『 侍の嗜み 』
ムサシが本腰を入れて臨む、地下鉄駅構内並びにフリーデン~リベルタース間のトンネル攻略――2日目。
初日、ムサシは効率を上げるため二手に分かれたつもりだったのだが、共に地下鉄駅構内の攻略に臨んだクラン〈女子高〉メンバーは、ゲーム時代の工場や研究所などのような敵が出現する射出口はないか、天井裏や床下の空間の有無、それらや通風孔に危険な生物が潜んでいないか、他の危険はないか、とムサシが制圧したエリアの徹底的な調査やマッピングなどを行なっていたため、彼女達に任せたつもりでいた部分がそのまま残っている。
昨夜、ホームへ帰還してから、静、巴、レナと共に、クラン〈エルミタージュ武術館〉メンバーとトンネル攻略に挑んだミアから聞いた話しによると、自律式汎用作業列車やラードーンのようなボス級の敵の出現に備えて慎重に慎重を重ねて進んでいるため、また一定の間隔で存在する緊急避難スペースを一つ一つ調べていたため、全体の半分も終わっていないらしい。
そして今日、ムサシがミアと共に地下市街の更に下に位置する地下鉄駅エリアへ赴くと、にわかに活気付いていた。今まで目にしなかった男性の姿もある。
既に来ていたパーティメンバーの静、巴、レナと合流して話を聞くと、彼らは、建築や改修、家具の製造、販売などを生業とする集団で、天の城と書いて『オリュンポス』と読ませる信頼と実績の商業系クラン〈天城工務店〉の親方と徒弟達らしい。
なんでも、以前から〈エルミタージュ武術館〉に所属する能力【建築】持ちを中心に、エリアを攻略するごとに施設の修復と保全を行なってきた。しかし、ムサシが参加した事で攻略速度が爆発的に加速し、エレフセーリア~フリーデン間のトンネルでの作業が始まったばかりだというのに、駅構内やフリーデン~リベルタース間のトンネルもという事になり、人手が足りなくなった。
そこで、〈エルミタージュ武術館〉と〈女子高〉こと〈私立情報之海総合学院付属女子高等学校・フリーデン分校〉のクランマスターが共議した結果、自分達だけでの達成にこだわらず、少しでも早く一般の人々が安全に利用できるようにする事を優先したとの事だった。
「それと話は変わるのですが」
「冒険者ギルドからムサシくんへの書状を預かっているんです」
「あっ、〈女子高〉も頼まれました。絶対に渡してくれ、としつこいぐらい念を押されたそうです」
巴と静、レナからそれぞれ書状を受け取り、封を解いて目を通す。その瞬間、ムサシは顔を顰めた。文字がびっしりと書き込まれているのを見て読む気が失せたのだ。
ミアが、仕方のない先輩ですね、と言わんばかりにため息をつき、世話を焼けるのが嬉しいのを苦笑で隠しつつムサシから書状を受け取って目を通す。2通は同じ内容で、要約すると、丁寧過ぎるほどの謝罪と、遅くとも今日の正午までにはギルドに顔を出してほしい、というものだった。
「それは命令?」
「いえ、〝命令〟ではなく〝懇願〟って感じです」
「そっか。じゃあ、今日の予定を優先する」
そう決断し、駅構内の未攻略エリアへ足を向けるムサシ。
昨日はパーティを組んだ意味がないとブーブー文句を言ったミア、静、巴、レナだったが、今日は、ご武運を、と声をかけてその背中を見送った。
それは、ミアが覚悟を決め、姉妹とレナがその思いに共感したから。
一緒にいたい。片時も離れたくない――そう言って一緒にいても、今の自分では何の役にも立てない。だからこそ、今はぐっと堪えてあの背中に追いつくための修行に専念する。
そう、ミア達の目的は修行であり、トンネル攻略はそのついでなのだ。
「今日も頑張りましょう」
『――はいッ!』
