円卓議会
2001年
4月1日
11:00
今、大臣、及び事務次官はこの場から即座に逃げ出したい気分だろう。彼らが体験する世紀の始めの最序盤で今世紀最悪の鉄槌を喰らうだろう・・・。
そして軍人達も背を正す。
グレイフォルト円卓議会
グレイフォルトの閣議、大臣、省庁トップの事務次官、更に王国軍の重鎮たちが勢揃いの会議。
この会議は基本的に国の最重要の決め事を行うために設置されたものだが、近年は他国にどう媚を売り、そして自分たちがどう楽に生きていけるかの最低な場所となっていた。
予算で言えば
内務大臣は増税を推奨し
外務大臣は国の割譲の代わりに自分たちの安堵
警察・消防・公安などを統括する安全保障長官は腐敗し
労働大臣は勤務環境改善で国家予算の1%を奪い、かつその89%は使途不明
国防大臣は防衛機密として大規模な金の流れがある
軍も、上級将校により金が奪われ、兵器の稼働率が満足でない状況であり、特殊部隊も名ばかりである。
このせいで、世界でも最上位の人口保有数ながら、大陸の植民地として、そして重工業、耕作に適した農地が奪われていた。
しかし、時代が変わった。
大規模な資源が国内で見つかり、これを国裏切りな各省庁に伝えず、彼らが気づいた時にはキリシマを始めとしたメンバーで電撃的作戦で資源輸出大国になり、更に権力衰えていた王制が一気に復活したのだ。
つい先日、王であるキリシマ王が、世界に向けてこの国の独裁宣言、及び国家として再建させる計画を発表
国民投票で正式に決めると言われているが、緊急世論調査では90%以上が支持、更に電撃的とも言えるスピードで地方州、そして省庁内の公務員がまるではかったかのように、一斉に王に味方につき、軍も陛下の命令で動くといい、自分たちの立場は崩壊寸前である。
だが、希望はある。
このキリシマ王は幼少から今までヘタレであった。そして政治に介入しなかった者が我々を簡単に切り捨てられるか・・・この嵐を過ぎ去れば我々に・・・
そして
「待たせたな」
扉を開けて入るのは、王位について15年あまり、即位当時の中学生から随分立派になり、そして誤魔化しきかぬ王、ハル・キリシマ。
顔立ちはこの国に珍しい彫りが少なく、そして背も172cmと平均より少し低い、そして王家では伝統の黒髪。
「起立!敬礼!」
全閣僚、軍人は立ち上がり恭しく頭を下げる。しかし、彼らは頭を下げながらはっきり分かる・・・この嘲笑と見下した冷たさ・・・この王は予想していたのとは違う・・・。
「いいんですよ敬礼なんて慣れないことしなくても・・・・さっさと髪と頭だけを見せてないで私に顔を見せなさい」
恐る恐る全員が頭を上げる。陛下はいたって普通の表情であるが、その後ろが色々怖い。
「さあ座りなさい。まあ、お話があるので手短に済ませましょうか」
全員が座るのを確認してから、キリシマは続ける。
「さて、皆さん・・・私も色々言いたいことがありますし、君たちも何か話したいでしょう。弁解したいでしょう。ですが私の話をまず聞いて下さい・・・我が王国・・・特に私が即位してからこの国は色んな物に蹂躙されました。領土も、主権も人も資源も・・・そして国内の高位の者にも」
瞬間、背筋に水を流し込まれたような寒気・・・いや、これは・・・
「我が王国建国して160年、内領土をここまで拡張して安定化に118年・・・その期間をたった・・・たった15年で破壊した。許されるか?私は許されないと確信している。恐らくは・・・いや必ず冥界で祖王から我らが先代の王にまで、なじられ、裁かれ、そしてこの国の為に果てた人間たちによって私刑にされてから地獄に叩き落とされるだろう。私はこの国をこのままにするわけでない・・・我々を蹂躙した連合・・・見捨てた世界、そして無念に果てかける我らの旧領民を救うため、戦争を仕掛ける。私はこの血の最後の一滴までこの国に捧げ、歴史上の大悪党に成り下がろうとも、冥界で地獄に行くことになっても、喜んでそれを受け入れそして大戦争を希望する。そして、世界が・・・我が国1千年は侵略も逆らいもしない国を作り上げるために」
