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『 狙撃手にライフルを 』

 海魔王を倒しても終わりではない。即座にリベルタースへ戻り、メニューの【地図/現在地】を広げ、能力【調査】・技術【反響定位】で敵、味方、非戦闘員の所在を確認する。


 戦場は都市全体から港へ収束していた。


 水棲系モンスターにとって、海沿いは戦うにも逃げるにも都合が良い。味方は港の近くにある地下弾丸トンネルの入口である駅を守るように布陣しており、そのような状況であるため、非戦闘員のほとんどが地上を逃げるため都市の出入口に殺到している。


 港で戦っているのはクラン〈エルミタージュ武術館〉のメンバーで、他の冒険者達は避難誘導や護衛を務めているようだ。


 ムサシは、群れから離れて街中をチョロチョロしている敵から始末する事にして、行動を開始した。


「ムサシさぁ~――~んッ!!」


 屋根の上を移動しながら、【ステータス】重視型の上げに上げた躰力値と器用値に物を言わせて手裏剣フォースナイフを敵に打ち込んでいると、クラン〈女子高〉の制服を身に纏い、亜麻色の髪を肩の高さで整えた中性的な面差しの美少女――『レナ』こと本名『レナード』が、屋根伝いに駆け寄ってきた。


 装備は、手に指先が露出したシューティンググラブ、エルボーパッド付きアームガード。足にオーバーニーソックス、ニーパッド、ロングブーツ。躰には『ALICE』――Y型サスペンダーとイクイップメント・ベルトに、マガジン・ポーチ、ユーティリティ・ポーチ、ホルスター、マルチパーパス・バヨネットなどを自分が使い易い位置に固定したもの。そして、背中にはライフルケースを背負っているのだが、


「ライフルはどうしたんだ?」


 武器は、主武装メインのライフルではなく、副武装サブの〔デザート・イーグル〕だったので訊いてみると、


「えっ!? あっ、た、弾切れです!」


 レナは何か言いかけた言葉を飲み込んでそう答えた。


 訊いておいてなんだが、狙撃手が戦場でライフルを手放す理由なんてそれぐらいだだろう。ムサシは納得し――ふとレナが称号【狙撃の達人ザ・マイルマスター】の保有者だという事を思い出した。


 弾薬はある。狙撃銃もある。なら、腕の良い狙撃手に拳銃を持たせておくのはもったいない。


「なぁ、レナって【ステータス】重視型?」

「え? あっ、はい! 『小手先の技術スキルを覚えるよりもステータスを磨け』っていうのが猟師だった祖父の口癖で……」


 という事は、レナはこの世界で生まれ育った人間なのか、と頭の片隅で思いつつ、大雑把で良いから、と言って装備できる武装や命中率に関係するSTRとDEXの数値を訊く。


 本来それは秘するべきものなのだが、レナは反射的に答え、それを聞いたムサシは道具鞄から1丁のライフルを取り出した。


「こ、これは?」


 全長はおよそ180センチ。弾倉はなく、薬室チェンバーを開閉するボルトという部品を手動で前後に操作する単発式ボルトアクション・ライフル。『L』の横棒が銃床で、縦棒を長く伸ばしトリガーとトリガーガード、それにグリップを付けただけのような恐ろしいほど単純な構造の研ぎ澄まされた美しさを持つ狙撃銃。


 それに、長さおよそ60センチ、太さは銃身と同じかやや細い円筒形の〔魔導照準器マジック・スコープ〕と、肩に掛けるためのスリングベルトが後付けされている。


「とりあえず構えてみようか。スナイパーってのは一番好みにうるさいんだろ?」


 半ば押し付けるように渡し、構えるよう促す。


 それは狙撃手スナイパーの習性なのか、戸惑いつつも手にした狙撃銃を手馴れた所作で重量、バランス、ボルトの作動具合などなど、できる限りの事を手早く確かめていく。そして、立射姿勢で構えてスコープを覗き、次に膝射姿勢で構えてスコープを覗き、


「試射してみない事には……でも、――いいです。すごく」


 よほど相性が良いのか、先刻までの戸惑いも忘れた興奮の面持ちで答えるレナ。


「じゃあ、試射してみよう」


 ムサシはそう言って道具鞄から弾薬アモケースを取り出し、レナの傍らに置いた。


 促されてそれを開け、中を確認したレナは、


「あの、ムサシさん。いろんな口径の弾薬が入ってるんですけど……」

「それは、100口径(25ミリ)以下のライフル弾ならどれでも撃てるからだろうな」

「100……~ッ!? そ、それに、どの口径でもって……?」

「【鑑定】した結果だと、なんか『薬室から銃口までに満たされている『流体』が、装填された弾薬に応じて変化し最適な銃身が形成される』らしいんだけど、よく分からん。『流体』ってなんぞや? と思って調べようとしたんだけど、【不滅】のアイテムで整備不要な仕様だから分解できなかった」


