4、異文化
王都に行けば、なにか手懸りがあるかもしれない。
ロージアはそう言った。
異世界から人が降りてきたという話を、聞いたことがあるんだ。
ロージアはそうは言ったが、急ぎの仕事があって、それが終わればどのみち王都へ納品へ行く。それまで、待てないだろうか?
柚は、待つ。と言った。
ホントは、怖いから、怖くてたまらない。
早く帰りたいと、先へ急いでしまって、―――帰ることができないと分かってしまったら
立ち直れないかもしれない。
どうすればいいのか分からない。
だから、もし嫌な結果なら、急いで答えを知りたくなかった。
ロージアは、王都へ行けば、美耶子たちの行方も分かるかもしれない。とも言った。
けれど、美耶子たちは、この世界に落とされたのはバックだけで、本人たちはこの世界に落ちてはいないのかもしれない。
そう考えることもできたから、柚は、何もかもを、先延ばしにしたかった。
それに、尚に容姿の似たロージアと、もう少し一緒にいたい気がしたのだ。
「あ、あのさあ。 こんな時で、言いずらいんだけど。」
ロージアが、なぜか顔を赤らめ、もじもじしながらそう言ってきた。
「え? なに。」
「あの、その衣服。ユズの国ではOKかもしれないけど、……この国では、ちょっと露出が……。」
そう言われて、柚は自分の格好を見た。
普通の女子高生の制服だ。
しいて言えば、柚は高校背の割に胸が大きい。襟元のVラインの溝に小さな布はあるが、ちらちらと胸の谷間が覗くのは確かで、柚はそれに気づくと、顔を赤らめて胸元を両手で隠した。
抱え込んでいた両膝も、胸を隠すようにきゅっと抱え込んだから、短いスカートは何も隠さざ、すべてをさらけ出した。
「やっ、ユズっ、違うよっ。胸元じゃなくて……。」
それを目の当たりにして、ロージアはさらに動転すると、あわあわしながら、毛布をパサッと柚の膝に掛けた。
「あっ。」
その行為で、さすがに柚も言われていたのが下半身の方だったと気づいて、掛けられた毛布を下半身に巻きつけた。
「なんていうか、この国では女性は下半身を露出しない方がいいよ。うん。色々な意味でダメなんだ。腕も胸元も、お腹も、ファッションで露出する人はいっぱいいるけど、下半身はみんな守ってるよ。 ユズ。ユズは着替えとか、持ってない?」
すぐに着替えて欲しい。ということなのだろう。
しかし、柚が着替えなど、持っているわけがなかった。
「あっ。」
しかし、ハッとすると、柚はロージアが持ってきてくれた3つのバックのうち、なにも飾りのないバックを手に取った。
―――ごめんね。千尋。―――
もしこれが千尋のバックなら、勝手に開けちゃってごめん。
ただ、このバックが本当に千尋のバックなら、朝練に使ったジャージが入っている可能性が高かった。
そう思って柚がそのバックを開けると、中はとても整理されていた。
なんでもかんでも投げ込んでしまっている柚のバックの中とは大違いで、なんだか妙に恥ずかしかった。
しかし、その中から、青い布に包まれた小豆色のジャージが出てきた。
―――手拭い? 千尋こんなの使ってるんだ。―――
ジャージは丁寧に、手拭いに包まれていた。
ちゃんと上下ともあって、上には『間宮』と、名前が入っている。
千尋の名前は、間宮 千尋だから、間違いなく千尋のバックだったようだ。