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『 海の魔王 』

 薄い青の光の柱は消失したが、どうやらパンデモニウムによって上書きされたリベルタースの都市結界は、もう元には戻らないようだった。金属装甲のような外骨格に覆われた巨大な甲冑魚――『ディニクチス』の『通常種』とより刺々しいフォルムの『亜種』が無数に、体長およそ9メートルもある通常種が小魚に見えるサイズの戦艦のような『超越種』が3匹、リベルタースの上空を泳いでいる。


 その他に港湾都市を俯瞰して目に付くのは4体。『ギガンティスグソクムシ』『城砦ヤドカリ』『軍艦蟹グンカンガニ』『鋭峰砲嵐海栗エイホウホウランウニ』――そのどれもがボス級の体長30メートルを超える化け物で、通常サイズのものになると、陸でのゴブリン、ホブゴブリン、オーガに相当する『サハギン』『ギルマン』『マーマン』と『マーメイド』などの他に、『突撃魚』などの魚類や『ラーヴァクラブ』などの甲殻類など、その数は少なく見積もっても2000は下らないだろう。


 リベルタース中に点在している大型モンスターは、建物を押し潰しているが、移動した痕跡がない。そして、それ以外のモンスターはほぼ大型の周りに集っている。


 おそらく、大型は〔アルマゲドン〕の爆発を耐え抜いて地上へ落下したモンスターで、それ以下のサイズはパンデモニウムが爆散する前に出撃していて殺傷範囲からはずれていたモンスターだろう。大型が動かないのは、再生能力による回復を図っているからだと思われ、周りにいるモンスターは大型を守っているように見える。


 だが、一部の知能が低そうな下級モンスターは好き勝手に行動しており、大型が動かないのを好機と見て住民を避難させている冒険者達と戦闘を繰り広げていた。




 ――ドッドッドォオオオォ――~ンッッッ!!!!


 音速を超過して大気を貫き、水蒸気爆発によって生じた円形の雲と轟音を後に残し、全力降下してきたムサシはディニクチス・超越種の背中に着地した――が、わずかに傾いだだけのパンデモニウムとは違い、超越種はその衝撃に耐えられず、ゴチュッ、と半分に折れ、そのまま、ブチッ、と半分に千切れてしまった。


 加減を間違えて砲弾のように超越種を貫通してしまい、ほぼそのままの勢いで地表に落下したムサシは、着地の衝撃できてしまった巨大なクレーターの底で、ぬぅ……~っ、と呻く。しかし、リベルタースを救うつもりで街に被害を与えてしまった事を気まずく思ったのも束の間、反省は後でしようと気持ちを切り替え、この付近一帯で一番高い建物に向かって風のように疾走し――


「――あれぇ!?」


 背後から押し寄せるように響いてきた轟音と震動に振り返り、真っ二つになった超越種の死骸が街中に墜落したのを見て驚きの声を上げた。


「なんで? パンデモニウムの破片は、落ちる前に回収されたみたいなのに……」


 慌てて確認してみると、能力【亜空間収納】・技術【戦利品自動回収】はちゃんとONになっている。


 パンデモニウムの破片はあれよりも小さかった。そこで、サイズの問題かと確認するため技術【無限収納】で超越種の死骸を指定してみると、あっさり回収できた――が、多量の体液が落下跡に撒き散らされ、その中で無数の大きな芋虫のような寄生虫が蠢いている。


 ムサシはそれを見て、生命体と液体は封印具や容器に入っていないと収納できなかった事を思い出した。


 ――それはさておき。


「……まだ戦闘中って事か?」


 戦利品を得られるのは戦闘終了後。故に自動回収されなかったのだろう。


「楽はできない、か……」


 諦めのため息をつきつつ大跳躍し、この付近一帯で一番高い建物の屋根の上へ。


「ゲームじゃ投下されるイベントボスは1体だけだったのに、大盤振る舞いだな」


 ムサシは、建物の陰に隠れられない大型モンスター共を眺めながら剛毅な笑みを浮かべ、道具鞄からゲーム時代に期せず手に入れてしまった1丁の長銃を取り出した。


 それは、神話級に分類される、東洋風の神秘的な装飾が施された8本の銃身を持つ先込め式連発銃――〔八之雷ヤクサノイカヅチ〕。


 VRエターナル・スフィアでは覚えなかった、ズシ…ッ、とくる本物の重みを感じて思わず笑みを濃くし、


「昔より威力がしょぼくなってたら嫌だなぁ~」


 そんな独り言を漏らしながら大型の中では一番防御力が低く、ミサイルのように発射する事ができる電柱サイズの棘でびっしりと覆われている鋭峰砲嵐海栗エイホウホウランウニを狙い――引き金を絞る。