決然とした態度のミア。その言葉に応える3人の声にも自然と気迫がこもっていた。
そこは、地下鉄駅構内でも特に厳重に隔離されているエリア。
そこへ足を踏み入れると、じめじめとした熱帯雨林のような湿度の高さと、草木が腐って発酵した腐葉土のような臭いが同時に襲い掛かってくる。
そのエリアを一直線に貫いている広い通路の中央で等間隔に並ぶ直径1メートルほどの円柱が天井を支え、通路の左右にはかつて賑わっていたであろう店舗の跡が並んでいる。多少汚れてはいるものの床のタイルが露出している通路とは裏腹に、軒を連ねる店舗跡の中は、まるで原生林の如き植物が繁茂していた。それはおそらく、まだ清掃ロボが機能していた頃、指定されていたのが通路だけで各種店舗への進入が許可されていなかったからだろう。
そして、このエリアに機械系以外のモンスターが出現するのは、同じく警備ロボも各種店舗への進入が許可されていなかったからだろうと思われる。店舗跡の中の樹海に潜み、繁殖しているのだ。
(ミアは来なくて正解だな)
ムサシは、前を横切って行く小さな蛾を何とはなしに眺めながら独り言ちた。
ミアは、蜥蜴や蛙など爬虫類や両生類は平気なのだが、虫は大の苦手で、蚊に怯え、蝶や蜻蛉ですら怖がって逃げる。あの黒光りしてカサカサと素早く動き回るヤツなどは、その気配を感じただけで天地がひっくり返ったような大騒ぎ。目撃した訳ではなくただいたような気がするというだけで家に呼び付けられた事か何度もあった。
――それはさておき。
今回は〈女子高〉メンバーから、可能な限り自分達に敵を倒させて欲しい、といった旨のお願いされた。なんでも、強力な助っ人がついている状況で実戦経験を積めるというこの貴重な機会に、戦闘を専門とするメンバーの実力の底上げを計りたいらしい。
地道に攻略を進めてきた彼女達に協力する事を決めていたので、ムサシはそれを承知した。
制圧エリアで活動している非戦闘員に万が一の事がないよう警護に人員を裂いているため、攻略組の人数はだいぶ減って、選抜隊の志願者の中から更に選び抜かれた、隊長率いるパーティを含む中・近距離戦闘を得意とする者達で構成された4小隊。
一つは、選抜隊・隊長の『佐々木 香』率いる『佐々木小隊』。
軍隊風の小隊で、湿度対策の夏服の上にマガジン・ポーチなどを取り付けたタクティカル・ロードベアリング・ベスト、両手足にプロテクターを装備し、主武装に各人がそれぞれ狙撃や近距離戦に調整した多目的突撃銃や汎用機関銃を装備している。
一つは、『風見 飛鳥』率いる『風見小隊』。
警察特殊部隊風の小隊で、拳銃、短機関銃、散弾銃などで武装している。
一つは、『久遠 雅』率いる『久遠小隊』。
現実世界と異世界双方の武装を採用している小隊で、学園の夏服の上に軽甲冑などファンタジー系の防具を装備しており、剣や槍を主武装としつつ、副武装として実弾系の銃器を使いこなす。
一つは、『鳴沢 萌』率いる『鳴沢小隊』。
個性と戦闘力が突出した者を一つの隊に纏めた問題児小隊。
気温はそれほどでもないのだが、湿度が高過ぎる。そのせいで皆汗だくになっており、ワイシャツやブラウスを着用しているメンバーは濡れて肌に張り付き下着が透けていたりするのだが、鉢金を含めた〔戦極侍の戦装束〕を装備しているムサシだけが汗一つかいていない。
チラチラと自分に向けられる、いったいどうなっているんだ? という目を気にする事もなく、【体内霊力精密制御】で【守護障壁】のように〝気〟を纏い不快な湿度を遮断しているムサシは、その4小隊で攻撃、支援、周辺警戒のローテーションを組んで一店ずつ制圧していくのを眺めているのだが……
(ん~……、なんだろうな、この違和感……?)
