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『 万屋〈七宝〉 』

 昨夜、おやすみなさい、と挨拶を交わしてそれぞれ自室で就寝した。

 しかし、目が覚めてみると、隣でミアが健やかな寝息を立てている。


「イリュージョン?」


 いや、自分が寝た後、普通にドアを開けて入り、布団に潜り込んだのだろう。だが、【体内霊力精密制御】を修得し、研鑽を積み、【心眼】を得て達人の末席を汚す自分が全く気付けないというのはおかしい。何らかの種や仕掛けがあるのではないかとつい勘繰ってしまう。


「なぁ、お互い無防備過ぎると思わないか?」


 浮世離れした絶世の美少女の安らかな寝顔は良い目の保養になるのだが、ロングワイシャツのような寝間着のわずかにはだけた胸元や、裾がまくれて覗くすべすべの素足は目の毒だ。


 ムサシは、はだけた胸元とまくれた裾をサッと直し、起こさないよう小声で囁きかけながらそっとミアの頭を撫でる。そして、やはり起こさないようすっと布団を抜け出した。


 リビングへ行くと、テーブルの上に『朝食を御一緒したいです』というメモが。それを裏返しにして『承知』と書いてから昨日と同じ様に身支度を整え、ムサシは朝稽古に出かけた。


 まだ日の出前で、ゲートは閉じている。しかし、ムサシは人目を忍び、抜け道から都市の外へ。


 どうやら現在は使われていない排水坑らしいのだが、この抜け道を発見したのは偶然だった。先日、朝稽古から戻った時、たまたま遠目に市壁の近くにいた10歳前後と思しき少年を発見し、妙に人目を気にしているようだったので気になり後をつけた。そして、見付けたのがこの抜け道だ。


 今日この抜け道を使うのは、ゲートが開くまで待っていられなかったからではない。かなり巧妙に隠蔽されてはいたが、やはり能力アビリティ技術スキルを身に付けていない子供の仕事。モンスターの侵入を防ぐ対策が何も講じられていなかった。それを代わりにするためだ。


 用意したアイテムは、魑魅魍魎モンスターを退ける呪符――〔天星秘符〕。


 ムサシはそれを外側出入口の適切な位置に貼り付けた。この符は使用されると貼り付けた本人にしか認識する事ができないので、ここを良く知っている少年にも気付かれる事はないだろう。


 ムサシは、ランニングを兼ねて都市周辺を走り、能力アビリティ【書画】・技術スキル自動詳細地図作成オートマッピング】でフリーデンの周辺地図を完成させてから先日見付けた天然の修行場へ。稽古を終えると、ミアと共に朝食を摂るため真っ直ぐホームへ戻る。行きは抜け道だったが、帰りはゲートを通った。


 そして、ただいまぁ~、と言いながら玄関のドアを潜り、


「先輩ッ! 緊急事態ですッ!」


 フリル付きのエプロンとお玉を装備したミアに出迎えられて、昔、カレーを作ったのにご飯を炊き忘れていた時もそんな事を言ってたっけなぁ~、と、懐かしい出来事を思い出した。




 その緊急事態について、分かり易いよう順を追って説明すると――


 かつてこのフリーデンが軌道エレベーターとして機能していた頃、安全上の理由から周囲の空域は飛行禁止エリアに指定されていた。それ故に、ヘリや航空機の利用者は、衛星都市――現在の港湾都市リベルタースや空港都市エレフセーリアで降り、そこから地下鉄を利用して軌道エレベーターに入っていた。


 時は流れ、軌道エレベーターはへし折れてその根本は自由都市フリーデンとなり、列車は故障して屑鉄と成り果てたが、トンネルはほぼ当時のまま現存している。


 このトンネルを使えば、モンスターが徘徊する地上を移動するよりもずっと安全に、リベルタース~フリーデン~エレフセーリア間を行き来する事ができるだろう。有事の際には地下シェルターとしても利用できる。


 だが、警備システムと地下鉄利用者の安全と生命を保護せよという命令コマンドは現在も生きており、何者かが路線内へ侵入すると即座に警備ロボットが出動して退去するよう警告し、それに従わない場合は非殺傷兵器ノンリーサルウェポンを用いて強制退去させる。