 発砲と着弾はほぼ同時。雷速らいそく――およそ秒速170キロで発射された弾丸が鋭峰砲嵐海栗を貫通し、着弾点を中心にその巨体を衝撃波が八つ裂きにして派手に撒き散らし、壮大な雷鳴が轟き渡った。


「す、すげぇえぇ~――……」


 思わず笑みを引きつらせたムサシが絞っていた引き金を放すと、円形に配置された8本の銃身が、カキンッ、と澄んだ音を立てて回転し、次の銃身が発射位置へ。仲間の天佑七式テンが使うレールガンのような電磁誘導なのか、発射時の反動はなかった。


 《エターナル・スフィア》では、この1発が与えるダメージは単体用雷撃系上級法術スキルと同等だった。つまり、当然の事ながらこのクラスのボスモンスターを一撃で仕留めるほどの威力はなかったのだが、


「『雷が物質化した弾丸を雷の速度で発射する雷神の威光宿りし銃』……説明蘭にある通り、か……。ゲームの設定をそのまま現実世界で実現させると、こういう事になるんだな」


 飛散した鋭峰砲嵐海栗の残骸を見ながら呆れ果てたように呟き……もう一つ、ゲームと違う点に気が付いた。


 それは、自分の攻撃の余波が街に被害をもたらすという事。


 射線上とその周辺の建物の窓ガラスが悉く割れていたり、スレスレを通過した訳ではないのに屋根の一部が抉られたように消し飛んでいたり剥がれていたり、煙突が折れて吹っ飛んでいたり……【飛脚】で急ぎ翔け戻り、到着して何かをするたびにモンスターよりも街を破壊しているような気がする。


「…………まぁいいか」


 能力【調査】・技術【反響定位】は、三次元レーダーではなく、地図マップと併用する技能。本来はアイテムや罠、アクションを起せるオブジェクトの存在を発見するためのアクティブ・ソナーのようなスキルなのだが、【気功】と併用する事で人やモンスターの存在、建物の位置や構造など、包括的な情報をより詳細に、より広範囲に得られるようになった。


 リベルタースの地図は、先程上空から都市全体を俯瞰した際に能力【書画】・技術【自動詳細地図作成オート・マッピング】で既に完成している。そして、この技能によって、被害が予想される地区の住民の避難が完了しているのは既に確認済み。


 優先順位は、1が人命、2がモンスターの排除。なので、街に被害を出さないよう気を付けつつ、もし出してしまったとしても気にしない事にして、素早く次の対象に照準を合わせ、躊躇なくトリガーを引き絞った。


 元々動きの遅いギガンティスグソクムシと軍艦蟹に雷速の一撃を回避するすべはない。焦点は一つ、その堅牢な甲殻を雷速の弾丸が撃ち抜けるかどうか。


 結果は、いとも容易くぶち抜き、貫通した秒速およそ170キロの弾丸が巻き起こした衝撃波で、全ての脚や鋏、甲殻が内側から爆発したかのように飛散した。


 そして、次に城砦ヤドカリを狙い、引き金を絞ろうとしたその時、


「――ん? この音は……足音?」


 ドゴンッ、ドゴンッ、ドゴンッ……、と連続する重々しい音は徐々に大きくなり――いや、近付いてきて……


「お前は――」


 低い姿勢で建物の陰を疾走し、バッ、と振り返ったムサシの目の前に飛び出してきたのは、人間のような2本の脚、鯱のような尻尾、人間のような2本の剛腕と蛸のような2本の触腕を備え、貝殻のような質感の生体装甲で全身が鎧われた体長8メートル超の巨人。武器防具で武装し、鰓や水掻きはあるが上半身はギルマンより人間に近く、肌の質感や下半身は鯱のような体長およそ6メートルの『マーマン』が凶悪な進化を果たしたものだと思われるが……


