン・クローゼットのほうを振り向くサリチルさん。二人が戻る前に【鑑定】が終わるとは思っていなかったようだ。


「ふむ……。では、二人が戻ってこないのでこちらから向かおうと思うのですが、我々の工房までご足労願えますか?」


 ムサシは承知し、ミア達も同行して構わないというので、皆で移動する事に。


 大量のマジックアイテムをその場に残して向かった先は、やはりウォーク・イン・クローゼット。


 中へ入ると、中央の通路を挟んで左右には、平服や鎧の下に着るアンダーウェア、ローブ類、マントやケープなどの外套類、一見衣類のようだが鎧に分類されるいわゆる布鎧などなどがキチッと分類されて掛けられている。そして、通路の突き当たりにあったのは、


「へぇ~、〔小さな魔法の館ドールハウス〕か」


 天板が縦横1メートル程の台の上に築かれた、メルヘンチックな三角屋根の建物。


 それは、中に入る事ができるその小さな家を好きなように増改築して、御手軽に理想の拠点ホームや工房を作る事できるという、ムサシの〔壺公の壺〕と同種の特殊アイテム。


 その台の前の足元には、〔小さな魔法の館〕とセットの魔法陣が描かれたマットが敷かれており、まずサリチルさんがその中心に立って、縦2センチ、横1センチの小さなドアに触れた――その瞬間、サリチルさんの姿が掻き消える。〔小さな魔法の館〕の中へ移動したのだ。


 それに倣って、ムサシ達も〔小さな魔法の館〕の中へ。


「ようこそ、我らが趣味人の巣窟へ」


 小さなドアに触れてふと気づくと、そこは〔小さな魔法の館〕1階のエントランス。木の風合いが生かされた落ち着きのある空間で、板張りの床には見事な絨毯が敷かれている。


 迎えてくれたサリチルさんの話によると、この工房は地下1階、地上3階建て。地下は倉庫になっており、1階は初級職、2階は中級職、3階は上級・最上級職用の共同作業スペースや個人用の作業部屋があるとの事。


 おののいも子とイトーちゃんを始めとした生産職の女性達は、1階の職人共同の作業スペースでトレードしてもらうアイテムについて相談しているそうだが、【念話】でおののいも子に来客を報せた後、サリチルさんがムサシ達を案内したのは、3階の共同作業スペースだった。


 その理由は、生産職の女性達にムサシを合わせないため。というもの、今日ムサシが来る事を知っていて今ここにいるメンバーは、程度の差こそあれ男性恐怖症やコミュ障を患った者達。ムサシに、というより面識のない男性に会いたくないからこそ〔小さな魔法の館〕に引き篭もっているらしい。


「では、何故先輩を中へ招き入れたんですか?」


 ミアの問いに、皆に着席するよう勧めていたサリチルさんは、ムサシがレナに渡したペンダントを見るまではそのつもりはなかったのだと答えてから、


「実は、ムサシ様にご足労願ったのは、ムサシ様の教えを受けたかったからなのです」


 それから、この異世界での生産系プレイヤー達の現状について話を聞かされた。


 それを簡単に纏めてしまうと、大方はムサシが予想していた通り。【錬金】や【合成】を実行できる者はなく、この異世界の工業は元の世界リアルと大差ない。


 ただし、自然状態では存在しない〔ミスリル〕など、いわゆる『魔法金属』を生成する事はできないものの、ごく一部ながら既存のものを加工できる職人はおり、魔法陣や呪紋を意匠化した装飾を施す事で、多少はファンタジーな効果や機能を付加する事ができるらしい。


 それを聞いて、ムサシは、おや? と思った。


 おそらく、その『ごく一部』というのは、〔錬金炉〕――熱を加えるなど通常の手段では加工できない魔法金属を加工可能な状態にする魔法の炉を有する職人という事だろう。


 だが、装飾用に意匠化した魔法陣や呪紋に力を持たせられるというのは……


「ムサシ様?」


 急に何事かを思案し始めたムサシに気付き、何か自分の話の中に不適切な発言があったのではと声を掛けるサリチルさん。


「今この階で仕事をしている生産職は何人いる?」


 この共同作業スペースには、仕上げに使われるような道具類がある他は、休憩にお茶を入れるための小さなキッチンがあるだけで、高ランクのICアイテム・クリエイションを行なうために必要な機材は見当たらない。おそらく、それぞれが自分の作業部屋に専用の機材を揃えているのだろう。


