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2001年 インフラ再編

2001年

4月24日


この日、グレイフォルトの歴史が大きく変わる。

迅速な国民投票により、投票率有権者の投票率88%、そして、賛成得票数、92%により、キリシマ王による立憲君主制重視制が採択された。

実態は議会、閣僚は国王で定め、予算も省庁は国王と経済顧問の面接により厳重に管理される、いわば立憲の絶対王政に近い政体となる。

そしてキリシマはこう宣言した。

「我らは資源を確保し、国の再繁栄の準備が出来た。その資産は私の資産でなく国民の資産である」

国王直轄の資源採掘公社は純利益のほとんどを国家運営、民間資本に注入を決定、わずかに残っている工業と国民の器用さを信用して、国内自己完結生産体制を作る。


同年7月、国軍再編成法に基づき、元閣僚どもが作っていた地方州負担を大きくしてた、地方州軍を、地方州及び軍人の合意を持って国軍に再編成、そして将来国軍を80~100万人体制にする。[もちろん戦争のため]

軍の自動車化、機械化率は全体的に低いため、これから富国と同時に軍の機械化を進めていく。


そして今・・・

「これが、陸上の王者か・・・」

霧島の目の前を長大な編成が通っていく。100両近い数の貨車を引っ張る陸の王者、それが貨物列車である。

「凄いでしょう陛下。こいつは4両の機関車と92両の貨車で編成される最大級タイプです。こいつなら全国に効率良く配送できます。ああ、線路のない所と北西部の山岳地帯は勘弁で」

霧島に対して砕けた言い方で話す男に、護衛のコートは表情を険しくして、それをシュガーが軍靴で足を踏み無言で正す。霧島自身は気にしてないようだ。

彼の名前は、ベルナッド・ドローズ、グレイフォルト鉄道公社の貨物局の局長であり、初の現場出身の責任者だ。

霧島は方針として、この国に必要な機関の局長以上のクラスの人間と積極的に接触し、優秀なら抜擢か、その機関に資本注入などをしている。

そしてこの公社は、今までは省庁の天下り先であったが、迅速な半民営化を行い、今では政府出身者がここに入ることは許されないようになった。と言っても、これからも政府に関わることは多いので完全に断ち切れるかわからないが、霧島は少なくとも許さない。

もう一人紹介しよう。

コートと同じで、霧島が信頼する護衛、シュガー・シーメンス。王室親衛隊の女性隊員不足から出世した人間。儀仗隊員も務める中性的で軍服時はショートカットで女性的細さもあるがイケメン、私服化粧をすれば美人である。

階級的にはコートの一つ下だが、何かにつけて熱くなりやすい彼を静かに、冷静に正すのも彼女の勤めである。


さて話を戻そう。

今回霧島が来たのは、その鉄道公社最大の貨物操車場、ハーバーズ操車場である。

44線、119の機関車、2000以上の貨車が仕事を待っている。しかし

「・・・・」

「正直に述べても大丈夫です。陛下」

「古いな」

「そうです、古いんです」

ベルナッドは眉間に皺を寄せて困った表情をする。

「国は操車場だけ立派に作って、貨物取り扱いには力を入れなかった。その結果が立派だけで老朽化した操車場、上層部の失態の赤字で保線員が削減され、線路の損耗が激しく、それなのに陛下が仕切る前に政府は勝手に見限り、また無駄な高速道路やモータリゼーションなどをしている。トラック物流も未発達なのに、おかげで現在資源を運ぶお仕事を貰っているのに全く機能せず、この貨物も大半を時速40kmで走らないといけない、直進なのにね」

彼は嘆息しながら言い、霧島は考える。

そう、ここは日本ではない、国土が馬鹿でかい国である。

また話は脱線してしまうが、貨物列車は日本では最近見直されているがトラックなどの物流に負けている。理由は、数十年という短い期間で毛細血管のように道路と幹線道路を張り巡らした事と国土が比較的狭いことによるきめ細かいサービス停車駅、操車場が必要、そして当時国鉄が旧式の貨物輸送方法から脱却できず、トラック物流に負けてしまったという事である。最近はエコなどで巻き返しをはかるが、JRグループ自体」が旅客優先主義となり、廃止も多くなった貨物路線が復活する道は遠い。