 能力【調査】・技術【分析】と能力【瞳術】・技術【看破】によって暴き出されAR表示されたその個体名は――


「――海魔王かいまおう・ダゴンッ!?」


 目を見開いたムサシに向かって繰り出される隕石のような打ち下ろしの右チョッピング・ライト。それをムサシは咄嗟に横へ飛んで回避した。まさに間一髪。


 大気を抉り抜く豪速の一撃が直前まで立っていた屋根を突き破り建物を木っ端微塵に粉砕すると、ムサシは舞い上がった大量の破片と粉塵をブラインドにして己の気配を【隠蔽】し、その場からの離脱を図った――が、


「――~~ッ!?」


 ダゴンは、両脚を肩幅に開いて腰をわずかに落とし、ズシッ、と重心を下げ、人間のものに似た一対の剛腕を胸の前で交差させる。すると、肩から剛腕と枝分かれするように生えている触腕――吸盤の代わりに鋭い爪を備えた蛸のような腕が、ズリュ~ッ、と伸びて、ピュッ、と掻き消えたように見えるほどの超高速で縦横無尽に奔り、シュゴバババババババ……ッッッ!!!! と怒濤の如き連撃が、自身を中心とした円形の範囲を徹底的に薙ぎ払うかのように打ちのめし尽した。


「ゴフゥウゥ―――……ッ」


 ダゴンの頭部全体を覆って保護する生体兜の隙間から生臭い呼気が漏れる。


 鞭のようにしなやかで倍以上に伸びる触腕が届く半径およそ20メートルの範囲内に存在していたものは、空間ごと削り取られたかのように消失しており、石畳が敷かれていた地面も土が露出している。更に、触腕の先端が音速を超えた事で生じた衝撃波と弾き飛ばされた破片によって、被害は倍ではすまない広範囲に及んだ。


 だがしかし、それ程の暴威を振るってもなお危険な下等生物ムサシを仕留めたという確信が得られなかったダゴンは、しきりに周囲へ視線を巡らせ――見付けた。


 弾き飛ばされた破片で倒壊した家屋、その瓦礫の陰から飛び出してきたのに気付いた瞬間、自分の足元にだけ残っている石畳が砕け散るほど強く地面を蹴って急発進し、いっきに距離を詰める。


 この時、ダゴンが、一度は【隠蔽】で認識不可能になったはずのムサシの存在を認識できた事に疑問を持っていたら、結果は変わっていたかもしれない。


 【飛脚】で辛くも難を逃れたムサシは、【隠蔽】を解除し、その巨体からは想像できないほどの敏捷さを発揮して自分に向かってくるダゴンを見据え、〔八之雷ヤクサノイカヅチ〕を構え、引き金を絞る――と見せかけた。


 そのフェイントにまんまと引っかかったダゴンは、刹那の間にイメージする。初弾が己の残像を貫き、はずしたと悟った下等生物ムサシが己を探し、見付け、狙いを定める――その間に距離を詰め、次弾が発射される前に限界まで伸長させた触腕の一撃で仕留める、その瞬間までの流れを。


 そして、水棲系モンスターが空気中で水中のように活動できる結界内だからこそ可能な、尻尾で空気みずを叩くように掻いた反動で躰を横滑りさせるという変則的な高速機動で射線上から退避し、次弾が発射される前に触腕の間合いに捉えるべく全力で地を蹴り――初弾が発射される事なく、スッ、と精確に自分を照準する銃口を見て、生体兜の面覆いの下で、ギョッ、と目を剥いた。


 発砲と着弾はほぼ同時。前進する事に全力を費やした直後だったダゴンには、回避も、防御も、反応するいとますらなく、予防型の魔法障壁を貫いて真正面から鳩尾みぞおちに直撃し――飛距離自慢のプロゴルファーがドライバーで打ったゴルフボールのように吹っ飛んだ。


 貫通しなかったためその場で炸裂した衝撃波が、炎が出ない爆弾が爆発したかのように広がり、ムサシは咄嗟に【金剛】で――重心を落とし自重を増加する【重気功】と練り上げた〝気〟の内圧で外力に耐える【硬気功】を複合した高等技術で凌ごうとしたが、【守護障壁】があったのでその必要はなかった。