 ――それはさておき。


「あの、ムサシさん、このライフルはいったい……?」

「幻想級の狙撃銃ライフルでアイテム名は〔終止符を打つものピリオド〕だ」

「げ、幻想級ぅ~……~ッ!?」


 素っ頓狂な声を上げるレナを無視して説明を続けるムサシ。


 攻撃力は使用する弾薬に依存する。つまり、装備者の【ステータス】によって与ダメージが増減する事はない。


 特殊能力は【不滅】【無反動】【キャンセル効果】。装備する事で使用可能になる特殊技術スキルは、弾丸への【死呪付与】と【解呪付与】。


 【死呪付与】による【即死】効果は、対象の抵抗値によって【気絶】に変化、または無効化される場合がある。


 【解呪付与】は、一定時間効果が継続する、戦闘終了まで効果が継続する、解除するまで効果が継続する【状態異常】【状態変化】を強制終了させる。


「――レナ」


 幻想級と聞いて狙撃銃ピリオドを凝視したまま硬直しているレナに声をかけると、はひッ!? と妙な声を上げてこちらに目を向けた。ちゃんと説明を聞いていたのかと問い詰めると、全力で頷いているが、正直怪しい。じと目を向けていると、レナの顔から血の気が引いてガタガタ震え始めたので、とりあえず信じる事にした。


「〔終止符を打つものピリオド〕と〔魔導照準器マジック・スコープ〕はまだ未覚醒状態だ。【体内霊力制御】は?」

「ま、まだです! っていうか、ミアさんや御前姉妹さんと違って、ムサシさんに直接指導してもらってないんですからそんなすぐ会得できませんよぉ~ッ!」

「ならどっちもその能力を発揮する事は……」


 できない。けれど撃つ事はできる――そう続けるつもりだったのだが、ふと思った。


(なら、会得させれば良いんじゃないか?)


 それに次いで、ふと疑問が浮かび上がる。


「…………ムサシさん?」

「レナは《エターナル・スフィア》出身じゃないんだよな?」

「え? ――あっ、は、はい! 山に囲まれた田舎の小さな村出身です!」


 何故急に姿勢を正して上官に対する軍人のような態度になったのかと不思議に思いはしたが、まぁいいか、と気にしない事にして、


「取得・修得した技能は?」

「『小手先の技術スキルを覚えるよりもステータスを磨け』という祖父の教えに遵い、能力アビリティ【銃】は取得しましたが、スキルは未だ修得していません!」


 それを聞いて、ムサシは、ふむ、と考える。


 ミアや御前姉妹とは違い、レナは《エターナル・スフィア》出身ではない。そして、意識的にはもちろん、スキルを修得していないという事は、動作補正システム・アシストによって無意識に【体内霊力制御】を行った事もないだろう。


 ――そんなレナが〔仙丹〕を飲んだらどうなるのだろうか?


 興味がある。ついでにレナが銃を手にしているのを見て良い事を思いついた。


 それでも〔仙丹〕の存在は秘匿すると決めたが故に逡巡し……


「…………レナ」

「は、はいッ!?」

「俺の事を信じられるか?」

「――信じますッ!!」


 食い気味の返答に若干引きつつ、何で顔を赤くしてるんだ? と思いはしたが気にしない事にして、試してみる事にした。




 狙撃銃ピリオドを足元に置かせ、道具鞄から取り出した〔仙丹〕をレナの左手に、掌に収まるサイズの結晶――透き通った銀色の六角柱を右手に握らせる。


「あの、これは?」

「〔力晶石〕だ。結晶の内部に霊気を蓄える性質を利用して、主に〔魔法弾たま〕や〔封魔弾ばくだん〕の材料になる」

「そっちではなく、この丸薬は?」

「俺が『飲め』と言ったら飲んでくれ。嫌ならやめる」


 知りたいのは、何なのか、という事だろうが、どうするのか、を指示すると、レナは質問を繰り返さず、飲みますッ! と迷いなく答えた。何故そこまで信じてくれるのかと疑問に思ったが、まぁいい。


 レナの背後に回り、右手を左右肩甲骨の間に当てる。万が一もないだろうが、やはり油断は禁物だ。


「――飲め」


 背に触れた時、レナは、ピクッ、と躰を震わせた。怖気づき躊躇うようなら無理強いさせるつもりはなかったのだが、レナは結局それが何なのか知らないまま、躊躇なく水銀に似た光沢を放つ銀色の丸薬を口に含み、飲み込んだ。


 効果が現れるまで、およそ10秒。みんな水なしで飲めるんだなぁ~、などとどうでも良い事を考えながら待機していると、


「――うっ!?」


 〔仙丹〕が体内で霊気に還元され、レナの〝気〟の急激な高まりに呼応して大気が震える。想像していたよりもきつかったのか、手足を突っ張らせ、躰を捩り、天を仰いで喉を逸らし……