 それ故に、トンネルは長い間放置されてきた。


 しかし、近年になってとある冒険者の呼びかけで有志が集い、全ての警備ロボットを排除してシステムを停止させ、安全かつ有効にトンネルを利用できるようにしようという活動が始まった。それは現在も続いている。


 そして、ミアの言う緊急事態は、その地下鉄のトンネル内で発生した。


 なんでも、クラン〈エルミタージュ武術館〉と〈女子高〉に所属する冒険者達で編成されたレイドパーティが、満を持してフリーデン~エレフセーリア間のトンネル内に出没する大ボスに挑み、辛くも勝利した。しかし、大ボスだと思っていた敵はその実中ボスで、その中ボスを倒した事で真の大ボスが出現したらしい。


 中ボス戦で疲弊していた有志達は窮地に立たされたが、殿しんがりを受け持った実力者6名が大ボスを足止めしている間に他のメンバーは離脱し、この報せをクラン本部に伝える事ができたそうだ。


 現在その6名は、止むを得ず逃げ込んだトンネル内の緊急避難スペースに立て篭もっているらしい。そこは事前に調査を済ませた場所で、地上への脱出ルートは崩落していて他に出入口はなく、分厚い金属のドア1枚を隔てて大ボスが居座っているため身動きが取れないとの事だった。


「先輩。――万屋〈七宝〉に依頼です。依頼者は〈エルミタージュ武術館〉。内容は人命救助の支援。ですが、高確率でボス戦の助太刀をする事になると思われます」


 ミアが用意してくれた手作りの朝食を美味しく頂きながら話に耳を傾けていたムサシは、思わず咀嚼していた口の動きを止めて目を見開いた。


(あぁ……、そうだったっけなぁ……)


 パーティ〈セブンブレイド〉は、クエストやイベント攻略の傍ら、万屋〈七宝〉として製作したアイテムを販売するのみならず、入手困難な素材の調達や生産系プレイヤーの護衛などなど、様々な依頼を請け負っていた。ムサシも兄者のめいにより用心棒として依頼人の下へ赴き、PKKプレイヤー・キラー・キルに励んだものだ。


「この依頼、受けますよね?」


 訊かれるまでもない。今こそ受けた恩義に報いる時。


 即答できれば良かったのだが、『よく噛んで食べなさい』『口にものを入れたまま話してはいけません』――そうしっかりと躾けられているムサシは、口の中のものを良く噛んで飲み込んでから、応ッ、と答えた。




 ムサシとミアは、急ぎ支度を整えた。


 ムサシの装備はゲーム時代とほぼ同じ。


 防具は、〔戦極侍せんごくざむらい戦装束いくさしょうぞく〕。黒を基調とした着物の袖と袴の裾を布製の手甲てっこう脚絆きゃはんで纏め、上着は朱色を基調とした雅な丈長の陣羽織。黒曜石のような色合の装甲に紅玉色の縁取りと彫刻が施された籠手と脛当て、額から前頭部を覆う鉢金は、風情ある切子細工の名品を彷彿とさせる。


 主武装は、〔名刀・ノサダ〕。副武装は、浮遊して追従する〔太刀持鞘たちもちざや〕に納まった〔屠龍刀とりゅうとう必滅之法ひつめつのほう〕。


 履物は、黒足袋と〔仙忍せんにんの草鞋〕。

 腰の後ろの魔法の道具鞄は、〔道具使いの仕事道具〕。

 桃の意匠が施された根付で帯に提げているのは、〔神猿まさるの印籠〕。


 違いは、一見何の変哲もない脇差〔妖刀・殺生丸〕と、右手人差し指にこの世界で手に入れた〔フォースナイフ〕を装備している点。ゲーム時代は、主武装と副武装以外は装備していても戦闘中に使用できず、敏捷のパラメーターをマイナス補正するただの錘でしかなかったが、この異世界では違う。


 それに対して、ミアの装備はゲーム時代とは比べ物にならないほど貧弱だった。それは、【体内霊力制御】を修得していないため、休眠状態の装備を覚醒させる事ができないからだ。


