『 回復をアイテムに頼るな 』
3人共〝気〟を知覚できるようになり、溜める感覚も掴んだ。ならば、知覚の精度をどれだけ上がられるか、短時間でどれだけの〝気〟を【練気】できるようになるかはそれぞれの努力次第。
そこで、昼食後はとりあえず覚えた事を実戦で実践してみるため、一行は山の中の修行場から街道が1本通るだけの広大な原野へ移動した。
「いざって時は俺がフォローする。安心して思いっきりスキルを使って良いぞ。――特にミア。俺は自分で使えないから法術の事は何も教えられない。自分で何とかしてくれ」
スキルは最高の指南役だ。【練気】の工程が存在しないとはいえ、〝気〟を知覚できるようになり、【練気】の感覚を掴んだ今なら多くのものを得られるだろう。
「いざって時は、って……」
ミア、静、巴は周囲を見回した。
そこは、雑草や低木の生えている平野の真っ只中。目を凝らして見ても、視界の隅にAR表示されている三次元レーダーを確認してみても、3人の探知範囲内にモンスターは存在しない。
「じゃあ、呼ぶぞ」
ムサシがそう言っておもむろに道具鞄から取り出したのは、細部にまで精緻な細工が施されたキセルを彷彿とさせる雅な笛――〔僭主の召喚笛〕。
『召喚笛』と呼ばれるアイテムは、大きく二つに別ける事ができる。一つはプレイヤーが乗って操る事ができる動物やモンスター――騎獣を召喚するもの。もう一つは、敵モンスターを召喚するもの。
〔僭主の召喚笛〕は後者。《エターナル・スフィア》に君臨していた魔王の一角、『常闇の宮の主』こと大妖・九尾狐から簒奪した最上級の召喚笛。
説明欄には『魔王以外には吹く事はおろか持つ事すら許されない笛』とあり、この笛で召喚されたモンスターや、既にフィールドに存在しているモンスターは、攻撃力が上昇する【激昂】状態で魔王を僭称する使用者に襲いかかる。そして、使用者が能力【騎乗】【調教】【召喚術】のいずれか一つでも取得していて適合する技術を修得していた場合、倒されると自動的に【屈服】――従える事が可能な状態となり、本来のモンスターごとに設定されている必須アイテムを無視して、回復アイテムを与えれば仲間に加える事ができる。
「その笛は……ッ!? 神獣や幻獣が召喚されて実体化しまったらどうするんですかッ!?」
ミアにそう言われて、ムサシは、あっ、と思い出した。
「なんでアルジェやフィーを呼ばないんだ? 昔はしょっちゅう用もなく呼び出してたのに」
『アルジェ』『フィー』とは、能力【召喚術】・技術【幻獣召喚】を取得・修得しているミアが使役する神獣と幻獣の事。
「そ、それは……」
どうやら何か事情があるらしく、表情を陰らせて顔を背けるミア。ムサシはそんなミアの様子に首を傾げ――まぁいいか、と〔僭主の召喚笛〕を咥えて吹き鳴らす。
ミアが、静が、巴が、あッ!? と目を見開いた。
同時に吹き鳴らした複数の笛の音が見事に調和したような耳に心地好い和音が響き渡り、その余韻が空間に溶け込むように消え――
『――~~ッ!?』
ミア、静、巴の視界の隅にAR表示されている三次元レーダーに、敵を示す数十もの赤い光点が出現する。
その反応は自分達の足元――地中にもあり、精霊族エルフのエウフェミアは背中に光の翅を展開して、姉妹は跳躍から能力【飛行術】系のスキルを発動させて、咄嗟に上空へ逃れた。
そして、飛べないムサシは、
「――ふッ!」
足裏から【発勁】――〝気〟を練り上げて純粋な破壊の力に昇華させた〝勁〟を発し、地面に打ち込んだ。
ムサシを中心とした直径5メートルの範囲に蜘蛛の巣状の亀裂が奔り、足元の反応が消滅する。
その外側に続々と出現したのは――アンデッド系モンスター。