「現在は、いも子さん、イトーちゃん、わたくしの三名です」

「構わないのであれば、その三人の最新作を見せてほしい」


 サリチルさんは理由など問わず、分かりました、と頷き、少々お待ち下さい、と言い置いて共同作業スペースから出て行った。




 待つ事しばし。


 サリチルさんが戻ってきた時にはおののいも子とイトーちゃんの姿もあり、サリチルさんとおののいも子が協力して運んできたのは、


「これが、私、イトーちゃん、そして、人呼んで〝ビキニアーマー・クリエイター〟おののいも子が協力して作り上げた最新作です」


 ビキニアーマーを装着したマネキンだった。


 装甲が施された水着ビキニのようなトップとボトム、手首から肘までを保護する手甲、膝上まである長靴型の脚甲、肩当付きのケープ、前が開いた腰部装甲付きのスカートで一揃いのビキニアーマーは、どれも細部に至るまで丁寧な仕事で作り上げられている。


「ん~……、良い仕事してるな」

「先輩……」


 氷の刃のほうがもう少し温かいんじゃないかと思えるほどの視線がザクザク背中に突き刺さり、振り返って見ると、身長差など関係なく氷点下の眼差しで見下してくる女性陣の姿が。まぁ、マネキンの胸に装着された胸部装甲を掌で包み込むように撫でていればそれも致し方ないのかもしれないが、今はそんな事よりも、


「ミア、巴、静、それにレナにももう分かるはずだぞ」


 そう言って、四人にビキニアーマーを検めさせた。すると、


『これは……』

「かすかに〝気〟を感じるような……?」

「これは皆さんが作ったものなんですよね?」


 合作だと言っていたのを聞いてはいたが、ミアがその事を再確認する。


 それは、【体内霊力制御】も会得していない三人が作ったものだというのに、ミア達の装備と同種の――覚醒状態の高ランクアイテムが放つ気配を漂わせているからだ。


「は、はい……ッ! デ、デザインと装甲部分は私が、肌に直接触れる裏地とそれ以外の布地部分はサリチルさんが、全体の装飾はイトーちゃんが担当して……」


 ミア達の様子に困惑しつつ、おどおどと説明するおののいも子。昔は三人がそれぞれ作り上げた部分鎧、アンダーウェア、装身具を【合成】して完成させていたそうだが、現在はその方法が使えない。故にそのような方法で製作しているらしい。


「それなのにどうして……?」


 思案しても分からず、ミアが目で問うと、全員がそれに倣ってムサシに答えを求め、


「『精魂を込める』ってやつだ」


 ムサシはビキニアーマーの肩当に、ぽんっ、と手を置き、


「三人は、全身全霊を以って仕事に打ち込んだ。その結果、無意識に注ぎ込まれた精魂が――〝気〟が、この作品に宿っているんだ」


 そう言いつつ改めて作品を鑑賞しながら、


「ゲーム時代と同じ等級ランクのアイテムを作ろうと足掻きに足掻き、失敗を繰り返してもがき苦しみながら、それでも今できる最高の仕事で仕上げた。――こいつはそういう作品だ」


 ムサシが、良い職人だな、と笑いかけると、感動に打ち震えたり、照れ隠しにそっぽを向いたりと反応は三者三様だったが、理解を得られた事に強い喜びを感じているようだった。


「これなら、俺が何かを教える必要はないかもしれないぞ?」


 そう言いつつ、とりあえずトレードを希望するアイテムのリストを求めるムサシ。イトーちゃんから受け取ったそれに目を通し、


「なんだこの〔ミスリル〕の量は?」


 他とは桁違いの多さにムサシが問うと、イトーちゃんは目を逸らし、サリチルさんは、ですよねぇ~、と言わんばかりに苦笑し、おののいも子はオロオロしながら、


「ああああのあのあのあのあのあのあのあのあの――」

「――『あの』はもういいから」

「ミミミミミミ〔ミスリル〕は繊維状にして織り込むと【自浄】能力を付加する事ができるからデリケートなところに直接触れる裏地にはどうしても使ってあげたいし軽くて強いから装甲にも装飾にも使える上に耐久値も上げられて合金化すると――」