 代わりに装備しているのは、清楚なワンピースの上に希少級の〔森の隠者のローブ〕。腰に巻かれた幅広のベルトと、そこに取り付けられている魔法の道具鞄などはゲーム時代と同じものだが、主武装の〔龍を統べる者の杖ドラグーンロッド〕は未覚醒の状態で、現在の性能は秘宝級と同程度。そんなギリギリ中堅冒険者レベルの装備の中で、あの時から左手薬指に嵌めたままの〔魔導神の指環〕だけが異彩を放っている。


「…………」

「な、なんですか?」

「3年前の体格にサイズが固定されてるなら、着れない事はないんじゃないか?」

「背が伸びたし胸がきついんですッ! 服の上からでも見れば分かるでしょうッ!?」


 そう言ってこっそり背伸びしつつ胸を張るミア。


 ムサシは発言を控えた。口は災いの門だ。


「……まぁ、確かに無理をすれば着れない事はないんですけど、特殊能力や特殊スキルが使えないので、苦しいのを我慢してまで装備する理由がないんです」


 ミアがそう言うのであればそうなのだろう。


 ――何はともあれ。


 2人はホームを出発した。まず同じ7階にあるクラン〈エルミタージュ武術館〉の拠点ホームへ向かうというので、ムサシはミアについて行く。


 徒歩でおよそ15分。


 ミアが、ここです、と言って足を止めたのは、瀟洒な洋館の前。その門前には複数のトレーラーが停車しており、次々に荷物が積み込まれている。


 ホームは男子禁制だというので、ムサシは、中へ入るミアを見送ってから何とはなしに周囲を見回した。


 ここまでの道中でミアから聞いた話だと、〈エルミタージュ武術館〉は3年前の〝あの日〟以降に、男性に頼らず生きて行く事を望む女性達の相互扶助を目的として結成されたクランであり、所属するメンバーは皆、程度の差こそあれ、男性に対して不信の念や恐怖心を抱いているらしい。


 それ故に警戒しているのだろう。ムサシは、自分に向けられる多くの視線を感知していたが、害意の類は感じられないので気にしない事にした。


 トレーラーは、サイズこそ〈女子高〉の特選隊が運用していた兵站輸送用装甲トレーラーと同程度だが、こちらはファンタジー色が濃い。付随車トレーラーは布製の幌付きで車軸やメインフレームなどは金属製だが車体そのものは木製。牽引車トレーラーヘッド体外霊気マナをエネルギー源とする原動機付き三輪車。


 積荷を運んでいるのは全員女性だった。〈セブンブレイド〉の拠点ホームがある地区を含むこの下層7階は〈エルミタージュ武術館〉の縄張りらしいので、防衛のために残された戦力だろう。


 クランのドレスコードで全員がビキニアーマーかボンデージを装備しているのかと思いきや、そういう訳でもないらしい。一般的な皮革や金属の鎧を装備している者のほうが多く、ビキニアーマーやボンデージを装備しているのは一部の実力者だけのようだ。


「先輩、お待たせしました」


 その実力者達が一斉に襲い掛かってきた場合どう対処するかを脳内でシミュレーションしていると、ミアが小走りに戻ってきた。


 なんでも、救援部隊の主力は既に先行しており、予備の武装や医薬品などアイテムの積み込みが完了した車輌から追って順次出発する手筈になっている。そして、自分達はこれから出発する車輌に便乗させてもらえる事になったとの事だった。


 ムサシは先に乗り込んで手を貸し、ミアを付随車に引き上げる。ミアは適当な木箱に腰を下ろしたムサシの隣に寄り添うように座った。


 それから程なくして、ムサシ達を乗せたものを含む3台のトレーラーが出発する。


「――あっ、大切な事を忘れてました! 先輩、パーティを組みましょう!」


 既にパーティとして行動しているつもりだったムサシは首を傾げたが、ミアが上げた左掌にある聖痕を見て思い出した。


「確か……聖痕を合わせて契約する事で、リーダー1人、メンバー6人、最大7人の間で【念話】が使えるようになる、だったっけ?」


 メンディで〔ティンクトラ〕を獲得した際に頂戴した小冊子『冒険者の心得』にそんな事が書いてあった。【フレンドリスト】に登録したプレイヤー間で通信できる【ボイスチャット】の下位互換みたいな能力だな、と思ったので覚えている。