地中から這い出してくる骨格のみの『スケルトン』、腐肉が纏わり付く『ゾンビ』、虚空より滲み出るように現れた『ゴースト』と総称される幽霊『スパンキー』や邪精霊『ウィル・オ・ウィスプ』などなど。スケルトンとゾンビは、人間だけではなく、オークや他のモンスターの骨格や死体が数多く混ざっている。
「七支刀流刀殺法――旋風斬りッ!」
〔名刀・ノサダ〕を抜き放ったムサシが本気で繰り出した一刀によって、爆発的に発生した怒濤の如き霊威を帯びた衝撃波が自身を中心とした半径20メートル超の範囲を薙ぎ払い、アンデッド共を吹っ飛ばした。
そうしてできた空白地帯に、ミア、静、巴が降りてくる。
「碌なのがいないな」
ムサシは、低級アンデッドの群れを見て思わず呟いた。
【激昂】状態であるため怨嗟の声を上げて向かってくるが、現在は昼間。本来、夜間や薄暗い曇天の下、または光が差し込まない廃棄された城や屋敷、洞窟などにしか出現しないアンデッドだけに、日光で地味にダメージを受けている。ゴースト系はムサシ達が何かをする前に、すすり泣くような悲鳴を上げて次々に消滅していった。
(まぁ、それはいいとしても、何で【心眼】で捉えられなかったんだ?)
〔僭主の召喚笛〕は、時間と空間を超えて遠方に存在するモンスターを召喚するものではない。つまり、今いる場所から笛の音が届く範囲には他のモンスターが存在していないという事であると同時に、これほど多くのアンデッドがこの場に存在していたという事。
だというのに【心眼】で捕捉できなかった。
ムサシは、ふむ……、と首を傾げ、潜伏していたのではなくただの死体に戻っていたからかもしれない、と仮説を立てた。
油断したつもりはない。だが、〔僭主の召喚笛〕を使った結果、モンスターが足元の地中から出現するなど《エターナル・スフィア》ではなかった事。故に、それはないという思い込みから警戒が緩んでいた可能性は否定できない。しかし、これが違うなら他に理由が思いつかない。
もしその仮説が的を射ているのなら、【探知】ではなく能力【調査】・技術【反響定位】を使っていれば捕捉できていたかもしれない、と対策を考え――
「――先輩ッ!」
これからは小まめに使うようにしよう、と心に決めたムサシは、名を呼ばれて何事かと〔龍を統べる者の杖〕を構えているミアに目を向けた。
どうやら指示を待っているらしい。それは、大薙刀〔岩盤融〕を構えた巴、和弓〔禍祓いの弓箭〕を携えた静も同じだった。
「さっきも言ったけどフォローはする。だから、好きにやって良いぞ」
敵は【激昂】状態であっても動作が緩慢な低級アンデッド。
目的は、敵の殲滅ではなく、自分達の上達。
そのための手段として、【練気】した上でスキルを使おうとしている。
ならば、効果範囲が広いスキルで多数をいっきに薙ぎ払うのではなく、対象が単体、または範囲が狭いスキルを数多く使ったほうが良いだろう。
そこで3人は相談し、距離がある内は法術スキルで、距離が詰まったら武術スキルで、という事を決めた。
静と巴は法術スキルを使うため、それぞれ〔禍祓いの弓箭〕と〔岩盤融〕を、法術発動体としての機能を有し俗に『神器』と総称される装備である〔懐刀・嵐馬〕と魔導銃〔スタンボルト〕に持ち替える。
その間に、装備を持ち替える必要のないミアが一足早く仕掛けた。
前方の敵を見据えたまま、空中にルーン文字を描くかのような流麗な動作で〔龍を統べる者の杖〕を振る。
それは、他人には見えない、ミアの視界にAR表示されているメニューを操作して、必要なコマンドを入力しているのだ。初心者だとどうしても前方の敵よりも手前のメニューに焦点を合わせて、ポン、ポン、ポン……、と点を打つような動作になってしまう。それを、焦点で対象をロックオンしたまま一筆書きの要領で滑らかかつ迅速に、まさに魔法使いっぽい所作で入力できるようになって始めて上級者だと言える。