しばらく彼女達の動きを観察し……その原因に気が付いた。
(ゲーム転位現象みたいなものか……)
『ゲーム転位現象』とは、簡単に言ってしまうと、プレイヤーがゲーム内でのアバターの身体能力を現実でも発揮できると思い込んでしまう現象の事。《エターナル・スフィア》では都市結界などなくとも、現実世界での生活環境に近い仮想空間では【ステータス】補正による超人的な動きが出来なかった。それは、このゲーム転位現象対策の一つであり、フルダイブ体感型VRゲームが普及した現代において社会問題になっていた。
要するに、〔ティンクトラ〕を得た聖痕持ちである彼女達は、【ステータス】補正がある状態での戦闘に慣れており、ふとした拍子にこの都市結界の影響下でも同じ動きをしようとしてできず、攻撃のリズムを崩しているのだ。
(自覚してるみたいだから注意する必要はないだろうけど……)
ミアから聞いた話しによると、この世界には、継承する事で可能性を創造する力を得る事ができる〔ティンクトラの記憶〕を目当てに冒険者を襲う殺人者――通称『冒険者狩り』と呼ばれる者達が存在するらしい。
もし、対人戦闘に特化した冒険者狩りに都市結界内で襲撃されたとしたら、仮に暗殺者染みた奇襲の一撃目を凌げたとしても、逃げられず交戦する事になれば、この【ステータス】補正の有無を原因とする感覚の狂いは命取りになる。
それを解消するためのアドバイスを考えていると、ちょんちょんっ、と袖を引っ張られた。声をかけてこなかったのは、地下という閉鎖空間で銃や手榴弾を用いた戦闘を行なうに際して、ムサシを含む全員が耳栓やイヤープロテクターをしているからだろう。
ちなみに、パーティ間では【念話】が使えるし、他にはハンドシグナルや読唇術、近くで怒鳴り合うなどして意思疎通を図っている。
袖を引っ張っていたのは、鳴沢小隊を率いる小隊長にして、ムサシにとって参加者の中で最も難易度の高い少女――『もえたん』こと『鳴沢 萌』だった。
150センチに届かない小柄な躰にたくさんの不思議を詰め込んだ活力漲るツインテールの少女で、身に付けているのは、旧型のスクール水着の上にセーラー服、足にはオーバーニーソックスとブーツ、手にはシューティンググラブ。ヘッドホン型のイヤープロテクターのバンド部分には猫耳が生えており、柄がピンクの伊達メガネをかけている。腰に巻かれた幅広のベルトに全て紺色に塗装された2丁分のホルスターと無数のマガジン・ポーチが取り付けられている様子は紺のプリーツスカートのようにも見え、背負っている赤いランドセルには予備の武器弾薬等が納められており、飛び出しているソプラノリコーダーはそう偽装された山刀の柄。
現在、彼女が率いるパーティの担当は周辺警戒。それを個性豊かな仲間達に任せてムサシの許にやってきたのは、一つの確認と一つのお願いをするためだった。
「お兄ちゃんは【侍】なんだよねッ!! じゃあ銃も使えるんでしょッ!?」
精一杯背伸びをして、耳栓をしていても聞こえるように大声で言うもえたん。
【侍】だから銃を使える――それは、《エターナル・スフィア》での常識。
古来の戦には、まず弓や鉄砲で矢弾を交え、次に槍で打ち合い、それで陣形が乱れた所に騎馬を突入させ、それに続いて刀で切り込み、刀がこびり付いた血糊や刃毀れで使い物にならなくなれば小具足――防具の事でありそれを着けて行なう無手の武術――で相手を打ち倒し、捻じ伏せ、その者の得物を奪って戦う、という具合に大まかな流れがあったと云われている。
それ故に、弓、鉄砲、槍、馬、剣、小具足――戦国の世に武士が嗜むべきとされた六つの武芸の事を総じて『陸芸』と呼んだらしい。
ちなみに、『陸』というのは数字の『六』の事。今普通に使われている漢数字の『一・二・三・四・五・六……』は『壱・弐・参・肆・伍・陸……』が簡略化されたもの。
おそらく《エターナル・スフィア》の製作者も、これと似たような事を知っていたのだろう。