「――息継ぎ! 息継ぎ忘れてるぞッ! ――分かった! もう良い分かったからッ!」


 緊張と窒息で逝きかけたおののいも子を介抱するサリチルさんとイトーちゃん。


 ムサシは、困惑なのか安堵なのか自分でもよく分からない息を吐いてから、じゃあとりあえず……、と道具鞄から取り出したものを手近の作業机の上に並べていく。


「〔アイオニトス〕〔オリハルコン〕〔セブンスヘヴン原石〕〔聖骸布〕〔生命の水〕〔世界樹の雫〕〔アルティニウム〕〔ミスティックメタル〕……」


 求められている数が少ないものから順に出していくと、え? とか、あるの? などと驚きの声が聞こえたが、気にしても仕方がないので気にしない。


「ゲームと違って、この世界の〔ジオナイト〕はただの石じゃない。無機生命体で、空気中の霊気を吸収して自己増殖する。ソフトボール大になる頃からカタカタ動き始めて、ビーチボール大になると霊力を奪うために生き物を襲うようになるからまとめて保管するなよ」


 注意点を説明しつつ、隣の作業机の上に一定の間隔を空けて求められた分を並べる。それから、『真の銀』とも呼ばれる〔ミスリル〕のインゴットをまた別の作業机の上にあるだけ出した。〔壺公の壺こうぼう〕の蔵には蓄えがあるものの、


「手持ちはこれだけだ。だから、足りない分は今から【錬金】で作る。そのための機材を借りたいんだけど――」

「――はいはいはいはいはいはいぁ~――~いッ!! それなら私の〔練成盤〕を使って下さいッ!!」


 もの凄い勢いで手を上げたのは、おののいも子。


 それで良いかと問うと、サリチルさんとイトーちゃんに異存はないようなので、皆でぞろぞろとおののいも子の作業部屋へ移動した。




 流石は【上級防具職人】。おののいも子の作業部屋には、【錬金】や【合成】【鍛冶】などに必要な機材が揃っている。


 そして、おののいも子は、ムサシが持ち歩いている中級品よりも良い上級品の〔練成盤〕が設置されている机へと案内し――ムサシは〝それ〟を発見した。


「これは……ッ!」


 〝それ〟は、一脚の椅子の背凭れにかけられていた一枚の白い布。手にとって広げてみると、ただの布ではなくフリルがあしらわれた可愛らしいエプロンで――


「――いやぁああああああああああああああああああああぁッッッ!!!!」


 鼓膜を劈くような悲鳴を上げながらムサシに突撃したおののいも子が、その手からエプロンを強奪した。その勢いのまま身を床へ投げ出すように蹲ると、抱き締めるようにして一同の視線からエプロンを隠し、見ないで見ないで見ないで見ないで……、と小声で繰り返している。


「いもちゃん?」

「ど、どうしたんですか?」


 ムサシ達だけでなく、イトーちゃんとサリチルさんも突然の事に驚いている。


「先輩、あのエプロンって……?」

「〔ハダカエプロン〕。いわゆるネタアイテムだな」


 ちなみに、装備できるのはキッチンを含むIC可能な屋内こうぼう限定。


『は、裸エプロン……~ッ!?』

「IC成功率を著しく上昇させる効果を持つ女性専用のレアアイテムだ」


 全年齢対象の《エターナル・スフィア》では、当然と言えば当然の事ながら全裸にはなれない仕様で、装備や衣服を全てはずすとタンクトップと短パンをつなげたような躰にフィットしたインナーウェア姿になり、露出が多い装備を纏うと自動的にインナーがその形状に変化した。


「その仕様があっても、後ろは紐みたいなTバックっていうかなり際どいアイテムだったけど……」


 この世界ではおそらく、IC成功率上昇の効果は全裸で装備しなければ発揮されない。つまり、おののいも子は作業中――


「――想像しないでぇええええええええええええええええええええぇッッッ!!!!」


 羞恥で全身を真っ赤に染めて泣きじゃくるおののいも子。


 気まずい雰囲気に女性陣は顔を見合わせ、ムサシは、


「まぁいいか」


 そう言って〔練成盤〕がある机へ向かい――ミアに袖を掴まれて引き止められた。


「『まぁいいか』じゃないでしょうッ!?」

「なんで? 俺がこの部屋にきたのは〔ミスリル〕を練成するためだぞ?」

「それはそうですけど、そもそも先輩がそれに触れたせいでこんな状況になってるんじゃないですかッ!」


 ムサシは、えぇ~……、と面倒臭そうに後頭部を掻きながら、


「『そもそも』って言うなら、おののいも子は何をそんなに恥ずかしがってるんだ?」

「何を、って……」

「家や自分の部屋にいる時はパンツ一丁とか、ノーブラとか、ノーパンとか、全裸とか、そんなの別に珍しい話じゃないだろ?」


 再度顔を見合わせる女性陣。そう言われると確かにその通りで……


「それに、おののいも子は職人だ。最高の作品を作り上げるためにできる事はなんでもする――それの何が恥ずかしいんだ?」


 何を騒いでいるのかさっぱり理解できんとばかりに平然と言い放つムサシ。実は、妄想力を逞しくして想像したエロいビキニアーマーをもっとエロい格好はだかエプロンで作るスタイルの良いおののいも子の姿よりも、今目の前にあるその泣き顔や、ぺたんと女の子座りして袖口で涙を拭うその仕草にドキドキしている事などおくびにも出さない。