「これは……」
おそらく、ゲーム時代に一切法術系の技能を取得・修得していなかったいせいだろう。体外霊気を知覚する事はできてもそれを操作する感覚が掴めず、結局、ムサシは【体外霊気操作】の会得を諦め【体内霊力制御】【体内霊力精密制御】の会得に専念した。
そう、ムサシは体外霊気――4人の間では『霊気』と呼ぶ事に決めたそれを操作する事はできずとも知覚する事はできる。
故に、いざという時に備えて注視していたムサシは、それを知覚していた。
まず、ミアがまだ拙い【練気】で〝気〟を溜め、メニューから使用する【精霊術】を選択した――その瞬間、動作補正により【練気】した量よりも多い〝気〟が杖に注ぎ込まれ、それが〔龍を統べる者の杖〕によって増幅されると同時に、まるで割り箸の先でどんどん大きくなっていく綿アメのように、先端に収束された〝気〟に吸い寄せられるようにして膨大な霊気が渦を巻いて収束し、ミアの躰が【火】属性を示す赤い発動光に包まれる。
その増幅された〝気〟と渦巻く霊気の総量から、ムサシは、ヤバイんじゃないか? と思わず唸り声を漏らし、ちゃんと双方を感知できているらしいミアは、ごくりと生唾を飲み込んだ。
しかし、動作補正によって身動きが制限されている現在のミアにできる選択は二つ。スキルを発動するか、発動を解除するか。そして、ミアの選択は――
「――【吼え猛る炎の民よ、舞い踊れ】ッ!」
自己流にアレンジした呪文を詠唱した事で精霊術が発動する――その寸前、鳴りを潜めていたミアの左手薬指に嵌められている〔魔導神の指環〕が猛威を振るい、収束していた〝気〟と霊気が数倍にまで増幅されたのを見て、ムサシは思わず、げッ!? と驚きの声を上げた。
そして、通常なら照準を定めた対象を中心に直径5メートルの円形を効果範囲とするはずが、火を象徴する紋様と直径20メートルの赤い光の円が出現し、ゴォッッッ!!!! と爆発するかのような勢いで透明度の高いオレンジ色の火柱が天を衝く。
もっと長く感じたが、実際は5秒程度。既に消失した赤い光の円の外側では、何事もなかったかのように野草が風に揺れている。しかし、その内側は、地表が蒸発して深く落ち窪み、底のほうではドロドロの溶岩が未だに冷えず透明な炎のように空気を揺らしている。言うまでもないだろうが、そこに存在していたモンスターは跡形もない。
「――うッ!? うぅ~……~」
どうやら例の知らないはずの事を思い出したとき特有の感覚に襲われたらしく、頭を抱えてしゃがみ込むミア。
一方で、巴と静は、目の当たりにしたあまりにも現実離れした光景に、ぽかぁ~~ん、と開いた口が塞がらず――パンッ、と打ち鳴らされたムサシの拍手で、はっ、と我に返った。
「敵はまだいるぞ」
やらないなら俺が片付けるけど、というニュアンスを込めて言うムサシ。
しゃがみ込んでいたミアは頭を振りつつ杖をついて立ち上がり、静は懐刀を、巴は魔導銃を構えて使用するスキルを選択する。
3人の躰を発動光が包み込み、轟音とアンデッドの断末魔が響き渡った。
【練気】してスキルを発動、【練気】してスキルを発動、【練気】してスキルを……それをだたひたすら繰り返し、モンスターを全て倒したら別の場所へ。移動先で休憩を挟み、ある程度自然回復するのを待ってからまた〔僭主の召喚笛〕で呼び集め、【練気】してスキルを発動、【練気】してスキルを発動、【練気】してスキルを……モンスターを全て倒したら別の場所へ。
そして、スキルを使用すれば〝気〟を消費し、〝気〟の消費は心身の疲労と同義であり、動作補正によって躰が勝手に動くとはいえ激しい運動をすれば相応に疲労する。
では、そんなスキルを後先考えず連発すればどうなるか?