しかし、貨物列車は本当は陸上で言えば王者である。

トラックは300km以下でも地場輸送においては最強であり、きめ細かい配送に適している。だが、この荒廃した国土が広く都市が分散しているグレイフォルトにとってはきめ細かい配送よりも、大量一括に都市間や資源採掘場や港を結び、1000km以上の費用対効果が高い貨物列車こそ最強なのだ。

事実、大陸やアメリカ、そしてカナダなど国土の広い国では貨物列車は主流である。

しかし、先行投資の高さ、路線の維持費の高さ、そして保線員、運転手、車掌、助役、指令などのシステムの基礎である駅員、作業員の教育不良による質の低下、加えて政府の横暴で、せっかくの復権のチャンスが潰されかけているというわけだ。

そして霧島や国民を欺くため、短期的にGDPを伸ばす公共事業としての価値を失った鉄道事業は放棄され、今度は途方もない道路建設を行っていたわけだ。つくづくこの国を放置しすぎたと反省する。

「で、私を呼ぶからに、要望は?」

「ただ一つです陛下。5年で立て直してみせます。なので投資をして頂きたい。すでにこの鉄道事業は不良債権で銀行も手を出しにくい状況です。しかし、資源採掘と都市間交流の活発化、陛下が政を取ったことにより、劇的に作業員の質と士気、そして優秀な卵たちが入社を希望しています。ここで潰したら我々はおしまいです」

「融資でなく投資・・・か」

「好きでしょう、その言葉」

ベルベッドがにやりとして、霧島もつられて笑う。

融資ならこちらとしては利息だけだが、投資なら金が増える。減るかもしれないが、これなら負ける気がしない。そして自分にはもう一つ、これを利用したいことがある

「5年後、しっかりするなら・・・いいだろう、ただし二つ条件がある」

「なんでしょうか?」

霧島はベルベッドの目の前で二本の指を立てる。

「一つ、優先的にするべきは貨物、そして旅客事業も整備し、直進地域は貨物時速90km以上、旅客時速130kmを安定的に出力できる設備、路線規格にすること。やるなら徹底的にだ。もう一つ、保線優先順位はもちろん幹線からだが、もう一つ、西アズバンド州の鉄道の改良は幹線でも最優先にしろ。これは後で上に正式に命令する」

「西アズバンド・・・なるほど」

彼は瞬間で察してくれた。

西アズバンド州、旧アズバンド州、肥沃な平野で、グレイフォルトの東部一帯を支配していたが、弱体化により、更に肥沃で工業もあった東地域を奪われ、人口が激減した場所。

ここは鉄道を敷くのはあまり意味がない、しかし霧島には意味がある。

先述したとおり、この国はまだ道路が隅々まで機能しておらず、更に東部は荒廃している。そしてなにより兵站も弱い軍隊の輸送手段確保に一番効率が良いのが、西アズバンド州にも一応伸びている鉄道路線、ここを軍用兵站に使いたいのだ。

まあ、現代において、鉄道での輸送戦術は古く、これを戦時中メインに活用するのは難しいだろう。しかし、我々はそんな事をのたまえるほど発達もしていない。まず、仮初の平和時の内に前線にを充実させる為に必要な輸送手段ではメインに使う。この内に輸送部隊を編成し、戦時中はサブで使いたいと考えている。

「ま、君の考える通りだ」

霧島の笑いの対照に彼は苦笑し

「こりゃ、本格的に大変ですわ。噂では聞いてましたが、ここまで行動的とは、了解しました、まずは投資を願いますよ」

「わかってるさ・・・おっと、そろそろか」

「ん?お約束の時間があるのですかな?」

ベルベッドの言葉に霧島はまた笑い

「そうだな、時間はあるが、せっかくだ、ここで電車に乗るのも悪くないかな・・・と」

発した言葉にベルベッドは少しフリーズしてから、そして笑い

「本当におかしい方だ。いいでしょう。首都直行便をご用意いたします。何よりも先の優等列車で。お召列車でないのは残念ですが」

「大変結構、コート、シュガー、行くぞ」

「「了解」」


霧島の言葉に護衛の二人は反論せずについて行く。


余談だが、直行便の担当した運転手は、その日の日報に

「俺は何を運転していたのか分からない」

と書かせたそうだ。


そして数日後、霧島は次の相手に出会う。

それは、世界的複合軍需産業の、スラクト・アート社CEOである人物に。



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