 ――それはさておき。


「始めるぞ」


 ムサシは、〔ジオナイト〕一欠けらと〔銀〕のインゴット1個、その他を適量〔練成盤〕の上に配置し、〔ミスリル〕の練成を開始する。


 気息を整えて〔練成盤〕に手をつき、目を閉じて集中力を高め、〝気〟を流し込む。練成陣が発光し、上に置かれた素材が光の粒子に分解され、盤上で渦巻き、舞い踊り……新たな形に集結して再構成された。


 等級が上の〔ジオナイト〕用いて下の〔ミスリル〕を練成したため、5個のインゴットが完成する。


 その幻想的ファンタジーな現象を目の当たりにして女性陣は揃って言葉を失い、


「……物理法則はどこへ行ったんですか?」


 一足早く我に返った精霊族エルフミアが、呆れ果てたようにポツリと呟いた。


「物理法則ってどこかへ行くようなもんじゃないだろ」

「先輩、質量保存の法則って知ってますか?」

「知ってるよ。じゃあ、ミアは『ダークマター』や『ダークエネルギー』って知ってるか?」

「え?」

「宇宙を構成する物質の内、人間が認識できるのは4パーセント程度。それ以外の『ダークマター』や『ダークエネルギー』などと呼ばれる約96パーセントの〝知覚不能の何か〟は、今俺達がいるこの空間にも当り前のように存在している」


 要するに、とムサシは練成盤の上のインゴット5個に目を向けて、


「今俺は、目に見える〔ジオナイト〕や〔銀〕その他だけじゃなく、盤上に存在した〝知覚不能の何かダークマター〟をも使ってこれらを練成したんだ。無から有を生み出した訳じゃない」


 そう説明したムサシを皆が揃って、ぽかぁ~ん、と見詰め、


「…………誰?」

「おい、ミア。それ酷くない?」

「貴方は、本当に剣バのムサシ先輩なんですか?」

「そうだよ。何でか知らないけど知ってて、話してて自分でもなんか気持ち悪いからもう訊かないで」


 不貞腐れたように言ってから、ムサシは生産職三人に、どうだ? と声を掛ける。


「見ててやり方思い出したか?」

「いえ、でも……」

「えぇ、なんと言いますか……」

「久々に会った人の顔は覚えているんだけど名前が思い出せないような……」


 それを聞いて、ムサシは、ふむ、と思案し、


「見ただけじゃダメって事は、やってみるしかない、か……」


 何気なくおののいも子の作業部屋を見回して……


「ん? なぁ、あれって初心者用の〔練成台〕だよな?」


 長らく使われていないのだろう。テーブルクロスを掛けてその上にいろいろ置かれているが、間違いない。


 ムサシは、おののいも子に頼んで上の物をどかしてもらった。


「あの……これはもうずいぶん前に試してみてダメだったんですけど……」


 そう言いつつも、テーブルクロスを取り去るおののいも子。訊いてみると、サリチルさんとイトーちゃんも既に試した事があるらしい。


「なぁ、中級以上の〔練成盤〕はその名の通りこの上の天板だけなのに、なんで初心者用のは台と一つになってると思う?」


 ムサシはそう問いつつ初心者用〔練成台〕の上に〔輝石〕と〔力晶石〕を置き、待ってみたが出ないようなので答えを教える。


「それは、初心者のための仕組みが台に仕込まれているからだ」


 この〔練成台〕然り、〔パラケルススの円卓〕然り、そこにはちゃんと意味がある。


 ムサシは手招きしておののいも子を近くに呼び寄せ、


「【レシピ集作成】は修得してるって言ってたよな? 〔輝光石〕を作った事は?」


 三人共あると言うので、ムサシは、良し、と頷き、


「この〔練成台〕には、使用者の〝気〟を吸収して出力を一定に保つ機能が備わっている」


 それが邪魔で、出力の調節や微妙な制御ができないため低ランクの【錬金】【合成】しかできないのだ。


「ただ、起動するのに〝気〟を込める必要があるから、そこだけ俺が手助けする。後はレシピ集から〔輝光石〕を指定してスキルのアシストを受けつつ自分でやってみてくれ」


 ムサシは、左手で〔練成台〕の天板に刻印されている練成陣の隅に触れ、手を、と言って右手をおののいも子に向かって差し出した。


 真っ赤になって恥じらい、躊躇いながら手を伸ばしてくるその様子が、怯える小動物のようで思わず抱き締めたくなったがなんとか堪え、掌が触れ合うと意識を集中し、【軟気功】を用いた治療の要領で、自らの〝気〟の質をおののいも子の〝気〟に同調させる。