その答えが今、ムサシの目の前にある。
「お疲れさん――」
息も絶え絶えで呼吸に、ヒュ~……、と空気が漏れるような音が混じり、顔色は蒼白。滝のように流れる汗で服はぐっしょりと湿り、顎先から滴り落ちていても拭う力すら残っていない。もう立っているのがやっとという有り様で、それでも得物を手放さないのは立派だが、流石に限界だ。
「――後は俺がやる」
そう言い放つと、3人に任せて一度は納めた〔名刀・ノサダ〕をすらりと抜き放ち、颯爽と前へ。3人はその背中を見た途端に躰から力が抜けて崩れ落ちた。
「それにしても、なんで他のモンスターがいないんだ?」
どこで吹いても出現するのはアンデッドばかり。現に今残っている敵も〔僭主の召喚笛〕で呼び寄せられたアンデッド。
それ以外のモンスターがいないのは、危険な森へ入る事を忌避したフリーデンの冒険者達が、比較的安全な近場に出現するモンスターを競うように狩っているからなのだが――それはさておき。
「――【劫火炎浄の刃成せ】」
左手で愛刀の柄頭を保持し、傍から見れば右手で結んだ刀印で宙を切るように、メニューを開いてコマンド入力。そして、一瞬ムサシの躰が赤い発動光に包まれた直後、〔名刀・ノサダ〕の刀身が神秘的なまでに美しい日緋色の炎に包まれた。
ムサシはその愛刀を、本当に何気なく、横一文字に振り抜き――閃いたのは三日月形の炎の刃。
巨大化しながら刀が振り抜かれた速度と等速で空を斬り裂き、その超高温で触れたものを一瞬にして焼却し、ムサシの前方、扇型の範囲に存在していた数十体のアンデッドを完膚なきまでに滅ぼした。
向きを変えて更に一振り。それで全滅。
炎の刃は50メートルを過ぎた辺りで燃え尽きるように消え、まだスキルの効果時間内だが、地面を突くように血振りすると、日緋色の炎は息を吹きかけられた蝋燭の火のように消え去った。
「……い、今のは、属性刀…なのですか?」
その圧倒的な威力に、ミアは唖然とし、静は呆然となり、巴は愕然としながらもそう問う。それにムサシは、躰に染み付いた洗練された所作で愛刀を鞘に納めながら、あぁ、と肯定した。
ムサシが使用したのは、能力【太刀】・技術【属性刀・火】。他の武器にも存在する自分の得物に属性を付与する武術系スキルであり、ネットで公開されていた不人気スキルランキングからも外れた不良スキルの代表格。
そう評価され嫌われる理由は、残念な事に幾つもある。だが、主な理由は二つ。
一つは、他のスキルと併用できないという事。このスキルを発動した後に他の動作補正があるスキルを発動すると効果が失われてしまう。
そして、もう一つは、同じく属性を付与するスキルでも、法術系能力の【付与術】系スキルなら、自分以外の仲間にも付与する事ができる上、発動後に他の動作補正があるスキルを発動しても効果は失われない。
故に、貴重なGPを消費して取得するなら普通は後者を選択する。だが、実は【付与術】も人気がない。何故なら、ゲームの世界も現金なもので、カネとツテさえあれば、古参の生産系プレイヤーに属性やパラメーター上昇効果が付加された優秀な装備を製作してもらえるからだ。そうすれば、そのGPで他の人気がある技能を取得・修得する事ができる。
「でも、属性刀って確か、遠距離攻撃能力なんてなかったような……?」
「神髄に至ると、剣の間合いに対象がいない場合、属性を帯びた斬撃を飛ばせるようになるんだ」