「意識を己の内側に向け、〝気〟を感じ取れ」


 額に汗をじっとりと滲ませながらも健気にその言葉に従い……


「……あっ!? わ、分かる……感じますッ!!」


 そう言って、レナは半ば無意識に左手を自分の下腹部に当て――その在りようが変化した。


 全身から余分な力が抜けて自然体へ。苦しげだった表情はまるでまどろむかのように和み、教えられずとも呼吸まで自然と変わって行き……


 ミア達の時と様子が異なるは、『できるはずの事を思い出す』と『できなかった事ができるようになる』の違いだろうか? ムサシは、その変化に内心では舌を巻きながらそんな事はおくびにも出さず、平然と落ち着き払った声音で、


「それを臍下丹田からだのちゅうしんから手に移動させろ。そして、掌から〔力晶石〕へ注ぎ込むイメージで放出するんだ」

「はい……」


 レンは軽く瞼を閉じ…………〔力晶石〕を握った右手の中から目映いばかりの光が迸った。そして次の瞬間、一転して光が手の中へ吸い込まれるように消える。ゆっくり手を開くと、〔力晶石〕はレナの〝気〟を吸収・蓄積してほのかな光を放っていた。


「どんな感じだ?」


 レナの背に触れていた手を下ろしながら訊くムサシ。結局、万が一は起こらず、〝気〟を放出した際に衝撃波が発生して衣服が弾け飛ぶ事もなかった。想定通りの実に素晴しい結果だ。残念な事なんて何一つない。


「何て言うか、その……生まれ変わったような気分です」


 スッキリした表情でそう言い、微笑みを浮かべるレナ。


 一応〔光石〕で確認するよう促すと、ちゃんと光らせる事ができた。【練気】も試させてみたが、こちらは覚えたての頃のミア達より苦戦している。


 ――何はともあれ。


 こうして、〔仙丹〕を飲めば、この世界の人間であっても【体内霊力制御】を会得できるのだという事が証明された。




「見えるか?」


 ムサシに促され、レナは〝気〟を込める事で覚醒させた幻想級狙撃銃〔終止符を打つものピリオド〕を膝射姿勢で構え、連動して覚醒した〔魔導照準器マジック・スコープ〕を覗く。


「はい。見えます」

「レナが〝気〟を込めた事で、〔終止符を打つもの〕と〔魔導照準器〕は完全に連結され、〔終止符を打つもの〕とレナは霊的経絡パスで結ばれた。【零点規正ゼロイン】【遠視】【暗視】【透視】【赤外線視】……〔魔導照準器〕の特殊能力は、想い願うだけで使用可能だ」

「想い…願うだけで……」

「まぁ、とりあえず撃ってみな。的はモンスターでも適当な瓦礫でも何でも良いから」


 無茶振りかな? と思わなくもないが、ここは戦場、今は戦闘中。臨機応変にやってもらうしかない。


「銃声でモンスターが寄ってきたら俺が片付ける。集中してやってくれ」

「は、はいッ!」


 レナが手馴れた様子でライフルのボルトを操作する。


 右下に倒れているボルト・ハンドルを上に90度起こして後方に引き、開放された弾薬を装填する空間に、アモケースの中から取り出した7,62ミリライフル弾を装填。ボルトを前方へ戻す事で弾薬を薬室へ送り込み、ボルト・ハンドルを右下へ90度倒して固定し薬室に栓をして密閉した。


 これで、引き金を引けば弾丸が発射される。


 銃声が轟いた。


 更に、2発目、3発目、4発目……と試射が行われる。


 今、ムサシの前にいるのは、オドオドしてどこか自信なさげな女子高生ではなかった。


 〔終止符を打つもの〕を手にしてまだ間もないというのに、もう馴染んで見える。それはおそらく、幻想級アイテムの特殊能力ではない。修練を絶やさず、ライフルを己の一部として生きてきた者の特権だ。


 そんな凛々しき女狙撃手スナイパーの在り様を、その横顔を、ムサシはとても美しいと思った。


「――ムサシさんッ!」

「――~~ッ!?」


 思わず見惚れていたムサシは突然振り向かれて大いに慌てたが、興奮しているレナは全く気付かず、頬を薄紅色に染めて、


「――いいッ! すごくいいですッ!! もうフィーリングが抜群で最高ですッ!!」

「そっか。じゃあ、使ってやってくれ。ケースの中の弾薬は全部使って良いぞ」


 一呼吸の間に平静を取り戻したムサシは、そう言い置いて群れからはぐれたモンスターの索敵サーチ撃破デストロイを再開しようと踵を返した――その途端、


「ま、待って下さいッ!! 私、ライアさんとミアさんに頼まれてムサシさんを呼びにきたんでしたッ! ミアさんには両脚を撃ち抜いて引きずってでも連れてきてって言われてるんですよぉ~ッ!」


 狙撃手スナイパーで目がいいレナは、弓使いアーチャー達と屋根の上から味方を支援している時、たまたま屋根の上を移動しているムサシを発見した。それを報告するとそう頼まれ、ちょうどライフルの弾が尽きた所だったので引き受け、今に至る。


「そいつはおっかないな。じゃあ、行ってみるか」


 実際の所、雇い主の呼び出しを無視する訳にはいかない。


 ムサシは、幻想級狙撃銃ピリオド弾薬アモケースを携えたレナの後に続き、港の近くにある駅へ向かった。

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