「先輩がリーダーになってくれますか?」

「知ってるだろ? パーティの指揮は専門外だ」


 という事で、2人は左掌を合わせ、ミアをリーダーとしてパーティを結成した。


 すると早速、ムサシにしか聞こえない着信音と共に、相手の名前と【念話】のアイコンが視界の隅にAR表示され――素知らぬ顔で無視する。


「なんで応答してくれないんですかッ!?」

「隣に居るんだから普通に話せば良いだろ」


 素でそう返すと、ミアは拗ねてそっぽを向いた。


「で、何?」

「知りませんッ!」

「そう? なら、『大ボス』を含むトンネル内に出没するモンスターについて、知ってる事を全て教えてほしいんだけど」

「知りませんッ!」


 ならば致し方なし、とムサシはそれに該当する可能性の高い機械系モンスターメタルを記憶の中から選び出し、脳内で戦闘シミュレーションを繰り返す。結局、ミアの機嫌はトレーラーが停車するまで直らなかった。




 ムサシとミアを乗せたトレーラーは、立体駐車場のような螺旋状のスロープを降りて行き、闘技場や歓楽街がある地下市街の更に下にある地下鉄の駅へ向かって移動する。


 トレーラーが徐々に減速し、停車した。

 どうやら目的地に着いた――訳ではないらしい。


「こんな所で何してるの?」

「メタルがウジャウジャいて中に入れないのよ」


 ムサシの耳は、外で交わされるそんな会話を聞き取った。後者の声は知らないが、前者の声は自分達が乗るトレーラーの運転手のもの。


 どうやら想定外の事態が発生しているようだ。


「先輩はここにいて下さい。単独行動は禁止です! 分かりましたか?」


 ミアは小さな子供に言い聞かせるように言い、ムサシは、分かりました、と素直に頷く。


 話を聞きに行ったミアが戻るのを大人しく待ってトレーラーから降りると、そこは配送センターのような場所だった。天井が高く多数の大型車輌が駐車できる広いスペースがあり、貨物を積み降ろすための大きな出入口が並んでいる。


 臨時に設けられた司令部へ案内してくれるというビキニアーマーを装備した妙齢の女性の後に続き、複数ある大きな出入口の1つから施設内部へ。既に安全が確保されているという運び込まれた物資を管理する倉庫のような場所を進む。


 余談だが、どうせ目的地は同じなのだから、と手ぶらで行くのではなく、ついでに持てるだけの積荷を持って行くと申し出たのだが、何故かもの凄く恐縮され、めちゃくちゃ丁重に断られた。


 駅として機能していた時代なら部外者立入禁止だと思われる細い通路を移動し、地下鉄の駅構内へ。


 そして、辿り着いたのは、連絡通路に設けられた前線司令部。ここへ到るまでの道中は、防火用隔壁で移動が制限された一本道で、ロボットの残骸や戦闘の痕跡が散見された。


 折り畳み式のテーブルや椅子を並べた司令部には、ビキニアーマーを装備した6人の護衛と、皮革の鎧やローブなど軽装な数名の通信要員、そして、妖魅の豹族でビキニアーマー装備の『リタ』、妖魅の狼族でボンデージ装備の『サローネ』、ビシッと制服を着こなした隊長の『佐々木 香』と副隊長の『田中 遼子』――万屋〈七宝〉で既に顔合わせした面々の姿があった。


「ミアさん! ――とムサシ様ッ!」


 緊迫感が漂っていた司令部に、それまで以上の緊張が奔る。顔見知りの4人だけではなく、ムサシの存在に気付いた一同が慌てて姿勢を正した。全員が見ていて可哀想なほどガチガチに緊張している。


 ムサシは、様って……、と呆れ混じりに苦笑し、この場はミアに任せて前線の様子を窺いに行く事にした。彼女達の様子を見るに、自分がいてはまともに話が聞けそうにない。


 司令部を出てすぐそこにある開きっ放しの自動扉を潜ると、そこは、階下のプラットホームを一望できるテラスのような場所だった。


 手摺は除去され、伏射姿勢で対物ライフルや大口径狙撃システムを構えた〈女子高〉のスナイパー達が、およそ150メートル先にあるトンネルの出入口から機械系モンスターメタルが姿を現すなり狙い撃っている。その後ろでは、忙しげに動き回る支援班とは裏腹に、他の戦闘班――大型拳銃など近距離戦闘装備の〈女子高〉メンバーや、刀剣槍斧や盾など白兵戦用装備を身に纏った〈エルミタージュ武術館〉の冒険者達が、手持ち無沙汰な様子で控えていた。ちなみに、男は1人もいない。