静の問いに答えるムサシ。スキルLvを上げて秘訣を得ていけば、威力が上昇し、発動準備時間が短縮され、有効範囲が広がる。それは他のスキルにも当てはまる事で、修得していなくてもそうだろうと予測できる。だが、スキルLvがⅩに至るとその性質が変化するものがあるという事は周知だが、【属性刀】もそうだという事は知られていない。何故なら、不良スキルと決め付けてそこまで育てるプレイヤーが他にいなかったからだ。
「知りませんでした……」
《エターナル・スフィア》で共に数多くの冒険をしてきたにもかかわらず知らなかったミアが、そこはかとなく寂しげに呟いた。
まぁ、無理もない。何故なら、〈セブンブレイド〉で行動する際には後衛がいるので遠距離攻撃をする機会はほとんどなく、あったとしても【投擲】と【銃】の能力を取得しているので得物を持ち替える。それに、近距離戦闘では確実に敵を間合いに捉えて斬り捨てるため、スカして斬撃が飛ぶ事もない。
「今日の修行はここまで。歩ける程度に回復したら帰るぞ」
何やらミアがショックを受けているようだと気付きはしたが気にしない事にして、ムサシは3人にそう告げた。
『もうですか?』
「まだ日は高いですし」
「まだやれますッ!」
そうは言っても、限界ギリギリまで〝気〟を消耗してかなりしんどいのだろう。姉妹はそれぞれ回復アイテムを取るため道具鞄に手を伸ばし――
「――待った。回復をアイテムに頼るな。使うのは戦闘中とか非常事態とか、止むを得ない場合だけにしろ」
『何故ですか?』
「一言で言うと、人間の躰はよくできてるからだ」
「それじゃあ分かりません」
姉妹は困惑顔を見合わせ、その横でミアがもう少し詳しい説明を求める。するとムサシは、ん~――…、と天を仰いで語るべき内容を頭の中である程度整理してから、
「〝気〟は、食べ物や飲み物、吸い込んだ空気なんかに含まれている霊気から精製されて躰に蓄積される。――で、人間の躰はよくできていて、環境が悪ければ、それが苦にならないよう適応しようとするし、極力疲れないよう無駄を省こうとする……」
だから、限界ギリギリまで〝気〟を消耗して苦しい思いをすると、躰は『この量じゃ足りない』と判断してより多くの〝気〟を精製し、蓄積しようとする。つまり、〝気〟の総量が増える。最大MPが上昇するって言ったほうが分かり易いか?
――で、消耗したからって気軽にアイテムで回復すると、躰は『精製しなくても補給されるから大丈夫』と判断して、精製する〝気〟の量を減らす。つまり、自然に回復し難くなる。最終的には躰が自力で〝気〟を精製しなくなって回復アイテムなしには生きられなくなる。
「……だから、回復をアイテムに頼るな。使うのは戦闘中とか非常事態とか止むを得ない場合だけにしろ」
納得した3人は、神妙な面持ちで、はい、と頷いた。
そして、ムサシ、ミア、静、巴は帰途につき――
「あの、ムサシ殿。一つお尋ねしたい事が」
「ん?」
「何故、修行場があるあの森の近くで召喚笛を使わなかったのですか?」
「ムサシくんも、碌なのがいないな、って言ってたでしょう? 強いモンスターは、平原より森の近くや中にいると思うの」
「今あの辺りにはモンスターがいないんだ。現に一匹も見かけなかっただろ?」
「まさか……先輩が狩り尽くしたんですか?」
「違う。あそこを見付けて修行場にしようと決めた時に、修行を邪魔されたくなかったから、ここに近寄るな、って本気で威圧したんだ。そしたらいなくなった」
「い、いなくなった、って……」
「今あの森にいるのは、戻ってきた鳥類と、その時に気絶して逃げる事もできなかった小動物ぐらいだ」
前を向いて歩きながらあっけらかんとそう言い放つムサシ。ミア、静、巴はその後ろに続きながら、ヒソヒソと今の話が本気なのか冗談なのかを真剣に話し合った。