「徹らないって、どんだけ頑丈なんだよ」


 ほとほと呆れ果てたように言いつつ追撃を加えるべく〔八之雷〕を構え、遥か彼方へすっ飛んで行くダゴンに狙いを定め……めた。


 代わりに、非表示にしていた三次元レーダーを表示し、能力【調査】・技術【追跡】でダゴンを示す光点にマーカーを付ける。これで、レーダーの範囲外へ出ても方向が分かり、マークした対象を探し出す事ができる。


「まったく……どんなにでかくても良いけど、でかいのに速いってのはずるいだろ?」


 そんな事を呟きつつ跳躍し、手近な建物の屋根の上へ。


 まずそこから狙える城砦ヤドカリを撃ち、次に狙うは残り2匹のディニクチス・超越種。だが、ダゴンの生体装甲は貫けなかったとはいえ、貫通力に優れているのだから他を巻き込まない手はない。可能な限り多くの通常種や亜種を射線上に捉えられる位置を見極め、素早く移動し、容赦なく発砲する。


 城砦ヤドカリは宿に篭った防御体勢だったが問答無用で粉砕し、射線上に存在した多少の個体差はあれどディニクチス系では最も小型の通常種、頭部が剣や円錐形の騎槍のような形状の亜種、そして、戦艦サイズの超越種をまとめてぶち抜き、落下物は可能な限り【亜空間収納】で回収した。


 あと1発残っている〔八之雷〕を道具鞄にしまい、替わりに取り出した〔僭主の召喚笛〕を吹き鳴らしつつ移動し、呼び寄せられたモンスターを海まで一直線に続く大通りへ誘導する。


 その途中、群を抜いて高い能力を有するマーマンを始めとした上級モンスターが追いついてきたが、冷静さを欠いた【激昂】状態。どれ程速かろうとも、真正面から無闇に突っ込んでくるだけの輩をあしらうなど造作もない。〔名刀・ノサダ〕を抜刀し、重心を操る古流の歩法【転ばし】で右へ左へ、ふらり、ゆらり、と躱し様の一刀で斬り捨てた。


 そして、〔僭主の召喚笛〕をしまい、可能な限り多くのモンスターをギリギリまで引き付けてから〔八之雷〕を取り出し――ぶっ放す。雷速の弾丸に撃ち抜かれ、衝撃波に引き裂かれ、途中で斬り捨てたのを合わせて500は削れただろうか。


 大通りに面したほぼ全ての建物に少なくない被害が及んでいるが、それが問題にならないぐらい、肉、内臓、骨、体液……ほとんど原形を留めないまでにぐちゃぐちゃになったモンスターの残骸が散乱していて酷い事になっている。まさに屍山血河。その上、海から流れてくる潮の香りに、モンスターの体液と臓物と千切れた腸から溢れ出た排泄物の匂いが混じり合って、トラウマになりそうな程の壮絶な悪臭が涙と吐き気を誘う。


 自分でグロ耐性は高いほうだと思っていたムサシですら、うっぷ、と思わず顔を背けた。


 ――それはさておき。


「ありがとよ」


 ムサシは、己が作り出した地獄から目を背け、力を貸してくれた事に礼を言って、全弾撃ち尽くした〔八之雷〕を道具鞄にしまった。


 〔八之雷ヤクサノイカヅチ〕は、8本の銃身に1発ずつ弾が込められた先込め式の連発銃で、8発全て撃ち尽くすと自動的に天地の霊気を吸収して再充填が始まる。だが、銃身1本につき約1日かかり、8本の銃身全てが再充填されるまでは撃てない。


 つまり、この超兵器はこれから最低でも八日間は使用できない。


 あの時、ふと勘が働いて撃つのを止めた。


 今なら、海魔王ダゴンは至近距離からの一撃に耐えたのだから、距離が開いてしまった状態で残りの4発を全て食らわせても倒しきれないかもしれない……など、撃たなかった理由はいくつか挙げられる。だが同じ様に、【飛脚】で追って至近距離から残弾を全て叩き込み確実に仕留めるべきだったんじゃないか、と思わなくも……