(これは……目のやり場に困るな)


 ビキニアーマーと一言で言っても様々なタイプがある。ボンデージもまた然り。素肌の露出が多いビキニアーマーはもちろんだが、露出は少なくとも躰のラインが露骨なまでに強調される、または紐やベルトで締め上げ矯正し理想のボディラインを作り上げるボンデージも扇情的で悩ましい。


 だが、今この場で最もムサシを悩ませたのは彼女達ではなく、〈女子高〉のスナイパー達だった。


 彼女達は伏射姿勢――腹這いになり、脚をV字に開き躰を安定させてライフルを構えている。そして、全員がミニ丈のプリーツスカートを穿いてオーバーニーソックスを着用しており、射撃の反動で躰が揺れればスカートもまた揺れる。


 故に、あえて何がとは言わないが、チラリズム文化発祥の地を生まれ故郷とする健全な青少年には、目の毒にも保養にもなる見え方をしているのだ。


 その中には、見覚えのある青と白のストライプもあった。


(――うっ!?)


 背中に突き刺さる無数の視線を感じ、ムサシは素知らぬ顔でさりげなく視線を逸らしてトンネルのほうへ向ける。故意に見たのではなく見えただけなのだが、そんな言い訳は通用しないだろう。今振り返る勇気は流石のムサシにもなかった。


 トンネルの奥から1ユニット――5体前後で散発的に出現するのは、ここまでの道中でも残骸を見かけたロボット兵器。


(『ウォーカー』と『フライヤー』か……)


 『ウォーカー』は、ドラム缶サイズの六角柱のボディと6本の脚を有する対人用半自律兵器。武装は、回転する機体上部に搭載されたビームガン。


 『フライヤー』は、戦闘ヘリを小型化してデフォルメしたような、全長およそ1メートルの飛行型対人用半自律兵器。武装は機体下部に搭載されたビームガン。


 そのどちらも《エターナル・スフィア》に登場した機械系モンスター――通称『ガーディアン系』と同じものだと思って良いだろう。能力アビリティ【調査】・技術スキル【分析】が使えれば正確な情報を得られるのだが、どうやら地下も都市結界の影響下らしく、封じられていて推測する事しかできない。


(中ボスを倒したら現れた……で、あいつらの上位機種だとするなら、『大ボス』ってのは『デストロイヤー』か『スウィーパー』の可能性が高いな)


 複数のタイプが存在するこの『ガーディアン系』の敵で最強なのは『ガーディアン』だが、そいつは所定の位置から移動しない。よって、2番目か3番目だろうと予想した。そして同時に、これはあくまで予想だ、と自分に言い聞かせる。


 あらゆる状況を想定しておくのは非常に重要な事だが、こうに違いないッ! と勝手に敵を想像して決め付ける事、思い込む事ほど危険な事はない。


 それに『大ボスを倒したら今度こそクリア』という考えも危険だ。現に、大ボスだと思っていた敵はその実中ボスで倒したら真の大ボスが出現した。ならば、真の大ボスだと思っている敵を倒したらその実『中ボス・その2』で倒したら真の大ボスが出現するかもしれない。


 唐突に【念話】の着信音が頭の中で響いた。視界の隅にAR表示されたアイコンを視線認証でクリックする。


【「先輩、意見を聞かせて下さい」】


 ミアに【念話】で説明を受けた。重々しい銃声が轟いていても支障はない。周囲の状況に関わらず明瞭に聞き取れるのは便利だと思うが、この頭の中で声が響く感覚は好きになれそうになかった。


 ――何はともあれ。


 一通り聞き終えたムサシは、ふむ、と考える。そして、人命救助の支援とボス戦の助太刀という今回の依頼内容を踏まえて、戦術プランを具申した。


【「俺が単独でトンネル内へ先行する」】


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