6、ロージアの仕事。
「ロージア。」
しばらく部屋で待っていたのだが、いっこうにロージアが戻ってくる気配がなかったので、柚は思い切って、ロージアの仕事部屋に顔を出した。
「あっ、着替え終わったんだ。」
そう言ったロージアは、大きな作業用のテーブルの上に、その横幅と同じサイズの巻かれた薄い紙をテーブルいっぱいに広げて、作業をしていたようだった。
「うん。 ねえ、なにしてるの?」
それに興味を持った柚がそう聞いてくると、
「急ぎで受けた仕事のデザインをしてたんだ。」
そう言った。
「鋼を叩く仕事だっけ?」
柚の問いかけに、ロージアはにっこり笑うと、
「そうだよ。正確に言うと、鋼職人。 そこにある窯や、金床 は高温になってることが多いから、近づいちゃダメだよ。」
それに、柚も頷くと、それでも興味心身に部屋を見渡した。
「ここに居ても熱気がすごいもん。私、窯って初めて見たよ。」
「そっかあ、そうだよなあ。 ユズの家は職人じゃないんだろ?」
「うん。うちはサラリーマン」
言って、柚は、きっと通じないとハッとした。
「サラリーマン?」
やっぱりだ。と、苦笑いをする。
「えっと、家では仕事をしてなくて……、外で働いてるんだけど。」
なんて言ったらいいのだろう?
柚が、そう困っていると、
「外でってことは、宮勤めとか? 船乗りではないんだもんな。」
「うん。 そんなとこかなあ? ねえ、ロージアのデザイン見てもいい?」
柚と、そんな話をしながらもデザインする鉛筆を動かし続けるロージアの手が、柚はさっきから気になっていたのだ。
「いいよ。今回のは、この国の王子の婚約が決まったんだけど、相手のお姫さまの国への結納品だからね。装飾にいろいろ考えてるんだ。」
そう言うロージアの手元を柚が覗きこむと、そこには、たぶん剣だと思われるベースに、花や果物、鳥、あとは柚には良く解らないものが豪華にちりばめられていた。
「この国の特産品や、象徴だよ。 王子の結納品だからね。だいぶ豪華だな。」
そう言って、ロージアが笑う。
しかし、それを目にし、柚が、
「すごいっ!! 絵だけでもこんなにきれいで、出来上がりがすごい楽しみだね!」
感動してそう言うと、ロージアは、顔を赤らめ、鼻の下を掻きながら照れたのだった。
その拍子に、緊張もほぐれたのか、ぐぅ~。という音が聞こえてきた。
ロージアが顔を赤くして、にこにこ笑っていた。
「おなかすいたみたい。そう言えば朝ごはん、まだだったな。ユズもお腹すいただろ? すぐ用意するから。」