「……まぁいいか」


 今更何を言っても詮のない事だ。果たしてあの時の判断は、正しかったのか、間違っていたのか……その答えは、もうすぐ分かる。


 とりあえず、無駄にでかくてヤバイのは全て落し、上級に分類されるであろう手強いのは粗方斬り捨てた。残敵の掃討はミア達に任せても大丈夫だろう。良い修行になるはずだ。


 あとは、ダゴンを討ち取れれば上々、悪くても相討ちに持ち込めれば良い。


「うん、気楽なもんだ」


 ムサシは、にっ、と笑い、内陸のほうへ吹っ飛ばしたダゴンを【追跡】した。




 リベルタースを出る前から能力【隠匿】・技術【隠蔽】を使い、途中まではレーダーを頼りに、気配を捉えてからは正直鬱陶しいし邪魔になるので非表示にして進む。


 そして、見付けた海魔王・ダゴンは――既に虫の息だった。


 そこは、山間の林の中。周囲の状況から察するに、木々を薙ぎ倒して地面に墜落したダゴンは、数度地面でバウンドした後、仰向けに倒れて止まったようだ。もう動けないらしく、今は紫がかった血溜まりに沈んでいる。


 着弾の衝撃で胴体の骨という骨が砕け、重要な器官が悉く潰れ、物質化が解けてエネルギーに還元されただんがんに神経を焼かれ、多量の血を失い……それでもまだ生きていた。いや、強過ぎる生命力が仇となってまだ死ねないと言ったほうが良いのかもしれない。


 ダゴンは、【隠蔽】を解除して泰然と歩み寄るムサシに無反応――と見せかけて、両触腕を繰り出した。――が、その根本に、ドッ、と2本の水晶から削り出したような柳の葉型の手裏剣が同時に1本ずつ深々と打ち込まれ、ついぞ一度としてその先端がムサシに届く事なく、閃光と共に炸裂した〔フォースナイフ〕によって千切り飛ばされた。


 ダゴンの殺気に呼応し、躰の脇に、だらん、と垂らしていた両手の手中に1本ずつ顕現させた手裏剣を万歳するように振り上げる動作で同時に打ち込んだムサシは、更に振り下ろす動作で投擲しようと用意していた手裏剣を消し、両手を降ろす。


 その場から更にムサシが歩み寄ると、


「ヴォオォオオオォオォオオォオオオオオォ~ォオォオオオォ――――ッ!!!!」


 ダゴンが横たわったまま、吐血して口腔内に残っていた血を撒き散らしながら、不思議な韻律の咆吼を上げる。


 どうやらそれは魔法の詠唱だったらしい。しかも、己諸共敵を滅ぼす自爆魔法。


 ダゴンとムサシの中間点を中心にして巨大で複雑精緻な魔法陣が出現し――パリィンッ、と硝子が砕け散るように消失した。


 何が起きたのか理解できずに硬直するダゴンに対して、


「お前さん相手に油断できるほど、俺は強くない。期待はずれですまないな」


 その傍らに立ったムサシがそう声を掛ける。


 するとダゴンは、今度こそもはやこれまでと観念したかのように、ガクッ、と躰から力を抜いた。


「お前さん、人間の言葉を話せるか?」

「…………」

「なぁ、お前さん達はひょっとして、――故郷うみを追われたのか?」

「…………」

「それとも、海だけじゃ満足できずに、地上をも手に入れようとしたのか?」

「…………」


 人間の言葉が理解できないのか、会話をするつもりがないのか、反応はない。


 その状態から見て自分で始末を付ける事はできないだろうし、であれば介錯してやる事もできない。首回りは襟状の生体装甲に守られている上、仰向けに寝ている状態ではそもそも斬り難い。


 そこで、ムサシは無用な苦痛を与えないよう止めを刺すため、道具鞄から〔ドラゴンロアー〕を――拳銃を構えると同時にナイフを逆手に構えた状態になるのが特徴の大型回転弾倉式剣銃を取り出した。


「何か言い残す事はあるか?」


 撃鉄を起こしながら訊くと、これまで無反応だったダゴンが、ゴボッ、と喉に溜まっていた血を咳き込むように吐き出して、


「……空前ニ…シテ…絶後ノ…愚者、ぱんどらノ…子ヨ。――死ニ絶エ、滅ビロ。……貴様ラコソ…ガ…諸悪…ノ…根源、撒キ散ラサレシ…災厄。――死ネ……死ネ……死ネ……死ネ……死ネ……死ネ……」


 ダゴンは、暗い淵の底から響いてくるようなおどろおどろしい音声でそれを繰り返し……


 山間に、銃声とは思えない轟音が響き渡った。

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