彼が言い切る並でない執念はこの円卓に居るもの全員が恐怖し、戦慄し、そして自分たちが危うい事を忘れて何か燃え上がる。
「改めて言う。私は決して自分のあの世での情状酌量の為に戦争するのではない、そして国民を無下に殺すつもりではない。我々の領土を回復させるため、そしてこの世界で我らに反抗するものを潰すため・・・私はこれが終われば、私は退位して連邦として民主化も考える」
その言葉に彼らは驚愕し思わず声を上げる。民主化すれば、王がいなくなるが、その代わり後世のものにチャンスが増える。
彼らは忘れていた。自分たちは危うい立場だと・・・それ以上に燃えてしまい・・・そして
「やりましょう!」
「我らが王!絶対に願いを叶えましょう!」
「我が軍全てに動員をかけましょう!さあ!」
その声は円卓中で響く。キリシマは満足そうに頷き、そして
「君たちの熱い情熱、そして国を思う気持ち、しかと受け止めた!では・・・いなくなれ」
「「「えっ?」」」
彼らはキリシマの言葉が理解できなかった。いなくなれ・・・どういうこと・・
「全員確保!!!」
「「「おう!!!」」」
しかし考えるよりも先に、扉を蹴破る男たちの姿にメンバーは呆然とする。それは
「親衛隊!なぜ?!」
「公安・・・と軍まで!」
なだれ込むメンバー、コートが所属する王室親衛隊、公安、軍人たちは一気に50人近い閣僚、主要トップの円卓メンバーを捕まえる。そして
「戦争すると言ったな、だが、その前に国の大掃除だ・・・」
その声の主は、先程まで熱く語っていたキリシマ本人、今度の口調は更に冷たい刃で何か抉られる気分だ。
「既に我が国の優秀で忠実な警察、公安、軍が粛清を始めている。彼らはその作戦をもって晴れて解放され、まともな仕事が出来るようになるだろう・・・粛清と言っても死んでもらおうとは思わない。反省もかねて、全財産特権没収と一緒に少々北西部シベルウスで楽しく木でも数えてもらおう。なに、平均マイナス10度と少し寒いが・・・ああ、家族には最低限と親戚の方の財産安堵と、君たちの汚名による将来の不利は、我が王家の紋章に誓ってさせない・・・したら、差別した人達もそちらに送るから、是非とも教育してくれ・・・では」
「まっ・・・」
「貴様!!」
「この・・・人でなし!」
王から身分の大半を剥奪された彼らは一斉に歯向かう。しかしキリシマはそんなのお構いなしで、むしろ笑って
「そう!そうだよ!君たちは元はそんな奴らだ!上っ面に忠誠を誓うふりをして、醜くてたまらなかったが、最後に本心が聞けて良かったよ・・・運べ!」
「「「了解!!!」」」
そして彼らには猿轡を噛ませ、退場してもらう。
最後まで唸っていたこの国の支配者・・・いや、今や獣以下の人間たちは粛清された。
霧島視点
「ふう・・・」
「お疲れ様です。陛下」
霧島はドッと疲れと心臓がバクバクする。だ・・・大丈夫だよね・・・大見得切ったが、大丈夫だよね?
「コート」
「なんでしょうか?陛下」
コートは微笑みながら聞き返す。霧島は少し躊躇ってから
「まあ・・なんだ、俺はこれから人生をかけて悪となる。お前は俺が最も信頼できる人間の一人だ、だからこそ、君が嫌になったらいつでもやめてくれ。シュガーにも後で伝える」
「ああ、そんなことですか」
「そんなこととは・・・」
コートは一しきり笑う。自分と違って彼は親衛隊であり、儀仗隊員、物凄くイケメンの部類だ。だから笑顔が似合う。ああ、先に言うが、そっちの気は全くないぞ。あとシュガーはもうひとりの最も信頼できる親衛隊員の一人だ。
そして突如、コートは臣下の礼を取り
「不肖コート・デルタ、陛下が血の最後の一滴まで国に捧げるなら、私は陛下の大願を成就するまで四肢もがれようとも最後まで戦います」
・・・ああ、こういう奴だ。霧島は安堵し、そして、さっきとは打って変わって温かみある声で
「頼んだぞ」
力強く言い、礼を取るコルトは力強く頷き
「仰せのままに!」
そう返答した。