真人族にのみ存在する『職種』――他種族の場合は『称号』――の内、上級職【侍】になるためには、初級職【太刀使い】【槍使い】【弓使い】【銃使い】【騎手】、それと【柔術使い】や【空手使い】など複数ある無手系のどれか一つを獲得した後、中級職【武士】【騎兵】を獲得する必要がある。言い換えると、【侍】の職種を獲得している者は、最低でも必ず【太刀】【槍】【弓】【銃】【騎乗】と無手系武術一つの能力を取得しているという事。
ログインする目的は、剣道、剣術、居合いの修行だったが、【侍】にこだわったため、ムサシもその例外ではなく、【太刀】【槍】【弓】【銃】【騎乗】とスキル以外での投げや絞めにもダメージ判定がつく【投極】を取得した。そして、取得したからには中途半端は気に入らない、と全て熟練度を100%まで上げて【達人】の称号を得ている。
ちなみに、同じ上級職【侍】の職種を持つ静御前は、他の五つに加えて【投極】を、巴御前は手足での攻撃にダメージ判定がつく【打撃】を取得している。
「もえたんねっ、お兄ちゃんが銃で戦ってる姿を見てみたいのッ!!」
大声で言った後、上目遣いの実にあざとい表情で見詰めてくるもえたん。
「それは出来ないッ!」
何故なら、可能な限り自分達に敵を倒させて欲しい、とお願いされているから。
故に、皆が命の危険に晒されでもしない限り手を出す事はできない、といった旨を大声で答え、不意に銃声がやんでいる事に気が付いた。
どうやら鳴沢小隊の副長が他の小隊長に、小隊長が指揮を自分に任せてムサシの許へ向かった理由を説明したらしく、一同が状況を一時中断して二人に目を向けている。
そこに込められているのは、《エターナル・スフィア》最強の戦闘狂と謳われた〝神威の絶刀〟の戦いが見られる、という好意的なものから、お手並拝見、と言わんばかりの挑戦的なもの、挑発的なもの、対抗心まで実に様々。
「お兄ちゃんにお手本見せてほしいの! もえたんの、お・ね・が・いっ! きいてくれるよね?」
「お手本って、俺はガン=カタなんて使えないぞ」
『ガン=カタ』とは、自分と標的の位置を幾何学的に捉え、敵を迅速に殲滅するための動作を武術の型のように最適化した銃戦闘術の事。
タイトルは忘れたが、妹に付き合わされて家のリビングで見た映画。感情を抑制する薬の力で完璧な秩序が保たれた世界に反旗を翻す、一人の男の物語。
これに登場するのがガン=カタなのだが、なんと、もえたんはそのガン=カタをマスターしているのだ。
クラン〈女子高〉内ではもちろん、フリーデンを拠点とする全冒険者の中でもトップクラスの戦闘能力を有する小さな少女は、見栄えを気にするステージ上のアイドルのように大きな手振り身振りを交えながら、
「いいのいいのっ! もえたんはね、《エターナル・スフィア》で最強と謳われていたお兄ちゃんの戦い方を見てみたいのっ!」
「誰が謳ってたんだか知らないけど、期待しないほうが良いと思うぞ?」
まぁ、戦うのは別に構わない。けれど例の約束がある。さて、どうしたものか――そんなムサシの考えを読んだかのように、か~おり~~んっ! と現場を任された指揮官である佐々木香の許へ、びゅんっ、と駆けて行くもえたん。
生真面目そうな委員長タイプの佐々木香は、そう呼ばれて嫌そうに顔を顰めた。スクール水着、セーラー服、ランドセルなど学校を連想させるものを身に付けているとはいえ、盛大に校則違反を犯していながら見逃されているもえたんの事を快く思っていないようだ。が、自身もムサシの銃を用いた戦闘を見てみたかったのか、即座に全員を呼び集めて意見を求め……結局、例のお願いを伝えた彼女の口から、この場にいる者達の総意として、ムサシに新しいお願いが伝えられた。
「ナイフじゃダメ?」
「ダメだよお兄ちゃん! 見て学ぶと書いて『見学』だよ? もえたん達に銃を使った戦い方をお・し・え・てっ!」
それに渋い顔をするムサシ。
ムサシがゲーム時代から所有する銃は計3丁。長銃型の2丁は危険過ぎて地下という閉鎖空間では使えず、拳銃型の1丁もこのエリアに出現する優先駆除対象3種に対して用いるには威力があり過ぎる。道具鞄〔道具使いの仕事道具〕に収納されている絶望の森で回収したものの中には、機巧族以外でも使用できる銃砲類が幾つもあるが、やはり使うなら使い慣れたものが良い。
弾薬だってタダじゃない。それに引き換え〔フォースナイフ〕ならタダで使いたい放題なのに……、と内心でぼやきつつ、道具鞄から愛用の〝銃〟を取り出した。
