3、ここは、どこ?
「けどユズ。 道は乱れてなかった。ユズ以外があの場へ留まっていた形跡はなかったよ。」
そう言われても、うまく頭が回らない。
「ユズ、兎に角落ち着くんだ。 もしかしたら、ユズの友達は王都へ行ったのかも? そうだよ。そもそもユズたちは、どこへ行く予定であそこを通ったの?」
そう言われて、柚は、ロージアの深い青の瞳を見る。陽の光を映し込んだその瞳はきらきらと、光を飲み込んだ海のようだ。
「買い物に、行く予定だったの。 ……王都、ではないわ。」
それを聞いて、ロージアは首を傾げた。
「買い物ができるような場所。 ここら辺には王都しかないんだけどなあ? もしかしてユズは、隣国から来たの?」
「隣国?」
そう言われて柚は嫌な予感がした。
「そう。 ここはアルハラン王国の外れだから、国境を越えちゃったんじゃないか? 位置的には、王都より隣国の方が近いかもな。」
うんうんと、ロージアはひとりで納得するように頷いた。
が、柚の顔は、今のロージアの話しで、どんどん青ざめていく。
「私の国に、隣国なんてない。」
「えっ?」
「島国だから……」
柚とロージアは顔を見合わせた。
が、ロージアはひとり、妙に何かに納得していた。
「そうか、だからそんな衣服を着ているんだね? 柚の国では、女性も船乗りになれるんだね?」
「……わからない。けれど、私、船乗りじゃない。高校生だもん。」
「高校生?」
ロージアが、聞きなれない言葉に首を傾げた。
やっぱりだ。と、柚は思った。
「私の国は、日本だよ。 島国だけど、近い国は、韓国とか中国とか……。」
柚は、ロージアの反応を窺いながら、何か国か言って見る。
しかし、ロージアはピンとこないようだった。
「ごめん。オレ、アルハランの近隣の国しか知らないんだ。 にほんっていうのは、きっと海の向こうで―――。」
そう、頭を掻きながら言った。
柚は眉根を寄せた。
「……じゃあ、アメリカは、知ってるよね?」
知らないはずがない。
たとえ日本を知らなくても、アメリカを知らない人は、よっぽどな環境に居ない限り、いないはずだ。
けど、……きっとロージアは知らない。
ロージアは、本当に困った顔をし、
「……ごめん。 聞いたこと、ないかなあ。」
―――やっぱりだ。―――
ロージアのその答えを聞いた瞬間。柚は見る見るうちに顔をくしゃくしゃにし、ワあーっと、泣きだしてしまった。
「アルハランなんて知らない―――」
柚の心の中の不安。
―――ここは知らない世界だ。―――
肩を震わせ、膝を抱えて泣きじゃくる柚を、ふわっと、温かい温もりが包み込んだ。
「ユズ。 オレが、にほんを探すから……。 オレが、ユズのいた世界に、帰る方法を探すから。」
そう言って、ロージアは柚をギュッと抱きしめた。