 そして、その状態で〔練成台〕に〝気〟を送ると練成陣が淡く光を放ち始め、右手で繋いでいたおののいも子の手を練成陣に触れさせてからムサシが両手を離してもその光が途絶える事はなく……


「あぁ……~ッ!!」


 おののいも子は感嘆の声を上げ、〔練成台〕の上にある〔輝光石〕を見て歓喜の涙を溢れさせた。


「どうだ?」


 ムサシが道具鞄から取り出した〔光石〕を手渡しつつ訊くと、


「はい……ッ! 思い出しました……ッ!」


 おののいも子は満面の笑みを浮かべ、その手にある〔光石〕の中心に淡い光が点った。




 皆がお祝いの言葉を掛け、それに感謝の言葉を返したおののいも子は、ぐっ、と作った拳を振り上げて決意を表明する。


「私は、――これからもっと良いビキニアーマーを作っていく事をここに宣言しますッ!!」

「いや、別にビキニアーマーじゃなくたって良いだろ」


 ムサシは苦笑しつつ言い――うっ、と狼狽えた。それは、おののいも子だけではなく、サリチルさんやイトーちゃんまで真剣そのものだったからだ。


 その様子に戸惑いを見せないミア達は、どうやらその理由を知っているらしい。


「ムサシさん。ビキニアーマーは、ただの女性をエロ……魅力的に見せる上等な防具ではないんです。乙女の操を護る鎧――貞操帯なんです」


 本心が垣間見える言い間違いとその内容のせいで、ムサシがどう反応すれば良いか迷っていると、


「私とイトーちゃんは、いも子さんの、女の子にエロ……可愛い格好をさせたいッ!! という考えに賛同し、ゲーム時代は防具としての性能よりも、アイドル志望やコスプレイヤーレイヤー好みのビジュアルを重視した装備を製作していました」

現実リアルではなく仮想世界ヴァーチャルである事、キャラ作成で理想のプロポーションを手に入れられる事、ポロリが絶対にありえない仕様が、エロ……露出が多い防具を装備する事のハードルを下げていた」


 真剣な表情で発言するサリチルさんとイトーちゃん。


 それに対してムサシは、どう反応するかを悩むのが面倒になって無表情に。


「でも、この世界では違うんです……ッ!」


 おののいも子、サリチルさん、イトーちゃんは言葉を選び婉曲な表現を心掛けていたが、要するに、仮想現実ゲーム異世界での現実リアルになり、できなかった事ができるようになってしまったせいで、ゲス野郎共によって女性達が泣かされたという話。


 ビキニアーマーやボンデージは、一度装備すると他人には決してはずせない、異性の前では本人でも除装する事ができない――そういう加護と機能を有する特殊な装備。


 だからこそ、一見男の劣情を煽るエロ装備だが、その実それを身に纏っているだけで邪な目的を持つ男共や奴隷商人の標的になりづらい。その効果と防具としての性能は期待できないが、衣服の下に着ける下着型ビキニアーマーにもちゃんと貞操帯としての加護と機能はあるため、たとえ殺される事になったとしても、寄って集ってレイプされて心を殺された挙句、地下歓楽街の娼館に売られるという事はない。


 更に、性犯罪者達のせいで忘れられがちだが、ファンタジー世界にビキニアーマーが存在する本当の理由――これを装備していれば、殺される事や食われる事はあっても、人間の女性の子宮はらを借りて繁殖するおぞましいモンスターの母とならずにすむ。


 だからこそ、おののいも子達はビキニアーマーを作り続けるのだという。


「目指せッ! 全女性冒険者のビキニアーマー化ッ!!」

『おぉ――~っ!!』


 おののいも子達はもの凄くやる気になっている。別に下着型でも良いと思うのだが、まぁ何にせよ、それはきっと良い事だ。ならば、


「で、次はどっちだ?」


 ムサシは、イトーちゃんとサリチルさんにも職人として次の段階へと昇るための手助けをした。

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