「ん? あぁ、そういえば、この世界で〝お前〟を使うのは初めてか……」
VRでは覚えなかった、ズシ…ッ、とくる本物の重みを感じて思わず感慨深げに呟くムサシ。
これは他の2丁も機を見て試射しておいたほうが良いだろう。昔より威力がしょぼくなってたら嫌だなぁ~、などと考えつつ点検していると、
「お、お兄ちゃん? それ、何?」
何故か引いているもえたんが素を覗かせつつ指差したのは、ムサシが手にしている、一見して名工の作と判る禍々しくも美しき異形の銃。
「――〔ドラゴンロアー〕。《エターナル・スフィア》で真人族が装備できる最大の拳銃で、口径は13ミリ、装弾数6のダブルアクション・リボルバーだ」
重厚な銃身、長く大きな回転弾倉、そして、銃把から伸びる鉈の如き肉厚の刀身に鋭利な刃を備えた優美な曲線を持つ両刃のファイティングナイフ。大型回転弾倉式拳銃を構えると、同時に刃渡りおよそ50センチの大型ナイフを逆手に構えた状態になるのが、この〔ドラゴンロアー〕最大の特徴だ。
「13……ッ!? そんなの【ステータス】の補正なしに撃てるの?」
拳銃の場合、発砲の反動に人体が耐え得る限界とされるのが『13ミリ』という口径。だが、ムサシが手にしているのは自動式拳銃のような反動軽減機構のない回転弾倉式拳銃。その上、ロングシリンダー。回転弾倉が長ければそこに装填される薬莢も長くなり、薬莢が長くなればその分多くの火薬が込められ、火薬が多くなれば当然威力は増し、反動も強くなる。
故に、もえたんがそう懸念するのも無理はない。
しかし、超重量級の〔ドラゴンロアー〕を平然と手にするムサシは、完全に素の状態の鳴沢萌を面白そうに眺めた後、見ていれば分かる、と言わんばかりに剛毅な笑みを浮かべた。
道具鞄から親指よりも大きな6発の弾薬が円形に固定されている〔クイックローダー〕を取り出し、振り出した空の回転弾倉に装填すると、手首のスナップで弾倉を元の位置へ戻す。そして、撃鉄を起こし、ウィーバー・スタンスで構え……ん? と眉根を寄せた。それからすぐに、あぁそうか、とここが都市結界の影響下だという事を思い出し、
「【残弾数表示】が機能しないって事は、【薬莢自動回収】も、か?」
それらはどちらも能力【銃】系のスキル。【残弾数表示】はONにしておけば銃砲類を構えると同時に弾薬の数が種類別にAR表示されるスキルで、【薬莢自動回収】は弾倉から排莢すると自動的に回収されるスキル。
薬莢は再利用できるので是非とも回収しておきたい。【戦利品自動回収】と同じ様に一度ONにしておけば都市結界の影響下であっても発動する可能性もあるが、そうでなかった場合、戦闘中にそんな時間はないし、後で戻って一つ一つ拾い歩くのは面倒だ。
起した撃鉄を一度戻し、さてどうしようか、と考えて、腰の後ろの道具鞄を斜め前へ移動させて口を開けておく。ついでに【アイテム】で残弾数を確認し、おまけに一つの指環を取り出して右手の中指に嵌めた。
このエリアに出現する優先駆除対象は3種。
長い足を広げれば1メートルに達し、巣を張って待ち構えるのではなく、積極的に襲いかかって獲物を捕らえる獰猛な大蜘蛛『ハンティングスパイダー』。
非常に臆病であるが故に過敏に反応して襲い掛かってくる、額に鋭い一本角を備えた高速で跳ね回るバレーボール大の鼠『ホーンラット』。
人や動物の姿を模して動き回るゴーストが憑依した植物『ホラープラント』。
中指に嵌めた指環は、攻撃に【浄化】を付与する〔アタックリング・聖〕。この世界でも効果があるかは分からないが、一応ホラープラント対策に装備しておく。
ムサシがそうこうしている間に、クラン〈女子高〉の面々は話し合い、1小隊ずつ見学する事を決め、一番目の鳴沢小隊がムサシの側に集まった。他の3小隊は周囲を警戒する。
「カッコイイところを見てせてね、お兄ちゃんっ!」
「普通に倒すだけで、何か特別な事をするつもりはないぞ?」
いったい何を期待しているのか、ニコニコしているもえたんにそう釘を刺し、ムサシは鳴沢小隊と共に次制圧する予定だった店舗へと足を踏み入れた。




